真・恋姫†無双・蜀漢の章 ~李厳伝~(凍結)   作:零式カフカ

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第三話『乱の前』

北平で白蓮の手伝いを初めてから三か月が経過した、北平軍を率いて行ったあの初めての賊討伐以来、劉備軍としての兵士が徐々にその数を増していた。はじめは三百だったのに、今ではすでに千人程にまで増えている。

 

賊、と言ってもそこに至るまでは様々だ。奪われる側にいるのが嫌でなるヤツ、食うに困ってなるヤツ、元々そういう嗜好性があってなるヤツ、そして椿(廖化)たちのように自らの志を、願いを、道を見失ってしまったやつだ。この一ヶ月、俺は賊の中からひたすら椿と同じような連中をかき集めた。その結果・・・・

 

「よしオメーら、ここ片付けたら城に戻って南西城壁の補修作業だ」

『へいっアニキ!!!』

 

アニキ呼ばわりですよ。まぁそりゃあ?仲を深めようと一刀も誘って頻繁に宴会したり、愛紗に叱られてるところを庇ってやったり、鍛錬で振り回す鈴々をたしなめてやったり、桃香を引き連れて視察したりと色々やりはしたが・・・・まさかここまで慕われるとは思わなんだ。

 

「椿、城に戻ったら鈴々を連れて来てくれ。力仕事にはアイツが適役だ」

「はい、承りました」

 

椿は今では俺の副官、と言う扱いになっている。扱いと言うよりは事実上も副官なんだろう。討伐に動く時も必ず俺と組んでるし、机仕事も俺の指示通りに動きつつも適宜自己判断で捌いてくれるからかなり楽をさせてもらっている。まぁ最近はそれだけではなく・・・・

 

「私はどうしたら宜しいですかな?」

「星はアイツら引き連れて先に現場に向かってくれ。俺は白蓮に報告を済ませてから向かう」

「御意に」

 

星も俺の副官みたいな立ち位置に収まりつつある。元々、俺らと星を併せて客将部隊みたいな感じではあったが、近頃はすっかり一括りの集団になってきている。

 

ちなみにだ、総員千人のうちここにいるのは特にガラが悪い三百だ。残りの七百は一刀と桃香が引き連れて別方面の討伐に赴いている、あっちに行かせた連中は賊になって比較的日が浅く、わりと最初から従順だった。だがこっちの三百は特に苦労した。賊になって日が長い者、その粗暴さの理由が根深い者、本当に様々な問題児だけが集まっていた。まずは三百相手に武力で力を見せつけ、戦場で将の指示に従えば勝てる戦には勝てると言う事を覚えさせ、北平近隣の村落で家屋修理や田畑の開梱作業に従事させる事で民から感謝される事は思いのほか嬉しいと言う事も覚えさせた。なんかもうここまで来ると犬とかの躾だが、それでも俺はこの三ヶ月今気づよくやった。その結果として俺の指示には基本異論を挟まず、どんな仕事にも文句を言わず従事する優秀な直属兵が完成したわけだ。

 

―――――――――

「オラそこぉ!ちゃんと定規使って測りながら積めっつってんだろうがこのスットコドッコイっ!!」

「すんませんアニキ!!」

 

予定通り城壁修理中、一年近く鍛冶屋で働いていた経験からか、それとも郷里を出る前は大工だった経験からか、こういう作業の時に半端な仕事をされるとイラッとくる。あぁ、あれだ。どうやら鍛冶屋の親父のが感染ったっぽい。

 

「お兄さーん!!休憩ですよー!」

 

と言う桃香の声が聞こえてくる。そうそう、ここ最近の出来事で言えば皆が本当に俺を兄呼ばわりし始めた。桃香はお兄さん、愛紗は兄上、鈴々は竜兄(りんにい)と言った。一刀もそれっぽい呼び方をしようか、と悩んではいたんだがそこは俺が止めた。

 

《俺はさ公の場じゃあお前を立てて支える、だが普段は対等の友人でありたいんだよ》

 

そう言ったら、素直に竜胆、と呼び捨てするようにしてくれた。出会った頃は敬語混じりなところもあったが、最近じゃあスッカリタメ口だが俺はそれが妙に心地いいとも思っている。

 

「おぅ、んじゃあ四半刻休憩だ!」

『うーっす!!』

 

それぞれが思い思いに休憩に入れば、桃香や一刀、桃香付きの兵が水筒をみんなに配っていく。

 

「はい、ご苦労様」

「あんがとよ、お前に付けた兵たちの様子はどうよ?」

「うん、皆良い人たちばかりで助けられてばっかり」

 

何故かドヤ顔で、自己主張の激しすぎる胸を張って答える桃香、まぁきっと「私を護ってくれる皆はこんなにも頼りになるんだよ!」って感じだとは思うんだが・・・・取り敢えず。

 

「ふぎゃっ!?」

「アホぅ、助けられてる事に胸張ってどうする」

 

取り敢えず桃香の頭に手刀を叩き込んで、一言。

 

「まぁそれが桃香・・・・いや、一刀もだろうがそこが二人の美徳みてぇなモンなんだろうがな。それでもあがけ、不向きだと思っていても諦めんな」

「はぁい」

 

桃香もだが一刀も、愛紗も鈴々も椿も、星ですら俺から見れば致命的、とまではいかなくとも治す必要がある弱点が見て取れる。治すなら、未だ客将の身分である程度自由がきく今しか無い。北平を離れ、義勇軍としてやっていく時間もあるだろうが腰を据えていられるのも北平にいる間だけだ。義勇軍とは根無し草と同義、戦う事で手一杯になる。領地を得る事になったならば、さらに自由はきかなくなる。何れ俺たちの定める目標へと向かっていくならば尚更だ。ならば今のうちに、できる限りの事はすべきなのだ。

 

「他の奴らは?」

「えっと、ご主人様と愛紗ちゃんは書類仕事、鈴々ちゃんは討伐から帰ってきたばかりで疲れて寝てるよ。私も鈴々ちゃんと一緒に戻ってきたんだけど、お兄さんがこっちで仕事してるって聞いて。手の空いた兵士さんたちと一緒にお水を配ろうと思って」

 

うん、この上目遣いは強すぎる。いや、実際に桃香の兵士と俺のところの兵士が何人か今ので倒れた。「死ぬな!死ぬなーっ!」とか聴こえてくるが、まぁ茶番をするだけの気力があるなら問題あるまい。

 

「最近、賊が多いな」

 

俺らが北平に居候して三ヶ月、賊の出没件数は増加の一途をたどっておりどこから出てくるんだ、っつーぐらい忙しい。こうやって城壁修理なんてやってんのも久しぶりだ、ここ壊れてるって言われてたのだって半月前の話だし。しかもだ、最近妙に見るのは黄色い巾を身にまとった連中だ。ここ一ヶ月ぐらいの八割が黄色い連中だ、とは言えその動きに統一性は無く、徒党を組んでる様子でも無し。

 

「そうだねぇ・・・・そう言えば、白蓮ちゃんがそのうち朝廷から大規模な討伐令が出るかも、って」

「たかが賊相手にか?」

「それがね、あの黄色い巾の人たちは大陸全土に出没してて。しかも中原辺りが一番数が多くて、それで多分って」

 

そう言えば、朝廷の直轄軍にはロクな人材がいねーって聞いた覚えがあるな。とすると、だ。形式としては実力がそれなりにある官職持ちを名代として派遣し、その下に各地の諸侯の軍を集め討伐を執り行う、と言う事だろうか。どちらにしろ朝廷の無力さ極まれり、と言ったところだろう。

 

「荒れるだろうなぁ・・・・」

 

―――――――――

 

「と言う事なんだ、私も桃香たちにとってこれは好機だと思う」

 

そんなとある日、白蓮から呼び出された俺たち。どうやら例の黄色い奴らは『黄巾賊』と呼称を統一する事が定まったらしく、その『黄巾賊』に対する大規模討伐令が下されたそうなのだ。また、その令の中で現職、在野を問わず戦功を挙げた者には恩賞を与えると言う旨も記されていたのだ。現状、客将と言う身分の俺たちからすれば確かにこの先の足がかりとなる上、働き次第で待ち望んだ領地が得られるのだ。

 

だが、白蓮は微妙そうな顔をしている。恐らくはだが、俺たちにとっての好機だとは理解している。だが俺たちが滞在した三ヶ月で『天の御使い』北郷一刀と『大徳』劉玄徳の名が北平周辺ではかなり売れていた。北平太守としては、太守でも無ければ正式な配下でも無い人物が人気を集めるのは治安上宜しく無い事であり、ここで俺たちを行かせる事が正しいことだとも理解している。だがその一方で、自分を友だとし頼ってきてくれた桃香を半ば追い出すような形で行かせる事に対しての罪悪感もある。よく桃香が「白蓮ちゃんはお人好し」と言っていたのが今なら分かる。

 

「一刀、桃香、俺は白蓮の提案に乗るべきだと思う」

 

だからこそ、俺たちは自分で決断してここを出て行くべきなんだろう。私兵と呼べる兵も千人いる、上手くいけばこの討伐の最中にも増やす事は可能だろう。それにだ、今連れてる千人の練度は中々なものだ。元々荒事慣れしてる連中だったと言う事もあるが、愛紗や鈴々、星と言った一線を画す武力を持つ将たちに練兵の度に揉まれているのだ。否応にも強くなるというものだ・・・・何人か、ちょっと心配になる方に目覚めたやつらもいたが。

 

「だな、これまでありがとう白蓮」

「ありがとうね、白蓮ちゃん」

 

一刀と桃香も、何かを察したのか素直に俺の案に乗ってくれた。

 

「で、だ。白蓮」

「なんだよ」

「ちょっとだけ、兵糧分けてくんねぇか?当面の分で良いから」

「良いけど・・・・あぁ」

「?」

 

俺と白蓮の視線が鈴々へと向く、視線を向けられた当の本人は何がなんだか分からない、と言った様子だがそれ以外の連中は全てを理解した。鈴々、これだけ小柄であるにも関わらず、その体積の倍以上の量がその胃の中に入る大食いなのだ。

 

「白蓮殿、少々宜しいですかな?」

 

でまぁ、事情を察した白蓮が動こうとした途端に声を挙げたのは星だ。

 

「実は私も今日でお暇させていただこうかと」

「星!?」

 

白蓮が思わず声を上げるが、俺も、恐らくは他の連中も驚いている。白蓮と星、普段は星が一方的に白蓮を誂うあまりよろしくない関係性ではあるが、戦となれば思ったよりもこの二人の相性は良い。足の早い部隊で戦場を引っ掻き回す星を良くも悪くも堅実な白蓮が支援する、決定的な強さも持たないが致命的な弱みも持たない。

 

「・・・・成る程なぁ」

「おや、私が白蓮殿の下を離れる理由が思い当たりますので?」

「一つしか見当たらないけどな、そもそも客将であるお前を引き止める権限は私には無い」

 

呆れたように笑う白蓮、そして星は俺へと一度視線を向けてから、一刀と桃香の前へと歩み出る。

 

「この趙子龍を北郷様、劉備様を守る矛として盾として、同じ夢を見、歩む仲間として、受け入れてはいただけませんかな?」

「うん、歓迎するよ星」

「そうだよ星ちゃん、これから一緒に頑張ろうね!」

 

兵少なく、だが操る将は一騎当千ばかり。

 

「取り敢えずは・・・・兵、増やすか」

 

将の数と兵の数が不釣り合いなままだと戦力を遊ばせる事になるしな、だったらコイツらが活躍出来る場を用意してやるのが俺の仕事だ。

 

「あぁ、面倒だ」

 

そう、呟いたが俺の顔が自然と笑みを浮かべている事を、俺は自覚していなかった。




TIP集

・李厳隊
後々大陸全土に名を響かせる最強の万能型部隊。突撃、遊撃、工作、防衛と戦場における大よその役割と、築城等の土木作業、開梱事業、堤防工事などありとあらゆる技術に精通し、曹操、孫策も欲した精鋭部隊。ガラは悪いが、根は良い連中が揃っているためか住民と馴染むのが妙に早い。

・廖化・椿
李厳隊副官にしてヒロイン候補二号。元賊でありながら、その奥底に眠っていた意思を買われ主人公の副官に。主人公不在時の指揮と書類仕事の大半を任せられており、当人はむしろこの状況を好ましく思っているらしい。最近の好敵手は星。

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