紅 -kurenai- 武神の住む地   作:ヨツバ

5 / 107
こんにちわ。
また今週中に投稿できました。

今回は島津寮に真九郎たちが来た話です。
島津寮に部屋って空いてたっけ?って思っちゃダメですよ。

では始まります。


島津寮

011

 

 

学園は放課後へと移る。この時間帯は部活に向う者、帰宅する者、遊ぶ者と分かれる。

真九郎たちは帰宅する者だ。なぜなら今日から寝食をする寮に荷物が届いているはずだからだ。

すぐに帰宅して片付けをしなければならない。真九郎は夕乃と銀子と合流して帰るのであった。

今日から過ごす寮の名前は島津寮と言う。正直な感想だと五月雨荘よりも綺麗で広い。

安全さで比べるなら五月雨荘が随一であるが、風呂もあって食事も作ってくれる島津寮の方が断然に良いだろう。

今更ながら他の寮と比べると五月雨荘には不便なところがあるようだ。

 

「真九郎さん。五月雨荘が嫌になったら、いつでもうちに帰ってきても良いんですよ」

 

夕乃は優しい。崩月家に帰ればいつも安心する。そして早く一人前になろうと思って五月雨荘に戻るのだ。

夕乃からしてみればずっと崩月家に住んでくれれば良いと思っている。

 

「さあ着いたわよ。ここが島津寮ね」

 

やはり五月雨荘より大きく広い。中に入ると島津麗子と呼ばれる女性が待っていた。

 

「やあ、おかえり。あんたらが今日から住む紅くんに崩月ちゃん、村上ちゃんだね。荷物なら部屋に運んでおいたよ」

 

ニッカリと笑う大家だ。優しそうであると好感が持てる人だ。

 

「ありがとうございます」

「おっかえり!!」

 

今度は翔一が出迎えてくれた。この島津寮には翔一の他に大和、忠勝、京、クリス、由紀江が住んでいる。

真九郎からしてみれば2Fのクラスメイトだ。

 

「おお、真九郎殿も今日から島津寮に住むのか!!」

「うん。よろしくねクリスさん」

「今日からよろしく」

 

みんなで挨拶をするのであった。

真九郎は部屋に戻って荷物を片付ける。服などの生活用品が多い。それは当たり前である。

そして揉め事処理屋として必要な道具。必要になると思って持ってきたのだ。銀子曰く必要無いと言われたが。

自分でも確かに必要無い物はあると思う。例えば拳銃とかだ。この拳銃は魅空との勝負以来使っていない。できればこの川神では使うことが無いようにと思うのであった。

誰にも見つからないように隠す。見つかったら大変だからだ。でも気になることが島津寮である。

それは後輩の黛由紀江のことである。間違いなく日本刀を持っていた。リン・チェンシンのように本物の刀だ。

特に追求はしなかったが気になるのだ。銃刀法違反ではなかろうか。拳銃を持っている自分が思うことではないが。

 

「気になるなら聞いてみるのが一番か」

 

片づけを終えて食卓に足を運べると夕食の準備ができていた。今夜は海鮮料理で埋め尽くされている。

最近は魚介系。特に生魚は食べていない。久しぶりに刺身が食べられると思うのであった。

「いただきます」とみんなで食べる。

 

「うん。美味しい」

 

刺身なんて久しぶりだ。マグロの切り身をワサビ醤油に少し漬けて口に運ぶ。ツンっとくるワサビの風味も良い。

 

「刺身なんて久しぶりだよ」

「そうなんですか紅さん?」

「うん。全然食べてないよ」

 

由紀江はそれとなく質問する。先輩だが友達100人計画のためにコミュニケーションを取ろうとしているのだ。

その意図がバレバレであるため大和たちが「まゆっちが頑張ってる」と思うのであった。そんな中、夕乃が涙をポロリと落とす。

 

「ど、どうしたんですか崩月先輩?」

「いえ、真九郎さんが刺身も食べられない境遇にいるなんてって思うと涙が・・・」

「いや、俺は大丈夫ですから!!」

「辛くなったらいつでも我が家に帰ってきても良いんですよ」

 

真九郎はいつも思う。自分はそんなにも貧乏に見えるのかと。確かに銀子には支払いも待ってもらうことはあるから強く否定はできない。

銀子も同じこと思っているのか軽いため息を出している。それに今も支払いを待ってもらっている。早く払わないといけない。

 

(早く支払わないと銀子に怒られる・・・)

 

そう思いながら白米を口に運んだ。

 

「あの、質問良いだろうか崩月先輩?」

「何ですかクリスさん?」

「さっき崩月先輩が真九郎殿に我が家に帰ってきても良いと言ったが・・・それはどういう意味なんだ?」

「簡単ですよ。真九郎さんはウチの人ですから」

 

真九郎は崩月家に弟子として過ごしていたことを話す。数年も修行して住み込みをしていたから崩月とは家族のようなものである。

 

「だから真九郎さんはウチの人なんですよ村上さん」

「そうですか崩月先輩」

 

夕乃はそれとなく銀子に威圧する。いつものことである。

 

「修行としての住み込みか。なるほど!!」

「だから真九郎は強えのか。なあなあ、どんな武術なんだ!!」

「えーと・・・」

 

崩月流を話して良いか気になるところであるが、対策済みである。裏のことを取り除けば良いだけだからだ。

取り合えず崩月流は古流武術と説明した。さらに関係者以外詳しく内容も話せないとも言う。

武術には一子相伝の技があるように誰彼構わず話せないのもあるため、クリスたちも納得してくれる。

 

「古流武術ですか。確かに紅先輩の動きは見たことの無い動きでしたね」

「あ、由紀江ちゃんに聞きたいことがあるんだけど良いかな?」

「は、はは、はい!!」

 

聞きたいこととは日本刀のことだ。普通に持っていたことが気になったのだ。

答えは簡単であった。国から刀を持つことが許されているらしい。彼女の父は剣聖と呼ばれている剣士であり、そのため国から帯刀の許可をえられているのだ。

それでも外で日本刀を持ち歩くのは目立ってしかたないだろう。布で覆っていても見る人は驚く。

 

「そうなんだ」

「それにまゆっちは強いしな」

「うん。まゆっちは強い」

『やったぜまゆっち。みんなからベタ褒めだぜ~』

 

馬のストラップである松風がしゃべる。実際は腹話術である。これには真九郎たちもちょっと驚く。

補足で彼女はこういうキャラだと大和から説明される。やはり川神にはいろんな人がいる。

 

(疲れるかも・・・やっぱ選択を間違えたかしら)

 

銀子は少し後悔した。やはり彼女は自分の家で情報屋をしているのが性に合っていると思う。

 

「なあなあ、まゆっち」

「何でしょうか風間先輩?」

「まゆっちが思う剣の達人はどんな奴がいるか教えてくれよう」

「剣の達人ですか?」

 

実は翔一、侍を題材にしたドラマにハマッている。彼は興味のあるものは極めるまでのめり込むのだ。ちなみにクリスもそのドラマにハマッている。

だから翔一は日本刀を持つ由紀江に名のある剣士を聞いてみようと思ったのだ。バトルマニアでは無いので、本当に興味本位だ。特に戦いとは思っていない。

 

「そうですね。私はまだ未熟ですから・・・剣の達人たちについてあまり知りません。やっぱり剣の達人なら父上でしょうか」

 

剣聖の称号を持つ自分の父親の名前を出す。まだ知らぬ剣の達人は世界のどこかにいるはずだが、川神に来るまで地元にずっと住んでいたので他の剣士についてはあまり知らないのだ。

 

「でも、父上が戦ってみたい騎士はいるそうですよ」

「ほう騎士なのか!!」

「はい。剣士ではなくて騎士だそうです」

 

騎士道精神を信条とするクリスは食いつく。同じ騎士ならば興味が出るのは必然である。

日本と言う括りを飛び出して世界を見ればまだまだ多くの強き剣士たちはいるのだ。

 

「何という名の騎士なのだ!!」

「名前は聞いていないんですが二つ名が『黒騎士』と呼ばれる人です」

「黒騎士かあ。なんかカッコイイな!!」

 

『黒騎士』。それはきっとオズマリア・ラハのことだろうと思う真九郎であった。

確かに彼女はとても強い。油断していたとはいえ、彼女の剣筋は見えないほどだ。

 

「あと・・・逆に父上でも戦いたくない相手はいるんですよ」

「剣聖ですら戦いたくない相手か・・・気になるな」

 

翔一とクリスは剣聖が戦いたくない相手がどんな奴か気になり出す。ここで大和が一応予想を言う。

 

「まさか姉さんってオチじゃなよなまゆっち」

 

これには翔一たちも「あ~・・・」と言う。確かに予想できるオチである。オチが本当なら京は「しょーもない」と言うだろう。

川神には確認できるだけでも数人の圧倒的強者がいるのだ。それなら剣聖でも戦いたくない相手と言っても遜色は無い。

 

『まー・・確かにそれを言われるとな~』

 

松風がオチの感想を呟く。

 

「いえ、モモ先輩ではありません」

「じゃあ学園長か?」

『それも違うぜ~』

「じゃあ一体?」

 

もったいぶらずに剣聖が相手にしたくない者の名前を言う。その名前は真九郎がよく知っている人物だ。

 

「斬島切彦と呼ばれる人です」

 

名前を聞いた瞬間に白米が器官に入ってゴホゴホと咳き込む。余計なことを気取られないように「器官に入った」と言って誤魔化す。

ズズズッと夕乃からもらったお茶を飲んで心を落ち着かせる。まさか川神でも斬島切彦の名前を聞くとは思わなかったのだ。

 

「きりしまきりひこ・・・聞いた事の無い名前だな。どんな奴なんだ?」

「私も父上から詳しく聞いていませんが・・・絶対に戦うなと言われています」

「剣聖がそこまで言うほどの奴なのか」

「はい。しかも『剣士の敵』とも呼ばれているらしいんです」

「剣士の敵か・・・何で剣士の敵なんて呼ばれてるんだ?」

 

それは切彦が剣士では無く、ただ単に刃物の扱いが異常に上手いだけだからだ。

一流の剣士でさえも刃物の勝負では切彦には敵わない。得物がただの安物の包丁であっても凄腕の剣士を容易く斬殺し、一瞬で人の首を切り落とせる。

 

「聞いた話だと斬島切彦は刃物を扱うのがとてつもなく、異常なほど上手いだけの完全な素人らしいんです」

「刃物を扱うのが上手いだけ?」

「はい。そんな人間が真面目に剣の修行を積んだ剣士をいとも容易く上回ってしまうから『剣士の敵』だそうです」

「それは凄えな」

「でも自分は剣士の敵というのは理解できたぞ」

 

これを聞いて切彦はやはり剣士の世界ではある意味有名だと再度理解した。

彼女は斬島家では別格の天才少女。実力は真九郎より上である。しかも彼女はまだ発展途上と言うのだから末恐ろしい。

真九郎はそんな彼女と再戦の約束をしている。正直、勝ち目は少ない。でも約束は守るし負けるつもりも無い。

でも、もう少し約束は先延ばしにしてもらおうと考えるのであった。




読んでくれてありがとうございます。
今回はさらに斬島切彦の話がちょこっと出ました。彼女も早く登場させたいですね。

さて、由紀江や父である剣聖も切彦のことは知っている設定にしました。
なんせ『剣士の敵』なんて呼ばれてますから剣聖なら知っていてもおかしくないでしょう。

強さに関してもとんでもないので剣の達人でも戦うのは躊躇う感じですね。
そもそも笹の葉や髪の毛一本などの切れそうな物でも日本刀を切断しますからね、チートですよ。
それが業物を持ったならさらにヤバイと思ってます。
贔屓じゃないですが由紀江1人なら勝率は低く、初見戦なら百代ですらヤバイと思うの私だけですかね。

ではまた次回もゆっくりとお待ちください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。