真・恋姫†無双・蜀漢の章 ~李厳伝~(凍結) 作:零式カフカ
―平原城・南門―
今日の平原は、俺たちが赴任して以来最大級の忙しさを見せていた。それは何故か?
『曹操来訪』
その一報が原因である。比較的領地が近く、友好関係にある白蓮ら幽州勢が訪れる事は数あった。だが今回は曹操なのである、その配下である夏侯淵や李通が近況報告やちょっとしたやり取りで訪れる事はあっても曹操本人が来る、と言うのは初めてであり、さらに俺たちにとっては緊急事態なのだ。
「なんて考えてんのぁ俺以外だけなんだがなァ」
ぶっちゃけ、今回ぁ正式な外交とかじゃあねぇ。届けられた書面を見る限りでも旧交を温めましょう、ってなモンだ。相手が曹操だからこそ、ってなっちまってんのかもなぁ。曹家といやぁ相当な名家だ、その祖は高祖に仕え後に前漢の相国に上り詰めた曹参であると言われ、曹操の祖母である元大長秋の曹騰は引退してなお朝廷内で多大な影響力を誇り、母曹嵩も司隷校尉、大司農、太尉と高位に座していた経験のあった人物である。生半可に知恵のある連中が多いもんだから、平時になってよく思い返したら賓客じゃね?とか思い至って慌てふためいてるってぇわけだ。
でだ、無駄に余裕綽々で構えてる俺が一番無礼とか無しで出迎えが出来るんじゃねぇか?って事で今回も出迎え役に抜擢ってわけだ、まぁ悪くいやぁ面倒事を押し付けられた、とも言うが。
「いやはや、ご無沙汰してますなァ。曹操殿」
スゲェよな、遠目に見て覇気が見えるなんて。普通なら「誰か来た」程度の距離なのに「あ、曹操が来た」ってハッキリ分かるんだぜ?
「えぇ久しいわね李厳。それにしても・・・・また貴方が出迎えなの?人手も大分増えた、と聞いていたのだけれど?」
「無難な人選、ってとこでしょうよ」
「成る程ね」
曹操の表情は苦笑、何となくで事情を理解してくれるのは助かる。
「久方ぶりです、李厳殿」
「おぅ李通、お前さんも元気そうで何よりだ」
傍らに侍るのは李通、うん、前より髪が白っぽいのは俺の気のせいか?気のせいじゃなかったとしたら、苦労してんだろうなァ。
「まぁ曹操殿が直接訪ねてくる、ってぇ事で大分気合入れて歓迎の準備はしてる。とは言えあの連中がやる事だから期待は半分ぐらいにしといてもらえれば幸いって事で」
「勿論よ、そもそも正式な訪問では無いもの。それでも相応の期待はさせてもらうわよ?そうでなくては今この時も準備しているであろう劉備や北郷たちに失礼ですもの」
「確かに」
俺が笑えば曹操も笑い、李通も静かに笑みを浮かべている。と、李通が馬の鞍から何かを布で包んだモノを持って降りてきた。曹操も馬から降りれば、それを受け取りこちらへと差し出してきた。
「以前頼まれていたモノよ、陳留でも指折りの鍛冶師に頼んで注文通りにできているはずよ」
「・・・・拝見させて、もらおうかぃ。オメェら、客人の馬を屋敷の厩に繋いどけ」
近くで待機してた兵に曹操と李通の馬を客人用の館にある厩へと連れて行かせる、それを見送ってから包みを受け取る。
「・・・・思った以上の出来栄えだな、相当腕の良い鍛冶師をお抱えみたいだな」
鍔が無い直刀、受け流しと突きに特化した形状。俺が前線に立って一騎打ちなんてする事もこの先少なくなってくるし、例えそんな状況になったとしても俺に打ち勝つだけの膂力などは無い。だからこそ、時間を稼ぎつつ持久戦に持ち込み、隙が出来たなら突く、そのためのこの直刀だ。装飾も無い簡素なモノだがそれが良い。
「気に入ってもらえたようで何よりよ。ではそろそろ、案内をお願いしましょうか?」
「あぁ、いい加減に準備も出来ただろうしなァ」
直刀を一度布で包み直してから俺は歩き始める、しかし本当に大丈夫だろうなアイツ等。蒼馬もいる分、幾分マシだとは思いたいんだがなァ。
―――――――――
結局、あの後想定していたようなアレな事態に陥る事は無く、無事準備完了していたので歓迎の宴はつつが無く終了した。曹操の滞在期間は三日、最終日に夏侯淵が迎えに来る手筈になっており、その時には州境まで俺が部隊を率いて護送する事になっている。
「アニキ、曹操殿が訪ねて来てますが」
「あぁ、通してやってくれ」
「ウッス」
さて、今回の曹操の来訪。ただの余暇と俺へ剣を渡しに来ただけじゃあるめぇ。確実に何か別件があるとは思っていたが、初日の晩から接触して来るとはな。
「あら、粗野な口調とは裏腹に綺麗好きなのね」
「テメーの部屋ぐらいは片付けとくさ、いつ誰が来るかも分からねぇんだしな。白湯と酒と茶、どれが良い?」
「お茶が良いわね」
トントン、と卓を指で叩けば廊下で人の動く気配。蒼馬ァ気が利くから重宝するな、基本なんでもできるし。まぁあんま頼って堕落するようじゃアレだがよ。
「さて、俺ァ時間稼ぎってのが苦手でな。だからまァ担当直入に聞こうか・・・・どんな悪巧みに俺を巻き込みに来た?」
俺の言葉にそれァもう、悪そうな笑みを浮かべやがる曹操。懐から一本の竹簡を取り出し、俺へと差し出してくる。受け取った竹簡を開き、内容を確認してから、俺ぁ考え始める。
竹簡に記されていたのは霊帝が崩御したと言う事、その後に起きた十常侍による洛陽の変、天水太守董卓の洛陽入り、そして・・・・
「やっぱあのお嬢様は動くよなァ?」
袁紹が反董卓連合の結成を目論んでいる、と言う事だった。
「えぇ、あの自尊心の塊が今まで名前すら聞かなかったような一太守が洛陽に入り少帝と陳留王を擁した。なんて話を聞いて動かないはずが無いもの」
「だろうな、後先考えずに動くだろうなァ」
ただそれだけなら何とでも出来る、周辺諸侯に「袁紹は帝に対して叛意有り」と喧伝し囲んで討てば良いだけだ。だがなまじそれを支える頭脳たちが優秀であるだけに、一気に面倒になる。おそらくだが董卓は十常侍を排そうと考えるだろう、そしてそれが成功した時、袁紹の軍師たちは「董卓は帝を支えてきた正統なる官、十常侍を云われなく排し、自らが権力の中枢を握らんがために帝を擁した」と喧伝するだろう。更に上の効果を望むならば、少帝を暗殺、現状二番手である陳留王を帝に立てざるを得ない状況を作り上げる。そして「董卓は自らの傀儡となる帝を欲さんがために少帝陛下を弑逆した」なんてェ嘘っぱちの大義名分を掲げる事だって考えるだろう。
「あァ、まさかアレか?間違いなく起こる反董卓連合。そん時ぁ以前の黄巾の時と同じ様に手ぇ組んで戦おう、って事か?」
「ホントに、貴方はそこらの軍師よりも余程モノが見えているわね」
「ある程度間近で袁紹を見て、袁紹の周囲に集まった人を見て、曹操が訪ねてきた、そこから状況を整理しただけさァ」
まぁ手を組む事自体は何も問題は無い、なにせ平原から出せる兵が少なく、最悪は袁紹を煽てて兵を借り受ける事すら考えてたわけだしな。俺の直属が五百、一刀、桃香の直属が千、後は残る平原の兵一万六千から蒼馬を守将として一万を残すから総勢七千五百、ぶっちゃけ少ねぇんだよなこれ。
「ウチからは七千ちょい出すがそっちはどうなんだ?」
「一万、ってところかしらね。火事場泥棒が出ないとも限らないもの」
曹操の治める陳留は連合が結成され、ある程度の本営候補を挙げた場合、参加すると思われる諸侯の通り道になる可能性が極めて高い。何らかの理由で途中離脱した諸侯に行きがけの駄賃にと攻められる可能性すらあるのだ。それ程に今のこの国には歯止めが効かなくなって来ている。近頃では会稽の地を厳白虎とか言う賊上がりが占拠したとも聞くし、荊州南部の四郡を劉表が配下に収め、劉璋は漢中に侵攻の動きを見せてもいると言う。
乱世は加速し始めているのだ。
「俺の気のせいじゃあ無けりゃ曹操、アンタの目指すモノと俺らの目指すモノは相容れねぇ。だってのに何で同盟相手として俺らを選んだ?」
間者から曹操の動きはつぶさに報告が届いていた。少なくとも、その報告を聞いていた限りじゃそう思う。
「だからこそよ。私たちが私たちの求めるモノを手に入れるには貴方たちを呑み込み、先へと進まねばならない。逆に貴方たちが求めるモノを手に入れようとするならば、私たちを呑み込み先へと進まねばならない。私はね、北郷一刀を、劉備を、そして貴方、李厳を・・・・英雄であると認めている。そして私たちが並び立つ最後の機会がこの戦いだと、私は確信しているわ」
「要するにアレか、傍らから見るならコレが最後。とくと見よ、強さも、弱さも、その全てをその眼に刻め。その上で我に挑め、俺らの強さも弱さも全てを使って戦え、それでこそ真の英傑たらん・・・・ってところかぃ?」
曹操は言葉を返さなかった、だがその表情が全てを物語っている。
「ホント、俺らもつくづく面倒な相手に眼をつけられたもんだ。まァ・・・・過ぎた事ぁ仕方ねぇ、嘆く暇がありゃあ動くしかねぇわな」
「貴方のその切り替えの速さも評価しているわ、それでこそ、というものよ」
しっかし俺に対する評価高すぎやしねぇかね?前々から思っちゃいるんだがよ、聞いちゃいけねぇ気もしてるんだよなぁ。
「話は分かった、明日、会見の席を設けるからそこで直接うちのご主君たちに話を通してくれ。俺も同席して賛成、っつー事ぐらいは口添えする。二人の軍師も同席するから納得させるのぁ自力でやんな」
「えぇ、席まで準備してもらえば十分よ」
ったく、口説き落とせる自信十割ってところか?その常に自信満々でいられる秘訣ぐらいは、まぁ・・・・何れ聞いてみたいと思うがね。
ともかくだ、俺もぶっちゃけ一刀も桃香も乗っちゃうと思うから、ちゃちゃっと根回し済ませときますかね。
TIP集
・『曹操来訪』
劉備軍首脳陣のほとんどがてんやわんやになった魔法の呪文。文面は関係ない、曹操が来る、その事が重要なんだ。
・直刀
反りも無い、鍔も無い、装飾も無いシンプルな一振り。後々この直刀は関羽の青龍偃月刀、呂布の奉天画戟レベルの知名度を得ることになるがそれはまだまだ先の話。
・袁紹
主人公と曹操、二人の共通認識が「バカでアホでマヌケだけどトコトン厄介」。当人は教養そのものはあってもバカでアホでマヌケ、なのに周囲の将だったり軍師だったり文官だったりが無駄に優秀なので正直相手にすると果てしなく厄介。