紅 -kurenai- 武神の住む地   作:ヨツバ

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遅くなりました!!
ですが投稿はしていきます。今回は旭VS真九郎の追いかけっこ対決です!!


追いかけっこ

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真九郎は旭に勝負仕掛けられた。何故か分からないがいきなりだ。何の考えを持って彼女は勝負を仕掛けてきたのだろうか。

でも真九郎は旭と勝負をする気がない。というか勝負する理由が無い。残念だが真九郎は川神学園生のように血気盛んな武術家ではないのだ。

川神のノリには乗らないので勝負はしないかと思われたかが、ここで旭が真九郎に小さく何かを呟いた。すると真九郎の顔つきが変わった。

 

「どうかしら。勝負してくれる?」

「何でそれを知っているんだ」

「ふふ、何ででしょうね」

「…九鬼財閥か。それとも最上幽斎さんが独自で調べたのか?」

「どっちもかもよ?」

 

2人だけの会話になっており、義経と弁慶は蚊帳の外だ。

 

「何の話をしてるのかな弁慶?」

「むー、聞こえなかった」

 

2人だけの話がちょっと気になる義経たちであった。

 

「…分かった勝負を受けるよ。俺が勝ったら知ってることは教えてもらう」

「ええ。その代わり私が勝ったら…うーん、どうしようかしら」

 

旭はワザと悩む素振りをしながら義経と真九郎を交互に見る。そしてもう最初から決めていたくせに勿体ぶって言葉を発した。

 

「私が勝ったら真九郎くんには何でも言うことを聞いてもらうわ」

「何でもですか」

「私が負けたら与えるモノはそれほどのものだと思うけど?」

「……まあ、そうですね」

 

彼女の言葉に納得する。確かに彼女が与えるモノは人によっては、真九郎にとっては重要な情報だ。そして普通の人にとってはまず聞けない情報。

ならば負けたら何でも言うことを聞くのは当然の対価かもしれない。

 

「分かりました。負けたら何でも言うことを聞きます…限度は有りますよね」

「勿論よ。まさか死ねなんて言わないわ。もし言うとしたら…恋人になってもらおうかしら」

「ええ!?」

 

ここで義経が凄く反応した。

 

「他には真九郎の特殊な性癖を言ってほしいとか」

 

「あ、それ私も聞きたい」

 

今度は弁慶が反応した。

 

「…2つ目は嫌なんですが」

「あら、なら私と恋人になってくれるのは嫌じゃないのね」

 

さっきからペースを持ってかれているがしょうがないし気にしない。

勝負方法が『追いかけっこ』。そのまんま追いかけっこだ。

追いかける役と逃げる役と分かれる。追いかける方が逃げる人の身体を触って「捕まえた」と言えば勝ち。逆に逃げる人が制限時間に逃げれば勝ち。

ルールはとってもシンプルである。こんなのは小さな子供でも分かる内容だ。

 

「分かりました。ちょっと聞きたいのがあるんですが捕まえる役が触ったという判定はどれくらいですか?」

 

まさかちょっとでも触れたらという判定だったら逃げる側は不利になる。

 

「触るという判定はちゃんと手で掴むといった感じよ。誰もが見ても捕まえたって分かるようにね」

「なるほど。なら捕まっても捕まえた宣言を言う前に逃げたらセーフですか?」

「もちろん。一瞬だけ掴んでも逃げられたら捕まえたことにならないしね」

「ルールが分かりました。ありがとうございます」

 

どっちが逃げる役か追いかける役かを決めるのはジャンケン。その結果、真九郎が逃げる役で旭が追いかける役となる。

制限時間は5分。動ける範囲は川神学園内。誰かの力を借りてはいけない。

 

「じゃあ始めましょうか」

 

と、言いつつ旭は部屋の出入り口の付近に移動する。これはいきなり卑怯ではないだろうか。

逃げる役の真九郎としては出口を塞がれてしまったのだから。だが文句を言わないのは勝負はもう既に始まっているからだ。

どんな勝負も始まる前から準備をしている奴が有利になるのだから。

 

「じゃあスタートね」

 

タイマーをセットして勝負開始。

 

「さて真九郎くんどうするって、真九郎くん?」

 

真九郎は普通に窓から飛び降りた。

窓から飛び降りるなんて彼にとっては造作もないことだ。そもそも窓から飛び出すのは逃走の手の1つだったり、逆に空中に呼び寄せたりするのにいくらでも戦法の手として使っている。

今回はそのまま逃走の手で使った。なにせ旭に部屋の出入り口を塞がれているから逃げるのは窓からくらいしかなかった。

 

「真九郎くん!?」

「へー真九郎もやるじゃん…って真九郎ならこれくらいやるかあ」

「油断してたつもりはないけど…ちょっと想定外だったわ。なら私も考えを改めようっと」

 

旭も同じように窓から飛び出して真九郎を追いかけ始める。

2人はそのまま何の問題なく地面に着地して動き始める。2人とも本気で走る。

この追いかけっこだがルールがいたって単純なんため、どう逃げるかは人任せ。その中で追いかける人を妨害しても反則にはならない。

すぐさま体育倉庫付近に置いてあったボールを見つけては旭に投げつける。あとでちゃんと片づけますと言いながら投げる真九郎。それなら最初から投げるなと言いたいが決闘なのでみんなは文句は言わない。

川神学園は決闘中に関してはみんな寛容だ。それはそれで助かる。

 

「やっぱり妨害はしてくるわよね。それくらいは私も考えてたわ」

 

投げられてくるボールを全て躱しては真九郎に近づく。彼女にとってただ投げられてくるボールは脅威ではない。

でも構わない。ただ時間稼ぎになればいいだけなのだから。

お互いとも身軽なのでそのまま倉庫の屋根に乗って、更に校舎に飛び移りながら追いかけっこをする。さながら忍者スポーツのパルクールようである。

これは2人とも習って習得したわけでなく、鍛えていたら自然と身に付いたという。

 

「うふふ。結構やるわね」

「意外に旭さんは速い」

「アキさんでしょ?」

「…はい」

 

追いかけっこでもまさか名前の呼び方を注意されるとは思わなかった。

一応2人は気にしていないが案外目立っているので2人の追いかけっこはほとんどの学園生に見られている。しかも2人は学園で最近目立っているのだからより目を引く。

特に最上旭は今世界中で注目の的になっているからより目立つに決まっている。しかも対戦相手が真九郎。

 

「5分って結構早いわよね。そろそろ決めに行こうかしら」

 

旭は気を足に纏って勢いよく地面を蹴って瞬時に真九郎との距離を詰める。だが真九郎は身体を捻って躱す。

 

「やるじゃない。でもいつの間にか誘導されていたのは気付いていなかったみたいね」

「ここは。なるほど」

 

どうやら気が付かない程度に真九郎は行き止まりまで誘導させられていた。普通はこんなミスを真九郎は犯さないが旭はこの川神学園の空間を全て知っている。

だからどう追えば真九郎を無意識に行き止まりの場所まで誘導させることができたのだ。これに関しては真九郎はしてやられたとしか言えない。

 

(全然誘導されてるなんて気が付かなかった…)

「追いつめたわよ真九郎くん。残り約30秒ね」

 

旭はここで勝負を決めるつもりだ。真九郎は逃げたくても周りには逃げれる場所ではない。

こうなったら一か八かの勝負に出るしかないだろう。出来れば最後まで逃げたかったが、もしも追いつめられた時用の対策も考えているのだ。しかしその対策は一歩間違えればすぐに終わる。

だから旭をよく見て集中する。

 

「観念したかしら?」

 

旭は瞬時に間合いを詰めて真九郎の腕を掴む。そして勝利宣言である「捕まえた」と言おうとした時に自分の口に何かがあたった。

 

「捕ま…むぐ!?」

 

何があったかと言えば真九郎が捕まえられなかった手で旭の口を塞いだのだ。そしてそのまま押し倒す。

この勝負の追いかける役の勝ち方は相手の身体の一部を捕まえて「捕まえた」と宣言すること。だからどちらか片方を封じれば負けることはない。

だから真九郎は旭に捕まっても「捕まえた」宣言を言わせなければ負けではない。

 

「むぐぐぐー!?」

「すいません。でもこのまま時間まで塞がせてもらいます」

 

片方の手で口を塞いでもう片方の手で旭の手を塞ぐ。そして押し倒してしまえばもうこっちのもの。

旭としては早く抜け出さないとタイムアップで負けてしまう。だけど片手を塞がれて、口まで塞がれてしまうともうどうにもできない。押し倒されて片手だけでは振りすぎるのだ。

どうにか対処しようにも時間的に余裕は無い。だからこの勝負はタイムアップのアラームと共に終了した。

 

「はあ。負けてしまったわね」

 

真九郎は口を抑えていた手を放すと旭は「ふう」と息を吸う。やっぱり口を塞いだから苦しかったのかもしれない。

 

「正直勝つ自信あったんだけどなあ」

「旭さ…アキさんの誘導も気付かなかったですよ。まさか追い込まれるとは思いませんでした」

 

これは本当に本音だ。本当に行き止まりまで誘導されていたなんて思いもよらなかったのだ。やはり彼女は只者ではない。

でも勝ちは勝ちだ。旭からはある情報を言ってもらう。

 

「はあーあ。私が勝ったら恋人になってもらうか真九郎の特別な性癖を暴露してもらおうかと思ったのに…」

 

恋人云々は冗談として性癖暴露は本当に旭なら真九郎に言わせそうだ。でも真九郎に特別な性癖は無いと思う。

でもでも、真九郎本人は分かっていないが一癖も二癖もありすぎる女性との出会う。とんでもない女難がある。

もし、そういう超個性的な女性が良いというのならばある意味性癖かもしれない。

 

「さて、敗者は勝者の言うことを聞くのよね。好きにすると良いわ」

 

何故か目を潤ませて頬を赤くした。

 

「いや、そうじゃなくて…」

「し、真九郎くんが義仲さんを押し倒してる!?」

「ほお?」

 

何故か義経と弁慶に今の状況を見られた。そもそもいつの間に来ていたのか。

 

「今さっき来た」

 

どうやら今ちょうど来たようだ。状況によってはもう誤解される構図だろう。

真九郎が旭を押し倒しており、件の旭は目を潤ませて頬を赤くしているのだから。どこからどう見ても第三者からは誤解される。

これは旭も狙ってやったのだろう。おそらく義経たちがこちら来ているのに合わせてやったのだ。もしかしたら負けた腹いせかもしれない。

 

「し、ししし真九郎くん。義仲さんに何をするつもりなの?」

「ナニよ」

 

何で旭が答えるのだろう。そうなるとどんどんと誤解が解けにくくなるのに。

 

「真九郎~ついに」

「ついにって違いますから。これは誤解ですから!!」

 

すぐさま旭から離れる。そしてすぐさまこうなった経緯を説明する。

なんだか川神学園に来てからこういう誤解ばかりあるような気がしなくもない。こういう時にがぎって何故かなかなか誤解が解けない。

そして出来れば情報が伝わってほしくない人まで伝わる。夕乃とか銀子とか。

 

「し、真九郎くんって欲求不満なの?」

「義経さんは顔を赤くして何をいっているんですか」

「年上が好みなの真九郎?」

「いや、弁慶さんまで…」

 

誤解を解くまで30分は掛かった。そしてその後は夕乃と銀子の説教に会うというとんでもない日になる。

 

「ふふ、続きはまた後でね?」

「ええ!?」

「アキさん止めてください。また義経さんが誤解しますので!!」

 

旭にはさっきからペースを取られっぱなしだ。これは勝てそうにない。

 

「冗談よ。あのことはちゃんと後で言うわ」

「…はい」

 

そのまま旭は去っていった。

 

「あのことって?」

「…こっちの話です」

「まさかイヤラシイ話じゃ」

「ええ、真九郎くん!?」

「違います!!」

 

なんでこう真九郎は女性と絡むとこういう感じになるのだろうか。

 

 

237

 

 

そろそろ川神裏オークションが開催されるようだ。私の準備も順調だ。

もっとも川神裏オークションはスペアプランに過ぎない。旭が義経に負けない限りこのスペアプランは計画しないつもりだ。

 

旭にはメインプランである義経と戦ってもらわないといけないね。今は順調に競い合っており、良い感じだ。

でもいずれ旭と義経の真剣勝負の決着がつく。その時は私も良い席で観戦しよう。娘である旭が勝てば僥倖計画が始まる。いや、完成する。

そうすれば私は世界に愛を返還することができる。世界のみんなが幸せになるんだ。

この計画は誰にも邪魔はさせない。世界に愛を与えるのに邪魔なんて許せないからね。

 

相手が誰であろうとも私は負けない。九鬼財閥でも川神院でもね。

そしておそらく、メインプランでもスペアプランでも『彼』が私の前に立ちふさがってくれるだろう。

きっと『彼』なら娘のために私の前に立ちふさがってくれる。そう確信があるんだ。

その時、私自身に最大の試練が立ちふさがる。その試練を突破してこそ私はより輝ける。それは私だけでなく『彼』もだろう。

 

『彼』ほど世界からの試練を与えられて、突破した人間はいないのだからね。

私は共感覚の一種として、魂の匂いを感じる力を持っている。私が初めて『彼』に出会ったとき、『彼』からは説明できない魂の匂いを感じた。

それは良いとか悪いとかいうのでは現せない。なんというか『彼』の魂の匂いは私を奮い立たせてくれるのだ。こんな人間もいるのだと、私も世界のためにもっと頑張らないといけなくなる気持ちになる。

 

さあ、私と戦ってくれ…紅真九郎。

 

 

238

 

 

最上旭から情報とは川神裏オークションである。何で川神裏オークションのことを知っているのかと思ってみたがあの最上幽斎ならば情報を手に入れてもおかしくはないだろう。

 

しかも開催場所まで詳しく知っているとは幽斎の腕は中々だろう。銀子とも勝負できるかもしれない。

 

旭からの話によると川神裏オークションは世界的に大きなオークションになるようだ。出品されるモノは様々で普通では手に入らないモノばかり。

表世界で出回ればまずあり得ない値打ちだったり、プレミアすぎたり、手に入れれば人生が変わったりするモノばかりなのだ。

 

そして…モノは物であるが者。人も出品される。それが裏世界のオークションの可能性。

こんな時代に人を売る。そんなことができるなんてありえないが裏世界のどこかではあり得るのだ。

真九郎として良いとは思えない。人が人を売るなんて。でも昔はそれが成り立っていたのだから不思議なものだ。

 

そもそも川神裏オークションを幽斎たちが知る切っ掛けは彼自身が川神裏オークションにあるモノを出品するからだそうだ。でもそれはある状況によってらしい。そのある状況とやらまでは教えてはくれなかった。

でも真九郎はどこか何か引っかかるのだ。それは旭自身がが言っていた言葉。それは「父の出す出品に私自身は了承している」という言葉だ。

 

その言葉まるで…。

ただの憶測にすぎないがそれはあり得ない。流石に幽斎がそんなことを考えているとは思えないのだ。だからそれは真九郎の考えすぎだと思っている。

真九郎は頭を振って、その最悪の予想を振り捨てた。流石に絶対に無いはずだ。

 

川神裏オークションでは紅香と一緒に仕事をすることになっている。それは川神裏オークションに集まる裏世界の重鎮たちを捕まえることだ。

これは紅香が真九郎の知らない大物たちから依頼されたもの。彼女の人脈はどうなっているのだろうか。

それはともかく、そうなるともし、幽斎が裏世界と通じていたら彼も捕獲することになるかもしれない。

だが、そうなると仕事は仕事だ。紅香なら気にせず捕まえるだろう。そもそも幽斎と面識が無いかと思われるが。

 

川神裏オークションでの仕事はどうやらただでは始まら無さそうだ。

でもその前に行方不明の子を見つけるのが先だ。

銀子から貰った川神裏闘技場に行くつもりだ。

この時、真九郎は川神裏闘技場であんなことが起きるとは思ってもなかった。

 




読んでくれてありがとうございます。
次回もゆっくりとお待ちください。

さて、そろそろ川神裏闘技場の場面に入ろうと思います。
マジ恋の世界観ではなくて紅の世界観が濃厚な物語にしていきたいです。

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