小才子アルフ~悪魔のようなあいつの一生~   作:菊池信輝

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 まずは転生からです。
 パスカルとの掛け合いのシーンは暁版よりキャラクターとネタが増え、よりはっちゃけた内容になりました。
 


第一話 せめてあっさり転生させてくれ

 それは、ある夏の日のこと。

 高校二年生の俺は毎日の日課を終え、いつもと同じように眠りについた。

 だが、その日の眠りはいつもの夢も見ない、時々若い健康な男子にふさわしい夢を見る健康的な眠りとは違っていた。

 気がつくと、俺は赤と黄色、金色で飾り立てられた大昔のオーディションバラエティーのスタジオのような場所に倒れていて、直立した二頭のハスキー犬を従えた男が俺を見下ろしていた。

 「目覚めよ、──よ」

 俺は死んだのだろうか。それとも夢か。真夏の夜の夢か。そう思っていると、見慣れない顔──星を散らした赤いシルクハットをかぶりタキシードを着てアームチェアに座った男は偉そうにふんぞりかえって名乗った。

 「目覚めよ、──よ。私は『パスカル法則の伝説』、この次元の者たちの運命を司る神のひとり」

 『神って柄じゃないと思うのは気のせいだろうか』

 誰が神だ。ただのSS書きのおっさんじゃないか。

 ネットの小説サイトを一通り読んでいる俺はおっさんの名乗った名前に聞き覚えがあった。

 No-velや曙に分かる奴にしか分からないネタを満載した、趣味とこだわりに走った作品をあれこれ書いている作者である。硬め古めの作風は一番分かりやすい作品でもラノベぐらいしか読書経験値のない俺にはついていけない代物だ。

 そんなことを考えていると思考を読まれたのだろうか。

 気に障ったのかあからさまに不機嫌になったパスカルは黒いボストンフレームの眼鏡をクイクイとやりながら豪華なエングレーブのあるアームチェアから飛び降り、俺の倒れている場所まで一気に詰め寄るとばかでかい声でまくし立てた。

 「誰が鬼のような作者だ神というより悪魔だ外道ナンバー1だって?まあいい。この次元の住人に対しておいて私が力を行使しうることには変わりないのだからな。お前にはこれから、26世紀か21世紀か別の世界に転生してもらう予定だったが、気が変わった。ろくでもない世界にろくでもない存在として飛ばしてくれる」

 「すいません私が悪うございました」

 誰もそんなこと言ってねえよ、と言いたいところだったが100ギガトンと大書きされたハンマーを振り上げて言われては、反論する気分は一瞬で消え失せた。こだわりの作品大好きなこの作者のことである。蟻の巣の中の蟻の一日でも海中を漂うゲル状生物の一生でも思いつけば需要が全くなくても平気で書きそうだ。いかにも痛そうなこんぺいとうハンマーで叩き潰されたあげくそんな物語の主人公だか主人公に食われる変な虫だかプランクトンだかに転生させられてはたまったもんじゃない。俺は一秒フラットで反抗的な表情を消すとおもいっきり頭を下げた。いわゆるジャンピング土下座という奴である。 

 だが、すっかり機嫌を悪くしてしまったパスカルはうむうむと頷きつつも、ろくでもない世界にろくでもない存在として飛ばすという考えを変えるつもりはないようだった。

 「殊勝だな。その殊勝さに免じて命だけは助けてやろう。…物凄くろくでもない世界にとてつもなくろくでもない存在として飛ばしてくれる」

 「…修飾語つきかよ!!」

 「ついでにトン数も増えたぞ」

 「ばう」「がう」

 白黒ハチワレと同じく白黒で顔の下半分が竈に鼻を突っ込んだかのように黒いのと、妙に人間くさいハスキー二匹からやたら重そうなハンマーを受け取りながら、パスカルはにこやかに笑った。

 「ちょっと待て!無量大数ってそんなもん食らったら死んじまうだろーーーが!!」

 「なーーにをおっしゃるお兄さん。死ななくちゃ転生できないでしょうが!」

 青地に白抜きで『帝都直行』と書かれ宇宙戦艦のマークが描かれたのぼりを俺に渡し、ハンマーを振りかぶるパスカル。やばい。本気で殺す気だ。

 「魂抜き取るとか次元の穴に放り込むとかそういうやり方はないのか!」

 意地悪そうに笑いながら振り下ろされたパスカルの『無量大数』と書かれたこんぺいとうハンマーの一撃を俺はジャンプ一番、髪の毛三本を犠牲にしてかわしさらに二撃目三撃目…を転がって逃れると、床にできたクレーターの数々を満足そうに見つめるパスカルに猛然と抗議した。いくら外道の悪戯でも受け入れられる限度というものがある。これからろくでもない目にあわされるのだからせめて苦痛のない転生方法ぐらいは要求したい。用意してほしい。いや用意してしかるべきだ。だが悪魔のような外道は俺の怒りも切実な願いも意に介さず、あっさりと言ってのけた。

 「ない!昔から言うだろう?『加減 もちろん知りません』ってな」

 「それこそ知るかーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 「ああうるさい。時間が惜しいからさっさと行け」

 逆上してグルグルパンチをぶちこもうとする俺の叫びをハンマーで軽く払いのけると、パスカルは何やら切符のようなものを俺に押しつけた。とたんに、足元の感覚が消失する。

 「うわあああああああーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

 …楽に転生させる方法持ってんじゃねーか!床に開いた穴からいずこかへと落ちて行きながら、俺は意識がなくなるまでひねくれた作者への抗議の叫びを上げ続けていた。

 俺が最後に見たのは切符の全面に大書きされた『ハズレ』の文字だった。

 

 『私は切っ先。お前に鋭き剣先を授けよう』

 『私は刃。お前に斬り払う刃を授けよう』

 『汝は地の上を歩き、宇宙を飛翔する』

 『汝は神と剣の後継なり。疾風の後継は友』

 『汝トラムトリストの肉を貫き背に斬りつける運命に抗ってみよ』

 どこからともなく、歌うような唱えるような声が聞こえる。 

 「よりによって、小才子とはな」

 声が遠のき意識が戻ると、俺は裏切り者になっていた。

 思わずため息が出た。俺の知っている姿より二十歳以上若いが、才気が走った顔つきは間違いようもない。

 目覚めて、鏡の中に見出した顔は銀河英雄伝説の世界、帝国側最悪の裏切り者のものだった。

 そのへんのモブに転生させられた方がよかったかもと思う思考は、赤ん坊の体の睡眠欲求に圧倒されて瞬く間に消えていった。

 そして、俺は再び眠りに落ちた。




『加減 もちろん知りません』はどこぞの携行火器だけで特務機関の基地を粉砕していく地上最強のエキスパートチーム+1のMAD動画から拝借しました。
緑字さん感謝です。
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