紅 -kurenai- 武神の住む地   作:ヨツバ

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久しぶりの投稿です。
本当に久しぶりですよ…なのでいっきに3話投稿します。


乗り越えるために

261

 

 

たった数時間だ。たった数時間の夜中で起きた酷く淀んだ事件で多くの青年たちの精神を蝕んだ。

 

風間ファミリーに葵グループを肉体的にも精神的にも追い込んだ一夜の事件は最悪なままに敗北であった。

 

武術の盛んで実力的にもある学園生であっても本物の闇の理不尽な暴力を受ければ心が折れる。寧ろ、心が折れただけで運が良かったかもしれない。

なんせ、死なずにすんだだけでもある意味奇跡なのだから。

彼らは一生忘れられないトラウマを植え付けられた。ならば、どうするか。

 

乗り越えるしかないだろう。今回は若き青年たちがそれぞれの心に植え付けられた闇を乗り越える話。

 

 

262

 

 

冬馬たちはどうしようもなく精神的にやられていた。

彼らが味わったのは裏世界の圧倒的なまでの暴力だ。その暴力は人を当たり前のように殺してくる意思を感じた。

それがまるで日常で当たり前のように。そんな人を殺すのが当たり前だと思う奴に出会ってしまったのが冬馬たちの最悪な始まりであった。

 

「若、大丈夫か?」

「大丈夫…って言えないですね。今回ばかりは本当に」

 

何とか顔に出さないようにしているが、そんなことは無理であった。流石に人殺しを体験されて普段の顔をしているほうが異常だ。

 

「……」

 

小雪であっても暗い顔をしている。まるで昔の彼女を見ているようだ。

 

「竜平たちは?」

「川神院で養生してるぜ。竜平と天使は解毒されても養生が必要だからな」

 

彼らも大きなトラウマを負っただろう。

 

「準。僕らは何か間違っていたのでしょうか?」

「間違っていたか…それは分からない」

 

冬馬たちはユートピアという一歩間違えれば最悪なドラッグになる精神安定剤を回収及び廃棄するために動いていた。

それは自分の病院で管理していたものが何故か外に出回っていたからだ。これだけでも彼らが動く要素がある。

本当なら警察たちが動くような仕事であるがここは川神。実力のある者たちが自ら解決していく。

 

「…ユートピアは完全に川神から消えた。俺らのやったことは無駄じゃなかったぜ」

 

準の言う通りで川神からユートピアは消えた。それだけでも彼らの功績はあるのだ。

 

「悔しいという感じではない。こう…心の奥底から嫌な、最悪な感覚が襲ってくるようだ」

 

何ともいえぬ感覚。負の感覚とも言うべきか。

 

「…その感覚を味わいたくないならもう二度と裏世界には関わらないことね。貴方たちならまだ間に合うわ。あんな馬鹿よりね」

 

ピンとした声が冬馬たちの心に通り抜ける。

この声の正体は冬馬たちが知る者であり、交換留学生の1人である。

 

「貴女は…村上さん?」

 

村上銀子がいつの間にか来ていた。彼女は特に気配を消して近づいたわけではない。

普通に来ただけなのだが、それすらも気付かないほど彼らは負いてしまったのである。

 

「どうしました村上さん?」

「ただの独り事よ。気にしないでちょうだい」

「?」

 

銀子は適当に座って本を開ける。そして口を開く。

 

「命が惜しかったらもう裏世界には関わらないことよ」

「…もう関わらない?」

「ええ、貴方たちならまだ間に合うわ。あの馬鹿と違ってね」

 

銀子があの馬鹿と言うのを聞いて思い浮かんだのが真九郎。彼は揉め事処理屋で様々な仕事をしており、中には裏世界に通じるものもあるだろう。

 

「真九郎くんは怖くないのですかね?」

「本人はただの臆病者よ。怖がりのくせに危険なところに飛び込んでいく馬鹿」

 

確かに怖いくせに危険なところに向かうなんて、矛盾で馬鹿な行為だ。そんな行動をする真九郎に冬馬はよく分からない。

でも、それには明確な理由があるのだ。真九郎だけの理由が。

 

「なんで彼は危険な場所に?」

 

正直に言えば、臆病者なら今の揉め事処理屋を止めれば良い。彼ほどの人材なら他に仕事を見つけられるはずだ。

特に彼は紋白に気に入られているのだから九鬼財閥に就職できる。それなのに揉め事処理屋を続ける理由が分からない。

 

「生きるため…だそうよ」

『生きる』ため。それだけが真九郎の理由だ。

 

生きるなんて人間の当たり前の本能だ。でも真九郎はその当たり前をより強く思っている。

彼は人が簡単に死ぬと知っているからだ。ならば強くないといけない。強くないと生きていけない。

その真理を真九郎は幼い時に理解してしまったのだ。普通の一般家庭では理解できないことだ。

 

「真九郎くんは特別なんですね」

「特別じゃないわよ。寧ろあんたたちの方が特別よ」

 

確かに冬馬や準の方が生まれが勝ち組だ。小雪はちょっと違うが彼らに出会えたことが幸運だろう。

お互いに不幸なことが起きているが真九郎の方が理不尽で不条理さで埋め尽くされている。

真九郎も小雪も幼い時に心を壊された。だが小雪は冬馬と準に出会えたおかげで助かった。

一方で真九郎は世界の理不尽さで親を殺され、心を壊されたあげく今度は人さらいに会う。最悪なまでに人生が小さい時から終わっていた。

でもやはり、真九郎の心を持ち直したのが『出会い』であった。その『出会い』で強くないと生きていけないと幼い時に理解してしまった真理であった。

 

「真九郎くんの強さの理由が少し分かった気がしますよ。彼は自分の不幸をばねにして強くなっているのですか」

 

不幸をばねにしている。それもそうかもしれない。

結局のところ、彼の強さの始まりは最悪な結果が根源である。

 

「あの馬鹿はどうしようもなく馬鹿で不幸よ。でも日常に戻ろうと思えば戻れる…まだね。なら貴方たちならまだ全然間に合うわ」

「まだ間に合うか」

「ええ。貴方たちは日常に戻るべきよ」

 

銀子はなんだかんだで冬馬たちを心配していたのだ。一応クラスメイトだし、お世話になったから。

 

「…確かにもう関わらない方が身のためだと分かっています。でも悔しいという気持ちもあるんです」

「悔しい?」

「はい。悔しい…リベンジしたい。負けたくないというのがあるのですよ」

 

これが川神の人間である。

川神の人間は性質がら負けず嫌いというのがある。それがどんな戦いでもだ。

それが何度も言うが異常なのだ。異常すぎる。

心から負けたというのに、その心にはリベンジしてみせるという気持ちも残るのだ。心も身体も折れていながら負けないという気持ちを持つ。

矛盾であるが、これは実は心が完全に折れていなかったということになるかもしれない。これが川神の人間だ。

心が折れているのか折れていないのかどっちだと言いたいが、これが川神である。

これには銀子は呆れそうになる。どうしようもなく救いが無いんじゃないかと思ってしまう。真九郎も馬鹿だが川神の人間も馬鹿かもしれない。

 

「ははは。自分も馬鹿なことを言っているのは分かります。でも今実感しました。これが川神に住む人間なんですよ」

 

医者の息子である冬馬は今の自分の気持ちが異常だと今更実感した。あんなことがあったというのにこんな気持ちになるなんておかしいと。

普通ならすぐに精神科でも行くべきかと迷ってしまうくらいだ。裏闘技場で起きたことは最悪だ。心が折れた。肉体も傷ついた。

それでも折れたかもしれない心にはリベンジしたいという気持ちがある。

 

「…はあ。貴方たち」

「俺も若と同じ気持ちだ」

「あはははは。ボクらってバカかもー」

 

本当にどうしようもないかもしれない。これだから死ぬかもしれないというのに。

 

「今の僕たちは正直このままだと本当に馬鹿な真似をするかもしれない。だから村上さん…何かアドバイスをくれませんか?」

 

この言葉を聞いて本当に彼らを馬鹿だと確定した瞬間であった。

 

「…本当の気持ちはどうしたいの?」

「とても怖いけど…勝ちたいです」

「はあ…貴方がたはなまじ実力があるけれど流石に大きな組織には勝てない。貴方がただけでは」

「私たちだけでは…」

「ちょっと強い学園生が裏社会の組織には勝てない。なら勝てる人たちの力が必要よ」

「…僕たちだけでは駄目。勝てる人たちか」

「私はアドバイスもしたけど…警告もしたわよ」

 

今度こそ自己責任。

 

 

263

 

 

大和たちは青空を仰ぎながらまるで魂が抜けているような顔をしていた。もう何もしたくないという気持ちで学園でも授業も頭に入らない。

そんなの当たり前で、裏闘技場で人殺しを直で見てしまったのだから。そんな状態で勉強なんてできるわけもない。それでも彼らは日常に戻ろうとしていた。

 

「はあああ…」

 

誰かは分からないが重い重い溜息を吐く。それでも誰も気にしない。だってみんなが同じ気持ちなのだ。

そしてその気持ちの中には、馬鹿な考えもあった。それが今度こそ勝ってみせるという考えだ。

売春組織は完全に潰して、これで大和たちの目的は達成した。でもそれはただの末端にすぎなく、大本がいたのだ。

その大本をどうにかしなければいずれは復活する可能性は大いにあるかもしれない。それならばいくら売春組織を倒しても意味はなくなってしまう。

考えによっては大和たちの戦いは終わっていないと言える。

 

「あー…はああ。なんつーか完全不燃焼だな」

 

岳人が呟く。でもそれだけで、他に何か会話があるわけではない。

本当に何を話せば良いか分からないのだ。

大和はずっと考え事をしており、クリスは己の正義について、卓也はもう裏闘技場のことを忘れたいと思っている。

 

「そういえば姉さんは?」

「お姉さまならちょっと1人になりたいって言っていたわ」

「そうか」

 

百代も1人で考えたいこともあるということだ。

 

「ここにいたんだね」

「紅くん?」

「真九郎どの…」

 

無気力そうな大和たちのところに真九郎が気になって来たのだ。

手元には飲み物を袋に入れている。

 

「どうぞ」

「あ、ありがとう」

 

どこもなく真九郎は座る。そして飲み物を飲んで黙るがどこともなく口を開く。

 

「大丈夫ですか?」

 

こう言うしかなかった。そもそも見た感じ大丈夫と言うのもおかしいかもしれない。

だって今の大和たちを見て大丈夫には見えない。

 

「大丈夫じゃないかも」

「そっか………なら揉め事処理屋として言うよ。もうああいう場所関わらない方がいい」

 

今回は仕方がなかった。だってまさか大きな裏組織が繋がっているとは分からなかったのだから。

だからこそ今回は本当に仕方がなかったのだ。そして相手の力量をよく見ていなかった。前回の売春組織と少し違うくらいとしか見ていなかった。

最も臓器売買組織が繋がっていると分かったかどうかが怪しいものだが。

 

「関わらないか…そうだな」

「うん…」

「直江くんたちは裏世界は似合わない。表世界が一番だよ」

 

真九郎はそれとなく二度と大和たちに裏世界に関わらないように言うしかなかった。彼らには真九郎のように裏世界に浸かってほしくないのだ。

彼らは表世界で人生を全うにしてほしい。真九郎のように不幸になってほしくないのだ。

 

「紅くんはさ…平気そうだよね。強いよね」

 

卓也がボソリと呟く。彼は一番この中で心を摩耗しているのだ。

そんな彼がどうして真九郎は平気なのか気になったのだ。彼の強さが気になったのである。

 

「…俺は強くなんてないよ」

「謙遜は場合によっては嫌味になるよ」

「本当だよ。俺は強くない…これまで何度も死にかけたからね」

「まだ言う…っ!?」

 

卓也は真九郎の謙遜が本当に嫌味に聞こえていたのだ。あんなことがあったのに平気そうな彼が本当に気になるし、気に食わなかった。

だけど真九郎が腕を見せてくれたので急に黙った。自分がただの逆恨みのような状態になっていると分かってさらに落ち込んだ。

 

「ご、ごめん紅くん…ぼくは」

「良いんだよ。慣れてる…それにこれが裏世界に関わるってことだから」

 

真九郎の腕には拳銃で撃たれた跡が生々しく残っているのだ。腕だけじゃなく、実際は背中とかにもある。

更に銃痕だけでなく斬られた痕だってある。真九郎の身体には裏世界に入り込んでしまった現実が生々しく嫌に残っているのだ。

 

「俺は今まで運が良かっただけかもしれないんだよ。だから俺は今でももっと強くならないといけないんだ」

「真九郎どの、自分は正義のために戦った。でも今回のことは…」

「クリスさん。クリスさんの志は素晴らしいと思う。でも裏世界じゃあ正義も悪も分からなくなる時がある」

 

それでも正義を貫くなら、最後まで自分の心を強く持つべきだ。どんな事が起きようとも、見ようとも自分の正義を折れないようにしなければならなかったのだ。

だけどクリスは裏世界で自分自身が折れてしまう感覚を味わった。その時点で彼女の正義は裏社会の理不尽さに負けたのだ。

 

「真九郎どのは負けたことはあるのだろうか?」

「あるよ」

 

自分が何度も負けたことを当然の如く肯定した。

これでも真九郎は負けて撤退している場合なんて度々ある。真九郎としては死ななければ負けじゃないと思っている。

生きていれば何度でもやり直せる可能性があるのだから。

 

「負けたとしても終わりじゃないからね」

 

『負けたけど終わりではない』という言葉はクリスたちの心に突き刺さる。

この言葉はまさに真九郎の有言実行さを表す。今までの大きな事件の中で真九郎は最初に負けてもしまっても終わりではなかった。

負けて立ち止まらずに動いた結果が彼の何とかの勝利であるのだ。

 

「…真九郎どの。私は負けたままじゃ嫌だ」

「クリスさん…」

「関わるなというのは分かる。でも…」

「その気持ちは俺も同じだ」

 

大和も同意する。大和だけでなく、他のみんなも同じなのだ。

ここでも川神の悪い性質が現れる。恐怖と負けた敗北感で心は摩耗しているのに大和たちも悔しくてリベンジしたいというのがあるのだ。

本当に何で川神の人間はこうも命知らずというか馬鹿なのか。真九郎が彼らを馬鹿にすることは絶対にできないが。

だって真九郎も馬鹿で命知らずだから。怖くて、臆病者のくせに揉め事処理屋の仕事に就いているのが証拠だ。

 

「どうすれば良いか教えてくれないかな紅くん」

「…さっき言ったけど関わらないことだよ」

 

それでも真九郎の警告を無視するというのならばもう自己責任だ。真九郎は残念ながら全てを救えるヒーローじゃない。

裏闘技場では真九郎も一緒にいたから何とか助ける部分もあったのだ。でも次回からはもう助けられない。助けられないかもしれないのだ。

 

「分かってる。でもせめて何かできることだけはしたいんだ…このままじゃ川神は蝕まれるだけだ。川神の人間として見過ごせないんだよ」

 

川神の人間として無視できない。もしかしたら今でも誰か攫われて犠牲になっているかもしれない。

そんな真実を知っているのに無視なんてできないのが大和たち善人だ。

 

「でも俺らだけじゃ何もできない。どうすればいいんだ」

「…関わらな」

「紅くん本気だから」

「っ……力のある人に頼ることも大切だよ。俺はそうしてきたこともある。相手が前に敵であっても利用することもね」

 

大和たちは真九郎と同じく馬鹿確定。

 

 

264

 

 

川神百代は一人で黄昏ていた。理由は裏闘技場でのことだ、

仲間が危険な目にあっていたのに百代は何もできなかった。作戦のために離れていたから仕方ないと言えば仕方ない。でも百代の気持ちとしては大切な仲間が危険な目にあっているのに助けられなかったのが心を蝕んでいる。

蝕んでいるというか自分自身に対して怒っているのだ。もっと他に上手くできたのではないだろうかと今更ながら思うのだ。

 

「くそ…」

「荒れていますね百代さん」

「夕乃ちゃん」

 

独りで黄昏ていたら夕乃が声を掛けてくれた。嬉しいと言えば嬉しいができれば今は一人の方が良かった。

でも声を掛けてくれた彼女に対して無視するのは失礼だ。それに彼女にはつい口を開く気になる。

 

「裏闘技場では大変だったみたいですね」

「何でそれを?」

「真九郎さんから聞きました。相当大変だったみたいですね」

「…ああ、大変だった」

 

百代の顔を見て夕乃は相当キテいると理解した。裏闘技場では百代の敗北であることがすぐ分かった。

川神学園に来てからこんな百代の顔は初めて見るものだ。ここまで落ち込む、心にダメージを負っているのは百代自身も初めてだろう。

前に自分の心の問題を乗り越えたかと思ったら今度は強くなった心が傷を負う。

 

「なあ夕乃ちゃん。夕乃ちゃんもどうにもならない敗北をしたことがあるか?」

 

どうにもならない敗北。そう言われれば、一応ある。

それは崩月の家族誘拐事件の時だろう。その時に彼女は本来の力を発揮できずに心にも傷を負った。

百代と状況が同じではないが心も身体も傷を受けたという意味では同じだ。

 

「ありますね」

「どうやって乗り越えたんだ?」

「私は助けてもらったんですよ。真九郎さんに」

 

仲間に、大切な人に助けてもらった。そのおかげで今の夕乃がいるのだ。

 

「はは、助けてもらったか。私はいないなあ…だって私は助けられる方じゃなくて助ける方だし」

 

百代はどちらかと言われれば助ける方だ。彼女がいればどんな事件も解決してきた。

もし、彼女を助ける側がいるとしたら大和を筆頭とする風間ファミリー。助け助けられの関係だ。

だが今の風間ファミリーは百代と同じく参っている状態。お互いに励まし合いができない。

 

「なら私が助けてあげます。そもそも百代さんの頼れる人は直江くんたち以外にいないんですか?」

「はは、そうだな。ならどうすれば良いかな夕乃ちゃん?」

「そうですね。心を強く持つことですよ出席番号12番川神百代さん?」

「簡単に言うなよ夕乃ちゃん…」

「でも、それしかありません。私は家族を守るためなら今度こそどんな相手でも力を振るいます」

 

夕乃の言葉に強い意思を感じた。言うだけなら簡単だが夕乃の言葉は偽善のように言うような言葉ではない。

本気の強い意思を彼女の言葉から感じたのだ。

 

「私も夕乃ちゃんのように皆を守るって言えるかな?」

「言えますよ。だって百代さんは私なんかよりも才能があるんですから。それに多くの仲間もいる」

「…ありがとう夕乃ちゃん。なあ話せるなら昔話とか聞かせてくれないかな?」

「良いですよ」

 

ニコリと笑顔の夕乃。そして百代はいつの間にか心が軽くなっていた。

百代もまた足を進めることを決めたのであった。

 

 

265

 

 

鉄心とヒュームの最強同士の会合。

 

「頼みがあるヒューム」

「何だ鉄心。お前から頼みとは珍しいな」

「この川神で闇が存在しているのは知っているだろう?」

「ああ。こちらも独自に調査している…九鬼と川神院のいるこの市で裏オークションなんてよくやるものだ」

「それ以外では?」

「…あまり良い情報ではないが川神で人さらいが横暴している。それがまさかの臓器売買組織といったふざけた奴らだ」

 

九鬼財閥が義経たちのために川神市をクリーン化したというのにまさかの気付かないうちに裏組織の魔の手が伸びていたのだから。

これは九鬼財閥従者部隊として大きなミスだ。そのミスを絶対に帳消しにしてみせるとヒュームは誓っている。

 

「被害は少なくない。これはまさに川神を食い物にしている最悪な敵だ」

 

ヒュームの顔がいつもより厳つくなる。それにつられて鉄心の顔も厳つくなる。

 

「その通りじゃ。ワシ自身そんな闇が川神に広まっているなんて気づきもしなかった」

 

気付いたのは百代たちが大きな傷を負って帰って来た時だ。親として、川神の守護者としてとても恥ずかしく、怒っている。

 

「孫のため、川神のためにワシは力を振るうつもりだ」

「お前が動くと。相手は裏社会の奴らだぞ?」

「ああ。ワシ自ら動くのはマズイだろう。だからワシを雇ってみんか?」

「それもあんま変わらないと思うぞ?」

 

鉄心が重い腰を上げた。今回の事件は大きく膨らんでいく。

 

「相手は裏組織だ。分かってるのか?」

「うむ、それにワシは十分長生きしたしのう。残りは川神のために戦うわ」

「お前はまだまだ長生きしそうだよ」

 

 

266

 

 

それぞれが乗り越えた。完全ではないが裏闘技場でのことを若者たちは少しずつ克服しおうとしているのだ。

 

普通なら乗り越えるのは無理だ。でも彼らは普通の人たちと違う。

彼らは弱いけど強いのだ。矛盾なことだけどそういうしかないのだ。

 

若者たちが成長し、乗り越えていく姿は素晴らしいだろう。

体験してしまった事件は最悪だった。でも彼らは少しずつ乗り越えていく。

 

今、川神市は闇の魔の手に蝕まれている。負けてばかりだが今度は反撃だ。

川神で今まさに闇深い大きな事件の幕が開ける。

 




読んでくれてありがとうございました。
今回は裏闘技場でのトラウマを乗り越えようとする話でした。

乗り越えるの早くね?って思ったらすいません。それは私の文才の無さかもしれません
でも、そうでもしないと物語が進まないので(メタい)

物語はやっと最終段階に入りそうです。

本当ならもっと大和たちがトラウマに悩んで苦しんで…やっと力強く乗り越える人間の話を書きたかったですが無理でした。


あと、川神の人間の異常性に関しては私の勝手な考えですので。
真九郎も少し似ている部分はあるかも。死にたくないのに危険な仕事をしてるから

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