紅 -kurenai- 武神の住む地   作:ヨツバ

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今回で黒幕が登場です。
ここで注意!!
黒幕は原作にちゃんと登場していますが、名前がありません。
なので名前だけオリジナルです。詳しくはあとがきに記載します。


黒幕

204

 

 

ポタポタと血が地面に滴り落ちる。その傷口は真九郎でありオズマリア・ラハの剣技によって斬られたものだ。

血が出ているが斬傷は深くない。そもそもまだ生きている、四肢が切断されていないだけでも奇跡のようなものだ。

きっと1人で戦っていたらもう既に腕か足が切断されていただろう。これもリンが一緒に戦ってくれているおかげと後ろに紫たちがいる影響だろう。

 

「ふむ…前に出会った時よりも腕をあげているな。だがまだまだ未熟だ」

 

自分が未熟なのは嫌でも分かっている。それでも自分よりも各上の者と戦うことがあるから理解しながら死闘をするのだ。

今のところオズマリア・ラハに有効打なんて1発もなく、リンでさえ一太刀も届いていないのだ。裏十三家とはまた違う化け物だ。

異能をもっているわけではなく、ただ単純に研鑽を重ね続けた結果の実力。彼女は研ぎ澄まされた剣なのだ。

 

「ここまで実力の差があると絶望的だな」

「諦めろ。お前たちの実力では私には敵わない…斬られるのが遅いか早いかだけの違いだ」

 

オズマリア・ラハの実力にはどうやら真九郎とリンだけでは足りない。彼女と戦うにはまだ援護が必要だ。

後ろで見ていた心や総理も援護しようと思っていたが、どうせ足手まといになる嫌でも理解してしまうのだ。

自分たちでは黒騎士には勝てない。彼等の死闘を見ると真九郎とリンを邪魔するだけだと嫌なほど理解してしまったのだ。

だから何もできない自分たちに歯がゆい気持ちなのだ。だが紫だけは信じている。真九郎たちが頑張っているのだから守られている方が信じないでどうするのだ。

碓氷だって信じているが、やはり湖兎が気になるのだ。今の状況が危機的なのは分かる。それでも大切な家族である湖兎が心配だ。

 

(湖兎…)

 

碓氷の思いが通じたのかその場に湖兎が現れた。ついでに史文恭も連れて。

2人の乱入にその場が荒れる。言わば戦いの流れが変わったというべきだろう。しかし、それでも冷静に考えても逆転できるとは限らない。

 

「湖兎さん!?」

「すまない。あいつを仕留められなかった」

「いえ、無事なら良かったです。でもこっちも最悪な状況ですよ」

「そうみたいっすね…」

 

オズマリア・ラハと史文恭を見る。2人とも相当な実力者だから揃ってしまうと更に最悪だ。

湖兎が加わったとはいえ、向こうの方がまだ有利あろう。史文恭も強いが彼女だけなら何とかなるかもしれないが黒騎士であるオズマリア・ラハだけが本当に別格なのだ。

彼女たちと戦うにはあとせめて2人くらい実力者が欲しいところだ。その実力者は半端な者はいらない。

碓氷にとっては湖兎が無事だというのが知れて良かったが、その後は絶望が来たのだ。川神市にきてから一番の最悪的な状況だ。

こんな最悪な状況だが真九郎の全力の一撃さえ届けば逆転する可能性はあるのだ。彼の一撃はあの星噛絶奈さえ殴り飛ばすのだ。だから真九郎の一撃は黒騎士に効くはずである。

だがいかんせん真九郎の拳はオズマリア・ラハに届かない。どうにかして届かせれば今の状況をぶち壊せるのだ。

 

「何とかしないと…」

「何とかはできないよ少年」

 

まさかの新たな声。その声はオズマリア・ラハでもなく、史文恭でもない知らない男の声だった。だがこの声は総理だけは知っていた。

 

「この声は…!?」

「不死川家に入る前ぶりですね総理」

「どうしてお前がそっちにいるんだ?」

 

知らない男はどうやら総理の知り合いらしい。しかもよく知っている間柄のようだ。

 

「三鷹統治…!!」

 

三鷹統治。政界で勢力を伸ばす若き政治家だ。その野心は大きく、総理大臣にも食って掛かる勢いである。

総理自身も彼が総理大臣の座を狙っているのは知っていた。そして悪い噂も。

 

「まさかてめえがこれを?」

「ふふふふふ。ああ、そうさ。これも全て私が総理になるためだ!!」

「てめえ…お前は悪い噂も聞くが日本のために働いているとおもってたのによぉ。ここまで堕ちたか!!」

「堕ちてなぞいないさ。私が総理をした方がより日本をよくできる」

「できねえよ。関係無い人を巻き込む時点でな!!」

 

三鷹統治は野心家である。政界で身を粉にしているならば総理大臣の座を狙うのは当たり前だ。

総理大臣になるために彼は手段を選ばない。その為にどんな残酷な事をしても気にしない。全て握りつぶせは悪評は立たない。

そして今回はある人物を攫って、その人物の異能を利用しようとしているのだ。

 

「あんたがうちの坊ちゃんを誘拐しようとした張本人か」

「ああ、朱雀神の『心を読む力』は政界にとって絶大だからな」

「ぬう…朱雀神の異能は本当だったか」

 

朱雀神家は『心を読む』ことができる。人間の心を読むことは絶大だ。

だからこそ利用しようと狙う者は現れる可能性は多いのだ。朱雀神家も異能の情報を隠蔽しているが知る者は知っている。

 

「朱雀神は総理の座を引きずるための切り札にしようかと思ったが…今ここで総理を亡き者にできそうだ」

「なに?」

 

今ここで総理大臣を亡き者にできる。その理由は三鷹統治の横にいる黒騎士であるオズマリア・ラハと史文恭だ。

 

「彼女たちの力は絶大だ。しかも今ここに総理がいるならば仕留めることができるだろう?」

 

現場はヘルモーズと曹一族の部隊で混乱。総理大臣は朱雀神たちと一緒にで、近くには誰もいない。三鷹統治には黒騎士と曹一族の切り札が。

こんな状況ならば多くの過程を飛ばして総理大臣を亡き者できるのだ。最終的な目標の一歩手前である現総理大臣を表から追いやることができる。

 

「依頼の変更か?」

「ああそうだとも黒騎士。今この場にいる総理を殺せ…それと口封じのためにここにいる全員もな。朱雀神は殺すな。その子は私が総理大臣になるための利用できる」

「追加依頼が多いな。相手は総理大臣に九鳳院、不死川の令嬢…追加依頼料は分かっているのか?」

 

今ここにいる者全員を殺すとなるとそう簡単ではない。相手が強いというわけではなく、日本に君臨する家名やトップを殺すという部分でだ。

あの九鳳院と不死川に、日本のトップに手をかけるのは依頼されて簡単にできるわけではないのだ。それを依頼料を倍にしたところで割には合わない。

 

「分かっている。見合う料金を出すさ」

「は、見合う料金ね…出せるのか?」

「ああ出すとも史文恭よ」

 

依頼が誘拐と殺人と追加された。ターゲットは総理大臣に不死川心に九鳳院紫。更にリン・チェイシンに湖兎。そして紅真九郎。誘拐対象は変わらず、朱雀神碓氷。

これだけの仕事だと依頼料は相当の額になるだろう。0の数がいくつだろうか。

 

「その言葉本当だろうな?」

「もちろんだとも。ここで総理を消せるならいくらでも出すさ」

 

三鷹統治は歪んだ目を総理に向ける。

 

「時間も少ない。速攻消せ!!」

 

余計な仕事が増えたと思いながらオズマリア・ラハはため息を吐くが仕事は仕事。殺気を更に濃く発する。それは史文恭も同じである。

仕事をするにあたって依頼者が追加するのは多くないことだ。無茶な依頼だと抗議するか依頼自体をキャンセルするが黒騎士たちは三鷹統治の依頼を完遂できるのだから自分自身に困るものだ。

だからターゲットたちがどんな人物でも殺すことができる。それが彼女たちの実力なのだ。

 

「さて、本当の殺し合いだ。戦いを楽しむことなどできない…ここからはな」

 

史文恭は冷たく言い放つ。今まで彼女と会話したのは数回きりだがどこか気前の良い感じはした。だが今の彼女は戦士として真九郎たちを殺すことを決定した。

2人からの濃密な殺気が周囲を包み込む。並大抵の者なら気絶するかもしれない。総理と心、碓氷は裏世界と何度も関わっているから少しだけ慣れているからまだ平気だ。

しかし心は違う。日本三大名家でも裏世界のことは知っているが彼女は裏を知らずに育ってきた。だからこそオズマリア・ラハたちの殺気に耐えられそうになくなってきている。

今にでも心は意識が飛びそうで倒れそうになるが、ここで紫が心の手を握ってくれる。

 

「む、紫?」

「大丈夫だ心。真九郎たちなら大丈夫だ」

 

小さな手が心の手を握っている。その小さな手は震えていた。紫だって怖いのが伝わってくるのが分かってしまう。

でもこんな小さな子が真九郎を信じているのだから自分だって信じなければならない。

 

「真九郎」

 

どんな状況になろうとも真九郎のやることは変わらない。後ろにいる紫たちを必ず守るのだ。

 

(あいつは…紫たちを殺すと言った)

 

なんだってこの世界は小さな子を殺すなんてことが簡単に実行させようとするのか。そればかりはおかしい世界だ。

紫には平和な世界で生きてもらいたい。真九郎がいる世界にきてはいけない。九鳳院家の娘だから難しいかもしれないが極力裏世界には関わらせたくない。

だというのに目の前にいる敵は紫を殺そうとする。それだけは絶対にさせない。

 

「何で簡単に殺そうとするんだよ!!」

「んん、少年…そんなのは仕方がないことだよ。この世界に生きていればね」

「答えになっていない!!」

 

真九郎は三鷹統治に対して怒る。自分が殺されるのは関わっているからいい。裏世界に生きていれば覚悟している。

だが紫や心たちは関係無い。今の状況だって彼女たちはただ理不尽に巻き込まれたのだ。もしこの場にいなければ殺されるターゲットにならなかったはずである。

 

「何で関係無い人まで巻き込むんだよ」

「関わってしまったら関係者だ。どんな出来事も悪いものを処分していけば良い結果だけが残る。だから悪い者を処分するのは当然だろう?」

 

真九郎の心のどこかで何かがブチリと切れる音が聞こえた。

何で三鷹統治は紫たちを悪い者だと決めつけたのだろうか。彼女たちのどこに悪いものがあるのか。そんなものはどこにもない。

紫も心も善人だ。どこに悪人の要素があるのだ。何故勝手に三鷹統治は悪だと決めつける。そんな勝手は、決めつけは許せない。

崩月の角の根元から蒸気が噴き出す。身体中が熱くなるのは細胞がマグマのようになっているからかもしれない。その元は全て怒りだ。

拳を燃え盛る鉄のようになるくらい握りしめる。心臓がエンジンのように鳴り響く。今なら一瞬で走り抜けることができそうだ。

 

「殺すなんて簡単に言うな。関係無い人を巻き込むな!!」

「吠えるな少年。お前には分かるまいよ…日本を支えるにはささやかな犠牲が必要だと」

「日本を支えるのに犠牲が必要なんておかしいだろ!!」

「その通りだ紅!!」

 

総理も怒号で吠える。今まで黙っていたが三鷹統治の言い分が気に入らない。

 

「紅の言う通りだ。犠牲を出してまで日本を支えれるかよ!!」

「総理もおかしなことを言う。犠牲を出さないといけない場面なんていくらでもあるじゃないですか?」

 

人間生きていれば何かを犠牲しないといけない場面はあるだろう。そして選ばないといけない場面だって嫌なのにある場合がある。それは上に立つ者としてはあるものだ。

嫌だけど三鷹統治の言い分は認めてしまう。だが真九郎も総理も認めない部分は犠牲にしなくてもよい犠牲を出すことだ。

 

「どう考えても九鳳院の嬢ちゃんと不死川の嬢ちゃん…朱雀神の坊ちゃんだって巻き込むのはお門違いだろうがぁ!!!!」

 

紫たちを犠牲にするのは間違っているのだ。

 

「三鷹ぁ…てめえの顔には俺が拳を叩きこむ!!」

 

総理は怒りで気を発する。流石は元武道四天王なのか引退しても気は雄々しい。

 

「うぐう…速く奴らを殺せ黒騎士に史文恭!!」

「…招致した」

「分かった」

 

怒りが身体中に駆け巡るが頭の中だけは冷静だ。もう紫たちを守るために自分はどうなっても良い。後はリン・チェンシンや湖兎がどうにかしてくれるだろう。

後のことが人任せだが、その分今から自分がどうにかしてみせる。

 

「仕切り直しだ!!」

「…怒りは感じる。だが冷静だな」

 

オズマリア・ラハは真九郎がより厄介な者になったと正直に感じた。彼は怒りで完全に覚醒しただろう。

ああいう人間は何度か見ている。そして苦戦してきた。

 

「容赦はしない」

「私も忘れないでくれよ」

 

史文恭が目を光らせる。

 

「待て、紅真九郎…無容易に突っ込むな」

「そうっすよ。俺らが隙をつくる」

 

仕切り直し開始。

 

 

205

 

 

紅真九郎の実力を評価をしたとしよう。ある人物は彼の強さには波があると言う。

強い時もあれば弱い時もあるなんていうおかしい評価だ。それは全て精神面によるものだ。彼は人一倍に悩む。悩んで悩んで駄目になってから、ある切っ掛けによって一気に上り詰める。

本当に面白いものである。だが上り詰めて覚醒した時の彼は目を見張るものがあるのだ。覚醒した状態の真九郎は各上の相手でも渡り合える。

そして勝ちをもぎ取ったり、引き分けまで叩き出すのだ。格下の者が格上の者にそこまで食い掛かるのは奇跡に近い。

だからこそ仕切り直し戦の黒騎士オズマリア・ラハと曹一族の切り札である史文恭との戦いも何か変化があるかもしれない。

 

「…行くぞ」

 

足に力を入れて飛び出す。目を大きく見開いて相手方の動きを完全に見切る。

相手は完全に迎撃をする構えだ。そのまま突っ込んでも切断されるか殴り飛ばされるかのどちらかだろう。だからリンと湖兎がいるのだ。

真九郎の背後から湖兎のクナイが数多投げられる。そのクナイは直線的に投げられたリ、反射して角度を変えながら投げられたのだ。

 

「ふん、この程度」

「対処方は分かってるぞ!!」

 

オズマリア・ラハと史文恭は全てのクナイを弾き飛ばす。彼女たちはクナイを弾き飛ばした後に真九郎を対処できるほどの余裕はあるのだ。

 

「怒りを力に変えても、ただ突っ込んでくる無策では無様な死だけしか残らないぞ」

(無策に突っ込んでなんていない!!)

 

真九郎の背中からリンが飛び出し、真上から襲撃する。彼女は真九郎の背後にピッタリとついて来ていたのだ。

刀を強く持ち、身体を捻りながら振るう。真九郎は拳を更に握り締める。

 

「隙を突いたつもりか!!」

 

オズマリア・ラハは真九郎を、史文恭はリンを狙う。

 

「隙をついたつもりだよ!!」

 

湖兎がクイっと見えない糸を引っ張った瞬間にクナイが動き出す。糸を縦横無尽に回したらクナイが予測不能な動きをして2人に遅いかかる。

予測不能の動きをするクナイは湖兎の腕次第。ここまで乱雑に真九郎とリンに当てないで敵のみを狙うのは並大抵の者ではできない。

 

「芸達者な奴だ!!」

 

クナイが2人の武器に絡みつき、攻撃の軌道を少しだけズラされた。

 

「でやああああああああ!!」

「おおおおおおおおおお!!」

「ふん!!」

「どお!!」

 

ズラさせれたが2人は無理矢理武器を動かして真九郎たちの攻撃を防ぐ。

史文恭はリンの刀を棍棒で防ぎ、オズマリア・ラハは剣の腹で真九郎の拳を受けた。

 

「チッ…防がれたか!?」

「いや、これでいいんだ!!」

 

真九郎は自分の攻撃が防がれても良かった。当たれば儲けもの。外れれば死。本当の目的は拳が黒騎士の剣に届くこと。

 

「だあああああああああああ!!」

 

拳をねじりながら明後日の方向へと力の限り殴り飛ばした。今の真九朗ならばオズマリア・ラハの手から剣を殴り飛ばすことができる。

 

「む!?」

「あんたなら剣で防ぐと思ってたよ」

「なるほど。本当の目的は私から剣を手放させることか」

 

西洋の剣が円を描きながら飛んでいき、木に突き刺さる。真九郎は剣の方を見向きもせずにオズマリア・ラハに追撃をする。

もう自分の拳が、脚が千切れる勢いでオズマリア・ラハに向けて放っていく。もう動きを止めるわけにはいかない。彼女の剣を取らせてはいけない。

 

「ふん。剣を無くせば私に勝てると思ったか?」

 

オズマリア・ラハは真九郎の攻撃に反応して逸らしていく。彼女は剣を無くせば実力が低下するのは確かだろう。だが裏世界の戦闘屋として別格なのだから剣がなくても戦える。

剣が使えない場合なんて想定済みだ。だから素手で戦えることは当たり前にできる。だがおかげで殺される確率は下がったのは確かだ。

 

「おおおおおおおおお!!」

 

今なら力だけなら真九郎の方が上だ。彼女の腕でも足で防せがせることが出来れば力の限りで壊すことができる。亜城製の甲冑だろうが壊してみせる。

その魂胆が分かっているのであろう。オズマリア・ラハは真九郎の攻撃を受けずに逸らしていきながら反撃していく。

真九郎は攻撃をして逸らされては、反撃されて受け止める。オズマリア・ラハは彼の攻撃を逸らして反撃して受け止められる。攻防一体が続いていく。

 

「あの黒騎士に食って掛かるか。あいつ良いな」

「余所見をするなよ褐色女」

「史文恭だ刀女」

 

刀と棍棒が交差する。その中にクナイも参戦する。それは湖兎がクナイを2本握って乱入したからだ。

弧を描くようにクナイを振るう。十字に振るう。乱雑に振るう。

 

「おおっと。お前との決着もまだだったな」

「あんたと黒騎士を引き離すのが役目っすよ」

「ほう…しかし良いのか。私なんかよりも向こうの彼を援護した方が良いぞ。黒騎士1人に彼だけでは心もとなくないか?」

「大丈夫っすよ……紅真九郎!!俺が援護してやるから勝負時を見つけろ!!」

 

湖兎は真九郎に言葉を発する。その言葉の意味を理解した真九郎は心の中で了解した。

 

「ほう…私を倒して彼を援護する魂胆か。できるかな?」

「あんたを倒す必要はない。倒さなくても援護はできるからな」

「なに?」

 

史文恭は湖兎の言ったことが理解出来なかった。真九郎と湖兎のやりとりを理解できたのはいない。周りは湖兎が史文恭を倒して援護しにいくものばかり思っている。

だが本当は違う。彼がするのは援護というよりも助言をするだけだ。

 

「何を企んでいるか知らないが…仕事は完遂する」

「おおおおおおおおおおお!!」

 

真九郎は吠えながらオズマリア・ラハに連打する。全て逸らされても拳も脚も止めない。

力だけなら今の真九郎はオズマリア・ラハより上なのは確かだ。だが戦闘経験に関しては圧倒的に下だ。その差が埋められずに真九郎の攻撃は全て往なされる。

1発当たれば良い。それだけで戦局を変えられる可能性があるはずだ。あの星噛絶奈の肉体に危険信号を与えたのだから。

彼の気持ちは自分の拳が砕けても構わない覚悟で攻撃しているのだ。そうでないと勝てない。

 

「でええええええい!!」

 

真九郎はここで顔を殴られたがワザと殴られたのだ。無理矢理オズマリア・ラハの防壁を突破して拳を届かせるために。

気合いで拳をオズマリア・ラハの顔面に向けて放った瞬間に大きく後ろへと吹き飛んだ。

 

(これは!?)

 

殴り飛ばした感触は無い。何故ならオズマリア・ラハ真九郎の拳を顔面スレスレで後退したのだ。それはまるで殴られて吹き飛ばされたように見えた。

間合いが空いてしまい、剣を取られると思った真九郎はすぐに駆け寄る。

 

「何だ。私が剣を取りに行くと思ったか?」

 

オズマリア・ラハは大きく後退したかと思えばすぐに前進してきた。

 

「剣を取りに行かなくて剣から此方に来る」

 

オズマリア・ラハが何かを引っ張る仕草をした瞬間に愛用の西洋剣が彼女に向かって飛んできた。それは湖兎が使っていたクナイに繋がった糸だ。

いつのまにか剣に仕掛けていたのだ。いつ仕掛けていたのか全く分からなかった。一旦離れた理由もすぐに分かった。

剣で切断できる間合いを作ったのだ。お互いに走り出していて、オズマリア・ラハと並行して剣が真九郎に向かっている。真九郎も止まれない。

 

「ここで貴様を斬る」

 

真九郎は考える。飛んできた剣を右手と左手どちらで取って、どの方向から斬りかかってくるのか。はっきり言って分からない。

彼女は直前まで斬ってこないだろう。ギリギリの距離で斬りかかってくるのだろう。

 

「終わりだ。一介の揉め事処理屋がよく戦った」

 

真九郎は目を見開いて全神経を集中する。そして言葉を待った。一か八かの勝負で反応が遅れれば死。

彼女の斬撃で胴体は切断されるだろう。だが上手くいけば逆転できるのだ。全ては湖兎の言葉によって決まるのだ。

脚に力を込めてさらに近づく。そしてオズマリア・ラハが行動を移そうとした時、湖兎が大きく助言を真九郎に向けて発した。

 

「右手で掴んで左斜め上から斬りかかってくるぞ!!」

「む!?」

 

真九郎は急ブレーキをしてギリギリのところ停止。神速の斬撃が真九郎を襲って血飛沫がオズマリア・ラハの甲冑にかかる。

だが浅く、完全な致命傷ではない。痛みはあるが真九郎はまだ動ける。刹那の瞬間、真九郎はオズマリア・ラハによる斬撃後の一瞬の隙を見逃さず戦鬼の如く拳を全力を振るった。

 

「…肉を切らせて骨を断つか。本当にやるのも珍しいが、見事だ」

 

人間を殴った音ではない音が周囲に響いて黒騎士オズマリア・ラハが殴り飛ばされた。

 




読んでくれてありがとうございました。
感想など気軽にくださいね

さて、黒幕ですが『三鷹統治』。この物語上では彼は総理大臣の座を狙う若き野心家であり、政治家です。
彼の正体はアニメ版マジ恋の総理をやっていた人です。
アニメ版では名前が総理であって個人名が無かったのでこの物語ではオリジナルの名前をつけました。

そして黒騎士との戦闘シーンが難しかったですが何とか書けました。
いやあ難しかったです。でも自分では上手く書けたと思いたい…

今回の章もそろそろ終了です。あと…2話くらいかな?もしくは次回です。

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