紅 -kurenai- 武神の住む地   作:ヨツバ

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ついに今回から登場する新キャラ。
タイトルから新キャラが分かりますね。


最上旭

222

 

 

最近川神で『ファントム・サン』なんて怪人が出没している。なんでもその怪人は川神にいる実力者と挑戦しては勝利しているらしい。

ファントム・サンは黒いパーカーを着ている女性らしい。更に実力はとんでもなく強い。まるで幽霊のように現れては相手を倒して消えていく。

今、川神学園ではファントム・サンの噂で持ち切りだ。そしてもう2つ噂がある。その2つの噂は良い噂ではない。

1つは売春組織であり川神で裏商売をしている。残り1つは麻薬取引である。麻薬と言っても合法ドラッグだ。

だけど、この2つの悪い噂をいずれ九鬼がなんとかしてくれると川神の人たちはそう思っているので危機感は特に無かった。

 

「ファントム・サンかあ。正体は誰だろうね」

「その正体は燕だったりして」

「そんなことないよーモモちゃん」

 

燕はいろいろと何かをしているが残念ながら今回のファントム・サンとは無関係である。

もし燕が怪人として噂されるならもう少し情報を規制させるように動くだろう。彼女の性格上、あまり情報は流すことは無い。

 

「うーん。私のところに現れないかなー。挑戦はいくらでも受けるのに」

「最近のモモちゃんはまた戦いたい症候群が出てきたね。なんかいつものような気もするけど」

「まあな。最近は修業に明け暮れて身体が疼いてるんだ」

 

百代は最近修業に明け暮れている。おかけで勉学が少しおろそかになっているが昔と違って真面目に修業中だ。

今まで無かったが鉄心に修業内容を確認してもらったりとか、本当にたまにだが組手もしてもらっている。戦闘狂の性質は治らないだろうが精神面も昔と違って安定はしている。

それでも真面目に修業しているのだから鉄心は良いと思っている。だけど学園長としては勉学も励んでもらいたい。

 

「って、お。大和撫子コンビ!!」

 

百代がロックオンしたのは夕乃と清楚であった。そのままダッシュで飛び込んだが2人に避けられた。

 

「いきなりですよ百代さん」

「不敬だぞ百代」

「うむむ、夕乃ちゃんは避けられるのは予想したけど…清楚ちゃんまで。いや、清楚ちゃんは項羽だったか」

「不敬な気を感じたから俺様が急遽、表に出たんだよ」

「えー、不敬な気って酷い」

「なら私たちに抱き付いたら何してました?」

「その豊満な身体をまさぐる!!」

「不敬ではないか」

 

真面目に修業をしていても一部の性格は治せていないようだ。こればかりは彼女であるからこその一部だろう。

すぐに立ち上がって百代は一緒に昼飯に誘う。もともと燕とは一緒に食堂に向かっているところだったのだ。

この誘いに夕乃も項羽も特に断る理由はない。二つ返事で了承。

 

「何を食べようかなー」

「納豆?」

「それはもう食い飽きた」

「ショック!?」

 

流石に毎回納豆を提供されて食っていれば飽きるだろう。

 

「燕よ。今度オレの皿に納豆入れたら彼方に吹き飛ばすからな」

「うぐ!?」

 

チャカチャカとかき混ぜていた箸を止める。そして視線を夕乃に移す。

 

「そんなワザとらしい涙目で見ないでください。私は白米でいただきます」

「わーい夕乃ちゃん!!」

 

かき混ぜた納豆が無駄にならなくて済みそうだ。毎日食べていれば飽きるが納豆はやっぱり美味しいし栄養がある。

松永納豆は美味しいので実家の方でも買って送ってもらおうかと考える。

川神学園3年生の綺麗所が4人も集まり、学食を歩いていく。その姿を男女問わずの視線を集めてしまうのは彼女たちが美少女だからだろう。

そんな4人組にある人物が声をかける。

 

「ちょっと良いかしら?」

「ん、お前は」

「こんにちは。最上旭です」

「旭ちゃん!!」

 

最上旭。川神学園評議会議長だ。

彼女は黒髪美人で文武両道で3年生の中でいつも学園1位な人。そんな人物だが学園ではあまり表沙汰になる噂はかからない。周りに問題児及び優秀な人が多い川神学園だが彼女ほどの人物が目立たないのは意外なのだ。

川神学園での~なんて考えた時、そういえば旭もって頭に浮かぶくらいの認知度だ。よくよく考えれば疑問だがそれが川神学園での評価になっている。

 

「アキちゃんを見る度に黒髪美人だなーって思う!!」

「ありがとう百代さん」

 

今まで全くと言っていいほど接点の無い人物。いきなり話しかけてくるとはよく分からない。

 

「何かしたのモモちゃん?」

「うえ、何もしてないぞ。…いや、アレか。でもそういうのはジジィから直接言われるしな」

「うふふ、違うわ。それに用があるのは崩月さんの方よ」

「私ですか?」

「ええ、崩月さんは紅くんの先輩だよね」

 

ここで夕乃はピキーンと何かを感じる。何故か真九郎が余計なことに巻き込まれる気がすると。

真九郎の名前が女性の口から出て来たらほとんどの確立で厄介事だ。もう夕乃も学習している。だからこそ夕乃は警戒する。

 

「はい。うちの真九郎さんに何か用ですか?」

「実は彼に興味があるの」

 

ニコリと笑顔な旭。彼女の言葉にピキリとするが笑顔の夕乃。さらに項羽までピキリ。

 

「オレの真九郎に何か用か?」

「いつ真九郎さんが貴女のになったんですか項羽さん」

「模擬戦を優勝してから」

 

真九郎も聞けば初耳だ。

 

「紅くんがどこにいるか知ってるかな。ちょっと彼のお話がしてみたいの」

 

最上旭。彼女は何故か紅真九郎を探す。

 

 

223

 

 

モグリと卵焼きを口に放り込む真九郎。今はランチタイムだ。そして目の前には源氏トリオの義経に弁慶、与一だ。

昼食を食べようとしたら義経たちに弁当を食べようと誘ってくれたのだ。誘ってくれるのは嬉しいのだが最近なんだか九鬼家の関係者と関わるのが多き気がする。

だが学園生活には気にしない方向にする。今は学園生活の青春だ。だけど会話内容は最近の噂でもちきりだ。

 

「真九郎くんは最近ファントム・サンっていう怪人を知ってる?」

「むぐむぐ…噂だけなら知ってる。何でも夕方時に現れるらしいね」

「お、やっぱ知ってたか真九郎は。けっこうそのファントム・サンって奴に手練れの武術家がやられているらしいんだよね」

 

武術家ばかり狙うファントム・サン。もしかしたらそいつも武術家かもしれない。

川神で決闘するなら9割が武術家である。腕の立つの武術家を倒しているならばファントム・サンの正体ももしかしたら有名人かもしれない。

 

「ファントム・サン。太陽の影…いや、太陽の幽霊か?」

 

与一が名前の意味を直訳している。もしかしたら正体もファントム・サンという偽名から少し分かるかもしれない。

完全に偽名なら分からないが、偽名を面白がる人はたまに自分の本名にヒントとなる名前をつけたりするものだ。

 

「情報が少なすぎるな。名の通り幽霊のような奴だ」

 

ニヒルに笑う与一を無視しながらファントム・サンの話は尽きない。腕の立つ奴ばかり挑んでくるなら今話題の義経たちにも挑んでくるかもしれない。

これは夕方の帰り道には気をつけねばならないだろう。いつ挑まれるか分からないのだから。

 

「気を付けてね」

「他人事だなー」

「俺は武術家じゃないからね。挑まれることはないと思う」

「むー。じゃあ真九郎が護衛してよ」

「護衛?」

「そ、護衛。不死川のところで護衛やってたんでしょ。なら私たちの専属護衛になってよ」

「真九郎くんが護衛…けっこういいかも」

 

弁慶と義経は心から真九郎の護衛について聞いていたのだ。そして最初に思ったことは『羨ましい』だ。

だが彼女たちが羨ましく思っても真九郎は護衛をしない。残念ながら仕事でやっているのだから。ただでは出来ない。

ただの簡単な頼み事なら良いが、護衛という揉め事処理屋としての仕事となると訳が違う。

女性からお願いと女性からの仕事は訳が違うのだから。流石の真九郎もそこはカッチリしている。

 

「じゃあ報酬はこの川神水で」

「いりません」

「…のみかけだよ?」

「…どうしろと?」

 

一部の男性なら弁慶ののみかけ川神水は価値があるかもしれない。業は深いが。

 

「じゃあ主の御触り券だ。真九郎なら許せる!!」

「べべべべ弁慶!?」

「遠慮します」

「何でだ!?」

「いや、何でと言われても」

(あれ、なんかちょっとショックだよ真九郎くん…)

「じゃあ私と主なら?」

「いや、返事は変わりませんが」

「そこに与一を加えると?」

「変わりませんから」

「何で俺を加えんだよ姉御」

 

残念ながら護衛は無い。だがもしも義経たちに危険が迫ったら真九郎は必ず力を貸すであろう。

 

「あ、真九郎その卵焼き頂戴」

「どうぞ」

「おーい紅くん」

「あれ、大和じゃないか」

 

急な来訪者である大和。そこまで急では無いがついそう思っただけである。真九郎が呼ばれたのだからどうやら自分に用があるようだ。

何かと思って食事を止めて大和の方に顔を向ける。

 

「あ、食事は続けてて良いよ」

「そう?」

 

ならば弁当箱をまた開ける。

 

「どうしたの直江くん?」

「ちょっとアドバイスを貰おうかなーって」

「アドバイス? 勉強とかなら俺より直江くんの方が頭良いからアドバイスなんて…」

「そうじゃなくて」

 

勉学の話ではない。どっちかと言うと揉め事に近い話だから真九郎にアドバイスを聞きに来たのだ。

その揉め事とは売春組織だ。

 

「売春組織?」

「ああ。前に壊滅させたって話をしたよね」

「したね」

「前の生き残りなのか、それとも別の奴か分からないけどまた立ち上げたんだ。んで、また俺らでとっちめてるんだ」

 

また危ないことをと思うがこれが川神の人間なのだろう。それに風間ファミリーは実力のあるからこそ売春組織を潰すことができる。

普通の学園生ならできないことやってのけるのが川神学園生なのである。

 

「大和や武神の川神先輩なら簡単じゃないの?」

 

真九郎がアドバイスしなくても風間ファミリーなら大丈夫だと疑問に思う弁慶だが今回は違うと大和は首を振る。

前回の売春組織はアジトを突きとめて潰して終わりだった。しかし今回は違う。前回と違って今回の売春組織はちゃんとしていたのだ。

組織として一枚岩ではなく、何重にも硬い組織だ。情報漏えいを許さなく、幅広く行動うするため複数のグループで川神に潜んでいる。

既に大和たちは2つほど売春グループを潰したがそれでも大元になる奴らを捕縛していないのだ。宇佐美巨人も情報を調べているがなかなか尻尾を出さないのだ。

 

「今回はけっこう手間取ってるんだ」

「なるほどね」

「うーん…囮作戦をやってアジトに乗り込むのは良いと思うけどな」

「その作戦だけど相手ももう警戒してると思う」

 

既に2回も囮作戦で相手を潰しているのだ。ならば相手は警戒するのは当たり前。

 

「紅くんならどうするかなって。一応俺もいくつか他に考えたけどプロにも聞いてみようかなって」

「…俺も大元を潰すためにアジトを探すけど、方法は囮作戦が駄目なら今度は逆に真正面から責めるのも良いかもね」

「真正面…客としてってことか」

「そう。他だと…その売春組織のよく利用している客に聞いてみるとかね。お得意様とか居れば案外知っている場合もある。一番は情報屋…そういうのに情報通な人に聞くのかな」

「なるほど。いろいろ参考になったよ」

「あともう1つ。危険だと思ったらすぐに逃げることだ」

「それは分かってる。俺も仲間を危険に晒すような作戦は考えない」

 

自分がこの年で揉め事処理屋を営んでいるのでどの立場が言うかと思われるかもしれないが危険な橋を大和たちには渡らないでほしいものだ。

やっぱり川神学園の学園生は特殊すぎる。こんな危ないことを当たり前のようにやろうとするのだから。正直いつか痛い目、もしくはどうしようもなく救いの無いことになるのではないかと不安になる。

いくらここが特別な市である川神でも、川神院があっても、九鬼財閥が重点的に警備していても最悪なことは起きるものだ。

それが目の前にいる大和たちに起きないことは願うばかりだ。

 

(…俺も早く大和田さんの依頼を達成しないと。いくつか行方不明の子が行きそうな場所に探したけどハズレだしな)

 

真九郎も依頼をこなそうと動いている。なかなか行方不明の子は見つからない。目撃情報をもとに川神市内をチェックしているのだが最後の目撃情報のところでプッツリと消えているのだ。

まさか川神市内から出ていたら探す範囲を広めなければならないだろう。できれば考えたくないが事件には巻き込まれていないでほしいものだ。

そろそろ銀子にも情報を聞くのも良いかもしれない。もしかしたら情報を掴んでいるかもしれない。

 

「ああ、こんな所にいたのね」

「え?」

 

真九郎たちの目の前に新たに現れたのは最上旭。

 

(彼が紅真九郎…そしてまさか義経までいるなんてね)

「えっとどなたですか?」

「私は最上旭。川神学園の評議会議長をやっているわ」

 

川神学園には評議会なんてものがあるのかと思う。どんなことをやっているのだろうか。生徒会とは違うのだろうか。

 

「紅くん。あなたに興味があるわ」

「…え?」

 

 

224

 

 

川神学園評議会議長の最上旭。彼女との接点なんて1つも無い真九郎。何故か興味があると言われてお茶会に誘われた。お茶会と言っても真九郎と旭の2人きり。場所は評議会室。

これはなんというか面接に近い。

 

「紅くんは緑茶と紅茶はどっちがいい?」

「じゃあ緑茶でお願いします」

「分かったわ。じゃあお茶菓子はカステラにしましょう」

 

旭は優雅にお茶会の準備をしていく。その動きに無駄は無く、見ているだけでも暇にならない。魅せる人間はこういうのを言うのかもしれない。

 

「さあどうぞ紅くん」

「いただきます」

 

お茶を口に含んでカステラをいただく。

さて、真九郎は何故、旭に誘われたのかを考える。話がしてみたい、興味があると言われても彼女との接点は皆無だ。可能性としては河原での決闘や模擬戦で活躍したから目にしたというものがある。

表的に活躍したのはこの2つだ。残りは裏的なものが多い。

 

「紅くん。私は君のことが知りたいわ」

「俺のことですか…」

 

正直自分のことを知りたいと言われても何処から話せば良いか分からない。案外自分のことを語るのは難しいものだ。

 

「うふふ、紅くんったらそんなに難しく考えなくてもいいのよ」

「いや、案外難しいです」

「簡単なことでいいのよ。好きな物とか嫌いな物とか」

 

そんなのは自己紹介だが自分を語るのはまんま自己紹介だろう。だからそのつもりで真九郎は口を開く。

自分のことを簡単に話すしかなかった。

 

「へえ紅くんは向こうじゃ1人暮らしなんだ」

「はい。でも住居人が飯をよくたかりにくるんで1人暮らしという感覚は薄いですね」

「自炊もするんだね。君の料理を食べてみたいわね」

「機会があれば料理しますよ」

 

旭との他愛のない会話。最初は緊張したものだが今では普通に話している。

 

「揉め事処理屋ってどんな仕事してるの?」

「いろいろですよ。犬の世話やストーカーの捕縛に護衛なんかもやります」

「護衛…例えばどんな人?」

「それは流石に言えないですね」

「そっか…九鳳院紫の護衛はどんな感じだった?」

「っ!?」

 

何故、旭が護衛で紫を守っていたことを知っているのだろうか。

 

「何で知ってるのって顔だね。ただの予想だよ。前に九鳳院の令嬢が学園に来たよね。そして紅くんは九鳳院の令嬢と仲が良い」

 

九鳳院の令嬢が揉め事処理屋と凄く仲が良いなんて普通では有りえない。そもそも接点なんてあるはずがない。

接点があると言えば予想で護衛くらいだと考えたのだ。

 

「ああ、なるほど」

 

一瞬だけ警戒したがすぐに警戒を解く。そういえば紫が堂々と川神学園に訪れたのを覚えている。

 

「あと紋白ちゃんもそうだね。チラっと彼女が呟いたのを聞いたわ」

 

それも食堂で話していたのを覚えている。なるほどと頷く。

 

「最上先輩は推理力があるんですね」

「こんなこと誰でも推理できるわ」

 

最初は驚いたがやはり頭脳明晰なのだろう。

 

「九鳳院の令嬢の護衛時はどんなことをしてたの?」

「いや、だから詳しくは…」

「紅くんは九鳳院紫とどんな話をしたの? 揉め事の事件で九鳳院紫を拳銃から守ったんでしょ? 九鳳院の次男に攫われた九鳳院紫をどうやって救ったの? どうやって悪宇商会の戦闘屋を倒したの? やっぱその腕に移植した崩月の角の力? どうやって九鳳院当主と話をつけたの?」

「…え?」

 

何故、旭が紫を守った時に拳銃に撃たれたことを知っている。何で九鳳院家の次男に紫が攫われたのを知っている。何でその時に悪宇商会の戦闘屋と戦ったことを知っている。何で九鳳院当主と話を着けたことを知っている。

 

「どうしたの?」

「…それは推理では分からないことですよね」

 

蠱惑的な笑みを浮かべる旭。

 

「…ちょっとだけ嘘を言ってしまったわね。実は私、だいたいの紅くんのことをお父さんから聞いているのよ」

 

旭の父親から。彼女の苗字は最上。そういえば最近、最上という名前を聞いたことがある。

それは九鬼極東本部で出会った男。今まで会ったことの無い人物だったから印象に残っている。

 

「最上幽斎さん…」

「あ、お父さんとはもう会っていたのね」

 

正解であったようだ。最上幽斎に最上旭はまさか親子の関係。こんな巡り合わせもあるものかと不思議に思う。

だけどその前に何で紫との一連のことを知っているのだろうか。

 

「お父さんも私と同じように紅くんに興味があるのよ」

「そうなんですか?」

「ええ。それに紅くんは裏十三家の斬島切彦と戦ったんでしょう? 西四門家の朱雀神に訪れたらしいけどどうだった? キリングフロアで裏十三家の星噛であり悪宇商会最高顧問とどんな戦いをした? 歪空の令嬢とはどうだった?」

「…何で知っているんですか」

 

警戒レベルをより上げる。何でそんなに事細かに知っているのだ。普通では有りえない。

特に歪空との戦いはそう簡単に知ることはできないはずだ。あれは悪宇商会も関わっていて、情報も規制されている。九鬼財閥に所属している幽斎が調べたのだろうか。それでも九鬼財閥が本気を出さないと分からないはずだ。 

 

「言ったでしょう。君に興味があるって…だから調べてみたのよ。最も全部お父さんから聞いたんだけどね」

「何でそこまで…」

「お父さん曰く紅くんは多くの試練を突破した人間。君ほど世界から与えられた試練を突破した人間はいないらしいよ」

 

試練。まさか今まで真九郎が遭遇した事件は全て試練だと言っているのだろうか。

あんなものは試練なんかではない。試練という言葉で片づけてよいものではない。人が死ぬ試練なんて嫌だ。そんなのはもう試練ではなくただの事件なのだから。

 

「紅くんはどんな人間なの?」

「……」

「君の始まりは国際空港爆破テロ」

「っ、何で知っているんだ!?」

「それもお父さんから聞いた。それが聞かれたくない事だってことは分かる。でも私は本当に君に興味があるから知りたいの」

 

聞かれたくないことだと分かっているなら聞かないでほしい。

 

「私は紅くんのことが知りたい。全て知りたい。どうしてお父さんがあんなに君に興味を持っている理由を私は直で、この目で知りたい」

「……教えることはありませんよ。人は他人に教えられないことがいくつだってあります」

「…そうなのね。じゃあ私のことを全て教えたら教えてくれる?」

「え?」

 

旭は何を言いだすのだろうか。

他人のことを知りたいならまずは自分のことを話すということか。それでも真九郎の人生は普通と違うのだ。

始まりは本当に最悪だ。家族を失ったのだから。あの時のことは今でも夢で見る。忘れたいが忘れるわけにはいかない。必ず犯人を見つけ出すのだから。

 

「紅くんは普通の人と違う。私もそうよ」

「最上さんも?」

「ええ」

 

緑茶を飲んで彼女は一息つく。その動作もどこか蠱惑的だ。

 

「私のことは明日に分かるわ。朝テレビをつけててね」

「それはどういうーー」

「そのままの意味よ。お互いに自分のことを曝け出していきましょう」

 

そう言うと旭。まだよく分からないが真九郎は明日の朝テレビをつけること忘れないようにした。




読んでくれてありがとうございました。
次回もゆっくりとお待ちください。

今回登場した最上旭。幽斎が登場したのだから彼女も勿論登場します。
ということは義経ルートの設定も最終章に組み込まれていきます。

真九郎がいるせいで最上親子はガンガン攻めていきます。いろんな意味で真九郎が大変です。

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