紅 -kurenai- 武神の住む地   作:ヨツバ

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ただの闇

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ピーチガールVSアルティメットガール。

そのカードの組み合わせに観客たちは大歓声でどっちもエールを送る。そしてどっちも人気だから賭けもどんどんと賭けられる。

でもどちらかというとアルティメットガールの方が人気だ。それだけ彼女の方がこの裏闘技場では人気であるからだろう。

 

「ふー…そろそろ始まるが。負ける準備ができたかピーチガール?」

「おいおい。私が負ける前提で話をしないでくれよ」

「いくら初日で連続で16勝したからと言って調子にノってると思ってな」

「調子なんてノっていないさ。これでも私は油断はしないで戦っているんだからな。昔は油断していて痛い目にあったし」

 

覇王の覚醒事件を思い出す。あの時はつい相手の実力を見てしまい、楽しもうと思って油断したのがいけなかった。

でも今は修行のおかげで、夕乃のおかげで戦いに関して心構えが変わっている。それにこんな所で油断で遊び気分で戦えるはずがない。

流石の百代だってそれくらいわきまえているのだ。それにこの裏闘技場に入ってから彼女はなにかキナ臭いモノを感じている。

とても嫌な何かだ。想像なんてしたくないがきっと嫌なことが起きそうな気がする。でも心のどこかで大丈夫だと思っている。

それが彼女の間違いだと知らずに。

 

「行くぞピーチガール!!」

「ああ行くともアルティメットガール!!」

 

戦いの鐘が鳴り、ついに戦いが始まった。

お互いに瞬時に間合いを詰めて拳を突き出した。

 

「川神流…無双正拳突き!!」

「グレイトショット!!」

 

ドコンっと鈍い音が響き、直に相手の強さが伝わってくる。やはり間違いなくアルティメットガールは壁越えの者だ。

百代の拳に真っ向から勝負を仕掛けてきて退かないのはそうそういない。

一応補足だが、正体は隠しているので技名をいう時「川神流」の部分は小さく呟いている。

 

(強い。拳から伝わる威力が並みじゃない!!)

「フハハハハ、流石だなピーチガール。ならこれはどうだ!!」

 

アルティメットガールから今度は無数の拳が飛んでくる。その数はまるで連続で放たれる弾丸の如く。

 

「ガトリングフィスト!!」

「こっちだって負けるか!!」

 

百代も負けじと拳を連続で放つ。2人の間に拳の雨が降り注ぐ。並みの者では彼女たちの拳は見えないだろう。

この裏闘技場で彼女たちの攻防をよく見れているのは何人いるやら。でもほとんどの観客は拳なんて見ていない。戦い全体を見ているのだ。

 

「ウラウラウラウラウラウラウラ!!」

「DaDaDaDaDaDaDaDaDaDaDaDaDaDaDa!!」

 

彼女たちの拳合戦はついに足まで繰り出し、巡る巡る戦いになる。拳が出たと思ったら蹴りから手刀に頭突き。様々な攻撃が繰り出しているのだ。

 

「これならどうだ。雪達磨!!」

 

自分の腕から気を発し、その気を冷気へと性質変化させる。そのままアルティメットガールの腕を掴んで凍らせた。

 

「ほお、私の腕を凍らせたか。面白い技だな」

「どうする。負けを認めないと凍傷になるぞ?」

「せんさ。これくらい自分でどうにかできる」

 

アルティメットガールは急に身震いを起こした。凍っている腕が原因で寒くて震えているわけではない。

この震えは自分自身で震えているのだ。すると凍っていた腕の氷が急に溶けだした。

 

「なに?」

「知っているか。これはシバリングというやつで骨格筋をランダムに収縮させることにより熱産生を増加させるのさ。私はこの温度調整をコントロールできる」

 

凍っていた腕は完全に元通りになり、問題なく動いている。そして瞬時に百代に接近して凍っていた腕で殴り掛かった。

 

「どうだ。全然問題ないだろう」

「そのようだな」

 

蹴りが交差する。

 

「今度はこっちから行くぞ!!」

 

アルティメットガールは勢いを弱めずに攻め続ける。拳に蹴りに頭突きに膝とランダムに繰り出してきて流れが読めない。

 

「ランダムバレット!!」

 

ランダムに繰り出される攻撃に少しづつ押され始める百代。だがそれくらいで不利になるわけではない。

ただ単に彼女ほどの実力者と戦うのが久しぶりなだけだ。その喜びをつい感じてしまっただけだ。

今は戦いだというのに反省反省と思う百代。それでもやっぱり戦いが好きなのは止められないものだ。

 

「まだまだぁ!!」

「はああ!!」

 

金網リング場では達人同士の戦いが繰り広げられている。その様子を見る巨人は流石に驚きだ。

なんせ百代と互角に戦えているのだから。最近は川神学園に実力者が増えているけどこうも百代に互角に戦えているのは久しぶりだ。

いや、裏世界なら壁越えの人間なんていくらでもいるだろう。そう思うと巨人の驚きも落ち着く。

 

(裏世界は広いからな。しっかしあの金髪美女は何者だか…あの相手なら流石の百代も周囲を調べるの難しいか?)

 

確かに巨人の言う通り、真剣に戦っている時は目を相手から離すことはできない。でも百代は隙を見ては目を周囲を見ている。

なんせ今回は戦うことがメインではないのだ。今回のメインは売春組織の壊滅だ。目的を違えてはいけない。

 

(本当はこの金髪美女ともっと戦いけど…目的は忘れたら絶対にダメだしな)

「…どうした。どこか私との戦いに集中していないな?」

(やっぱバレるか)

「私に対して集中しなくてもよいということか!?」

「そんなことはない!!」

「なら私に集中してくれピーチガール!!」

 

ドンっと気が爆発する。その気の量は百代にも負けないだろう。それに感化されてつい本能に任せて戦いそうになる。

 

「おいおいマジで良いじゃないか。でも我慢だ我慢」

「本気を出す気がないなら私が無理やり本気を出させてやろうじゃないか!!」

 

アルティメットガールの攻撃速度がまだまだ上がる。攻撃の1発1発が確実に重すぎる。これでは百代も片手間に戦うのは難しいというものだ。

それにどうやら彼女は百代のように多種多様な技を持っているから目を光らせていないとどんな技を撃ってくるかも分からない。

 

「ガトリングフィスト!!」

「おっと!?」

「まだまだ。ドラゴンショット!!」

 

拳に気を溜めて竜のようにもしてエネルギーを発射する。

 

「ぐあ!?」

 

百代は吹き飛ばされて金網にぶつかる。アルティメットガールは百代が金網ぶつかった時には既に間合いを詰めていて拳を連打していた。

 

「どうしたどうしたピーチガール。そんなものか。私はお前がそんなものでないことは知っているぞ!!」

「おいおい私の何を知っているんだ?」

「武神」

「ッ!?」

「そんな変装なぞ私に隠せると思っているのか?」

「…私は武神じゃ」

「本気で言ってるのかそれ?」

 

流石に一瞬だけ呆れたアルティメットガール。だってバレてる状況でまだ認めないのだから。

 

「何で私が武神だと?」

「さっき小さく川神流って言ったろ」

「あっ…」

「川神流でその実力者なら限られるだろう」

「うー…」

「うー…じゃない」

 

いずれはバレるだろう変装なんだから仕方ないし、そもそも百代の変装は知っている人なら分かってしまう。もしくは実力が分かる者でもだ。

 

「ふん。どうやら本当に私と戦う気はないようだな…他に目的があるな? さっきから私ではなくて会場を見ているのもそれが理由か」

「そこまでお見通しか」

「私ほどの者ならすぐに分かる。何が目的だ?」

「それを…言うと思うか!!」

 

川神流人間爆弾の発動。体内に溜めた気を全て開放して金網リング全域に爆発が起こる。

これは諸刃の技だが彼女には瞬間回復という技があるから無傷には戻せる。それでも連発して発動できる技ではない。

 

「人間爆弾か?」

「まさにそうだ。つーか平気そうだな」

 

爆煙が晴れると平気そうに立つアルティメットガールが見える。でも身体に人間爆弾によって受けた傷がいくつかあった。

 

「やせ我慢は意味ないぞアルティメットガール?」

「この程度のダメージなら問題ない。お前の瞬間回復とまでいかないが…こう」

 

よく目を凝らして見ると徐々にアルティメットガールの傷が癒えている。

 

「これは瞬間回復ではない。ただの人間が元々持つ自然治癒力だ」

 

人間には自分の意識とは関係なく、たえず作動し、常に待機しており、何らかの損傷が発生すると自動的に自己修復プロセスを活性化する力のことだ。

誰もが当たり前のように持っている力。特別というものではない。

 

「人間が生まれながらに持っている病や傷に打ち勝つ力だ。お前も持っている力だろう…まあ、瞬間回復が使えるお前は気にしていないかもしれないがな」

「でも異様に癒えるのが速いように見えるぞ」

「お前の瞬間回復に比べるのも馬鹿らしいが、先ほどのシバリングと同じように自然治癒能力まで私はコントロールできるのさ」

「ビックリ人間だな」

「私は人間の中でも最高傑作の人間だ」

 

最高傑作の人間という言葉を聞いてふと気になった。

 

「お前は何者だ。そっちは私のことを知っているのにこっちは知らないのはずるいぞ」

「言えないな。でも名前くらいは言おうかピーチガール…いやモモヨ」

 

彼女にもどうやら何か事情があるらしいが名前だけは教えてくれるらしい。

 

「レイニィ・ヴァレンタインだ」

「レイニィ・ヴァレンタイン」

 

もしかしたらこれも偽名かもしれない。でも彼女の目を見て嘘は言っていないと分かる気がする。

 

「なにか目的があるようだが私は知らない。だから私に夢中にさせてやる」

 

アルティメットガールことレイニィはさらに気を膨れ上がらせる。

 

「行くぞモモヨ!!」

 

この時、巨人の方に大和から連絡が届いていた。

 

 

247

 

 

レイニィ・ヴァレンタイン。

彼女の正体はある国のプロジェクトによって生まれたスーパーソルジャーである。

 

彼女は最高の戦士同士によって生まれた存在だ。完璧な容姿に完璧な能力に完璧な性格など、多くの人間が最高と認める人間同士のDNAが流れているのだ。

レイニィのDNAには多くの歴代の戦士のDNAが流れている。彼女のような戦士が何年も最高のDNAを受け継いできている。彼女もいずれは最高の男性を見つけて次の子へと受け継ぐだろう。

 

だけど今の最高傑作はレイニィだ。これは人間を超える人間を生み出すプロジェクトなのである。人間の進化なのだ。

 

人間の起源は最初は猿からと言われて、長い時をかけて現在の理性を持った人間まで進化した。だけど人間は今の状態で止まっている。新たな進化は現在は無いのだ。

しかし進化の可能性は大いにある。なぜなら人間は潜在能力を10パーセントも発揮していないからだ。なら残りの90パーセントはどうなるかという疑問に至る。

せっかくの能力を発揮できずにいるのは宝の持ち腐れである。だからこそある国は人間の潜在能力を発揮させるために研究に没頭している。

 

この研究が完成すれば人類はより進化する。人類の新たな進化なのだ。

 

だが、武神である川神百代の誕生により研究のルートが傾いた。人類の進化ではなくて対百代になるような戦士を生み出すために研究が傾いたのだ。

国のプロジェクトが変わるほどのなのだから百代は凄いものだ。それとも百代ではなくて川神一族なのか。

 

だからレイニィは人類の進化のためというよりも百代を超えることに信念を掲げている。そうなるようになってしまったの国のプロジェクトのせいだろう。

人によっては百代を倒すために生まれてきたなんて可哀想にと思うかもしれないがレイニィは気にしない。目的が達成したとしても次はまた人類の進化のために自分も研究に加われば良い。

 

まず初めにレイニィは調整ができていないとはいえ、川神学園で開催された模擬戦に正体を隠して参加した。川神学園にいる実力者を見るためである。

自分の力を確かめるために模擬戦の中でも一番弱いチームに入って戦った。それは強い者たちと多く戦うためだ。弱いチームに入れば多くの実力者と戦える。

それに模擬戦は総当たり戦だからちょうど良い。だけど百代が参加しなかったのは予想外ではあった。

 

それでも百代と同じくらいの実力を持つ覇王である清楚と戦えたから帳消しにはなった。だがやはり肉体の調整ができていなかったのがマズく、覇王に負けてしまった。

その後は再度肉体の調整を行ってまた川神に戻ってきたのだ。今度は負けないために。そしたらなんと彼女の前に百代が現れたのだ。

 

これほどタイミングが良いことはない。だからこそレイニィは研究の成果に鍛えた成果を全て出して勝ってみせる。

 

なんせ彼女は人類の最高傑作なのだから。

 

 

248

 

 

師岡卓也は風間ファミリーの中でも普通と言われてもみんなが納得するだろう。一番弱いと言われても卓也自身も認める。

だけどパソコンや電子機器関係などの情報は人一倍ある。それに縁の下の力持ちということもあり、彼は微々だけど仲間のために頑張っているのだ。

 

それは仲間も知っているし、彼のおかげで助かっているところだってある。そして仲間思いのファミリーの中でも1番なのだ。その分で仲間以外の他者に厳しいところはある。

彼の評価は仲間思いの縁の下の力持ちな人間なのである。

 

それだけでそれ以上でもそれ以下でもない。他の風間ファミリー中でも普通だ。そのおかげで普通の感性を持っているからこそ、当たり前の状況に当たり前の行動に起こせる。

 

彼は本当に風間ファミリーの中でも良心でもあり一般的な人間なのだ。個性的な人が多いファミリーの中でも一番話が伝わるだろう。

 

「何だよこれ…」

 

人間は嫌な光景を見ると、その光景を現実と認めるまで時間がかかるだろう。

精神が強い者なら耐えられる光景はある。でも一般的な人なら耐えられない光景はあるだろう。

そもそもある光景に関しては一般的な人は普通は見ない。その光景は特定の人しかみないだろう。

 

「何だよこれ…何だよこれ」

 

その光景は戦争の関係者や裏世界の人間なら見る可能性は高い。例えば斬彦は仕事柄いくらでも見てるし、真九郎だって仕事の関係で見たことはある。

だが見ていて良いものではない。不快な気持ちになるし、悲しい気持ちにもなる。全てマイナスな気持ちになる光景だ。

 

「うう…ううぷ」

 

嫌な気分になる。吐き気がこみあげる。今の現実を認めたくなくなる。嫌なモノを吹き飛ばすために叫びたくなる。

でも叫ぶことはできないのは更にマズイ状況になるのだから。だからこそ卓也は口を塞ぐ。それは叫びと吐き気を無理やり抑えるため。

 

「何なんだよ…」

 

卓也の視界に映るのは部屋に並べられた複数の死体だった。

 

「ここはまさか…」

 

真九郎は死体を調べると予想が的中していた。

 

「やっぱり内臓が抜き取られている…」

 

ただの闇が襲い掛かってくる。




読んでくれてありがとうございました。
次回もゆっくりとお待ちください。


さてさて、レイニィ・ヴァレンタインというキャラですが。
このキャラほとんど私のオリジナルです。でもマジ恋の原作にも登場しています。
彼女は確か清楚ルートの模擬戦で福本育郎のチームに助っ人として参加していた人です。

彼女は名前も無くて立ち絵は白マントでした。性別は恐らく女性だと思うので女性キャラにしました。
面白い設定があったので私はいずれ登場するのかなって思っていたのに出なかったのは残念です。名前も私のオリジナルですよ。
設定とは最高の戦士同士で生まれた云々です。これは私が考えたものではなくて原作のですよ。技とかは私がシンプルに考えたものですが…
原作キャラでありながらオリジナルキャラです。


そして最後には闇に触れてしまったシーンを執筆しました。
卓也視点です。もう引き返せないところまで足をずっぽりと沈めています。


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