131
バタリバタリと倒れる酔っ払いたち。倒れた酔っ払いたちは白目を向いて気絶している。何故倒れているのかというと彼らが大和たちが追っている件の酔っ払いたちで百代と岳人が成敗したからである。
岳人たちと百代が途中で合流して近くのBARを確認してみると早速、件の酔っ払いたちを発見。大和たちに連絡しようと思ったが既に彼らが暴れていたのですぐさま成敗したのだ。
卓也が大和たちに連絡する前に酔っ払いたちを倒す方が早いというのが凄い。酔っ払いは合計4人なのだが岳人が1人倒しているうちに百代は3人を倒していた。流石は武神である。
「片付いたな。ったく酒を飲むのは良いけど周りに迷惑かけるのはいただけないぜ」
「それにお酒は二十歳になってからだよね」
お酒を飲むのにもマナーはきちんとある。これは誰もが守って欲しいものだ。『酒は飲んでも飲まれるな』なんて言葉がある程であるのだから。
「じゃあ大和たちに連絡するよ。もうこの依頼は片付いたってね」
「ああ、明日からもう清楚ちゃんの正体探しだ!!」
今回の依頼も立派な仕事だが百代にとっては酔っ払い退治はつまらないようで、早く清楚の依頼を優先したいようだ。
確かに彼女にとってはつまらないがこれも人助け。その真意はきちんと理解はしている。
「あ、大和。酔っ払いは退治したよ。これで依頼は達成だね」
『え、酔っ払いを退治した…ワン子とクリスの方は酔っ払いを見つけたってさっき連絡がきたんだけど』
「ええ!?」
『どうやら酔っ払いは複数いたのか、それともただ単純に新しい酔っ払いかもしれないな。でも迷惑をかけているのは同じみたいだから俺らは今その場所に向かってる』
「了解。じゃあ場所を教えて。ボクらも向かうよ」
本来の依頼は解決された。だが今夜は追加の仕事があるようだ。だがこの追加は大和たちには関わらない方が良いとも言える。
分からないから仕方なかったのだが、それでも運が悪いと言う他ない。彼らが『彼女』と関わってしまうということは絶対に良いことなんて1つもない。
人生の中できっと『彼女』の存在はマイナスしかないだろう。プラスに働くということは彼らが裏に浸かるということだろう。
132
クリスと一子は目の前にいる赤髪の酔っ払い女性を見て悩んでいた。彼女はどこからどうみても酔っ払いだ。
今の所暴行行為はしていないが五月蠅いくらい喚いている。どうやって彼女に家に帰ってもらおうかと考えるが、まずは落ち着かせるしかないだろう。
「酒を飲ませろー!!」
「おい落ち着け。周囲の人の迷惑になるだろうが」
「私から酒を奪うなー!!」
「ちょっと、こっちの話を聞きなさいよ」
「私から酒を奪うなら死んでやるー!!」
「ちょ、死ぬって!?」
酔っ払いに対話は通じない。如何に酔っ払いを大人しくさせるには言い聞かせるように命令するのは駄目だ。確実なのは酔っ払いに合わせることだ。
酔っ払いの相手に慣れていない2人には難しいことだろう。相手が暴れているならば実力行使で止められるのだが相手はまだ暴れていない。ならば2人も実力で止められないのだ。
今の状況で実力行使で止めたら一子たちが暴漢になってしまう。だからこそ2人は止められなくて困っているのだ。
「酒買ってこーい!!」
「買えるか!?」
「お酒は飲んでも良いけど、飲み過ぎは身体に悪いわ。今日はここまでにしましょう」
一子が優しく諭すが酔っ払いは聞く耳を持たず。寧ろ、一子とクリスに酒を買って来いと言う始末である。これには一子たちも頭を抱える羽目になった。
「私から酒を奪うなんて酷いことよ。絶対に駄目なのよ!!」
「だぁから酒はもう駄目だぞ!!」
「えー酒が飲みたいー!!」
「酒、酒、酒って…今の姿をよく見ろ。だらしないぞ」
「酒買ってきて。お金は出すから」
「話を聞け!?」
話なんて酔っ払いが聞くはずも無い。ここは耐えるか諦めるかの2択である。
「お酒は薬局とかに売ってるヤツね。アルコール度99の」
「…薬局にそんなの売ってたかしら?」
「おいおい売ってるわけないだろアルコール度数99なんて。あったらそりゃただの薬品のエタノールだ」
「あ、それそれ」
「はあ!?」
酒じゃなくて薬品を買って来いという酔っ払いの女性。これはだいぶ頭が酒でやられているようだと確信してしまう。
飲んだら確実に身体を壊す。そんなのを買って来いという彼女に2人は呆れるというよりも心配してしまうしかない。
「飲むとしても普通のだろ!?」
「普通のだと酔えないのよ。アルコール度数が高くないとね」
「そんなの飲むな!!」
一子は頭を悩まし、クリスは言うことを聞かない酔っ払いにイライラ、酔っ払いの女性は平常運転で酔っている。
全くもって解決の道へと進まず、同じようなことを延々と繰り返しているのだ。こんな時に大和や真九郎が居れば上手く立ち回れるのだが、残念ながら居ない。
2人は交渉するという役割も将として立ち回る方が性に合っているのだ。
「うう、買ってくれないなら自分で買いに行く」
「あ、待て」
フラフラと立ち上がる彼女を見て止めようとするクリス。酒瓶持って人だかりの方へ向かうのを止めようと肩に手を置いた瞬間に、彼女の視界が反転した。
いきなりの反転に「え?」としか言えないまま背中に衝撃が走った。一子は見ていたから何が起こったか分かる。クリスが酔っ払いの女性に投げ飛ばされたのだ。
「痛っ!?」
「クリ!?」
「だ、大丈夫だ」
「酒買うのを邪魔するなら一本背負いしてやるー!!」
油断していたのは否めないが、まさか一本背負いをくらうとは思わなかった。それは仕方ないし、どこに一本背負いをかけてくる酔っ払いがいると思おうか。
背中を強く打ってしまったが重症ではなく、湿布でも貼っておけば平気なレベルだ。流石に暴行をしてくるかと思って2人は警戒。だが2人としては好都合。
暴れるなら2人の得意分野である武術で止めるだけなのだから。だが、ここで新たな酔っ払いが現れた。
「お、こんな所に美少女はっけーん!!」
「こんな夜遅くに外に出歩くなんて悪い子たちだねー」
「俺たちが家まで送ってってあげようか。ま、その前に一緒に遊ばない?」
酔っ払いというかチンピラだった。不躾な話だがチンピラどもは一子たちをラブホテルまでお持ち帰りしようとしているのだ。
こんな夜遅く、しかも場所も悪かった。親不孝通りなのだ。そんなところに美少女がいれば肉食男子なら声をかけたくなる。
クリスも一子も美少女で酔っ払っている女性も美少女。しかも赤髪の女性は2人よりもプロモーションがグラビア並みだ。寧ろ高レベルでテレビや雑誌に出れば確実にトップレベル。
チンピラ共は酒も入っているので興奮している。下種な目で3人を見つめている。
(おいおい、あの赤髪の女はヤベー体つきだぞ。酔ってるしイケるんじゃね?)
(オレはあのポニーテールの子がイイ。3人の中で一番快活さを感じるけど…それが更にイイ!!)
(いやいや、あの人形のような美しさの金髪美女だろ!!)
男はスケベだから仕方ない。ナンパするのも悪いとは言わない。しかし、相手を嫌がらせることになってしまうと悪いことになってしまう。
彼らはそのパターンの部類に入ってしまったチンピラだ。だから一子とクリスは嫌な目で見てしまう。
「奢るから一緒に遊ぼうよ」
「変なことはしないって」
「少しでいいからさ。嫌だったらすぐに帰ってもいいしさ。だから少しだけね」
簡単に言うとしつこいのだ。一子たちは断っているのだが、しつこく誘ってくるチンピラ。
「そっちの赤髪の君はどうかな。お酒を奢っちゃうよ」
「お酒を飲ませてくれるならいいよー」
「マジ!?」
「ちょ、何を言ってるんだ!?」
赤髪の女性の言葉にクリスが止める。流石についていったら確実に彼女のためにならない。だからクリスの正義感が燃え上がる。
「ええい、私たちは断っているんだ。しつこいぞ!!」
触ってこようとするチンピラの手を払う。だがその行為がまずかった。彼らは酔っ払っていて沸点が低くなっているため、手を払っただけでキレたのだ。
軽い感じでかけてきた声質が低くなる。不機嫌さと怒りを隠すことなんざしない声質だ。
「あ、何すんだよ。そっちの子はイイって言ってんじゃん」
「お前たちはどう見ても邪な考えをしている。そんな奴らに連れて行かせるわけないだろ」
「ああ!?」
クリスとしては他人とはいえ、酔っ払いとはいえ、こんなチンピラに彼女を連れて行かせるわけにはいかない。
このままつれていかせると寝覚めが悪いし、何かあったとしたら後悔する。そんな後悔は嫌だからこそクリスは止めたのだ。一子も同じ考えでクリスの横に立つ。
「痛い目に会いたく無くば早く帰れ」
クリスのこの言葉がチンピラに沸点のトドメを刺した。
「どーする?」
「ちょっと痛い目に合ってもらおっか。そして夜の街で出歩いている恐さを教えてやろうぜ。ベットの上でな」
まるでドラマに出てくるチンピラそのものすぎるセリフだが川神では当たり前のようにいる。
チンピラの1人がナイフを出す。他のチンピラは素人同然と分かるような構え方をしている。彼らは彼女たちを甘く見過ぎている。実力の差が分からないのだ。
「やあ!!」
「悪即斬!!」
クリスと一子がチンピラ共をいとも簡単に撃退。たかがチンピラが彼女に敵うはずも無かったのだ。
「こ、こいつ!?」
「この女!?」
「チッ…だがオレたちだけだと思うなよ。仲間なら他にもいんだぜ」
いつの間にかチンピラが増えていた。九鬼財閥の従者部隊によって川神はある程度、危険な奴らや犯罪者予備軍たちは撃退していたが簡単に消えるはずも無い。
簡単に消えているならば日本はすぐにでも平和になっていたし、犯罪率は各段に低下しているはずなのだから。
「いつのまにゾロゾロと…」
「まだまだ平気よねクリ?」
「勿論だ」
武器であるレイピアと薙刀は無いが十数人の相手なら2人でも十分だ。後ろにいる赤髪の女性を守らなくてはならない。
さっきまで頭を悩ませていた人物だが今は状況が状況。仕方なく守り、戦う。
「どっからでもかかってこい悪党ども!!」
クリスと一子が構える。そんな時に新たな声が聞こえてきた。カタコトで如何にもエセ外国人っぽい感じの。
「ヘイ、イイ女ノ匂イがスルゼ」
彼女たちの前に現れたのは大柄の体格である男であった。だが『鉄腕』の時に比べると全然小さいものだ。
「あ、ルディ」
「オーウ、イイ女。タネヅケシタイ」
「どれも美人だし、あの赤髪の女なんかヤベー身体つきだぜ」
「オオーウ、ヤバイネ。ソソルカラダダ…フフフ」
堂々と男の欲望を吐いてくる。彼は性獣ルディと呼ばれててここら一帯ではある意味有名な男だ。
どうでもいいが、何でも猪すら性的に襲ったという聞きたくも無い噂もあるらしい。
「オンナハ、オカス」
「ほう…人の仲間を襲う馬鹿がいるとはな」
「エ?」
ルディが真横に吹き飛んで壁にめり込み、今の一撃でルディは白目を向いて気絶していた。これには他のチンピラ共も「え?」としか言えない。
彼らの視線の先には武神がいたのだ。
「お姉さま!!」
「モモ先輩!!」
「お、おい…まさか武神の川神百代か!?」
「……武神。川神百代?」
『武神』という単語と『川神百代』という名前を聞いた瞬間に赤髪の女性は目を細めた。瞳には酔いを感じさせずに鋭い闇が宿る。
その場に百代と岳人、卓也が到着した。もうここからは百代たちの独壇場であった。
「おい酔っ払いってこいつらか?」
「そうでもあるし。こっちの女性もそうだ」
クリスが後ろの赤髪の女性を見る。
「うお、超美人キター!!」
「ここはカッコイイ姿を見せるぜ!!」
百代と岳人のテンションが上昇。
「さっさとこいつら片づけて美人のお姉さんを介抱するぞ!!」
百代たちの無双でチンピラたちはものの数秒で撃退される。だが中には面倒な奴らはいるものだ。ナイフを持った奴が赤髪の女性を人質にとったのだ。
「おら、そこまでだ!!」
「いつの間に!?」
「ヘヘヘ。これ以上すきにさせないぜ」
「人質とは卑怯な!!」
「うるせえ。だがこれで…」
ナイフを赤髪の女性の首に近づけるが、件の女性は怯えてもいない。それは何故か。だって『彼女』にとってはそれくらいのことは脅威でも何でも無いからだ。チンピラの取った行動は明確な死に近づくものでは無い。
赤髪の女性が右拳を握った瞬間、チンピラのナイフを持った腕が他の者の手によって握りしめられていた。
「てめえ、誰っぶげら!?」
ナイフを持ったチンピラは殴り飛ばされた。殴った者は百代たちも『彼女』も知る人物であった。
「無事……ですよね」
「あら紅くん久しぶり」
現れたのは紅真九郎。そして彼の瞳に映る人物は最大の宿敵の星噛絶奈である。
読んでくださってありがとうございます。
感想など気軽にください。
ついに星噛絶奈に出会ってしまった百代たち。この出会いがどうなるか!?
まあ、プラスには働かないと思います。
そしてチンピラ共ですが百代たちに退治されてマシでしたね。絶奈の手に掛かれば死にはしませんが悲惨なことになってましたから。(仕事以外では殺さないので)
真九郎は絶奈を助けましたが、逆を言えばナイフを持ったチンピラを助けたことになります。