機動戦士ガンダム -血の色の宇宙-   作:D太郎

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2話

L2 中心周辺 暗礁宙域―

 

無数に広がるスペースデブリを縫うようにして、二機のモビルスーツが高速で移動していた。

しばらくして、二機のうちの一機、シンヤの駆るブラッディライダーが動きを止めた。サイズの大きなデブリをブレーキ代わりに使い、スピードを落とす。

 

『シンヤ、どうした?』

 

レーザー回線を通して、グラッドが訪ねてくる。

 

「前方に反応を感知。でも、こいつは...」

 

シンヤのコックピットには最大望遠でその反応源を表示している。

映っていたのは一機の輸送シャトルにそれを護衛していると思われるモビルスーツだ。数は四機。情報の倍の数だが、そこは大した問題ではない。

本当に問題なのはそのモビルスーツの機種がジオン側の新型モビルスーツ「ギラ・ズール」であり、それらは手首やコックピット周りに彫刻のような装甲をつけていることだった。

 

「袖、か...」

 

『袖付き...、ネオ・ジオン残党軍が本当の相手ってか』

 

ネオ・ジオン残党軍、通称『袖付き』は二年前の『シャア反乱』を起こした新生ネオ・ジオンの残党が集まり、形成された勢力のうちの一つで、名前こそ残党と呼ばれてはいるが、その規模は巨大で連邦軍が最も脅威を感じている勢力だ。

 

『どうやら、少しばかり事態が面倒になったな』

 

グラッドが短くぼやいた。

 

「でも、やることは変わらないんでしょ?」

 

『おうとも。敵が変わったとしても作戦は作戦だ。このまま奴らを撃墜する』

 

「シャトルは?」

 

『鹵獲する。まあ、詰んでいる中身が大したものでなければここいらのデブリの一部になってもらうがな』

 

「了解」

 

『散開して各個撃破だ。いくぞ、敵もこっちに気づいた』

 

モニターに映る四機のギラ・ズールのうち、頭部にブレードアンテナをつけた機体が味方に指示を出しているのが確認できた。隊長機なのだろう。

そしてその直後、シャトルがギラ・ズールを一機だけ伴って後退を始めた。残った三機はこちらへ接近してくる。三機で足止めをして意地でもシャトルを逃がすつもりなのだろう。積み荷はあちらにとってよほど重要な何かか。

 

だが、

 

「させるかよ」

 

シンヤはブラッディライダーのバーニアを最大出力で噴かせて敵に迫る。

三機のうち、隊長機を含む二機が自分に向かって来た。二機にレティクルを合わせ、偏差気味に四回続けてビームライフルのトリガーを引く。

隊長機はこれを見事にいなした。乗っているのはベテランのパイロットなのだろう。ぎりぎりのように見えて、確実にこちらの射線を避けている。

だがもう一機はそうはいかず、シンヤの放ったビームがギラ・ズールの左脚をとらえた。膝より下が爆散し、大きく体勢を崩す。

すかさずシンヤは突っ込んだ。ブラッディライダーのビームサーベルを抜き放ち、未だ体勢を立て直せていないギラ・ズールのコックピットに狙いを定める。隊長機が味方の撃墜を阻止せんとこちらに向かって装備しているビームマシンガンを撃ってくるがブラッディライダーの動きを追い切れていない。シンヤは最小限の動きでこれを捌き、敵に突進してコックピットを串刺しにした。

融合炉の停止を確認し、ギラ・ズールの残骸にブラッディライダーの足をかけ、シンヤは即座に機体からビームサーベルを引き抜く。敵はまだ残っている。

残骸を盾にするように隊長機に向き直り、距離を詰めるためにバーニアを噴かそうとしたその時、警告音と共にコックピットのモニターにエマージェンシーアラートが表示された。

 

「新手か...」

 

見ると、背中に翼のようにも見えるバインダーユニットを二つ装備した見たことのないモビルスーツがこちらに向けて接近していた。

それはカーキ調のカラーリングをしており、二枚の翼とその色から『ガーゴイル』を彷彿とさせた。

 

さっそくに新手が攻撃してきた。

挟撃されると不利になる。そう思い、シンヤは二機との距離を置くため、ブラッディライダーを後退させた。

このとき、シンヤはまだ気付いていなかった。自分の駆る機体から迸ろうとしている何かに。

 

 

 

 

 

「そろそろ合流ポイントね」

 

ルナ・メルカトルはヴァイシャのコックピット内でそう呟いた。

なかなかに妙な作戦だったが、ここまで一度も会敵しなかったし特にこれといったアクシデントもなかった。このまま何事も起こらずに任務を完遂できるだろう。

そう思っていた矢先、

 

「ッ!?ビーム!?」

 

前方にビーム光らしき光を確認した。ちょうど合流ポイントと重なるコースだ。

ルナは慌ててヴァイシャのバーニアを噴かし、ポイントへと急いだ。するとすぐに、一機のシャトルとギラ・ズールが見えた。

ルナはレーザー通信のチャンネルを開き、ギラ・ズールに呼びかけた。

 

「こちらヴァイシャ、パイロットのルナ・メルカトル中尉です。いったい何があったんですか?」

 

すぐに返信があり、ギラ・ズールのパイロットの声が聞こえた。

 

『自分はデルト・ハイト准尉といいます。シャトルの護送中に連邦軍のモビルスーツ二機に襲撃を受けたのです。現在、隊長を含めた味方三機がこれを防ぐために交戦中です。

お願いします!すぐに援護に向かってくださいっ!』

 

「わかりました。あなた方は急いで現宙域から離脱を」

 

デルト・ハイトにそう指示し、ルナは交戦地点へと急いだ。

再びヴァイシャを加速させる。そして、ブレードアンテナを付けた隊長機とギラ・ズールの残骸に隠れるようにして向かい合った連邦軍のモビルスーツをとらえた。

敵を牽制すべく、ルナはヴァイシャに装備されたビームガトリングガンを構え、トリガーを引いた。

期待通りに敵は距離をとった。その隙にレーザー通信のチャンネルを開き、隊長機に呼びかける。

 

「こちらヴァイシャ、増援に来ました」

 

隊長機のパイロットのものであろう少し老けた声が答えた。

 

『おお、例の新型か!見ての通りだがこちらはすでに一人やられてしまった』

 

「交戦中の機体は三機と聞いています。もう一機は?」

 

『もう一機の敵に分断された。まだ生き残ってはいるみたいではあるが...、援護に向かいたい。ここは任せてもいいか?』

 

「わかりました」

 

『こちらは敵の体勢を崩したらその隙に撤退する。その際にそちらも援護するから、撤退したまえ』

 

そう言い残して隊長機は離れていった。

要するにこちらとしては味方の撤退までの時間稼ぎをすればよい、というわけだ。人殺しの感覚に慣れないルナにとってはそのほうがやりやすい。

機体を敵の正面に向け、ルナはヴァイシャの背部の二枚のバインダーに意識を集中させる。

 

「行って、ファンネルッ!」

 

ヴァイシャはサイコフレーム製造技術の複製と量産型モビルスーツ転用を目的として、同じく袖付きのモビルスーツ『クシャトリヤ』の量産型モビルスーツの試作タイプとして開発されたモビルスーツだ。当然、サイコミュ兵器も採用されており、ルナはそれを使うことにした。

バインダーの裏側に装備された合計十二基のファンネルがルナの発する感応波によって敵へと迫っていく。狙いは敵の肩と膝だ。ジョイントを潰して敵の動きを封じると共に武器を振れないようにする。その後。敵から武装をはたき落として離脱すれば事は済む。

 

「攻撃してっ!」

 

ルナはファンネルに攻撃を命令した。敵を取り囲むファンネルからビームの光が放たれ、敵モビルスーツの肩・膝部を射ちーーーーーーーーーーーーーーー

 

ーーーーーー抜かなかった。

 

「ッ!?そんなっ!!」

 

敵は驚異的な速度で機体を反らし、ファンネルのビームを避けて見せた。敵のライフルがビームに掠り、爆散する。だが、敵機体には傷一つない。爆発の小さな光が寸前まで敵がいた空間を虚しく照らした。

 

(まずいっ......)

 

心に焦りがよぎる。ルナはすぐに射線を修正しようとしたが、焦りのために僅かばかり反応が遅れた。

その間を逃さず、敵が動いた。デブリの間を縫ってファンネルの射線を外しながらこちらに近づいてくる。驚異的なスピードだ、並のモビルスーツのそれではない。

反射的にファンネルを呼び戻すが、敵の方がはるかに速い。ビームガトリングガンの照準を合わせることもできず、あっという間に肉迫された。ここまで近づかれた以上、ファンネルを使うわけにもいかない。自分を誤射するなどもってのほかだ。

 

「ッ、仕方ないわね...」

 

ルナもヴァイシャの腕部からビームサーベルを展開し、敵に迫った。

サーベルどうしがぶつかり合い、鍔迫り合いになった。激しい閃光が視界に広がる。

 

ッ!ーーーーーーーー

 

そこで気づいた。

 

(パワーなら、ヴァイシャの方が若干だけど分がある!)

 

「ならーーーーーーーーー」

 

ルナはヴァイシャのバーニアを無理矢理に噴かせ、その勢いで鍔迫り合いを打ちほどいた。

狙いどおりに敵が姿勢を崩す。そして右腕部にマウントされたビームガトリングガンのバレルを敵機体のコックピットの脇に叩きつけた。

 

銃を通して鈍い振動が自分のコックピットにまで伝わってきた。これならば凄まじい衝撃が敵のコックピットに響くはず。パイロットはエアバッグに過剰な勢いのヘディングをかまし、脳が盛大に揺れて失神、もししていなくともしばらくはモビルスーツなど動かせはしないだろう。

敵が動かなくなった。

 

「この隙に...」

 

ルナはやっと追いついてきたファンネルたちに照準を合わせさせた。的は動かない。今度こそジョイントを潰す。

そしてふたたび射撃命令をしようと意識を敵に向けた瞬間ーーーーーーーーーーー

 

 

ッッ!!!ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界が、 凍った。

 

 

 

 

 

 

 

 

無論すぐに錯覚と気づいた。

だが、ルナは凄まじい感覚に襲われていた。身体は中に鉛を流し込まれたように重く、背筋には得体の知れない寒気が這い回り、頭の中は不安や恐怖、焦りが綯い交ぜになった何かが万華鏡のように回っていた。両手は震えて力が入らず、操縦レバーもまともに握れない。息も荒く、速くなった。

 

ルナは自分をこのような状態にする原因ーーーーーーモニターに映る敵機体に目を向け、そして敵の変貌に目を見張った。

外見上は変形したなどということはない。だが、カメラアイの連邦特有の蒼色は濃いクリムゾンレッドとなって怪しく輝き、全身装甲の一部も同じように発光しているように見えた。さらには敵意とも殺気ともつかない異様なオーラとでも言うべきものが迸っているように思えた。

 

そこで悟った。

 

敵の機体は、同じだ。

七年前に忌むべき敵の象徴として周りの大人から教え込まれたあの機体、V字のブレードアンテナこそ付いてはいないが間違えようもない連邦の悪魔ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

そう、それはーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガン......ダ...ム......」




またまたオリ設定をば。

ルナ・メルカトル:17歳。ネオ・ジオン残党軍所属。階級は中尉。モビルスーツ「ヴァイシャ」のパイロット。

デルト・ハイト:ネオ・ジオン残党軍所属のパイロット。階級は准尉。(モブです)

ヴァイシャ:「袖付き」のモビルスーツ。「クシャトリヤ」の量産型を目指して開発された。「クシャトリヤ」と比べてバインダーが4→2枚に減少。よってファンネルも24→12基に減少。
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