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眩しすぎるくらい輝く光龍が鉢屋と綾小路家御庭番衆を黒焦げにして勝敗が決まった。
「く…やはり武神、強すぎる。しかも御大将の奥義を再現するとはな」
「だから私はその上をいってるぞ」
周辺はもう死屍累々というやつだ。翔一や岳人たちは周囲を見て「あちゃー」といった顔をしている。
「流石はモモ先輩だぜ!!」
「俺様の活躍まで取るなよモモ先輩~」
「おい鉢屋。沙也加ちゃんたちは何処だ!!」
倒れている鉢屋を叩き起こして麻呂と沙也加がどこにいるかを聞き出す。だが負けても忍者として依頼者の所在は言わない。
どんな尋問も拷問も耐え抜いて見せるのが闇に生きる忍者だ。それをすぐに分かった大和は聞いてもすぐに無駄だと気付く。
「一発殴っとくか?」
「やっても無駄だよ。すぐに俺たちも探しに行こう」
「なら私に任せな。気で探る」
「私も弓兵の目で探すよ」
京は屋根に登って周囲を見て、百代は気で探り始める。沙也加の気は遊んだ数日間で覚えている。彼女が気配を消さなければすぐに探知することは可能だ。
「見つけたぞ!!」
「こっちも発見したよ」
だが2人の表情は険しかった。
「な、何だこの嫌な気は?」
「モモ先輩は早く沙也加ちゃんたちのところへ!! ワン子たちは危ないよ!?」
「今行く!!」
百代は全力で飛跳ねて沙也加ちゃんたちがいる場所へと向かった。そして向こうで着地した。
「向こうで何が見えるんだ京!!」
「ワン子たちが変なヤツに劣勢になってる!?」
「何だって!?」
一子にクリス、由紀江がいるというのに劣勢。ならば麻呂がいる向こうには余程の手練れがいるということだ。
「おい鉢屋、向こうに誰がいんだよ。まさか他に十勇士がいんのか?」
「いや、十勇士は拙者だけだ。恐らく向こうにいるのは…綾小路がもしもの為に雇った護衛だろうな」
「護衛だと!?」
「詳しくは言えない。だが仲間が心配だと思うなら急げ。奴は只者じゃないぞ。忍者とは違う闇の者だ」
「チッ、オレらも急ぐぞ」
「ああキャップ!!」
大和たちも急ぐ。そして素早く沙也加たちの元へと跳んだ百代は静かに怒っていた。
「OH…空から女が降ってくるなんて流石はジャパンだぜ」
「も、ももも百代か!!」
「おい麻呂。そいつは誰だよ」
百代は目の前の大柄なアロハシャツ男を見て、そして後ろにいる酷く傷ついた一子たちも見る。
「お前は誰だ」
「…『鉄腕』ダニエル・ブランチャード。お前があの有名な武神か。初めて見る」
ゴキゴキと指を鳴らす仕草はダニエルをどうやって屠ろうかと考えている意味も含まれている。何故、百代が静かに怒っているかというと大事な仲間が酷く傷つけられたからだ。
戦いなら傷つくのは当たり前だ。しかし彼女たちのダメージは酷すぎる。まるで痛めつけるようにつけられた傷なのだ。
戦いで受けた傷は責めないが、拷問のように一方的につけられた傷は仲間として許さない。
「モモ先輩。そいつ強いぞ」
「安心しろ。すぐに倒すから。そしてすぐに沙也加ちゃんを助けるからな」
ゴキンと指の音を鳴らした直後に百代は『鉄腕』の懐に入り、拳を突き出した。鈍い音が響いたが手応えのある感じではなかった。
口笛を吹きながら『鉄腕』は自慢の鋼鉄の腕で防いでいた。ビリビリと響く打撃にニヤリと口をにやける。
「流石は表世界最強なんて言われてる武神だな。まさかここまでとはな・・・特注品じゃなきゃ砕けてたぜ」
そう言って『鉄腕』はお返しと言わんばかりに百代に殴り掛かる。彼女も同じように腕で防がれるがミシミシと鈍い音が聞こえる。
「チッ…」
百代は防いだ腕を見る。骨は折れてはいないがヒビは入っただろう。遠慮が一切ない攻撃で百代に傷をつける程の強者。
今までで一番分かりやすく殺気を放ってくる者でもあった。普段なら良い試合ができそうと思うだろうが、仲間を傷つけた奴にそんなことは思えない。思うのはただ蹂躙するのみ。
「瞬間回復」
ヒビの入った腕に気を集めて治癒する。腕に異常が無い確認してから構え直す。
「おいおいマジか。骨を折る気で殴ったんだが無傷かよ。これも武神と言われる由縁か?」
言い終わると同時にまた殴り掛かる。百代も負けじと殴り掛かる。突きの連打が繰り広げられた。
「はああああ!!」
今の百代に手加減は一切ない。ただあるのは相手を倒すことだけを考える。だが『鉄腕』は今まで戦った事の無いタイプの者だ。
彼は武術家ではなく軍人でもない。だからと言ってボディーガードのように護衛専門として鍛え上げられた者でもない。本当に人間を壊すのに特化したかのような者である。
(何者だ。いや、間違いなく裏の者だな)
流石の百代だってこれほどの者なら表の人間か裏の人間くらい分かる。そして正体もあらかた分かってくる。
(まさか殺し屋に入る部類か!?)
大体正解だ。正確に答えるならば彼は『戦闘屋』である。どんな人間も壊すプロである。
「川神流無双正拳突き!!」
「ふん!!」
お互いに渾身の一撃を食らう。どちらも怪力なので反発し合って吹き飛ぶのは当たり前であった。
「まだまだ!!」
「…こいつ、武神とはいえここまで戦えるか。本当に驚きだぜ」
これで裏の戦いをまだ知らないというのだから、化けたらもっと強くなるだろう。
「くらえ、川神流畳返し!!」
地面に拳を突き出し、畳の如く引っぺがした。『鉄腕』の前面に畳のような地面が映ったと思えば砕かれて破片が飛んでくる。
視覚を隠し、油断させたところを飛礫攻撃は相手を防御にまわさせる。そこをすかさず百代は無双正拳突きのラッシュで攻める。
「舐めるなよ武神!!」
『鉄腕』はラッシュの攻撃を受けながら怪力任せの拳を百代に振るう。ゴシャっという嫌な音が聞こえる。
百代は気を身体に纏わせて耐久度を上げている。『鉄腕』は規格外の体躯と改良された肉体による耐久がある。どちらも耐久力があるが百代にやや軍配が低い。
気で強化するのと改造されて強化されているのは違うのだ。気の集中が消えれば普通の肉体に戻ってしまうからだ。しかし改造された肉体は関係ない。
だから『鉄腕』は相手攻撃を食らったまま無理矢理攻撃できるのだ。頑丈な身体を持つ者ができる攻撃だろう。
「くっ…今度は骨が逝ったか?」
腕でもう一度防いだがブランと下がるのを見て舌打ちする。そしてすぐ瞬間回復で治癒する。
「おいおい、さっきの確かに折れたはずだろ。なのに何で直ってるんだ?」
『鉄腕』は考える。確かに殴った感触で百代の腕は折れたはずである。しかし、どう見ても治っているのだ。
折れた骨がすぐに完治するなんて普通ではあり得ない。あり得ないのだ。
(武神のやつは『瞬間回復』なんて言ってたな。何かの技か…もしくはうちのボスと同じように特異な力でも持ってるのか)
油断はしているつもりはない。過去に痛い目にあっているから相手がガキだろうが油断はできないのだ。だがどこか本気にはなれていなかった。それは依頼主から殺すなと宣言されているからだろう。
しかし殺す気で丁度良いかもしれない。骨を折っても回復するなら手加減は必要ない。サングラスで隠れた目がギラリとどす黒く光る。
「お前の耐久度に回復力…まるでうちのボスと『炎帝』並みに近いな」
「お前んところのボスに『炎帝』?」
「こっちの話だぜ」
脚を踏み込んでいっきに百代の間合いに入った。
「Hey!!」
「さっさとぶっ飛べ!!」
ドオンっと拳が合わさる度に衝撃がビリビリと周囲に広がる。吹き飛ばされないように一子たちは踏ん張っている。麻呂は既に吹き飛んでいる。
「悪宇商会所属。『鉄腕』ダニエル・ブランチャードだ!!名乗れ武神!!」
『鉄腕』は百代の才能を見抜いたからこそ手加減はしない。彼女は『戦闘屋』の才能がある。この仕事が終わればルーシー・メイに教えるのも良いかもしれない。
115
バチバチ両手から電撃を走らせる白人の大男。目の前の男は『サンダーボルト』の通り名を持つグレイ・ブレナー。
彼は前に真九郎が倒し、警察に現行逮捕されたはずなのだ。なのにここにいるということは脱獄したということだろう。
「サンダーボルト」
「よお小僧。久しぶりだな」
「何でこんな所にいる」
「脱獄したからな。海外に出るために金がいるんだよ。で、丁度良いカモがいたんでな売り込んだんだ」
綾小路家は莫大な財力に権力を持っている。そんな家に自分を売り込めば潜伏できるし、逃げるための金も手に入る。脱獄したグレイには本当に丁度良い隠れ家であった。
「んで、依頼主の屋敷に侵入者が来たかと思えばお前に再開するとは思わなかったぜ」
「俺は会いたくなかったよ」
「何だ。やっぱガキを襲ったことをまだ根に持ってんのか?」
ギリィと歯を食いしばり、拳をこれでもかと握る。真九郎はグレイに怒りしか湧かない。彼は紫を傷つけた張本人で、今でも当時のことを思い出すと理性が吹き飛びそうになる
「見ろよこの顔。まだ銃痕が残ってる。小僧だけが恨んでるわけじゃないんだぜ」
殺気が彼からにじみ出るが真九郎だって殺気を出す。どちらも尋常じゃないほどの殺気で一般人なら気を保てない。未熟な武術家でも2人には近づけない。
きっとここに大和たちがいれば真九郎の豹変っぷりに恐れるかもしれない。
「あの時の復讐してやる小僧」
「また鼓膜と股間を潰されたいか」
「もう油断しねえよ」
両手から迸る電撃がいよいよあり得ないくらい強くなる。前は店内での戦いで今みたいなほどではなかったが触れられれば感電死するだろう。
「小僧…今お前は侵入者だ。殺されても文句は言えないぜ」
「サンダーボルト。お前は脱獄囚だ。何をされても文句は言えないぞ」
お互いに黙る。そして互いに間が空いた後に叫んだ。
「死ね小僧が!!」
「黙れ!!」
グレイは両手を広げて突撃し、真九郎は上着を脱いで走った。上着を脱いだのはグレイの顔に被せて視覚を消すためだ。
「邪魔だ!!」
上着を電撃で焼き払い視覚を元に戻すが真九郎がいないの確認し、背後を見る。
「お見通しだ小僧!!」
電撃を振りかざすのを避ける。視覚を潰して仕留めようと思ったがグレイも馬鹿じゃない。
(あの高圧電圧に触れれば一撃で感電死…絶対に触れられてはならない)
「さっさと死ね」
掴みかかるグレイの腕を避ける。振るう腕の速さはプロ並みだが真九郎が集中を乱さなければ全て避けられる。
やはり前回と違いグレイは油断はしていない。早くグレイを潰して沙也加を探さなければならないのだ。
「チッ、すばしっこいハエみたいだな」
「そうか?」
「挑発には乗ってこないか。ならば…つ!?」
グレイが更に電撃の高圧を上げると腕に痛みが走った。何事かと思って片手を見ると包丁が突き刺さっていた。
「何だと!?」
どこから包丁なんてものが飛んできたのか。真九郎が仕込んだ物ではない。
「誰だ!?」
「オレだよ。よお紅に兄さん。オレの獲物を取んなよ」
「切彦ちゃん?」
切彦が包丁を持って屋敷の屋根に立っていた。軽やかに屋根から飛び降りて真九郎の横に立つ。
「獲物って切彦ちゃんもしかして」
「そいつはオレの仕事の獲物なんだよ」
彼女が前々から言っていた仕事とは脱走したグレイの始末か捕縛であったのだ。その仕事に真九郎たちも一緒に混ざってしまったのだ。こんな偶然もあるもだがなんという確率だろう。
「まさかお前はギロチンか!?」
「よおデカブツ」
グレイは片手に突き刺さった包丁を抜く。状況は一変した。
自分を追う者がいるくらいは理解していたがまさか『ギロチン』が出てくるとは思わなかった。戦っても負けるつもりは無いが状況が状況なだけに不利ではある。
2対1で、しかも相手が『ギロチン』なら勝てない。それに片手は潰されたために電撃も出せない。
(ここは撤退しないとな)
無事である片手から最大の電圧を出す。触れれば切彦だってただでは済まない。だから斬られるのを覚悟して突っ込む。腕一本で切彦を殺せるのならば安い代償なものである。
「死ね『ギロチン』」
「死ぬのはてめーだ」
切彦は無慈悲に電撃を出すグレイの手首を包丁で切断した。
「ぐうおおおおお!?」
斬られた手から鮮血の血飛沫が飛び散る。身体に浴びる切彦は気にせずにグレイの胴体を斜めに斬った。
ボタボタと血が垂れていくグレイに切彦はトドメに首を落とそうした時、真九郎が彼の後頭部に容赦の無い蹴りで意識を刈り取った。
「おい紅の兄さん。何で邪魔すんだよ」
「邪魔する気はない…ここには直江くんたちもいるからね。やるなら彼らのいない場所で仕事をしてほしい」
悪宇商会の仕事を邪魔する気はない。だけどここでは仕事をしないでほしい。ここには大和たちがいるのだ。ここで殺し屋の仕事を表の人間である彼らに見せるわけにはいかない。
それに切彦と彼らは少し仲良くなってきたのだ。できれば彼らに切彦の『ギロチン』の姿は見せたくなかったのだ。
こんな考えは真九郎の馬鹿で未熟なワガママだ。切彦はなんとも微妙な顔をしている。
「甘いな紅の兄さんよ」
「いいよ、それでも」
「チッ…まあ仕事も始末か捕獲のどっちかだからな」
「ありがとう」
包丁に刃に付いた血を拭いとる。
「じゃあ運ぶの手伝えよ」
「分かった。でもその前にこっちもやることがあるんだ」
「何だよそれ?」
「ちょっと誘拐されたから助けに」
「あっそ」
真九郎は沙也加のもとへと急ぐ。だがそこではまた何とも言えない再開があるのは数分後のことである。
読んでくれてありがとうございました。
今回の話は百代VS鉄腕と真九郎と切彦VSサンダーボルトでした!!
結構悩みましたが、百代と鉄腕の戦いはまだ続く感じです。
百代は強すぎますけど悪宇商会の戦闘屋なら百代にダメージを与えられると思って今回のような戦闘描写になりました。そして裏を知らない百代ですが実力は規格外なので一子たちと違って戦闘屋と戦えるという設定ですね。
そしてサンダーボルト戦ですが切彦が出れば勝負は長引かず決着でした。
仕事内容もバレてかもしれませんが彼の始末か捕縛でした。
サンダーボルトも強いですが切彦の方が異様な強さなので一蹴したような感じになりました。
出番を切彦に奪われた真九郎は仕方ありません。彼女の仕事ですしね。
次回は真九郎が鉄腕と再会です。