紅 -kurenai- 武神の住む地   作:ヨツバ

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沖縄旅行

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沖縄。「めんそーれ」なんて言葉が聞こえてくる。陽気な活気がある場所である。だが現実は暑いし熱い。

それでも沖縄という魅惑の土地が暑さを忘れさせてくれる。砂浜から足へと熱さがが伝導するが、目の前に広がる青い海が忘れさせてくれる。美味しい食べ物が舌を楽しませてくれる。沖縄は魅力がたくさんだ。

 

「綺麗だ…銀子も来れば良かったのに」

 

銀子は今頃島津寮にてお留守番だ。彼女には何か沖縄のお土産を買って行こうと思うのであった。それに夕乃や紫にもお土産を買うのも良い。

何が良いかなと思いながら悩んでいると背後から声をかけられる。誰かと思えば清楚であった。

 

「真九郎くん!!」

「あ、清楚さん」

「この水着…ちょっと冒険しちゃったかな。どうかな真九郎くん?」

「とてもお似合いですよ清楚さん」

「ありがとう真九郎くん」

 

ポッと頬を赤くする清楚。彼女の水着が学園の指定の水着ではなくて私物の水着だ。白を基調として花柄の水着。

彼女にとても似合っている。知らない人が清楚を見ればグラビアアイドルと勘違いするかもしれない。

 

「みんな楽しんでるね」

「そうですね」

 

周囲を見ると川神学園のみんながそれぞれ楽しんでいる。翔一たちが仲良くビーチバレーをしているし、義経は海を泳ぎ、弁慶はのんびりしている。

 

「あ、モモちゃんもいる!!」

「本当だ。じゃあ修業が終わったのかな」

 

向こう側に百代が大和と絡んでいた。彼女は山籠もりをしていたはずだから、沖縄にいるということは修業が完了したということだろう。ならば夕乃も帰ってきているはずだ。

 

「真九郎さん」

「あ、夕乃さん」

 

また声をかけられたと思えば夕乃であった。

何でも修業に付き合った報酬として沖縄に連れてきてもらったということだ。本来ならばそのまま川神に帰るつもりであったが真九郎が沖縄に行くということで急遽向かうことに決めたのだ。

それに乙女の勘が沖縄に行かないとマズイと伝えているのだ。おもに恋を寄せる真九郎が何かに巻き込まれていると思って。

 

「あの、どうですか真九郎さん…この水着は?」

「はい。とても似合ってますよ」

 

夕乃の水着も私物の物で前に九鳳院系列のスパで着ていたものだ。

今ここに美少女2人が揃う。真九郎はまさに両手に花状態である。遠くからは福本育郎は即座にカメラを構えている。

真九郎は特に思っていないが彼女たちは相当レベルが高い。モデルにスカウトされてもおかしくはないだろう。

男子学生も彼女たちを前にすればテンパるだろう。だが平常心である真九郎は鈍感であるのでテンパらない。だがそれが夕乃にとって誤算というか恨めしいことだ。

それでもアタックし続けることが恋する乙女の力だと思う。なので夕乃はガンガン攻める。色んな意味で。

 

「似合ってて良かった。そのう、どうでしょうか…こう男としてどう思いますか?」

「ん? いや、似合ってますよ」

「いや、そうじゃなくてこう…ムラムラしたり、とか」

「はい?」

「……」

「えと?」

「ムラムラするんですか、どうなんですか!?」

「ゆ、夕乃ちゃん!?」

「え、あ、はい!! します!! ムラムラします!! 多少は!?」

 

凄い剣幕に圧されてつい言葉を発する真九郎。夕乃の大胆な発言に驚く清楚。

 

「ああ、良かった。まだ本来の道を歩いてますね。真九郎さんが小さい女の子でしかムラムラしないなんてことになっていては心配です」

「夕乃ちゃん詳しく」

「えと…いや。あの?」

 

こういうやり取りは前に何度かある。その意味を汲み取れない真九郎は本当に鈍感である。

だが今、夕乃が余計なことを清楚に教えていそうになっていたので話を取りあえずガラリと変えないといけないことだけは理解できる。

 

「あ、そういえば川神さんの修業はどうなったんですか?」

「ああ、もう大丈夫ですよ。川神さんも武神なんて呼ばれていますが同じ人間です。悩んだりします。でも今は雲が晴れたように清々しくなってますよ」

 

チラリと百代の方を見ると確かに彼女の顔からはスッキリした顔をしている。まるで真九郎は悪宇商会のスカウトを蹴った後や悪宇商会との休戦条約をした後のようなである。

彼女もまた同じように悩んで悩んで大きな壁を乗り越えたのだろう。真九郎たちは知らぬことだが百代打倒を計画している燕からしてみれば余計なことしてくれたものだと思うだろう。

でも仕方ないものだ。人間は誰でも成長する。それは誰かが良く思っても思わなくてもどんどん成長していく。

 

「…川神さんはもっと強くなりますね」

「でしょうね」

「なんだかモモちゃん。生き生きしてる」

 

清楚は思う。百代のあの顔はきっと悩みを振り払った顔なのだと。

それはとても羨ましく思う。自分自身の悩みも早く解決したいのもある。その悩みはきっと隣にいる真九郎が解決してくれるんじゃないだろうかとも思うのであった。

 

(今日の夜にでも相談しようかな…ん?)

 

ここでパチっと夕乃と目が合う。そして2人の乙女の電流が走った。そう、2人はまさにお互いに恋敵だと理解したのであった。

夕乃は真九郎のことが好きだ。清楚も真九郎に今まで助けられて、力を貸してもらった。彼には他の男性には特別な感情が募ってきている。

 

(やはり清楚さんは…!!)

(知ってたけど…やっぱり夕乃ちゃんは!!)

 

間の真九郎は無関心。

 

「真九郎くん…私と夕乃ちゃんの水着どっちが似合ってるかな?」

「え?」

「もちろん私ですよね真九郎さん?」

「えーっと…」

 

何故か究極っぽい選択肢が出された。正直どちらも似合ってるので選ぶなんてできないのだが。

 

「……ええっと。どっちも似合ってますよ?」

「どっちか選んでください」

「男らしく」

「…あー」

「おーい真九郎殿。こっちでビーチバレーしないか!!」

 

ここで偶然にも助け船であるクリスが声をかける。彼女はどんな状況でも空気を読まずに入ってくるので助かるものだ。

 

「はい参加します」

 

真九郎はヘタレなので逃げた。

 

「真九郎さん!?」

「真九郎くん!?」

 

 

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沖縄の夜。星空がよく透き通って見えるものだ。

旅館ではマープルが酒に珍しく酔ってヒュームとの過去を赤裸々に語っている頃、砂浜には真九郎と清楚がいる。

何でも彼は清楚から話があるから呼ばれていたのだ。

 

「真九郎君。ありがとう来てくれて」

「良いんですよ」

「さっきの宴会で弁慶ちゃんが酔って義経ちゃんと与一くんがフォローしてたの見てた?」

「見てました。というか巻き込まれてました」

 

弁慶が川神水で場酔いして真九郎に絡んでいたのを思い出す。勢いあまって抱き付いて来たのは環を思い出すものだ。

 

「あはは。ちょっと大変だったね」

「俺としては五月雨荘での日常ですがね」

「そ、そうなんだ。…ちょっと羨ましいな」

 

弁慶みたく清楚も甘えてみたいができない。

 

「私は1人で義経ちゃんたちが主従関係で3人。なんで一緒に育ったのに分かれてるのかなって思って」

「…それは」

 

彼女の悩みというか愚痴だろう。今の生活や仲間に文句は無い。でも昔からまるで分けられて育ったのだから心のどこかに寂しさがある。

義経に弁慶、与一は3人で1つ。清楚は1人。同じクローン組なのに分けれていた。九鬼側としては分けてはいないが本人はそう思ってしまえば意味は無い。

葉桜清楚は寂しいと子供の時に思ってしまった。だが彼女の性格から周りにそんなことは誰にも言えないのだ。

 

「ごめんね。愚痴を言って」

「…愚痴は誰にも言いたい時はありますよ」

 

愚痴は誰も言いたくなる。ため込んでしまう人もいるがため込むのはマズイままだから吐いた方が良い。

 

「いくらでも聞きますよ清楚さん」

「ありがとう真九郎くん」

 

清楚はまた愚痴る。前は項羽だったが今度は清楚だ。清楚は今まで誰かに甘えることはなかった。

彼女はクローン組で年上だ。だからしっかりしないといけないと思ってお姉さんとしてふるまって来たのだ。義経たちのお姉さんになろうと決めた時から彼女はいろいろとため込んできた。

以降は誰も本心を言える人がいなかったが川神学園が交換留学をした時に紅真九郎に出会った。最初は彼のことを優しいけど目立たない青年かと思っていた。

でも彼と出会ってからは怒涛の出来事の連続であった。梅屋での強盗事件では助けてもらった。彼の強盗に立ち向かう勇敢さには驚いたし素敵だった。

次に弁慶たちと河川敷で戦った姿は恰好良かった。肘から角を出したのはより驚いたけど。そしてまさかの自分自身が誘拐された事件は怖かったけど真九郎が助けてくれた。

クローン奪還事件での出来事にて彼が助けてくれた時は子供っぽいかもしれなけど本当に王子様や勇者かと思ったほどだ。

最後に、自分の正体である項羽が覚醒した後。その後はいつも助けてくれた。今だって助けてくれている。だからこそ真九郎には無意識に甘えてしまう。

だが今回のことで意識的に甘えたくなる、頼りたくなる。彼は年下だけどどこか頼りたくなる大人さがある。

はっきり言ってしまうと真九郎からは年下だとは思えないのだ。もう大人の魅力を感じる。どうすればここまで達観しているというか大人っぽさが出るのだろうか。

 

「真九郎くんて…すごいね」

「俺が凄い?」

「うん。凄い。私を助けてくれたし、強いし」

「…俺はそんなに強くないですよ。俺だって弱い。1人じゃ何もできないことはあります。でも助けてくれる仲間もいるからできることもあるんです。だから清楚さんが困ったことがあれば助けになります」

「…うん。やっぱ真九郎くんは強いよ」

 

やはり真九郎は強いと思う。なかなか自分が弱いと認められる人はいない。自分の弱さを認めても強くあろうと本当に思う人こそ強者だと思う。

そんな彼だからこそ魅力があるのだろう。

 

「あー、スッキリした。愚痴を聞いてくれてありがとう」

 

いつの間にか砂浜に一緒に隣に座って愚痴を聞いていた。どうやら無意識に座っていたらしい。

 

「あの…また愚痴があったら聞いてもらって良いかな?」

「もちろんですよ」

「ありがとう!!」

 

彼の手と重ねる。つい胸がドキドキして顔が熱くなる。

隣同士だから顔の距離が近いので少しでも動けば重なりそうだ。

 

「し、真九郎くん…」

「はい、何でしょうか清楚さん?」

「何をしてるんですか真九郎さんに清楚さん?」

 

ここで崩月夕乃の登場である。

 

「夕乃ちゃん!?」

「あ、夕乃さん」

 

夕乃は彼らが2人きりになったからつけてきたが、清楚が真剣に話をしていたので野暮だと思って隠れていた。そのまま帰ろうとしたが何故か乙女の勘が危険だと思って留まった。

そして真九郎と清楚が何か甘酸っぱそうな雰囲気になりそうと思った瞬間に足をを動かした。

 

「真九郎さん。最近身体が鈍ってませんか?」

「いや、そんなことはーー」

「沖縄旅行から帰ってきたら稽古しましょうね」

「えっ」

 

ピシっと固まる真九郎。

ジロリと清楚を見る夕乃。そして「むう」と頬を膨らませながら清楚。

せっかく悩みが無くなったかとあらたな悩みができたものだ。こればかりは真九郎の力を借りてはならない。自分の力で勝たないといけないようだ。

夕乃だって負けるわけにはいかない。きっと模擬戦が終われば新たな戦いが始まるかもしれない。その戦いは敵が多い。

どの敵も個性的でいろんな方面で強いものだ。

 

 

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沖縄旅行を楽しんだら模擬戦が始まる。

項羽に真九郎、大和たちも気持ちを引き締める。

これから模擬戦を再開する。




沖縄での出来事でした。
取りあえず甘酸っぱい感じでオチもつけましたが、こんな感じになりました。
なかなか難しいですね恋模様を執筆するのは、まあ完全な告白ではなくてやっと清楚が気持ちに気付いた感じに書いたつもりです。
告白は夕乃がゆるしませんからね。つーか、銀子や紫が黙っていないあ…

さて、次回からついに模擬戦も佳境に入ります。もうすぐ覇王ルートも終わりですね。

次回の新章ももう考えてあります。どうにか設定を考えて紅側の「西」を登場させたいと思います!!

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