紅 -kurenai- 武神の住む地   作:ヨツバ

76 / 107
パーティー

195

 

 

不死川家。ここには多くの名家の者たちが集まっている。集まっているのは不死川家でパーティーがあるからだ。

全員が高貴で高級そうな服を着ていて、高級そうな美味しいものを食べながら談笑している。

このパーティーの目的は不死川家として多くの名家のつながりを守るために開催されたのだ。名家同士仲良くやっていこうというものだ。

だが裏の目的。集まった名家たちの目的は違う。確かに彼等もつながりを固めるために集まったが実際は良い名家を見つけては取り込むか取り込まれるようとするのだ。

早い話がお見合い相手を見つけようと言うことだ。名家だからといっていつまでも名家だとは限らない。血を絶やさないためにも良い人を探そうとというのだ。

名家的に婿嫁選びに五月蠅い者はいる。なので日本三大名家の不死川が開くパーティーは他の名家にとって良い婚活場所でもあるのだ。

 

「日本中の名家が集まるのは凄いな」

 

ボソリと呟いたのは真九郎。一般人であって一般人ではないが名家にいるのは場違い感がある。でも仕事なので気にしない。

気にしていたら仕事にもならない。彼が今やっているのは給仕だ。護衛だからと言ってずっと心の傍に付きっ切りのわけにはいかないのだ。いつでも視界に入る場所にはいるが。

彼女は今、不死川家として多くの名家と話をしている。主催者側として多くの者と接するのは当たり前なのかもしれない。

どんな会話をしているかと聞き耳を立てるとよく分からなかった。名家には名家の会話があるようだ。

 

「飲み物をくれないか真九郎」

「紫。何が良い?」

「オレンジが良い」

「はいオレンジ」

「ありがとう!!」

 

クピクピとオレンジジュースを飲む紫は幼くて可愛いが今の彼女は『九鳳院』だ。大人顔負けの雰囲気である。

 

「パーティーは楽しいか?」

「まあまあだな。これなら真九郎の家で過ごしている方が良い」

「ココの方が広くて美味しい料理がいっぱいあるけどなあ」

「真九郎の料理の方が美味しいぞ」

 

不死川家の料理人に恐れ多いものだ。真九郎の料理の腕なんて一人暮らしの男子学生程度のレベル。勝てるわけが無い。

だが紫はそれでも真九郎の料理が好きだと言ってくれるのなら嬉しいものだ。

 

「真九郎は仕事は順調か。邪魔ならわたしは離れるが…」

「そんなことないよ。一緒にいても良いよ」

 

仕事の邪魔になると思って紫は顔を一瞬暗くするが真九郎が「そんなことない」と言ってくれて顔を明るくする。

仕事は順調だからこのまま何事も無くパーティーが終わって欲しいものだ。前に似たようなパーティーがあった。それは楯山家でのパーティー。

 

「あれ。もしかして紫ちゃんに紅くん?」

「おお」

「貴女は」

「お久しぶりね」

 

昔のことを思い出していたら件の人と再会した。彼女の名前は楯山美奈子。自分の家を再興させたキャリアウーマンと言うべきだろうか。

ちょくちょく彼女からは仕事をもらっている。彼のお得意様である。

 

「元気そうね2人とも」

「楯山さんも元気そうで」

「ええ元気よ。紅くんにはまた何かあれば仕事を頼むわね」

「任せてください楯山さん。良い仕事をします」

「期待しているわね」

 

彼女も最初に出会ったころよりもハキハキしている。最初に出会った時に具合を悪くしていたのには原因があったみたいだが今の彼女は凄いキャリアウーマンだろう。

 

「紫ちゃんも頑張ってる?」

「うむ頑張ってるぞ!!」

 

お互いに親指をグーと立てて笑顔だ。2人は何でもちょくちょく家同士で交流があるらしい。名家の交流はどこも同じで多いようだ。

 

「頑張って紅くんをモノにするのよ」

「うむ。わたしがあと10年経てば結婚できる!!」

「やったわね。紅くんほどの良い男はそうそういないわよ」

「何を話しているんですか楯山さん…」

 

彼女までもが紫に余計なことを吹き込んでいないか不安である。紫は純粋だから何でも知識を吸収する。その紫に余計なことを吹き込む筆頭格が環だ。

 

「じゃあ頑張ってね紅くん。私はまだ挨拶回りが終わってないからさ」

「はい。楯山さん」

 

美奈子は真九郎から飲み物を受け取ってパーティーの輪に入っていった。

 

「元気そうでなによりだな」

「そうだね。元気で良かったよ」

「ふむ…彼女もわたしと真九郎の結婚式には呼ばないとな」

「………」

 

結婚と聞いて真九郎は何も言えない。正直なところ紫とそういう話は難しい。何と返事をすれば分からないからだ。

難しい話だが自分は将来誰かと結婚するのだろうか。その相手は誰か分からない。

本当に紫と結婚するのか、それとも銀子か、はたまた夕乃と結婚するのかもしれない。もしくは一生独身の可能性もある。

一瞬だけ思考を巡らせたが今の真九郎では考えられないことだから考えるのはやめた。今の自分にとって結婚できるかできないかはどうでもよいことだ。

 

「結婚するのにはやはり環にぷろでゅーすしてもらった方がいいかな?」

「それはやめといたほうがいい」

「そうか?」

「そうだ」

 

頭の中で「変なことはしないわよ」なんて幻聴が聞こえた気がしたが気のせいだろう。

 

「ふう、挨拶回りは疲れるのう。真九郎くん此方に何か飲み物を」

「はいどうぞ心さん」

「うむ助かる」

 

今回のパーティーの主催者側の代表である心が優雅に来た。今日来ている着物はいつもよりも鮮やかで高価そうだ。しかしその着物を着こなしているので流石である。

 

「心さん。その着物とても似合ってますよ」

「そ、そうかのう」

 

いきなり褒められたので心は照れてしまう。素でいきなり女性を褒めるのは真九郎のいつも通りだ。狙っているわけでなく素なのだから影から天然ジゴロと呼ばれるのだ。

 

「まったく…集まる名家も真九郎くんみたいに良い奴ばかりだと良いのだがのう」

「えっと…それは?」

「良い名家もいるがやはり大きな名家に取り入ろうとする者もおるのだ。はっきり言って不死川家に入ろうとする名家がおるのじゃよ」

 

簡単に言うと心の婿を狙っている名家が多いということだ。彼女もあと数年経てば成人。ならば今のうちにと婚約を成立させようということだろう。

実際に名家の集まりに関係無く不死川家には各名家からお見合いの話はちょくちょく連絡があるそうだ。

 

「お見合い話も多すぎてうんざりじゃ。どうせ不死川の権力を狙ってばかりしかおらんからな…此方をちゃんと見てくれる人が良い」

 

チラリと真九郎を見る心。彼は『不死川』という名前ではなくて心自身を見てくれる。だからこそそれが彼女にとって彼に惹かれた1つだ。

 

(此方としては真九郎くんが…)

 

親は心の意見を尊重しているが、お見合いを求める名家も無下にはできないので一応は心にお見合いの話を進めてくる。

それは分かっているが心としては有難迷惑というか余計なことをしているという感想である。

 

(…どうにか母上に真九郎くんを紹介できないかのう)

 

今日この日に真九郎を護衛に頼んだのは親に彼を紹介しようとしているのだ。そしてタイミングを計らっている。

いくら娘の知り合いでもどこぞの馬の骨を日本三大名家の心の親は認めない。だからどうにか良いタイミングで紹介したいのだ。前回は末端の仕事をしていたから真九郎はそこまで不死川家とはつながりはない。

今に思うと紅香の弟子ならば師匠らしく親に紹介してほしかったと勝手に思うものだ。

 

(待て待て…もし上手く母上と父上に真九郎くんを紹介できて認められたら真九郎くんは婿入り!?)

 

顔を真っ赤にしながら妄想が膨らむ。

 

(そうしたら…うう~)

 

まだ妄想は膨らむ。

 

(真九郎くんは元は一般人じゃが功績は相当のものじゃ。いや、彼は裏十三家の崩月家の一員…裏と表。いやいや、此方の代で不死川家を変えれば良し!!)

「どうしたのだ心?」

 

両手で頬を抑えながらクネクネとしている心に対して紫は首を傾ける。

 

「それにしてもお見合いか…俺も一回受けたな」

 

ボソっと呟いた言葉だが心の耳には聞こえていた。

 

「真九郎くんがお見合いってどういういことじゃ!?」

 

武神顔負けの動きで真九郎に掴みかかる。その反射神経はどうやって鍛えたか聞きたいものだ。

 

「いや、前に1回あったんですよ」

「まさか婚約済みなのか!?」

「いえいえ、そのお見合いの結果は何もありませんでしたから!!」

 

何も無かったというのは嘘だ。だが婚約はしていない。まさかそのお見合い相手と死闘するはめになったのは予想外すぎるが。

 

「あいつか…ふん、真九郎はあいつにやらん」

 

紫も真九郎のお見合い相手を思い出したのか少し不満顔だ。

あの時はいつになく紫は恋敵として反応したのだ。あの女には負けられないという気持ちがあった。だから退くことはなかったのである。

真九郎だって違う意味で歪空魅空に負けるわけにはいかなかった。その戦いが悪宇商会本社での死闘だったのだ。

 

「それにしても広いですね。流石は心さんの屋敷だ」

「これでもここは別宅。来場者用などで使う屋敷じゃよ」

 

流石は日本三大名家。ここまで大きい屋敷をパーティー用だけに使うなんて贅沢すぎる。贅沢過ぎて苦笑いが出そうである。

自分も一度くらいは人が羨むような贅沢をしてみたいものである。そんな有りえない夢を妄想しながらため息が出そうになるが喉元で飲み込む。

 

「…ここには名家の人だけじゃなくて政治家もいるんですね」

 

チラリと周りを見るとテレビで見たことのあるような人がいた。

 

「無論じゃ。不死川家は政治家ともつながりがあるからな。まあ政治家との関係は面倒な時もあるがのう」

「…なんか総理大臣がいるのは気のせいかな」

「ああ総理か。総理も不死川家とつながりはあるかのう」

 

総理大臣と知り合いとはもう何も言えない。本当に意外かもしれないがやはり心は日本でも有数のお嬢様なのである。

 

「よう不死川の嬢ちゃん。元気かい?」

「む、総理か。元気じゃよ」

「む、これはこれは九鳳院のご息女様まで」

「総理大臣。こんにちは」

「ああ、こんにちは。うんうん元気そうでなによりだ。子供は元気でなくちゃならねえ」

 

目の前に総理大臣がいる。遠くの存在かと思えば凄い身近にいるものだ。しかし今度の総理大臣は覇気を感じる人だ。

何でも歴代の総理大臣の中でも最高とも言われる程らしい。確かにテレビを見ているとどの政策も良いと言われている。

だが全てが成功というわけではないだろう。成功があれば失敗もしている。それでも失敗を恐れずに進んでいるのだからこそ総理大臣をこなせているのだろう。彼もまた武士なのだ。

 

「む?」

 

真九郎は総理大臣と目が合ったので軽く会釈をしてドリンクを渡す。

 

「おお、ありがとう。若いのに頑張ってるな」

 

少しだけ会話したが彼は気前の良さそうな人だと感じる。

 

「真九郎は私の嫁だ」

「真九郎くんは此方の友達じゃ!!」

「真九郎…。まさか紅真九郎か?」

「え、そうですけど」

「おお、そうかそうか。お前があの紅香の弟子か!!」

 

紅香の名前が出ただけで大体を察する。これは総理大臣が真九郎のことを知っているのは紅香経由だろう。

聞いてみるとやはりそうだった。紅香は九鳳院の当主と知り合いなら日本の総理大臣まで知り合い。しかも九鬼財閥の当主である帝まで知り合いだ。

その全員と対等のように接しているのだから本当に紅香は何者か分からない。

 

「彼女には俺も仕事で世話になったことがある。それにこれからもな」

(これからも?)

「お前さんがあの紅香の弟子…それに活躍も聞いている。もしかしたら仕事を頼むかもしれねえ。その時は頼むわ」

「は、はい。こちらこそよろしくお願いします!!」

 

まさか総理大臣と仕事が依頼される関係になるとは思わなかった。これも紅香がそれとなく紹介しているからだ。

厳しいがなんだかんだで真九郎を手助けしてくれる良い師匠だ。今度あったら御礼を言おうと思うが、きっと「何のことだ?」と言われるのだろう。

柔沢紅香とはそういう人間だ。そんな彼女に真九郎は憧れている。

 

「こんにちは心様、紫様。総理、始めまして私は朱雀神碓氷と申します」

「んん!?」

 

総理大臣が頭を左右に揺らして紫と碓氷を見る。

 

「こいつぁ驚いた。そっくりだぜ…お前さんがあの朱雀神か。よろしくな」

「よろしくお願いします。こちらは御付きの湖兎です」

「よろしくっす」

「おう、よろしくな」

 

握手をして挨拶。

 

(…こんな小さな子が朱雀神の。驚いたな)

 

総理大臣は思う。今も心に思っていることは碓氷に読まれているだろう。これでも総理大臣の元には様々な情報が集まる。

だからこそ朱雀神の秘密を知っているのだ。だが全てを知ることはできない。総理大臣でさえ朱雀神の全貌は知ろうとすると命がいくつあっても足らないのだ。

流石に朱雀神および西四門家を敵に回せない。回したら日本の重要地の1つである京都を敵に回すはめになる。

 

「俺としちゃあそちらさんとは仲良くやっていきたいぜ」

「それはこちらもです。朱雀神はこれから変えていくつもりですから」

(なんつー覚悟をした目だ。いや、覚悟つうか未来をよりよくしようとする目だな。昔を思い出すぜ)

 

碓氷の目からは大志を抱く気持ちを感じられる。柄にもなくヤル気に満ちていた若い自分を思い出した総理大臣なのであった。

 

「つーか、あいつらはどこ行ったんだか?」

(凄い状況だなあ)

 

ここで真九郎は空気に徹する。

今ここに表御三家の九鳳院。日本三大名家の不死川。西四門家の朱雀神。そして日本を動かす存在である総理大臣。

どんな空間だと思いたいものだ。普通じゃ有りえない空間。でも、そんな空間でも平和に見える。裏だと何を考えているか分からないがこのまま何事もなく今回のパーティーは終わってほしいものだ。

だがそんな思いはこういう時に限って叶ってくれない。こういう時に限って最悪なことが起きるものだ。

 

「え?」

 

天井が爆発して、多くの武装した者たちが落ちてきた。

 

 

196

 

 

不死川家の屋敷上空。

 

「ヘルモーズ準備完了です」

「では先に行かせてもらうぞ」

『構わない。こちらは後ほど行かせてもらう』

「その時には我々だけで終わらせているさ」

『どうかな。その屋敷には貴族どもを守るために腕利きの護衛共がいるんだぞ』

「貴族の護衛なぞ…」

『学生どもに負けたじゃないか』

「っ、あれは武神がいたからだ。今回はそうはいかない」

『武神のせいか…まあいい。今回は絶対に捕獲しないといけないからな。我々も全力でいかせてもらおう』

 

ヘルモ-ズ部隊は上空から不死川家の屋敷に突撃した。

 

 

197

 

 

不死川の屋敷から離れた地にて。

 

「ヘルモーズはこれから落ちるそうだ。こっちもそろそろ動くぞ」

「そうか。私は私で動くぞ」

「ああ。競争だな。どっちがさきに朱雀を捕獲するか」

「競争なぞしない。ただ仕事をこなすだけだ」

「真面目なこって。では我々、曹一族出陣する」

 

上空からはヘルモーズ、地上からは曹一族が出陣した。そして裏世界の中でも有数の実力者である1人が動き出した。

 

 

198

 

 

どこか。

 

『動き出した。そっちもそろそろ動け」

「了解」

『仕留める判断は説明したよな』

「はい」

『では、状況に応じて頼む。金は既に払っているんだ。良い仕事を頼むよ』

「了解しました」

 

斬島切彦も動いた。




読んでくれてありがとうございました。
次回は真九郎や湖兎が紫や心、碓氷たちを守るために奮闘します。
そして強者たちも参戦していきます!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。