ONE PIECE 〜夢を書き記す少女のお話〜   作:竜華

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プロローグ

柔らかな木漏れ日の漏れる森の広場。その中央の切り株に、男女が2人座っていた。少年は眼鏡を何度かクイッと上げながら、紙の束に書かれた世界に思考を投じている。そのとなりの少女は、それをどこか落ち着かなさそうにチラチラと見る。彼女の顔や耳は、心なしか紅に染まっていて。

 

最後の1枚に目を通し終えた少年。ふぅ、と息を漏らし、少女に笑顔を見せた。

 

「……うん、今回のも面白いね。流石、メルティって感じ。毎度毎度、脱帽しちゃうよ」

 

それを聞いて、少女の顔も明るくなった。「良かったァ‼︎」と大声を上げ、草の上にゴロンと寝転がる。そして、心底嬉しそうに言った。

 

「今回のは慣れない恋愛物だったから、凄く心配だったんだァ。そもそも、シンヤって恋愛系(そういうの)読まなそうだしさ。気に入ってもらえるか心配で心配で」

 

メルティの一言にムッとしたシンヤは、ちょっと頬を膨らませる。

 

「確かに読む回数は多くないけど、僕だって恋愛系は好きだよ。女の子の気持ちが良く分かるからね」

 

シンヤが読んでいたのは、メルティの書いた小説だ。幼馴染である2人は、この場所で落ち合う度に本や創作小説を読んでは批評を行っていた。メルティの小説に関すると、昔はダメ出しが多かったが、もうそれはほほなくなっていた。今となっては、メルティの小説ばかりを読む読書会と化している。

 

「貴殿にそんな考えがあるなんて……意外だねェ」

 

「さっきから失礼だなァ……」

 

メルティの一言に苦笑を隠せないシンヤは、紙を綺麗に纏めると、自分の膝に置いた。

 

「……どう?見つかりそう?〈最高の物語〉は」

 

メルティの目の色が急に険しくなり、彼女は口を噤んだ。

 

彼女の夢は、ありとあらゆる小説家が憧れる、世界で最も壮大な物語──通称〈最高の物語〉──を自身の手で執筆すること。そして、それを1番にシンヤに見せること。何をどうすればそんな物が書けるかは、自分でも分からない。だからこそ……。

 

「……ウインディア(このしま)では、見つからない気がするんだ。ここじゃない、どこかで……初めて……」

 

「……‼︎」

 

シンヤの瞳が揺れた。メルティが何を言わんとしているのかを悟ったのだ。

 

「……出るんだね、ここを」

 

「……ちょっと前……2週間前には決めてたんだ。言うの遅くなって、本当に悪いとおもってる。でも、家族の許可は取った。今日の夜、出航するよ」

 

苦しそうにメルティは笑う。

 

「……そうだよね。ここしか見てなかったら、〈最高の物語〉なんて見つからないよね。うん、分かってた」

 

声はどんどん張りを失い、震えを帯びていく。

 

「……メルティは強いもんね。きっと……海に出たって……」

 

涙が1筋、シンヤの白い頬を伝った。

 

シンヤだって分かっていた。狭い世界でそんな代物が見つかる訳がないことも、いつか想い人(メルティ)がこの島から出て行くことも。知っていて、無意識の内に目を背けていた。

 

「……ぎっど……大丈夫、だよね……」

 

 

離れたくなかったが故に。

 

 

止まれ、涙。大切な人が見てる前で情けないだろう。

 

理性はそう言うが、本能は実に正直だった。

 

「…離れ、だぐ……なぃなァ……‼︎」

「ちょっ……泣くんじゃないよ!」

 

端整なメルティの顔が、困惑に染まる。普段は冷静沈着な彼女がここまで慌てる辺り、本人とて心の余裕が無いのだろう。愛する母島、愛する人との別れは、メルティにとっても辛いのだ。

 

(わたくし)だってなァ……離れたかないんだよ‼︎」

 

叫ぶ。夢を叶える為の、苦渋の決断だったのだと。彼女もまた、故郷を離れるのは心苦しいのだと。

 

「貴殿にッ‼︎〈最高の物語〉をッ‼︎読んでほしいから‼︎」

 

シンヤの動きが止まった。涙でぐしゃぐしゃの顔を上げる。

 

「誰よりも、大切だからッ‼︎貴殿との約束、守りたいから‼︎」

 

「約、束……」

 

約束の為に。メルティの言葉の中のフレーズを復唱する。清らかな響きの中に感じた彼女の本心。

 

メルティも、シンヤを愛していたのだと。愛しいからこそ、別れの辛さに耐えてでも、約束を守ろうとしているのだと。

 

既にシンヤは泣き止んでいた。その顔に、先程までの嘆きは見えない。

 

静かに歩み寄りながら、右手のブレスレットを外した。メルティの手を優しく取って、それを乗せた。シンヤが『お守り』と言っていた、ローズクウォーツのブレスレット。

 

「……え?」

 

「お守り。約束の証、でもあるかな。僕は君よりずっと弱いし、役目もあるから、一緒には行けない。そしたら僕には、もうこれ位しかできないから……」

 

──僕はここで、メルティの健闘を祈ってるよ。

 

そう笑うと、そのまま踵を返した。そして、広場を後にする。静かな広場に、メルティだけが残される。

 

「…………ぅう………うぅッ…………ぅぅ…………」

 

膝から崩れ落ち、声を殺して咽び泣く。決して人には見せない涙は、ブレスレットを握りしめる手と腕を伝って、草や地面を濡らした。

 

悲しみや辛さなんて、流れてしまえばいい。決意だけ残してくれれば、それで良い。

 

暖かな風が、メルティの白髪とその中に混じる水色をふわりと靡かせていった。




これからゆっくり更新していくつもりです。よろしくお願いします。
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