真・恋姫†無双・蜀漢の章 ~李厳伝~(凍結) 作:零式カフカ
俺は李厳、字を正方、真名を竜胆。かつてはそれなりに大志を抱き官に仕えていた。
民のためにと憤慨し、軍に入り賊を討とうと様々な事を学び、郷里を出たのが五年ぐらい前だったと思う。腐敗した政治、それに伴う派閥争い、現実を目の当たりにし、掲げた理想が叶わぬ空想だと思い至るには十分過ぎたのだと思う。袁紹、劉表、劉璋と三人の主君に仕えはしたが、それぞれ様々な理由があって去った。上司と同僚には恵まれていたが・・・・
「おかみ、もう一本~」
今じゃあただの飲んだくれだ、かつての上司、同僚が見ればなんと言われるだろうか?何てのは想像するのは簡単過ぎるこの状況。最後の劉璋の下を辞して一年、今では幽州は北平の鍛冶屋で住み込みで働かせてもらってる。稼いでは飲んで、博打に使っての毎日である。
「?」
いつもならグチグチ言いながらも酒を持ってくるはずのおかみが全くこない、不思議に思っていると青年一人と少女三人がおかみと客連中に吊し上げられている。どうやら無銭飲食らしい、まぁこのご時世それそのものは珍しくも無い。だが俺はそことは別のところに興味を惹かれていた・・・・緋色の髪をした少女は、劉表軍時代に遠目に見た江東の虎孫堅にも通ずる王者の覇気、みたいなものが垣間見える。黒髪の少女とちびっこはどちらも一騎当千の猛者としての、気を感じた。
そして不思議なのが最後の青年だ。
他の三人とどうして一緒にいるのか?と疑問になるようなぐらい平々凡々、だと言うのに四人の中では彼のことが一番印象に残った。だからだろうか、反射的に財布の中の銭を数えた。
「おかみー!その子ら離してやって、俺が払うから」
財布に残ってた銭で恐らく四人の支払いはちょうどだろう、俺も追加の酒を頼む前だったし。そう思って、財布をおかみに向かって投げれば、おかみも、客連中も驚いたようにしている。
「どういう風の吹き回しだい?」
「気まぐれ」
「・・・・まぁもらえるもんもらえるなら良いけどね」
俺とおかみの話し合いが成立した、と分かると客連中が解散する。俺はゆっくりと立ち上がれば、未だ何が起きているのか状況を掴み兼ねている四人へと歩み寄る。
「よぅ、ちょっくら話がしたいんだが・・・・ウチへと来んかね?飯代すら払えんところを見ると宿すら取ってないだろ?」
四人は、一度顔を見合わせると静かに頷いていた。
―――――――――
「さてさて、自己紹介でもしとくかね。俺は李厳、字は正方。まぁ今はしがない鍛冶「誰がしがないだスットコドッコイ!!」・・・・ゴホン、幽州一の鍛冶屋で住み込みで働いてるモンだ」
どっから聞いてんだあの狸親父、と言う言葉を飲み込みながら自己紹介をした。
「さっきはありがとうございました!私は劉備、字は玄徳って言います!」
「関羽、字を雲長。先程は助かりました」
「鈴々は張飛!字を翼徳なのだっ!」
「俺は北郷一刀、さっきは本当に助かった、ありがとう」
しかしまぁ、見るからにバラバラだなこの四人組。
「で?お前さんら、何者だ?パッと見、姉妹兄弟じゃあるまい。しかもそこの坊ちゃん、名前から察するにこの国の人間じゃあねぇな?」
「・・・・私が、説明します」
そう言って語り始めたのは劉備だった。
曰く、劉備、関羽、張飛の三人は今の世を憂い、少しでも出来る事は無いか、と旅に出た。んでもって、小規模の賊討伐ばかりで、名を売るどころかその日暮しの生活でめいっぱいだった。そんなある日、真昼間に天より落ちた流星、それと共に現れたのが北郷だった。占い師管路が広めた『天の御使い』が北郷だ、と直感した彼女らは北郷を旗印としてこの乱に挑もうと決め・・・・
「決めたところで無銭飲食が発覚、ってか」
「「「「うっ・・・・」」」」
だがまぁ、アレだ。コイツら、『五年前の俺』だ。俺は一人だった、そうであるが故に官軍に入り、現実を知り挫折した。だがコイツらは違う、僅か四人とは言えそこには確かな信頼感がある。傍らを、背を安心して預けられる者がいると言うのは頼もしいもんだ。あの時の俺にも、もしコイツらみたいな仲間がいたら今頃はもっと違った道を歩んでいたかも知れん。
「ったく・・・・」
放って置けない、俺は素直にそう思った。それと同時に、俺の心の中で燻っていた火種が、再燃するのを感じていた。
「で?どうすんのか決めてんのか?」
「・・・・正直・・・・なんにも」
俺の問いかけに、バカ正直に答える北郷。
「しゃあねぇな」
そう言って、俺は寝台の下に手を伸ばす。そこには以前、戦場を駆けていた頃の俺の相棒が白い布にくるまれてある。一年近く、戦場を離れていたとは言えコイツの手入れを怠った事は無い。布を取り外せば、黒い刀身、黒い柄の大刀『夜鴉』が姿を現す。
「「「「?」」」」
四人が首を傾げれば、俺は『夜鴉』を床に置き、片膝ついて拱手する。
「では改めまして・・・・某、姓を李、名を厳、字を正方。五年前に大志を抱き郷里を出、袁紹、劉表、劉璋と主を替え仕えて参りました。ですが真の主を見つける事叶わず、今はこの北平の鍛冶屋にて世話になっておりました。ですが、貴方がたの思いを聞き、その覚悟の宿る眼を見、かつての己が大志をたった今取り戻しました」
一呼吸、間を挟む。
「我が真名は竜胆、この名を預けると共に、何卒・・・・北郷様、劉備様の見る天下への道。某にも共に、支え歩む事を許してはいただけませんか」
まっすぐに、北郷と劉備、二人の主へと視線を向ければ二人が顔を見合わせ、眼を輝かせる。
「袁紹、劉表、劉璋に仕えたって・・・・元官吏?」
「一応は、募兵、徴兵、兵の調練、書類仕事、城壁修理等の土工から造船、兵器制作、架橋工事等など・・・・経験だけならば下手な官吏よりはある、と自負しております」
「わぁ・・・・凄い」
本当に色々やったもんだ。猪突で書類仕事が嫌いで丸投げしてくる上司とか、酒好きで土工系の作業を丸投げしてくる上司とか、重要任務の堤防工事、造船工事を「やってみろ」とだけ言って丸投げしてくる上司とか・・・・おかしいな、丸投げしてくる上司しかいねーぞ。
「李厳さん、いや・・・・竜胆さん、お願いするのはこっちだよ。俺たちには足りないものだらけだから、だから竜胆さんの手を貸して欲しい。でもそれは臣下としてじゃなくて仲間として、どっちかといえば・・・・うん、兄貴分みたいな感じで力を貸して欲しいんだ」
「あー、それいいかも!さすがご主人様!」
臣下じゃなくて仲間内の、しかも兄貴分、と来たか。本当につくづく不思議な人だ、お人好し、と一言で切って捨てる事も出来るがそれだけじゃあない何かがある。
「わーったよ、ただし!俺が手ぇ貸すからには半端は許さねぇ!生半可な事しようもんならぶん殴るからな!!」
「うん、そのときは頼むよ」
「え・・・・殴られるのは、ちょっと・・・・」
「桃香様・・・・」
「にゃはは」
―――――――――
「おぅ、話は聞いてたぜ」
鍛冶屋の親父に話を通そうと、部屋を出れば親父が待ち構えていた。
「盗み聞きかよ」
「へっ、聞こえるような声で話してる方が悪ぃ」
そう言って親父は、酒瓶を一つこちらへと投げて寄越す。地面スレスレでそれを受け取り、視線を戻すと親父は背を向けていた。
「オメーを俺の後継に、ってぇ考えてたが・・・・まぁ街の鍛冶屋如きで収まる奴じゃねぇってのは俺も分かってた」
「親父・・・・」
「半端な真似だきゃあすんじゃねぇぞ、やったら金槌でテメーの頭かち割りにいってやらあ」
それだけ言って、去っていく親父の背中に俺は、頭を下げていた。身元も知れない俺を拾ってくれて、世話してくれた。その恩義だけは一生かけても返しきれるもんじゃない。
―――――――――
親父からの餞別の酒瓶を持った俺らは、北平の近くにある桃園を訪れていた。この五人で乱世へと乗り出す、そう決めたのだからこそ、誓いを立てようと言う話になったのだ。どうやら、まだ劉備、関羽、張飛は一刀に真名を預けてはいなかったらしく、この場にて正式に全員の真名を預け合おう、となったわけだ。
「音頭取りは竜胆に任せるよ」
「・・・・待てぃ、そこは普通主君となる一刀がやるべきじゃねぇのか?」
イキナリ俺にぶん投げて来た一刀に、俺は反論する・・・・が
「だからだよ、こういうのは年長者が仕切るもんだろ?なんだったら・・・・命令にしてもいいんだけど?」
「あー、分かったよ!」
全員が手に持つ盃には、既に酒が注がれている。俺はそれを高く掲げた。
「我は李厳!真名を竜胆!」
俺が、高らかに名乗りを上げれば他の四人も意図を察したのか続く。
「俺は北郷一刀!」
「私は劉備、真名は桃香!」
「我が名は関羽、真名は愛紗!」
「張飛!真名は鈴々なのだ!」
「我ら五名、兄弟、姉妹の契りを結びしからには!同年同月同日に生まれる事叶わずとも、同年同月同日に志を遂げ!生きて新たなる世を見る事を誓わん!!」
普通は生まれたときは違うけど死ぬときは一緒、みたいな事言うべきなんだろうが・・・・俺ら流に言うならこうだわな。五人で盃を打ち合わせ、その中身を一気に飲み干す。
「うぉっ・・・・効くなコレ」
「「「「ぶほっ!!?」」」」
あ、吹き出した。っつーかこれ強いな、明らかに親父秘伝の酒じゃねぇか。残りは大事に保管しといてちょっとづつ飲まねぇとな。
「み、み、み、水ぅううううっ!!!」
叫ぶ一刀、悶える三人娘・・・・あぁ、まだこの強さの酒はコイツらには早かったか。
「ほれほれ、すぐ近くに川があるからそこまで気張れや」
ま、こんだけ賑やかなら退屈する事もあるめぇよ。
TIP集
・猪突で書類仕事が嫌いで丸投げしてくる上司
袁家の二枚看板、の胸が無い方。
・酒好きで土工系の作業を丸投げしてくる上司
益州軍でオーバーテクノロジーな砲を使うあのお方。備考欄には喧嘩好き、と付け加えておこう。
・重要任務の堤防工事、造船工事を「やってみろ」とだけ言って丸投げしてくる上司
正史とかでは孫堅キラーで有名なあの人。
・親父秘伝の酒
製造元は主人公も知らない。現代で言うテキーラとかぐらい度数が高い。