紅 -kurenai- 武神の住む地   作:ヨツバ

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裏闘技場編はまだまだ続きます。
そして今回から物語にまた3人ほどキャラが追加です。


闇は深く

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真九郎と忠勝は一子たちと合流していた。売春組織が臓器売買組織と繋がっている事実が分かり、すぐさま警告しに合流したのだがちょうど彼女たちも怪しい奴らを発見していたのだ。

まずは調べると言ってそのまま怪しい奴らを尾行しているのだ。こんなことをしている場合ではないが既に尾行している状況なので無理やりは止められない。いや、無理やりでも止めるべきだったかもしれない。

真九郎も早く行方不明の子を見つけたいが、最悪な展開だけは避けたい。最悪の展開とは一子たちが裏世界の闇に飲み込まれることだ。

飲み込まれてしまえば生きて出ることが出来るか分からない。だから彼女たちを早くこの裏闘技場から遠ざけたいのだ。

 

「怪しい奴って?」

「あいつらだ。モモ先輩の戦いに目もむけずに何かやってる。間違いなく観戦目的じゃない」

 

数人の男が戦いに目もくれずに動いている。そしてそのまま廊下へと入っていく。

卓也はすぐさま巨人に連絡し、他のメンバーにも連絡していた。だけどまさか大和たちからも連絡が来ていたとは思わなかった。

どうやら同時に怪しい奴らを見つけていたようだ。そして判断としては尾行だけしておくということになる。今は戦力が分断されているから無理に力に任せるのはダメだ。

百代は今、アルティメットガールと戦っていて手が離せない。巨人はここのオーナーを引き付けている。ならば残りのメンバーである程度動くしかないのだ。

大和たちの方には翔一も合流していると連絡があった。どうやら向こうは大和に翔一、京、由紀江の4人で尾行するようだ。

そしてこっちは一子にクリス、卓也に岳人である。そこに真九郎と忠勝が加わって6人である。そういえば冬馬たちの方はどうなっているだろうかと思って連絡してみるが返信は無い。

何も悪い状況になっていればよいと願うしかない。彼らの無事を願うしかないだろう。

 

「むむむ。突撃はできないのか」

「クリスさんここは敵の本拠地だ。俺らは完全に敵の胃の中にいる。むやみに突撃してもいけないよ」

「むむむー。自分もそれくらいは分かってるぞ」

 

その割には少し残念そうだ。悪が許せない彼女にとって早く倒したいのだろう。

その気持ちは分からなくもないが、今の状況は選択を間違えると命を落とす。もう命のやり取りをしているのかもしれないがまだ彼女たちは気付いていない。

 

「俺としてはここで退いた方が良いと思うけど」

「何を言っているんだ真九郎殿は。自分たちは悪を倒しにきたのだから、ここで退くことはできない」

 

やはりクリスはまだ今の状況を気付いていない。それは敵の勢力が分かっていないからだ。

 

「どーした紅。ここまで来て撤退って?」

「そうよ。確かにここは今までとちょっと雰囲気がヤバイのは分かるけど」

 

岳人も一子も自分たちは大丈夫だと言う。

 

「そうじゃねえよ。もしかしたら売春組織がヤバイ組織とつながってるかもしれねえからだよ」

 

忠勝が真九郎の代わりに言ってくれた。ヤバイ組織とは臓器売買組織のことだ。

素人がユートピアを売りつける麻薬売買組織や売春組織とはわけが違う。本物の闇組織だ。

 

「ならばもっと退けぬではないか」

 

でもクリスは怖気ない。まだ相手のやばさが伝わっていない。これは彼女がおかしいのではなく、育ちに影響があるのだ。

育ちが悪いわけではなく、軍人の家系だからこそ考えが一般と違うのだろう。そして一子や岳人も退かない。こっちは川神市で育った影響だろう。

どうして川神では実力があるからと言って引き際を見極めないのだろうか。こればかりは一子たちは悪くない。

全て川神全体の影響なのだ。悪いとは本当に言えないのは地域ごとによって色があるのは当たり前だ。これが川神の人間というやつだ。

忠勝は裏を少し知っているから引き際が分かる。でも一子たちは表しかしらなくて、川神市という日本の中でも力がある場所で育ってきたから急に裏世界のことなんて分からないのだろう。

認識としてはテレビやゲームくらいのものを想像してヤバイと思っているのだろう。でも実際はもっとヤバイものだ。世の中の理不尽や恐怖に暴力を圧縮した本物の悪だ。

 

(悪の認識が分からないんだな…世の中は勧善懲悪じゃないんだ。世の中の多くは悪で構成されている。善なんて少ししかいない)

 

良い人間はもちろんいる。でも悪い人間の方が多い。世の中はそんなものなのだ。良い人間が多いのならもっと世の中は良くなっているはずだ。

 

「あの部屋に入っていったぞ」

 

撤退を考えていたら、クリスたちはどんどん尾行しておく。人の話を聞いていないのだろうか。忠勝も少しイラつきはじめたがここで口喧嘩しても意味は無い。

尾行していた奴らは廊下にあるいくつかの部屋のうち1つに入る。そもそもここの廊下は関係者以外は入れない。だから誰かに見つかったマズイ。

すぐさま扉に耳を当てると人の声が聞こえてくる。

 

『今夜の摘出の予定は?』

『3人だ。全て摘出したらあの部屋に運んでおけ』

『あの部屋はもうけっこう溜まってきたがどうする?』

『買い手がもういないようなら腐る前に処分しろ』

『そもそも買い手っているのか。空っぽの死体だろ』

『そういうのが好きな顧客もいるんだよ』

 

聞きづらいが何やら不穏な会話が聞こえてきた。聞いていたくない会話だ。

 

『ボスは来るのか?』

『来ない。ボスはオークションの方で忙しいらしいからな。大事な大事な出展品をオークションに出す準備をしている』

『ただオークションに出すだけだろ?』

『出す物の価値がとんでもないんだよ。詳しくは知らないがな。いや、知らない方が良いかもしれねえ』

 

オークションと聞こえてきた。今オークションという言葉を聞いて思いつくのは川神裏オークションだ。

もしかしたら臓器売買組織のボスは川神裏オークションに参加するのかもしれない。これは情報としては大きい。

 

『よし、準備すっぞ』

『了解した』

 

どうやら部屋から出てくる。瞬時に考えたのはすぐさま撤退するか、部屋から出てきたところを素早く倒すかだ。

 

「こっちの部屋から人の気配がしないぞ」

 

どうやらクリスが人の気配が無いことを察知して逃げる部屋を探してくれたようだ。ならばすぐに部屋に逃げ込む。

できればまだ騒ぎは起こしたくない。だがその入った部屋がダメだった。

 

「この部屋なにかな…異様に寒い気がする」

 

卓也の顔が青い気がする。確かにこの部屋は異様に寒い気がするのだ。まるで冷蔵庫のようである。

そして目を凝らすと部屋には布に包まれた何かがいくつも並んでいる。それはまるで人を包んでいるようにも見える。

この部屋は何か嫌な感じだ。嫌な感じというのは気分が悪くなるというか見てはいけないようなものがあるという感じなのだ。

その見てはいけないというのは恐らく布に包まれた何かだろう。だが見なければ何か分からないというものだ。

この部屋の正体を暴くには見るしかない。嫌な感じでバクバクと心臓が鳴っているが意を決して布をめくった。

 

「…うえ」

 

卓也は見なかった方が良かったかもしれない。布の下にあったのは死体だった。しかもそれが1人2人ではない。何十人もいるのだ。

 

「おいおいおい」

 

岳人はもう何も言えない。岳人だけじゃなくて一子もクリスも顔を青くしている。

普通の学生が見るものではない。そもそも死体を見る機会なんて学生に無い。

だけど今、真九郎たちが見ているのは並んでいる死体だ。暗い部屋に死体が安置している。

裏闘技場の戦いで戦死した安置所かもしれないが、少しおかしい。調べてみると身体が妙にへこんでいるのだ。

このへこみは殴られてへこんでいるというわけでなく、まるで身体の中からへこんでいるみたいなのだ。

触って調べてみるとすぐに分かることがある。これは身体の内臓が無いのだ。だから身体が妙にへこんでいるのだ。

 

「まさか内臓器官を取られているのか?」

 

すぐさま思いついたのが臓器売買だ。ここは裏世界の闘技場。死んだ戦士は表世界に戻ることはないだろう。

ならば再利用するために内臓を摘出されてるのかもしれない。こういうの臓器売買の奴がこの川神裏闘技場と通じているのだろう。

嫌なものを見たし、嫌な事実に気付いてしまった。この裏闘技場はただルール無用の戦いが起きる場所ではないらしい。

卓也はこの光景を見て吐き気を催す。それはそうだろう。今まで周りに頼りになる人たちがいるとはいえ、こんな人が死んでいる空間なんて初めて見るはずだ。

そもそも武術が盛んな学園にいるとはいえ死体を大量に見るなんて普通に絶対に無い。真九郎はまだ平気だが大和たちはそうでもないだろう。

他にも一子も気持ちが悪そうになっている。軍人の娘であるクリスだってこの異様な空間は初めてだろう。

 

「…内臓だけじゃなくて目も抜き取られてるのか」

 

どうやら使える器官は全て摘出しているようだ。そもそもよく考えれば臓器売買なら使える器官は全て摘出するだろう。

 

「うう…」

 

もう卓也と一子はもう嘔吐しそうな勢いだ。もう口を開けないだろう。

 

「何なんだここは!?」

 

クリスは怒って恐怖と気分の悪さを吹き飛ばす。そうでもしないと訳が分からなくなる。

 

「あまりここに長居しないほうがいいな」

 

部屋の外に誰もいないのを察知してすぐさま部屋を出ていく。嫌なものを長く見ない方がよい。

だからもう卓也たちはもう帰ってもらった方がよいだろう。彼らは裏の発端を見てしまったのだ。

表の世界で死体を大量に見るのは絶対に無い。見ることができるとしたら戦争や裏世界だけだ。

卓也たちは裏世界の人間ではない。もうこんな所にいる必要は無いのだ。

 

「師岡くんたちはもう帰った方がいいかもしれない」

「え?」

 

先ほどまで全然大丈夫そうだったが無残な現実を見たことで覇気がなくなっている。いかに強いと言っても本物の死体を見ればそうなる。

 

「ここにいたら見なくていいものまで見るはめになる。それにもしかしたら殺しの世界に入るかもしれない」

「殺し…」

「ああ。君たちはもう領分を超えているよ。ならもう帰った方がいい」

 

真九郎は彼らを心配しているから帰らせようとしているのだ。だけどクリスは帰らないと言い張る。

彼女は正義の心が強いからこそこの事実が許せないのだろう。実際のところあの死体の山は絶対に悪事によってできたものだ。

ならばクリスはこの所業を許せない。でも人には領分というものがあり、これはクリスが入り込む領分ではないだろう。

彼女では対処できないのだ。義の心を持っており、悪を許せない正義は立派であるし、真九郎はそのことに関しては否定しない。

でもそれだけで裏の世界に突っ込むのはただ死にに行くようなものだろう。これがマルギッテやクリスの父であるフランクなら対処はできるかもしれない。

 

「真九郎殿。私はこんな悪事は許せない…人が死んでいるんだぞ!!」

「ああ。だからだよクリスさん。ここはもうクリスさんたちがいつもいるような場所じゃないんだ。ここはもういつ死んでもおかしくない場所だから」

 

もう決闘とかそういうレベルではない。ここはもう義とか正義とか誠とかが通じない。通じるのは暴力と権力だけだ。

 

「だが!!」

「だがじゃないんだクリスさん。クリスさんの気持ちは分かるけど…ここからはもう裏世界だ」

 

ここはもう日常ではなくて非日常。いつものように悪漢を武術で成敗するような川神ではないのだ。

ここは真九郎が何度も残酷さと不条理叩きつけられては吐きそうになって死にそうになった世界だ。

 

「で、でも!?」

 

それでもクリスは納得がいかない。本音ではここがヤバイと分かっているが、それでも正義感があるクリスは逃げたくないのだ。

だから真九郎は分かる。彼女はきっと真九郎が出会ってきた人間の中でも良い人間で、悪人には絶対になれない善人だと。

こういう人はきっと将来的に良い人で多くの人が惹きつけられるだろう。でも今の彼女はまだまだ未熟で、せっかくの良さをここで潰させるわけにはいかない。

 

「わ、私は…悪を許せない」

 

悪を許せないクリス。大和は義がすぎるとそれはそれでダメだと、調和を乱すと言う。確かに今調和を乱している。調和を乱しているというか人の話を聞いてくれないという意味で。

 

「クリスさん…」

「許せないなら許せないでそれでいーだろ。そこから先は全部自分の自己責任だ。死のうが生きようが勝手だ」

 

いきなり第3者の声が響く。すぐさま警戒するがその人物を見て少しだけ警戒が解けた。

 

「Live or die(生きるか死ぬか)」

「切彦ちゃん…」

 

斬島切彦がそこにいた。

 

 

250

 

 

冬馬たちはユートピアを売りつけている麻薬売買グループを叩き潰していた。たった今潰したグループがユートピアを主導に売りつけているグループである。

これで川神にユートピアを売りつける者たちは消えたがまだ元凶は残っている。それはユートピアを売りつけているグループに流した存在だ。

ユートピア販売組織の上にいる存在。全ての元凶で葵紋病院と九鬼財閥からユートピアをかすめ取った悪。

 

「さて、あなた方のボスについて聞きましょうか」

「な、なんだと?」

 

尋問のために1人だけ残しておいたのだ。全ては元凶を聞き出すために。

 

「あなたは運が良いかもしれないですし、運がわるいかもしれませんよ」

「何をわけの分からないことを…!?」

 

男が冬馬に食ってかかるが背後に竜平や準が控えていた。それだけでなく、当たり前だが突撃してきたのは小雪や板垣姉妹だっているのだ。

もう男は四面楚歌で一歩でも間違えれば終わりだ。もっとも学園生である冬馬たちに残虐行為がどこまでできるか知らないが。

 

「言うと思って…ぐげ!?」

 

竜平が普通に殴る。

 

「竜平。気を失わせてはいけませんよ」

「分かってる。だがしゃべれれば良いんだろ」

「そうですね。会話さえできれば他はどうなろうと構いません。ですが早めに白状した方が良いと判断しますよ」

 

これから男に起こる身を案じて言っているわけではない。恐怖をそそらせて口を早く割らせようとしているだけだ。

冬馬たちは男に容赦しない。敵であるしどうでもよいからだ。だからこそ男自身は早めに口を割るべきだろう。

 

「ヒャハハハハー。早くしないとリュウに尻掘られるぜー。つーか、んな汚いもん見せんな」

「リュウちゃんお手柔らかにね」

 

天使も辰子もこれから起こるだろうことにはどうも思わない。彼らは風間ファミリーより残虐性はある。

だから尋問に対して拷問しようが心を痛めない。

 

「最初から答えを聞きます。あなたのボスは誰でどこにいるのですか?」

「そんなの言えるわけがっ!?」

 

パァンッッ!!

 

いきなりだった。いきなり銃声が鳴ったのだ。男が自分の頭を撃ち抜かれたと認識した頃には死んでいた。その様子を見てしまった冬馬は何が起こったのか理解するのに3秒かかってしまう。

これから情報を引き出そうとした男は死んでいる。

竜平たちはまだ何もしていないのに男はあさっりと死んでいた。

 

「何が?」

「ねずみが忍び込んでいたか。早く駆除しないとな」

 

冷たく機械的にな声が聞こえた。鍵を閉めた扉が開いており、そこには巨漢の男がいたのだ。

その男は身体中が全て鉄でできているようなイメージを思わせる。

 

「お前たちは何者だ。何が目的だ。簡潔に答えろ」

 

身体中に恐怖がまとわりつく。冬馬だけでなく準や小雪に板垣たちでさえ恐怖してしまう。

不良やチンピラに「殺す」なんて言われても怖くとも何ともないが、目の前にいる男に「殺す」と言われた時は本気で死の恐怖を感じる。

今まで出会てきた人間の中で確実にヤバくて本能が訴えている。早く逃げるべきだと。

 

「答えないのなら殺すだけだ」

「うおおおおおおおおおおお!!」

 

最初に動いたのは竜平だった。彼はここにいる中でも獣だ。考えも一般人と違って裏世界でも生きていく力や思考を持っている。戦って死ぬという考えに疑問を持たない男なのだ。

だからこそ最初に動くことが出来たのだ。

 

「死ねや!!」

 

本気で殺す打撃を放つ。目の前の男に躊躇いは必要ない。あったら自分が殺される。

竜平の殺気のこもった一撃は届いた。届いたが太い腕に防がれており、巨漢の男は痛みも感じていない。

 

(こいつ本当に鉄じゃねえのか!?)

「お前から死ね」

「リュウ!!」

 

竜平が動いたおかげで全員もやっと動くことができたのだ。冬馬以外の全員が巨漢の男に集中攻撃を実行。流石に6人同時なら防ぐのは不可能で確実に直撃する。

 

「うあああああああああああ!!」

 

特に亜巳により覚醒を許せた辰子の一撃はすさまじく、巨漢の男を殴り飛ばした。

流石に巨漢の男も驚いてしまう。まさか自分を殴り飛ばすほどの筋力なのだから。

 

「でかいねずみがいたか」

「ねずみじゃねえ。ドラゴンだ!!」

 

追撃をしようと竜平が迫る。それでも巨漢の男に焦りは見えない。その様子を見ていた冬馬だからこそ分かったのだ。

あの巨漢の男は何か武器を持っているのだ。

 

「避けてください竜平!!」

「おっと!?」

 

間一髪。ギリギリのところで隠し持っていたナイフから避けた。

 

「危ねえな。ナイフなんか持ってるのかよ」

「焦りすぎだよリュウ。気をつけな」

「分かってるよ亜巳姉」

 

6人がかりで倒せると判断したことにより多少の恐怖は和らいだ。

確かに冬馬たちは巨漢の男に比べれば素人だが数で降りを覆す。

 

「倒せる…だが油断するなよ!!」

「分かってるよ準!!」

「ヤバイと思ったら退けよユキ!!」

「うん!!」

 

冬馬たちは倒せると思った。だがその『倒せると思った』というのが危険なのだ。

戦いもとい、殺し合いはどうなるか分からない。たった1つの切り傷だけでも有利が不利になるのだから。

 

「いく…ぞ!?」

 

急に気分が悪くなり、眩暈もする。身体もいうことをきかない。自分の体調変化に混乱しそうになる。

 

「おいおいどーしたリュウ?」

「うるせえ…って避けろ天!!」

「おわっと!?」

 

凶刃が天使の腕を少しだけ切り裂かれる。天使にとってそんな小さな傷はケガに入らないと思っているが巨漢の男にとって十分だった。

 

「あ、あれ。気持ち悪いし怠い」

 

人間を殺すのや弱らせるものの1つとして挙げられるものがある。それははるか昔より使われていたもので、暗殺や戦争にだって多く使われた。

人間だけでなく動物や植物だって使う。ソレを使えば誰だって人を殺せるだろう。

 

「まさか…」

 

冬馬と準はすぐさま原因が分かった。それは医者の息子だからだろうか。

 

「毒か!?」

 

正解。

巨漢の男が持っているナイフには毒が塗られている。毒というのは一瞬で戦況を変える兵器だ。

たった少しの毒でも人間に膝をつかせることができる。

 

「そのまま苦しんで死ねるが…背中の骨をへし折ってやろう」

 

ナイフに塗られている毒は猛毒だ。人間の体内に入り込めば苦しんで死ぬ。

 

「な!?天、リュウ!?」

 

2人は青ざめて、嘔吐をし出す。毒の周りは早く、何もできない亜巳は歯痒い。

冬馬と準はすぐさま診るが今の状況では応急処置も何もできない。ただ竜平と天使が苦しんでいる姿だけが見える。

 

「よくも竜ちゃんと天ちゃんおおおおおおおおお!!」

「でかいねずみ。貴様が一番厄介だから念入りに引き裂いてやる」

 

辰子が怒りにまかせて突撃しようとした時に戦況が変化した。

ボバンっと部屋で爆発がいきなり起こり、煙が巻き起こる。部屋に煙が充満して誰もが状況が分からない。

巨漢の男もまさかの異常事態発生に一瞬だけ精神を乱されるがすぐさま冷静になる。

 

「まだねずみが紛れ込んでいたか!?」

「何が起きたんだ!?」

 

そのねずみは全く気配を感じさせない。冬馬たちより警戒すべき存在だろう。

 

「こちらです。急いで逃げてください」

 

冬馬たちの目の前に黒スーツを着た女性がいた。

 

「毒を受けた人は担いでください。すぐに逃げますよ」

「貴女は?」

「それは後で。今は脱出が最優先です」

 

煙が晴れるともう誰もいない。いるのは1人残された巨漢の男だけだった。

ピピピピピピっと電話をかける。

 

「ボス連絡です」

『どうした?』

「ねずみを取り逃がしました。追いかけますか?」

『いや、いい。もう売春組織とユートピア販売グループは切り捨てる』

「了解」

『裏闘技場ももういい。貴方には裏のオーナーをさせていたがもう十分だ。オークションも近いから私のところに戻って手伝ってくれ』

 

巨漢の男の正体を明かそう。

彼の名前はゲルギエフ。彼はもともと裏カジノのオーナーを経営しており、醜悪なキリングフロアにもいた悪宇商会の人間である。

真九郎を同じように毒のナイフで追いつめたが紫から勇気を貰って奮起した真九郎と戦った巨漢である。

 

 

251

 

 

冬馬たちはなんとか逃げ出すことに成功した。それもこれも全て目の前にいる女性のおかげだ。彼女がいなかったら全員殺されていたかもしれない。

 

「これを使ってください。解毒薬です」

 

この解毒薬は彼女が忍び込んで盗んだものだ。毒を使う者なら必ず解毒薬は持っているものだ。

 

「ありがとうございます」

 

急いで解毒薬を竜平と天使に飲ませる。これで彼らも安心だ。

でも安全と言われればまだ完全な安全ではない。なんせまだ敵の本拠地にいるのだから。

 

「あの、貴女は一体誰ですか?」

 

冬馬は当然の疑問を投げかける。助けてくれたことは感謝しているが正体が分からないのだから完全に警戒は解けない。

そんな冬馬の疑問に女性は当然の如くこう答えた。

 

「私は犬です」




読んでくれてありがとうございました。
次回もゆっくりとお待ちください。

さて、今回で物語に3人キャラが追加です!!
斬島切彦とゲルギエフ。そして犬を名乗る人と言えば・・・!!

まだちょっと裏闘技場編は続きます。
ですが冬馬たちも大和たちもどんどん死と隣り合わせの闇が迫ります。
真九郎も今回が川神の中でもっとも深い闇の事件だと予想外になります。
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