紅 -kurenai- 武神の住む地   作:ヨツバ

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腕相撲

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ある月曜日の放課後の空き室にて旭と義経が対面していた。今日も早速、源氏勝負の開始なのだ。

付添人は弁慶である。そしてもう1人がまたまた真九郎。源氏とは関係ない真九郎がここにいることが珍しいものだ。

彼としては揉め事処理屋の仕事を進めたいのだが3人に見つかって連れてこられたのだ。

 

「では、今日も正々堂々と競い合いましょう」

「よろしくお願いします!!」

 

2人が握手をする。

 

「今日も義経の手は温かいのね。眠いの?」

「義仲さんの手が冷たいような気がしますが」

「そうかしら? どう真九郎くん」

 

何故か優しく頬を撫でられた。自分で確認されても困るが触られてら冷たいかどうか答えるしかない。

 

「まあ、冷たいですかね」

「温めてほしいな」

「手袋でも買ってきましょうか?」

「そこは手を取って温めてくれるところでしょ?」

 

そう言われても。

 

「それで義経、何で競おうかしら」

 

義経は色々と考えた結果、腕相撲勝負を持ち掛けた。

その腕相撲勝負に旭は乗る。何でも腕力の把握もできるからちょうど良いとのことだ。

では早速2人は机に肘をおいて、がっつりと手を組む。そして弁慶の掛け声とともに力む。

 

「は~い、はっけよいぃへっけよいぃ~」

 

なんとも力が抜けるような声を出す弁慶。でも2人は真剣そのもの。

2人の力を拮抗していた。どうやら腕力はお互い同じくらいかもしれない。しばらくすると明暗が分かれてくる。

義経がどんどん押され始めたのだ。腕力は同じくらいかもしれないが筋力の持続性が切れるのが早いのは義経かもしれない。

弁慶はひらひらと手を振って声を出さないように応援している。

 

「何してるの弁慶さん」

「これは主にしか伝わらない頑張れ光線だ。この光線を浴びることで主の力が倍加して…」

 

何かよくわからない説明をしているが、その隙に義経は旭に負けた。

 

「負けてますよ」

「あとでリアル勧進帳ごっこだ」

「それは理不尽だと思いますよ」

「愛ゆえに!!」

 

過激な愛があるものだ。

 

ちなみについでで弁慶とも腕相撲をした旭だが瞬殺されていた。

パワー系で負けていたら弁慶の立つ瀬が無くなるらしい。それと主の敵討ちもしたかったのだろう。

 

「真九郎くんはやる?」

「遠慮しときますよ」

 

腕相撲をする意味は無い。それに終わったならば揉め事処理屋の仕事に行きたいのだ。付き合いが悪いと思われるかもしれないが仕事は大事である。

それにしても、もし真九郎が勝負したらこの中で一番強いかもしれない。角の開放無しでだ。角の開放したらおそらく川神学園でもトップだろう。

角の開放無しでも強いと思われる。なんせ腕もとい身体は一種の肉体改造を施されているからだ。筋力は岳人にも負けないくらいで前に子供と大人を担いで走ったこともあるほど。

 

「まあ、私も真九郎には勝てないかも」

「弁慶が勝てないなら私も勝てないわね」

「頑丈さもこの中で1番だね」

 

弁慶はクローン奪還事件を思い出す。正直嫌な思い出だが真九郎は悪宇商会の戦闘屋に何度も殴られても立ち上がっていた。

だからこそ真九郎の頑丈さは異常であの武神である百代の正拳突きも耐えられるんじゃないかと思っているほどだ。

実際のところ耐えられるだろう。何度も各上の相手にボロボロにされては立ち上がっている人間なのだから。

 

「今日の勝負は負けました義仲さん」

 

腕相撲勝負は旭の勝利で終わった。また源氏勝負に立ち会ったが今のところ戦いというかただの子供の競い合いみたいだ。

だがいずれ真剣勝負をするのであろう。その時はきっと九鬼財閥がいろいろと用意して然るべき場所を造るはずだ。その時は真九郎の出番はない。

最も2人の勝負を見ると思う。弁慶たちだって大和たちだってだ。

 

「それにしても昨日は濃厚な一日だったわよね真九郎くん」

「いきなり何ですか!?」

 

いきなり話題がぐるりと変化した。

 

「あわわ、やっぱり真九郎くんは義仲さんと…!?」

「昨日の始まりは官能小説から盛り上がって…そこからね」

 

何故か真九郎を潤んだ目で見てくる。そんな目で見られるとまた誤解される。

実際のところ彼女が言っていることは嘘じゃないぶん誤解が解きにくい。確かに官能小説の件から話は始まったけれども、義経が想像していることは起きていない。

ただ昔の話をしただけでやましいことは一切なにもしていない。今思うと何で官能小説なんかが話題として出たのか知らないが。

 

「お互いに性癖を曝け出しもしたわよね真九郎くん」

「いや、何を…」

「え、真九郎の性癖ってなになに知りたいかも」

 

ここで弁慶がニヤニヤしながら話にのっかてきた。これはどう見ても悪乗りしているに違いない。

こういう時だけ弁慶は悪乗りして真九郎を困らす側になるのだからやめてほしい。

 

「で、真九郎の性癖って?」

「無いですよそんなもん!!」

「え、ロリコンじゃないの?」

「なんで弁慶さんもそれで意外そうな顔をするんですか!!」

 

旭と同じ反応をするとは思わなかった。

 

「私でも流石に子供に戻るのはできない…」

「いや、何を言い出すんですか弁慶さん…」

「そっか。真九郎くんは小さい子の方が…」

「義経さんも何を言ってるんですか」

 

いけない。どんどんと弁慶が悪乗りしているし、義経に関しては本当に信じているかもしれないから質が悪い。

旭も凄いニヤニヤしているのを見て、これはまさしく真九郎の困っている姿を見て楽しんでいるようだ。男子学園生をイジメて楽しいか。

 

「で、でも真九郎くんと義仲さんは前2人でどんなことを…」

「それは内緒よ」

「ううう…」

「何もしてないんですけど」

「あら真九郎くん。無かったことにはできないわよ」

「だからその何かあった風な言い方やめてください」

 

このままでは義経の中で本当に何か不祥事でも起こったかと思われてしまう。

 

「うう、一体何を」

 

顔を真っ赤にしがらモジモジしているのが可愛いのか弁慶がニヤニヤしだした。

 

「じゃあ義経の性癖を教えてくれたら昨日何があったか教えてもいいわよ」

「ええ!?」

「あ、それ良いね。主言ってあげなよ~」

「うええ!?」

 

弁慶が更に悪乗りしていく。これは義経の困っている姿を楽しんで川神水の肴にする気だろう。

 

「言いなよ主~」

「え、その、うええ、ああ、うえ、あ、ええ!?」

 

どうやら義経のキャパがオーバーしたようだ。顔が完熟トマトのようになってる。

そりゃ自分の性癖を言うことになったら完熟トマトみたいに真っ赤になるだろう。女子同士だけや男子同士だけの下ネタトークをしているわけではないのだから。

同じ性別同士でも下ネタを言うのが苦手な人だっている。それなのに異性がいる中で自分の性癖を言うのは恥ずかしい以外ないだろう。

 

(…ん? だとすると義経さんって何か性癖でもあるのか?)

 

ここまで恥ずかしがるとは何か性癖があるということ。意外なことに気付いたが黙っておいた。

 

「……ええと」

「いや、じゃべらなくてもいいですからね義経さん。昨日は本当に何も起きていないんですから」

「そ、そうなの真九郎くん?」

「何も起きてません」

 

とりあえず義経を止めないといけないだろう。彼女の羞恥に染まる顔は見たくない。弁慶と旭は見たがっているようだが、それに関しては防いでみせる。

残念だが2人の思い通りにさせるつもりはない。そしてここでこの話を潰してみせる。

 

「弁慶さん、アキさん。そろそろこの話を辞めましょ…」

「えっと主の性癖は…ごにょごにょ」

「ほうほう、そんな性癖が、なるほどなるほど」

 

弁慶が旭に耳打ちしていた。

 

「べべべべ、弁慶えええええええ!?」

 

義経の絶叫とともに顔が完熟トマトを通り越して発光しそうなくらいで真っ赤になっていた。それはもう太陽のような顔だ。良い意味じゃなくて。

 

「ああああああ、弁慶ええええ!?」

 

義経が弁慶につっかみかかる。流石に大事な主従関係である弁慶にもやっていいことと悪いことはある。

今の弁慶は流石に悪乗り過ぎているので義経に怒られるのは当然だろう。これは真九郎も止めはしない。

 

「ねえねえ真九郎くん」

「何ですかアキさん?」

「義経の性癖はね」

「よよよよ、義仲さああああん!?」

 

今度は旭に突っかかる義経。

 

「真九郎。主はね」

「弁慶!?」

「義経は」

「義仲さん!?」

 

義経は弁慶と旭のところを行ったり来たり。これはもう完全に2人から遊ばれていることが確定した。

実際のところ弁慶が本当に旭に義経の性癖を言ったかどうかは分からない。もしかしたら今の状況を楽しむために2人して手を組んでいるのかもしれない。

何故なら弁慶は可愛い主である義経が好きだから。そのため、たまには困らせている姿も見たいなんてこともあるらしい。なんというか従者の割には良い性格をしているものだ。

 

「義経の性癖はお兄いちゃ…」

「わあああああああああああああああああああ!?」

「おに?」

「何でもないから真九郎くん!!」

「そ、そう?」

 

閑話休題。

 

「はあはあ…もう疲れた」

 

義経が羞恥で倒れた。終わり。

 

「それにしても義仲さんは意外です。まさか官能小説を読むなんて…」

「あらそう?」

「そうですよ。そ、そのエロなんて…」

「官能小説は悪いものではないわよ。だって商品として世間に出回っているし、それに官能小説というジャンルで素晴らしいものもある」

 

濃厚で熱くドキドキさせるようなドラマを文字で書きまとめたのが官能小説だ。もちろんエロイことで読む者もいれば、作品を純粋に楽しむ者もいる。

 

「それに人類の進化はエロから成り立っていると思うわ」

「ええー」

「だってエロサイトを見たいがためにパソコンの操作を上手くなろうとする人がいるじゃない」

「…それは確かに」

「それに真面目な話、エロもとい性から人類が始まっているのよ」

 

何故か急に真面目な話になってきた気がする。彼女はエロの話ではなくて性の話として口を開いていく。

 

「生物が進化したのはもちろん科学技術などが発達したからだと思う。でも一番の始まりの進化は性行為じゃない?」

「ふえ?」

「だってメスとオスが1つとなって新たな生命が生まれる。その生まれた生命は2つの力を得た存在。これが進化と言わずなんて言うのかしら?」

 

最もなことだろう。

 

「その生命もとい2人から生まれた子は成長して親と同じように番いを見つけて子を産んでいく。それが昔から今でも続いているわ」

 

それが現代を生きている人間たちだ。

 

「進化は全て性から始まっているわ。今と違って昔に快楽目的があったか知らないけど…強い戦士は良い女を抱く。そして強い子孫を残していく」

「うーん最上先輩のことは理解できるね」

「でしょ弁慶。私たちクローンは性行為によって生まれたわけではないけど…クローン技術も性行為を科学的に進化させたことによって生まれた技術よ」

 

クローン技術も確かに性に関して関わっているだろう。それに嘘か本当か分からないが錬金術も性に深くかかわっていたなんて噂もある。

他にもまだまだ様々な分野で性は密接に関わっている。哲学的に考えれば考えるほど難しい。そもそも性に関していえばまだ分からないところもあるのだ。

 

「セックスは性行為なんて言えば簡単に収まるけど…哲学的に科学的に考えれば謎が多いわ」

「せ、せせ、せえ…くすって」

「義経ったら何を恥ずかしがっているのかしら。保健体育で習ったでしょうに…それにいずれ私たちも体験するのよ」

「ええ!?」

「驚きすぎよ。私たちはこれから成長して大人になる。そして運命の人を見つけて結婚する。そうなれば子を産むのよ」

 

人として結婚して、子を産む。それは人生の1つだ。

世界中で男女が行っているものである。この川神にも結婚して子を産んだ家族は当たり前のように生きている。

 

「私たちは特別よ。おそらく九鬼からは結婚するまでのデキレースができてるんじゃないかしら?」

「え、そうなんですか!?」

「ただの予想よ。九鬼が私たちを放っておくと思うかしら」

「そ、それは無いと思う」

「でしょ。もちろん無理やり結婚なんてさせる気はないけど…何人か良い男を見繕ってくれるんじゃないかしら」

 

九鬼財閥がクローンである義経たちを放っておくわけがない。武士道プランは川神学園にいるときだけのプロジェクトではないのだ。

武士道プランには更にその先もあるかもしれない。それは義経たちが成長して大人になり、結婚して子を産み、人生を全うしていくこともふくまれるなんてことかもしれない。なんせ世界で初のクローンたちなのだから。

 

「誰と結婚して子を産むかは流石に今は決められないけどね」

「結婚…」

「それとも義経と弁慶はもしかして結婚相手の候補をもう見つけていたりするのかしらね?」

「ふええ!?」

「ええっとお…」

「義仲さん。まずは結婚相手じゃなくて恋人が先だと思います!!」

「あらそうね。じゃあ義経と弁慶は恋人候補がもういるの?」

「いや、それは!?」

「んうー」

 

珍しく弁慶もちょっと押されてるというかからかわれてる。

 

「真九郎くんはどう?」

 

今度のターゲットは真九郎になった。いきなりターゲットにしないでもらいたい。

何故か急に義経と弁慶の視線が真九郎に集中しはじめた。さっきまでオロオロしていたくせに凄い興味そうな目で見てくる。

 

「いないですよ」

「そうなの?」

「いませんね」

 

前にも誰かに言ったか、考えたか思い出せないが真九郎は恋人なんてことは考えたことは無かった。

何故なら揉め事処理屋の仕事で生きていくことしか考えていないからだ。正確にはそれしか考えていなかった。仕事仕事で恋愛なんて言葉は出てこないものだ。

いずれは自分も誰かと結婚して家族と一緒に過ごすのかもしれない。家族は真九郎が求めていたもので幼少の時に無くしてしまったもの。崩月家で家族愛を感じたけど自分の家族となるとまた違うだろう。

 

「ふうん。じゃあ真九郎くんはフリーなのね」

「まあ、そうなりますけど」

「…んー」

 

旭が急に何かを考えるそぶりをする。真九郎と義経を交互に見ながら何かを考える。その顔は何か面白そうなというか、策略を考えているというか、突拍子無いことでも考えている感じである。

 

「そうね…」

「どうしましたアキさん?」

「ねえ真九郎くん。私と勝負してみない?」

「え?」

 

何を思っているのか分からないが旭が真九郎に勝負を仕掛けてきた。

 

 

235

 

 

ここ最近だが売春組織と麻薬取引グループをを嗅ぎまわる奴らが出てきた。どこの奴らかと思えばまさか学園生たちとは思わなかった。

てっきり九鬼財閥従者部隊の犬たちが動き出したかと思ったが、まさか学生どもとはな。しかも川神学園の学生という情報。

 

そういえば情報では川神学園で学生たちが様々な依頼をこなす運動している。まさか売春組織と麻薬取引グループを追う依頼までするとは川神学園は命知らずの馬鹿しかいないのだろうか。

 

武術が盛んで実力がある若者がいるとはいえ請け負って良い依頼とダメな依頼があるだろう。そこらへんの区別もつかないのか川神学園は。

 

だけど侮っていはいけない。川神学園は九鬼財閥と繋がっているから無視してはいけないだろう。

そろそろ売春組織と麻薬取引グループとも縁を切るか。でもその前に嗅ぎまわってる学生どもから活きの良い臓器を奪うのも良いかもしれない。

おそらくだが川神裏闘技場の情報も手に入れてるだろう。ならそこでその学生どもを捕獲して臓器を奪えば良い。

 

川神裏闘技場には腕の立つ強者が多くいる。オーナーを任せている彼もそうだが最近入ってきた彼女たちも目を見張るものがある。だが赤髪の女は要注意だ。

最悪なことにまさか星噛家が出張っているとは思わなかったものだ。絶対に私のことを知られてはいけない理由がある。彼女の目的はあの臓器だ。回収される前に裏オークションに出品しないといけないのだから。

裏オークションに出品さえしてしまえばこっちのものだ。出品さえしてしまえば流石の星噛も手を出せないだろう。

 

順調に進んでいっているかと思えばまさか大きな邪魔が入りそうだ。しかしこんなことは想定内だ。私がやっていることは裏十三家の一角である星噛に喧嘩を売っているようなもの。

だからこそ気をつけねばならない。慎重に動かなければならない。

 

 




読んでくれてありがとうございました。
次回もゆっくりとお待ちください。

さてさて、タイトルの割には腕相撲勝負はすぐに終わりました。
そして何故か性の話なってしまった…

もともとは原作で最上旭が官能小説を読むと言う設定があったので、それを元に執筆していたら腕相撲より書いていました。
ちょっとキャラ崩壊していたらすいません。

そろそろ物語も後半に入るかもです。
裏闘技場にてより闇を知っていく…

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