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今日は晴天。気持ちのいい1日だ。
難しいかもしれないが大和たちは日常に戻ろうとしていた。彼らならまだ間に合う。彼らは表の世界で平穏に生きていくべきなのだ。
「紅くん今度の休みは暇?」
「暇だと思う」
「ならさ、今度の休みに遊ばないか」
「…いいよ」
大和たちも日常に戻ろうとしているんだなっと思う。それが一番だ。
それにこうも遊びに誘ってくれるのは嬉しいものだ。星領学園てば友達と遊ぶなんてことは無かった。だからこういうのは新鮮だ。
「崩月先輩や村上さんも誘おうと思うんだ。紅くんからも誘ってくれないか?」
「うん。夕乃さんなら来ると思う。銀子は…どうだろ?」
「遊園地とか行こうかなって。それにそろそろ紅くんたちの交換留学も終了しそうだから思い出作りにもね」
そう言えばもう交換留学が終了する。長いようで短い交換留学だ。気が付けばもう終わりとは早い。
「遊園地か。もう何年も行ってないな」
そもそも遊園地とかに行った記憶がないかもしれない。彼の人生は修行と揉め事処理屋の仕事しかしていないのだ。娯楽をあまり知らないのだ。
「紅くんは行きたい所とかある?」
「みんながいるところなら何処でも」
真九郎にとってみんながいれば安心するかもしれない。みんなと遊園地とかに行くのはきっと初めての思い出になる。
これは彼にとって良いことなのだ。
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缶コーヒーを口に含んでほどよい苦味が広がる。昔はコーヒーなんて苦いだけで美味しく感じなかったが今では美味しさが分かるようになってきた。
これが子供の味覚から大人の味覚になったということかもしれない。今まで美味しくなかったと感じる食べ物も美味しくなるだろう。
昔、自分が食べられなかった物でも食べてみようかと考えてみる。どんなものがあったかと考えていると後ろから誰か指で連打された。
軽くちょんちょんと突かれたのではなく連打された。それはもうゲームのボタンを押すように。
「何故に…」
「やあやあ真九郎ー」
「弁慶さん。何故連打を…」
「なんとなく。昨日やってたゲームで連打があったからね。それで与一も倒した」
どうやら与一はまた弁慶の餌食になったようだ。いつもながらことだが、それが与一の日常の1つである。
「調子はどう?」
「まあまあかな。弁慶さんは?」
「私もまあまあ。でも主は調子が良いよ。なんせ最上先輩との一騎打ちが控えてるからね」
義経と旭の一騎打ち。それは彼女たちの最終決戦でついに現代に蘇った義経と義仲の決着がつく。
源氏総選挙も盛り上がったが今度の一騎打ちは更に盛り上がるだろう。
「源氏総選挙ではありがとうね」
「俺だけじゃないよ。直江くんや弁慶さんだって手伝ってたじゃないか」
「そうだけどさ。でも真九郎のおかげも多いよ」
源氏総選挙では義経と義仲の戦いで盛り上がった。総選挙では様々な人と会話したり、邪魔が入ったり、向かい合ったりと色々あったが決着はついた。
真九郎や大和たちは義経が勝つように応援した。それが義経の活力になったのである。
「そう言ってくれると嬉しいよ」
「なら主に会ってくれよ。何か一言応援してくれれば主はより活力が出ると思うからさ」
「そうかな?」
「そうだよ。きっと力になる」
弁慶がそういうなら義経に会いに行ってみるかと思う。でも何を言えば分からないから応援の言葉を考えておこう。
「うー、やっぱ川神水は美味しい」
「飲み過ぎですよ弁慶さん」
「川神水はノンアルコールだよ」
「じゃあ何で酔ってるんですか…」
川神水は確かにノンアルコールだが場酔いができるらしい。特に弁慶はすぐに酔う。
「うう~」
弁慶はそのまま寄りかかってくる。この状態だとやっぱり環を思い出してしまう。
だからつい、どうやって寝かしつかせるかと考えてしまうのだ。弁慶本人はこれでも真九郎にからかってるつもりだが真九郎には効かない。
やはり酔っ払いの相手にさせられるのだ。でも真九郎が当たり前のように抱きかかえてくるとちょっと恥ずかしいので返り討ちにあってしまう。
だから今回も同じはめになる。
「保健室のベットまで運びますね」
「うえ!?」
「どうしました?」
「保健室で何する気なの?」
「何言ってんですか」
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大和たちと今度遊ぶ約束をしたり、弁慶を保健室に運んだり、義経に応援のエールを送ったりと1日でいろいろとあった。
何だか長いようで短いような1日だ。また缶コーヒーを買って飲んでいると今学園で話題の1人が真九郎の元に訪れる。
「ごきげんよう真九郎くん」
「最上先輩」
「ん?」
「えと、何か?」
「私を呼ぶ時は?」
「…アキさん」
「はい、よろしい」
何故か夕乃とのやりとりとかぶった。
「隣いい?」
「あ、はい」
何だろうか。旭が来るとつい身構えてしまう。今度は何を話すのだろうか。
「さっきね。義経に暁光計画について話したんだ」
「暁光計画?」
「ええ」
「暁光計画って何ですか?」
旭は淡々と口を開く。
簡単に説明すると暁光計画は完成されたヒト・クローンの技術を供与する計画。それだけなら世界を変える新技術だ。
だがその過程で旭が計画の人柱になるというのが問題だ。何故、旭がサンプルにならねばならない。サンプルになってバラバラにされるような運命を受け入れているのだ。
「何で?」
「世界の夜明けになる計画でしょ?」
旭は本気で言っている。彼女の目を見ても戸惑いは感じない。
本当に暁光計画に対して自分が人柱にあることに疑問に思っていないのだ。
「そんな計画…」
「真九郎くんもこの計画の素晴らしさが分からないのね。義経にも話したけど分かってくれなかった」
悪いが暁光計画については理解できた。だがそのために自分の命を投げ出すのが理解できないのだ。
簡単に自分の命を投げ出すなんて考えられない。誰かの命を救うためではない。ただただ実験のために身体が切り刻まれるかもしれない。
そんなの絶対に誰だって嫌だ。
「アキさんは怖くないんですか?」
「怖くないわ。だって、それが私の運命なんだもの」
「なら…」
「じゃあね真九郎くん」
真九郎が何かを言う前に旭は立ち去っていく。何故、彼女がこんなタイミングで
そんな計画を伝えたのか分からない。ただの彼女の気まぐれか、それとも何か気付いて欲しかったのか。だが、今の真九郎には分からなかった。
読んでくれてありがとうございました。
今回は暁光計画というのを出したかっただけです。
そしてただの日常から非日常への変化も出したかったので前半は特に何もない話でした。