紅 -kurenai- 武神の住む地   作:ヨツバ

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今回でこの章は終了になります。
オリジナルの物語でしたがどうでしたでしょうか。


見送り

209

 

 

真九郎は最高の治療を受けたので退院もすぐだった。それに彼自身の回復速度も異常だったので医者は驚いていた。これも全て崩月の肉体改造のおかげだろう。

彼自身もはやく退院はしたかった。それは入院費を気にしていたというのもあるが碓氷や湖兎が京都に戻ると言うことで見送りがしたかったというのもある。

さっそく病院を抜けて島津寮に帰れば凄く心配された。夕乃には涙目になりながら説教され、銀子は冷たくされたが相当心配しているようだ。

大和たちは何があったのかと質問されながら心配された。きっと学園にいけば義経たちクローン組や英雄たちにさらに質問されるだろう。特に清楚には何を言われるか分からない。

心配されるということは真九郎はそれほど想われているということだ。自分を心配してくれる人間がこんなにもいるというのは感動してしまう。

昔は自分を心配してくれる人なんて考えもしなかった。もう自分のことしか考えなかったが今は違う。

 

「…心配をおかけしました」

 

まずは心配をかけた謝罪をする。そして自分はもう大丈夫だということを説明するのであった。

 

「本当に何があったんだ?」

「いろいろとあったんだよ直江くん。いろいろとね」

 

話をはぐらかすが、どうせ百代経由でいずれ知るだろう。だから大まかに揉め事処理屋の仕事で厄介な奴に対峙したということしか言わなかった。

懇切丁寧に黒騎士のことや三鷹統治について話すことは無い。直江たちにはまったくもって関係ないのだから。

退院後はやはりいろいろと様々な人から問いだされたが仕方ないことだ。それだけ真九郎が意外にも想われているということ。

 

「さて、行くか」

 

真九郎は準備をして駅まで向かう。そこには紫にリン。それと心までいたのだ。どうやら真九郎が最後に来たようだ。

 

「真九郎!!」

「真九郎くん!!」

 

紫と心が真九郎の元に駆け寄る。彼女たちも凄く心配した筆頭だ。なんせ目の前で事件を目撃しているのだからしょうがない。

本当なら紫と心は彼を安静にさせて看病したいほどだが、もう大丈夫だと言い張るので渋々納得している。

 

「元気そうだな紅真九郎」

「はいリンさん。おかげ様です…あの時はとても助かりました」

「それはお互い様だ。黒騎士と戦って生きているのだからな」

 

黒騎士と戦ったことはもう2人の中では人生の中で一生残る思い出だ。思い出という言葉はおかしい。寧ろ彼等の中で残る人生の歴史だ。

 

「紫様に心様、真九郎様にリン様」

「こんちわっす」

 

碓氷と湖兎がトコトコと歩いてくる。それを見ると安心する。当たり前だが無事で良かったと思っているからだ。2人の無事がこれ程まで安心する。

 

「これから京都に戻るんですね」

「はい。川神に来てからいろいろなことが起きましたが無事に帰れそうです」

 

「いろいろ」という言葉で片づけて良いか分からないが、確かにいろいろとありすぎた。

それでもみんな生きている。終わり良ければ全て良しという奴だ。これには真九郎は本当に頷く言葉だ。

どんな最悪が起きても終わりが良ければ良いのだ。キリングフロアでの出来事もそうだった。あんな醜悪な祭りがあったけれども最後には依頼主の姉を救うことが出来た。

生きるているということは本当に素晴らしいと思う。生きるのが辛いと言う人も言うが、生きていれば何とかなることもあるのだ。

 

「今度はまた京都にいらしてください。その時はよりいっそう御もてなし致します」

 

朱雀神家の御もてなしとは恐れ多いというか、逆に気になってしまう。でもまた京都に、みんなで行くのも良いだろう。

今度は本当に旅行で行きたいものだ。そこには紫や銀子に夕乃。環や闇絵もいる。そして碓氷や湖兎も一緒に京都を観光したい。

そんな人並の望みを叶えたい。その望みは叶えようと思えば叶えられる。いつかきっと。

 

「また会いましょう」

「バイバイっす」

 

碓氷と湖兎は電車に乗る。

 

「またね碓氷くん。湖兎さん」

「またな碓氷よ!!」

「またの朱雀神殿」

 

碓氷と湖兎は京都に戻る。

 

「帰ってしまったか」

「…寂しい紫?」

「うむ。でも平気だ。また会えるしな!!」

「そうだね。ちょうどお昼だし何か食べにいこうか」

「うむ!!」

「ならば此方が良い店を紹介しようではないか!!」

「高い店はちょっと…」

 

心の紹介する店は何だか高そうだ。真九郎のサイフがピンチの予感。

 

 

210

 

 

魚沼のBAR。

真九郎は何故か魚沼のBARでミルクを飲んでいた。何故彼の店にいるかというと弁慶に来てほしいと言われたからだ。

理由は簡単で入院して心配かけたからだそうだ。心配かけたから店に貢献しろとのこと。そんなの理不尽ではなかろうかと思うところだが真九郎は二つ返事で店に向かったのだ。

酒なんて飲めないのでミルクしか飲めないのだが。

 

「川神水は?」

「ミルクで」

「私と主を心配かけたんだからもっと注文ね~」

「勘弁してください」

 

笑いながらミルクをおかわりする真九郎。そんな時に久しぶりに聞く声が聞こえてきた。

 

「お前もこういう店に入る歳になったか」

「え、紅香さん!?」

 

声の主は柔沢紅香であった。彼女はそのまま真九郎の横に座り、魚沼に「いつもの」と言う。

そうすると魚沼は彼女にとっての酒を出した。出された酒を一口飲む。酒を飲む仕草でえ絵になると真九郎は思う。こういうカッコイイ大人に憧れる。

その感想は弁慶も思ったほどだ。流石は自分で美人だとか美少女とかいう紅香。

 

「川神に来ただけでいろいろと事件に巻き込まれたようだな」

「巻き込まれたと言うか関わったというべきか」

「それでも解決したんだろ?」

「はい」

 

川神に訪れてからいろいろとあった。

工場地帯での喧嘩。河原での決闘。クローン誘拐事件。剣聖の娘誘拐事件。覇王の覚醒。政治家による魔の手。

せっかく交換留学で川神に訪れたというのに事件に巻き込まれてばかりだ。そう思い返すと何だかへこむ。真九郎の周りには平和はないのだろうか。

 

「ははは、やっぱお前はお前だよ」

「どういう意味ですか」

 

真九郎は事件に巻き込まれる体質だということだろうか。そんな不幸体質は嫌なものだ。

 

「じゃあ強制じゃないが、その体質を理由に私の仕事を手伝ってみるか?」

「仕事ですか?」

「ああ。お前もちょくちょく聞くんじゃないか川神裏オークションのこと」

 

川神裏オークション。

この単語こそがのちに真九郎たちや大和たちを巻き込み、関わり、裏世界の闇を脳髄に叩き込んだ事件になる。




読んでくれてありがとうございました。
感想などあれば気軽にくださいね。

さて、次回にて最終章です。ところどころで出ていた『川神裏オークション』という話になりますね。オリジナルになりますが各ルートの設定を混ぜ込みながらの話になります。

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