紅 -kurenai- 武神の住む地   作:ヨツバ

49 / 107
こんにちは。
今回の話で沙也加ルートは終了です。


奪還

116

 

 

「川神流雪達磨からの川神流星砕き!!」

 

腕に送った気を冷気に変換させ、絶対零度の如く『鉄腕』の片腕を凍らせた。流石の鋼鉄の腕も凍ってしまえば動かない。そして気を溜めた手からエネルギーが放出される。そのエネルギーは星をも砕くとも言われる威力から『星砕き』と命名された。

綾小路の屋敷から空へと一直線に放出されたが、ターゲットは『鉄腕』である。百代は渾身の気を溜めて『鉄腕』へと星砕きを放ったのだ。

 

「ぐおお…今のが『気』ってやつか。クレイジーだぜ」

 

『鉄腕』は星砕きを受けて身体中がプスプスと焦げていた。いくら改造されたの肉体でも百代の渾身の気の攻撃は十分に効いたのだ。

この威力に『鉄腕』も予想外である。こんなのが武術家とは世の中は自分が知らない間に大きく変化したようである。

気とは身体に巡る力で存在することは知っている。だがこうも目に見える程あつかえるなんて初めて見たものだ。まるでゲームや漫画のようである。

 

(まあ、ウチのボスも大概だがな)

「これで終わりだ。川神流無双正拳突き!!」

 

容赦無いの連続の正拳突きが『鉄拳』にめり込んで屋敷の壁際まで殴り飛ばされた。身体がミシミシと軋み、サングラスがパリンと割れる。

 

「姉さん!!」

「おお、大和か。今終わったぞ」

 

大和たちが百代たちのところ到着。翔一たちは傷ついた一子たちの元に駆け寄り介抱をしながら注意深く警戒するのであった。

だが、状況を見た瞬間に気が緩む。百代が敵を圧倒しているのを見れば警戒は緩んでしまうものだ。もう戦況は百代たちの勝利なのだ。それにこの後に控える切り札も残っている。

 

「だがよ。これで終わりじゃないぜ。まだ俺と同じくらいの奴は…」

「サンダーボルトはもう瀕死だ」

「ん、小僧!?」

「まさかあんたまでいるとは思わなかったぞ『鉄腕』」

 

真九郎は冷静になりながらまさかの再会をした『鉄腕』を見て、沙也加も見る。

 

「もう大丈夫だよ沙也加ちゃん」

「く、紅さん」

「まあ、見たところもう終わりのようだけどね」

 

周囲を見て完全に判断できた。勝敗は真九郎たちの勝利だ。

 

「お前までいるとはな」

「こっちのセリフだ。何でここにいるんだ」

「仕事だよ仕事…邪魔する気か?」

「条約があるから俺からは何もしない」

 

悪宇商会とは休戦状態だ。そんな状況で仕事の邪魔をしたら契約違反になってしまう。前のクローン奪還戦は異例のことではあったが。

 

「それならいい。それにこっちからもちょっかいかけるわけにはいかないしな。したらうちのボスに殺される」

「…絶奈さんか」

 

真九郎の頭に過ぎる悪宇商会の最高顧問。彼女とはもう関わりたくはないが、そんなことはできないだろう。

 

「それにしても『サンダーボルト』をやったのかよ。こっちに来てもらえば面白くなったのにな」

「そうなったら俺が相手をする。あいつは悪宇商会じゃないしな」

「最もだな」

「それにサンダーボルトはあんたんところのエースが仕事で確保したよ」

「うちのエース?」

「…ギロチン」

 

『ギロチン』という言葉を聞いて全てを察した『鉄腕』であった。

切彦ならよっぽどのことがなければヘマはしない。『鉄腕』は『サンダーボルト』の首でも切断されたかと思って合流する案を忘れた。

 

「じゃあ俺1人でやるか」

 

黒焦げの身体を動かすが真九郎は止める。

 

「何だ。仕事の邪魔をするな。契約違反だぜ」

「違う。もう護衛の仕事がキャンセルになるからだよ」

「どういうことだ」

「今から分かる」

 

真九郎は麻呂の方に顔を向ける。

 

「ば、馬鹿な麻呂の護衛たちが!?」

「さあて、一発覚悟してもらうぜ!!」

「ひいっ!?」

 

だが大和が止める。あんな奴でも教師は教師だ。こんな奴が教師なのかも疑問ものではあるが。

 

「大丈夫だ。然るべき適任がいる」

「え、誰?」

「大和、連れてきたよ!!」

 

卓也が連れてきたのは大成と麻呂の実の父親であった。

 

「麻呂おおおおおお!!」

「ひいいい、父上えええ!?」

 

子が最悪だったとしても親も同じというわけではない。逆も然りである。

 

「麻呂よ…これはどういうことだ!!」

「ひいいい!?」

 

麻呂の父親は怒髪天というのが似合うくらい怒っていた。目なんて怒りで光り輝いているようだ。

 

「どうやら私はお前のことを甘やかしすぎたようだな。こんなことをしてしまうとは親として悲しく…怒っているぞ!!」

 

麻呂の父親の怒りは極限まで達している。大事な息子がこんな犯罪を起こしていればそうだろう。悲しみもあり、怒りもある。

 

「お、お前ら父上をどうやって!?」

「話を逸らすな麻呂!!」

「ぴえぃ!?」

 

流石の麻呂も父親には逆らえないようだ。綾小路家は莫大な財力と権力があるとはいえ、家督はまだ麻呂の父親が持っている。いかに息子とはいえ、綾小路家の全てを掌握しているわけではないのだ。寧ろ全く掌握していなく、曰く七光りのような存在だ。

七光りの息子が親に逆らえるはずも無く、麻呂の父親が登場したことによって麻呂の勝敗は決した。

 

「すまない沙也加殿、大成殿、由紀江殿。私が甘かったばかりにこんな事を起こしてしまうとは…」

 

とてもすまない顔をしている。どうやら彼はまともな人格者であるようだ。これなら真九郎たちから言うことはない。

あとは被害者と加害者同士の話し合いとなるだろう。真九郎たちは決着を見守る。

 

「沙也加殿。謝っても済まされることでは無い。なんなら麻呂と私を斬ってもかまわない」

「ぴえ、父上!?」

「それほどの事をしたのだ。当たり前だ!!」

 

寧ろそれでも許されないと思っている麻呂の父親である。

沙也加は木刀を持って麻呂の前に立つ。そして振り落とした。

 

「ぴ、ひええええええええ!?」

 

木刀は麻呂に当たらずに地面に突き刺さっていた。

 

「いいです。誘拐はされましたけど別に何もされてませんでしたから。それにこんな人を斬っても何も意味はないです」

「沙也加…」

「沙也加がそう言うなら私も刀は抜きません」

 

由紀江も沙也加と同じく刀は抜かず、そして大成もまた刀を抜かなかった。

 

「沙也加が許したのなら私も何も言うことはない」

「大成殿まで…本当に申し訳ない。麻呂も詫びよ!!」

「ご、ごめん…なさい」

「聞こえぬわ馬鹿者!!」

「ご、ごめんなさいいいいいい!!」

 

麻呂の絶叫とも言える謝罪により沙也加の誘拐事件は幕を閉じた。

 

 

117

 

 

沙也加誘拐事件のその後の顛末。

まず、黛家と綾小路家で起きた事件だがお互いに落ち着くところに落ち着いたので警察沙汰になることはなかった。

本当なら警察沙汰になってもおかしくないものだが、被害者の黛家が許したことにより事件が大きくなることはなかった。

一方、加害者の綾小路麻呂だが父親の綾小路大麻呂により深く反省させるために全て任されたのだ。今頃、山にこもって俗世を忘れさせる修業をさせられていることだろう。

川神学園に帰ってきたらきっと心の綺麗な麻呂が復帰するはずだ。復帰できればの話であるが。

次に真九郎や川神ファミリーたちだが沙也加を奪還するためとはいえ、名家の綾小路家に乗り込んだ事実は消せない。何かしらあるかと思っていたが綾小路大麻呂が全て黙認。

彼らの行動は大胆であったが全て人を助けるというものだ。そもそも最初に手を出したのは麻呂だ。ならば綾小路家が何も言えないのだ。

 

「何か言われるかと思ったけど」

「そうなったらなったで、用意はしてあったけどね」

「悪いな銀子。せっかく用意させてたのに」

「構わないわよ」

 

用意とは綾小路家が言いがかりでも言い出したら問答無用で黙らせる情報のことである。その切り札を銀子に調べるように頼んでいたのだ。

彼女曰く、大麻呂の方はやはり人格者で悪い情報は出てこなかったが、麻呂に関してはいくつか出てくるとのこと。とんでもない汚職というわけではないがちらほらと『しくじり』があるらしい。

それを財力と権力で握りつぶしていたようである。これを提示されたら大麻呂は目も当てられないだろう。

 

「でも、綾小路大麻呂さんも今回で息子の行動が分かったから彼の捜索が始まると思うから…結局見つかるのは時間の問題よね」

「銀子もそう思う?」

「ええ。ところで川神さんやクリスさんたちは大丈夫? 悪宇商会と戦ってしまったんでしょ?」

「痛めつけられたみたいけどクリスさんたちは川神院の特別な治療により回復したよ」

 

川神院は武術だけでなく医学も発達しているのだ。武術で身体を鍛えてはケガすることもある。そんなこともあれば肉体に関して詳しくなるのは当然である。

 

「そっか」

 

銀子が安心した顔をしている。あまり人と関わらない彼女にしては珍しいものだ。この島津寮に住んでいるからこそ変わったのかもしれない。

それは真九郎も同じであり、久しぶりに多くの同年代と関わっているのだ。星領学園ではあまり味わえない体験だ。

 

「悪宇商会の人はどうなったの?」

「家督の大麻呂さんが全ての実権を持ってるからね。麻呂さんが依頼した仕事は全部キャンセルになったよ」

 

仕事が全てキャンセルになれば悪宇商会だって黙って引き下がる。悪宇商会では仕事以外での殺人や私闘は禁止されている。

ならば『鉄腕』だって麻呂よりも上の大麻呂が依頼をキャンセルさせられたおかげで何もできないのだ。そこはプロなので文句も言わずに切彦と悪宇商会本社に帰って行ったのだ。

切彦は切彦で『サンダーボルト』始末せずに捕獲したので然るべきところへと連れて行ったとのことだ。『サンダーボルト』がもう脱走しないよいうに『円堂』が動くかもしれない。

 

「そう。悪宇商会もただ暴れる輩じゃないってことね」

「ビジネスライクの組織だしね」

 

『ビックフッド』の時は流石にやりすぎだと思うが、あの時は異例だったのかもしれない。

今回も悪宇商会と接触するとは思わなかったが、休戦条約は破っていない。何せ依頼主がキャンセルしたのだから真九郎に非は全くもってないのだ。

 

(それにしても『鉄腕』のやつ妙なことを言っていたな)

 

鉄腕は去る時に妙なことを言っていたのだ。今回の仕事はキャンセルされたが得るものはあったらしい。彼は「良い人材が見つかった」と言っていたのだ。

その言葉の意味が分かるのは後日のことである。おかげでまた厄介なことが起こるのだが今は真九郎は分からない。

 

「…気を付けなさいよ」

「分かってるよ」

「そういえば環さんは?」

「ああ、環さんは…」

「真九郎くーん、銀子ちゃーん!!」

 

件の環がタイミングを狙ったの如く飛び込んできた。酒瓶を持って。そして銀子に抱き付いた。

 

「きゃああああああ!?」

「だから止めんか酔っ払い!!」

 

環だが綾小路家に一緒に入ったが1人で護衛たちを倒していただけである。これといっての活躍はしていなかった。しかし彼女のおかげで綾小路家の護衛を多く倒せたのは事実。

彼女のおかげで綾小路家を動けたと言っても過言では無いのだ。環はいつもサポートしてくれる。とても頼もしい人である。

 

「いいから離れてください!!」

「えー、銀子ちゃんは自分にものだって言いたいの? ってことは独占欲の男だあ!!」

「何を言ってるんですか!!」

「私にも構ってよー!!」

「うわっ酒くさ!?」

 

環はいつも通りに接してくれるから安心する。面倒くさい人だけど。

 

「あーもう。これから沙也加ちゃんと大成さんの見送りに行きますよ!!」

 

長い連休ももう終わる。ならば沙也加と大成も実家に帰るのだ。その見送りに川神の駅まで今から向かう。

酔っ払いの環を引き剥がして駅へと向かうと既にみんなが集まっていた。

 

「紅さん!!」

「ごめん。遅れちゃったかな」

「いえ、大丈夫ですよ紅さん」

 

誘拐なんて起きたのに沙也加は笑顔である。やはり彼女は家族に恵まれ、仲間にも恵まれたおかげで笑顔が守られているのだ。

彼女を助け出した時は本当に良かったと思う。悪宇商会の『鉄腕』や『サンダーボルト』が出てきた時は大変だったが今ここにいることを実感すると全て丸く収まったと思えるのだ。

 

「まさかこんなことになるとは思いませんでしたが紅さんに助けてもらってありがとうございました」

「俺だけの力じゃないよ。直江くんたちや川神先輩たちの力もある」

「ええ勿論です」

 

翔一たちがニコニコと笑いながら親指を立ててくれる。

 

「沙也加。また時間があれば遊びに来ても大丈夫ですよ」

「また来いよな!!」

「いつでも来てちょうだい。歓迎するわ!!」

「またね沙也加ちゃん」

 

1人1人が別れの挨拶を言ってくれる。また会おうと思えば会えるけれど、やっぱ別れるのは寂しいものだ。

だが人間は別れを味わう度に大人になっていくのだと思う。

 

「また会おうね沙也加ちゃん」

「はい紅さん。ところで紅さんの通う学園って何て言うんですか?」

「えっと、星領学園だよ」

「そっか星領学園かあ。よし」

「んん?」

 

何故、真九郎の通う星領学園を聞いたのか分からなかったが今は気にしなかった。これも鈍感ゆえの彼らしいものだ。

 

「また会いましょうね!!」

 

これにて黛の妹の出来事は終わりである。また彼女と再会できることを思いながら真九郎は見送ったのであった。

 

 

118

 

 

悪宇商会の本社。

『鉄腕』と切彦は仕事を終えて今回の報告をしていた。彼らの目の前にいるのはルーシー・メイ。2人の仕事の労いをしてきたのだ。

 

「お疲れさまです切彦さん、『鉄腕』さん」

 

切彦は黙ったままで、『鉄腕』は軽く返事をする。

 

「切彦さんは流石ですね。そして『鉄腕』さんは仕事がキャンセルになって残念でした」

 

仕事をしていれば依頼がキャンセルになることなんてあるだろう。悪宇商会でも依頼のキャンセルは度々あるものだ。

 

「まあ仕事も一段落しましたし、次の仕事までゆっくりしてくださいね」

 

白紙のメモ張をパラパラとめくっていく。これが彼女の特別な方法だ。これは動作の1つのようなもので、全ての情報は脳に叩き込まれている。

彼女は人事副部長で様々な人材を発掘している。今も世界中を巡って人材を確保しているのだ。そんな彼女に『鉄腕』は良い人材を見つけたと言うのだ。人事副部長としては見逃せない案件である。

 

「ほう、誰ですか?」

「有名だぜ。『武神』だよ」

「…『武神』ですか。確かに有名ですけど引き入れるのは難しそうですね」

「いや、案外引き込めると思うぜ。彼女は戦闘屋の素質があるし、戦いに飢えてる。そこ刺激すればな。そういうのは得意だろ人事副部長さん」

「なるほど、それはそれは」

 

ルーシー・メイはもう一度白紙のメモ帳をめくる。

 

「予定は空いてますね。今度訪れてみますか川神市に」

 




読んでくれてありがとうございました。

今回で沙也加ルートは終了です。切彦をもっと活躍させたかったのにあまり活躍できませんでした・・・何故だ(汗)

『鉄腕』との勝負も百代の勝ちで決まりましたね。真九郎が出張る必要はなかったです。それに休戦もありますしね。

そして最後にまた伏線が・・・すぐに回収します。
次回は前回に書いた井上準の話を書いて今回の章が終了です!!

次章は覇王様ルートかなって思ってます。そして星噛絶奈もやっと登場させます!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。