救える者になるために(仮題)   作:オールライト

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体育祭突入!
障害物競争と騎馬戦をどうするか…
トーナメントの構想はあらかた終わってるんですけどね…
てなわけで十四話です
どうぞ!


雄英高校体育祭編
第十四話 燃えよ若き有精卵!雄英高校体育祭!(有精卵は燃えるのか!?)


 

雄英高校体育祭の開催まで残り一週間となり、学校全体は程よい緊張感と気迫で満ち溢れていた。

日夜トレーニングを続けているもの、学校のトレーニングルームで己を磨くもの、クラスメート同士で摸擬戦をし切磋琢磨しあうもの、早朝から鍛錬をするもの。

皆一様に体育祭にむけて、着々と準備を進めていた。

疲労のせいか授業中の居眠りが多発するのも最早恒例となりつつあり、教師達も苦笑いである(一部のミイラマンは一切の容赦はしないが)。

もちろんその興奮や気合の入りようの高さは1-Aも例外ではない。

皆、普段はしないトレーニングや己の個性磨きを、自分なりのやり方で進めている。

そんなやるき十分の1-Aヒーロー科だったのだが、今日は少し、いやかなりそわそわしていた。

 

「遅い…」

 

しきりに貧乏ゆすりをしながら教室のドアを何回もチラッチラッ、と横見している耳郎のつぶやきが教室に響く話し声の中に消えていく。

見ると、切島や上鳴、轟や爆豪など、今来ているクラスメートたちのほとんどが、耳郎ほどあからさまではないが、それでもチラチラとドアの方に視線を向けていた。

その様子は半分挙動不審であり、怪しさは満点だ。

そして、そんなクラス中の視線を浴びていた扉が、ガラガラと音を立てながら開き始めた。

その瞬間、皆の視線が教室に入ってきた生徒に集中される。

その生徒とは

 

「おはよう皆。」

「あ…なんだ、尾白かよ…。」

「なんだって…」

 

フサフサしっぽの尾白君だった。

軽く右手を挙げて挨拶をする彼だったが、対するみんなの視線はがっかり、というか、期待外れといった視線をむけており、皆一応笑顔で挨拶を返していたが、隠しきれなかった『お前じゃない』オーラがあふれ出ていた。

 

(なにこの空気…俺が一体何をした…)

 

心の中で涙を流していた尾白が悲し気にため息を吐くと、先ほど尾白君を言葉の刃で傷つけた上鳴が慌ててフォローを入れる。

 

「あ、わりぃ尾白!?別に悪い意味じゃなくてよ!別にお前が嫌いとかそういうわけじゃなくてさ…。」

「わかってるって、一応俺だってLINEは見てたから。五十嵐のことだろ?心配なのは俺だっておんなじだしさ。」

「おう…まあ、そうなんだけどよ。」

 

そう言って、心の中で涙を拭いて笑顔を浮かべた尾白は、少しばかり表情を不安そうに暗くさせた。

それに続いて、上鳴もその表情を彼と同じように暗くする。

1-Aクラスメートがこんなにもそわそわしている原因。

それは、USJ事件以降病院に入院している五十嵐衝也にあった。

怪我の治療を体育祭に間に合わせるために病院へと入院した衝也は、皆で見舞いに行ったあの日以降も入院をし続けていた。

赤鬼やロッキンガールやアホの発電機などはそのあとも何度か見舞いに行っていたらしいが、つい先日、クラスで作ったグループLINEに衝也からのメッセージが入ったのだ。

内容は『た』『い』『い』『ん』『!』『が』『こ』『う』『い』『く』『!』

という11個の内容だった。

きっちり一文字づつで書かれたそのメッセージは、見ててイライラするほど読みにくかった。

ちなみにその内容にいの一番に返信した某ロッキンガールは

『うざいからやめろ。あと『っ』がない。』

と強めのツッコミを入れていた。

だが、言葉こそ強いものの、そのツッコミが来たのは衝也の内容が出たその数秒後である。

一体どれだけ携帯片手に画面を見続けたのか、非常に興味があるが、それを聞いたら恐らく心臓を破裂させられそうになるので、聞かないのが賢明だ。

そんな衝也と耳郎のやり取り、そしてクラスメートたちのおめでとうメッセージのやり取りが行われたのは昨日の放課後あたり。

ということは、衝也は恐らく今日から学校に登校することになるはずなのだが、待てど暮せど衝也は登校してこない。

 

「あんなこと言っといていまだに来てないんだよあいつ…もう予鈴なっちまうぜ…」

「言われてみれば、五十嵐って結構早めに登校してるよな、初日以外だけど。こんなに遅いのは初日ぶりかな…。」

 

上鳴の不安そうなつぶやきを聞いて心配そうに鞄を置いて、ドアの方に視線を送る尾白。

遅刻野郎として名をはせてしまった衝也は、そのせいもあってか、かなり早めに学校に登校するようになり、尾白やほかの者が来る頃には大体

登校中に拾ってきたテニスボールで遊んで相沢や飯田に怒られていたり、上鳴とかと鬼ごっこをして相沢や飯田に怒られていたり、箒をバットに見立てて遊んで相沢や飯田に怒られていたり、

とにかくバカなことをしては飯田や相沢に怒られ、クラスを笑わせていた。

そのせいか、衝也が登校しないこの数日間は、とても静かで、どこか落ち着かない雰囲気になっていたものだ。

もうそれだけ、衝也の存在がこのクラスに影響を与えていたということだろう。

そのことを考えた尾白は誰に言うでもなくぽつりとつぶやいた。

 

「…心配だな。」

「見舞いに行ったときは元気そうだったから大丈夫かなぁ、なんて思ってたんだけどよ…改めて考えるとさ、アイツ無理して元気な姿みせてたんかなぁ…なんておもっちまって。あいつの性格ならありえねぇ話じゃなくねぇしさ。」

 

頭をガシガシと片手で掻きながら心配そうにつぶやく上鳴。

尾白も、上鳴のその言葉を聞いて、少しだけ顔を俯かせた。

だが、ふと自分の目の前に人影ができたため、慌てて顔を上げた。

そして、自身の目の前に立っていた者へと視線を向けた。

 

「あ、おはよう耳郎さん。」

「ん、おはよう尾白。あ、上鳴も一応おはよう」

「俺はついでかよ…」

 

尾白の目の前にいた少女、耳郎響香は軽く手を挙げて尾白と上鳴に挨拶をした後、しばらくの間視線を尾白の方へとむけた。

その視線に気づいた尾白が不思議そうに首を傾げた。

 

「?あの…何かな耳郎さん?俺に何か用事?」

「あ、いや、用事ってほどでもないんだけどさ…尾白は登校中とか衝也に会わなかった?」

「え、いや、会ってないけど…。ていうか、会ってたら一緒にここまで来ると思うし。」

「あ…そっか、そうだよね。ごめん、ウチ変なこと聞いたね、今のは忘れて。ほんとごめんね」

 

尾白の言葉に一瞬目を丸くした後、申し訳なさそうな苦笑いを浮かべながら両手を顔の目の前で合わせながら自分の席へと戻っていく。

そんな様子を見ていた尾白はしばらく彼女の後姿を見送った後、上鳴の方へと顔を向けた。

 

「今日の耳郎さん、なんかいつもと様子違くないか?」

「あ、やっぱ尾白もそう思う?あいつ、俺が来た時にはもう学校にいてさ、開口一番さっきとおんなじ質問俺にしてきたんだよ。そのあともなんか落ち着かないってか…妙にそわそわしてるし。まあ、そわそわしてるのも様子が違うのも俺たちと同じだけど。」

「確かに、それもそうだな…。」

 

軽く肩をすくめて自嘲的な笑みを浮かべた上鳴の言葉に、苦笑いしながら数回うなずいて返答する尾白。

そして、予鈴5分前になって続々とまだ来ていなかったクラスメートたちが登校してきたが、そこに衝也の姿はない。

もうすぐSHRが始まる時間だというのに、一向に姿を現せない衝也にさすがに心配になってきたのかざわざわし始めた教室と大きくなり始めた耳郎の貧乏ゆすり。

だが、そんな話し声も

 

「おはよう皆。」

 

教室に入ってきた包帯だらけの相沢により中断される。

相沢は眠たそうにあくびをしながら教卓の方へと歩いていき、たどり着くとそのまま顔を教室の方へとむけた。

 

「さて、そんじゃちゃちゃっと出席とるぞ。…あ?なんで五十嵐がいないんだ?」

 

名簿と生徒たちを照らし合わせながら教室を見渡していた相沢だったが、衝也の席が空いていたのを見て、眉を顰める。

その反応に、思わず驚いたように緑谷が声をだす。

 

「え、先生は連絡かなにかはもらってないんですか?」

「いや、俺がもらったのは昨日退院したってことと、今日から登校してくるっていうことだけだ。今日休むなんて連絡は入ってきてない。」

「え、じゃあ、衝也の奴はどこに行ったんすか!?」

 

相沢の返答を聞いた耳郎が思わず立ち上がって質問をし、それにつられたかのように周りも心配そうに近くの者同士でざわつき始めた。

不安とざわつきが広がっていく教室をみて、相沢はいつものように半ば脅して静かにさせるわけにもいかないので、できるだけ声を荒げずに言葉をつづけた。

 

「落ち着けお前ら。その様子だと、アイツ自身から連絡をもらったやつはいなさそうだし、とりあえず今から、五十嵐の両親から連絡がないかどうか確認してくる。お前らは教室でしばらくの間自習なりなんなりしててくれ。くれぐれも、騒がないようにな。」

 

そう言って片手で頭を掻きながら扉の方へと歩いていく。

そして、相沢が扉を開けようと手を伸ばした時、

不意に、相沢が触れていないのにドアが横にスライドされた。

その様子に、相沢は思わずびくりと肩を少しだけ上げる。

それとほぼ同時に、その扉を開けた一人の少年も驚いたように肩を上にあげた。

 

「げぇッ!ね、寝袋先生…!」

 

その扉を開けた少年とは、教室の目の前の廊下で、まるで『一番会いたくない相手に出会っちゃったよ。めんどくさいなー』みたいな表情を浮かべている

五十嵐衝也、今まさに話題となっていた少年だった。

病院でしていた包帯はすべてとれており、少しゆがんだ右腕以外は完璧に元通りになっている。

特に怪我らしい怪我をしていない、完!全!復!活!を遂げていた衝也は、

 

「……」

「……」

 

しばらくの間目の前の担任と視線を交わした後

 

「……おはようございまーす。」

「待て。」

「ですよねぇー」

 

普通にスルーして中に入ろうとしたが、相沢先生の「何とか繊維に何とか合金の光線?を編み込んだ捕縛武器?(衝也談)」によってぐるぐる巻きにされた。

身体中包帯だらけなのにどうやってそれ取り出した!?という衝也を含めた全員の心の中のツッコミに気づくようすもない相沢は眉間にしわを寄せながらぐるぐる巻きの衝也に話しかける。

 

「お前、何だってこんな時間に学校に来た?」

「何言ってんですか先生、学校に登校するのは生徒の義務ですよ!その義務に俺は従っただけです!」

「……」

「あ、すみません、真面目に話します。はい、ほんとすみません。」

 

おちゃらけた調子でごまかそうとした衝也に対して、無言で締め付けをきつくしようとする相沢にすぐに謝罪を入れた衝也。

その姿はさながら捕食される前の芋虫である。

 

「いや、まー、なんていうんですか?俺ってほら、一日の生活パターンはきちんと決まってるタイプなんですよこう見えて。何時に起きて何時に飯食って歯ぁ磨いて寝る~…みたいな感じで?だから俺っていつも無遅刻無欠席なわけですよ。もうほんと自分の体内時計の正確さっぷりに思わず感心しちゃいますよねー。だからそれだけに病院での入院は大変だったっていうか?もう俺自身の生活リズムが乱れて乱れて。もう飯の時間も何もかも管理されてほんと地獄だったていうか。それで俺の体内時計もちょっと狂っちまったていうか」

「長い、まとめろ」

「寝坊しました」

『それだけ!?つーか言い訳なっが!?』

 

自身の寝坊を正当化しようと必死に話していた言い訳の長さと結論の短さにクラスメート全員のツッコミが衝也に突き刺さる。

だが、そんなことはどうでもいいとばかりに相沢は衝也に質問を続ける。

 

「遅刻するってわかってたんだったら連絡くらいしたらどうなんだ?」

「どうせ遅刻するにしたって学校には行くでしょう?なら学校に着いた時に言えばいいかなぁって。先生の言う、無駄を省いた合理的思考ってやつですよ。」

「……」

「痛い!先生、痛い!痛いです!骨がミシミシと悲鳴を上げています!つーか俺昨日まで入院してたんですよ!?少しは加減しろよこの効率厨!あ、すいません嘘です!嘘だから締め付けを強くしないでくださぁい!」

 

そう言って相沢の決め顔のまねをする衝也を見て無言で締め付けを強くした相沢。

それに伴って衝也も苦しそうにじたばたと暴れまわる。

時折、暴言や誹謗中傷を口にして暴れまわる衝也を見ていた相沢はため息を吐いた後、ゆっくりと拘束をほどいた。

 

「うう…退院早々えらい目にあった。…訴えてやる」

「勝訴できるとでも思ってんのか?ったく…いつも通り、平常運転だなお前は。あんだけ傷ついて、入院までして、生死の境をさまよったっていうのに…」

 

あきれた様にため息を吐いた相沢がそう言葉をこぼしたのを聞いて衝也はしばらく相沢に視線を向け続けた後、ゆっくりと身体を起こし始めた。

 

「まあ、あれですよ。」

「あ?」

「怪我しようが入院しようが、たとえ死のうが生きようが『俺』は『俺』です。変わることはありえない。これからも俺は、俺のやりたいように、後悔のないようにやってくってだけです。」

「…そうか。」

 

軽く誇りを払いながら立ち上がる衝也を見て、軽く笑みを浮かべた相沢は片手でがりがりと頭を掻いた後、ゆっくりと口を開いた。

 

「五十嵐」

「はい?」

「よく、戻ってきたな。またよろしく頼むぞ。」

「……」

 

相沢のめずらしすぎるねぎらいの言葉を聞いた衝也は一瞬驚いたように目を見開いたかと思うと

 

「気持ち悪い!」

 

普通にドン引きした。

その様子を見た相沢は、ありとあらゆる感情を消し去ったかのように無表情でドン引きしている衝也を見続けた。

 

「いや、何急に普段しないようなことしてくるんですか!やめてくださいよ寒気がします!ほら、見てください寒イボたっちまったじゃないですか!」

 

そう言って自身に腕を見せてくる衝也を見続けた相沢は、ゆっくりとため息を吐いた。

 

「五十嵐」

「?」

「遅刻の反省文、後で提出しとけよ。最低5枚かけ。」

「なんですとぉー!?というか遅刻の反省なんて内容ほとんどないじゃないですか!5枚なんてムリゲーです!」

「絞り出せ」

「理不尽だ!」

 

相沢の衝撃の一言で顔をものすごい表情へと変える衝也。

そんな相沢と衝也を見て、教室にも笑い声が響き渡る。

相沢も、衝也も、耳郎も、クラスの全員が、その光景を見て思う。

ああ、これが、いつもの1-A(俺たち)だと。

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

衝也が無事退院したその日、クラスメートほぼ全員にねぎらいの言葉を言われ、もみくちゃにされた衝也。

特に、峰田と蛙吹、耳郎や緑谷などの共に戦っていた者たちと、飯田や上鳴や瀬呂、障子に常闇などの普段から割と仲の良い奴らにはとくにもみくちゃにされていた。

ちなみに一部のいがぐりはなにやら複雑そうな表情を浮かべながら衝也のことを見ていた。

そんな、波乱万丈のようで、実はいつも通りに戻っただけの学校も終わりを迎えた放課後。

教室であるものは帰り支度を、あるものは少しばかり残ってトレーニングをしていこうとしていた。

そんな中、鞄の中身を整理しながら「どっこいしょ」と声を上げて椅子から立ち上がった衝也のもとに

 

「おーい!しょ・う・やぁ!」

 

一人の金髪チャラ男少年、上鳴電気が大声を出しながら衝也の元へと駆け寄っていき、勢いよく肩を組んできた。

そんな上鳴に肩を組まれた衝也は

 

「フンっ!」

「ゴフッ!?」

 

容赦なく腹に拳を叩きこんだ。

一瞬にして床へと腹を抱えて座り込んだ上鳴を見下ろしながら衝也は軽く肩を回す。

 

「いきなり肩を組もうとするなよ、こっちは退院したばっかなんだから。もっと俺の身体を労われ!」

「お前は友人の身体を労われよ…」

「いたわるような友人じゃないだろお前は。」

「くそ!久々だからあこんな扱いを懐かしいと感じる自分がいるぜ…」

「普通に気持ち悪いぞお前…」

 

苦しそうにしつつも立ち上がってそういう上鳴。

そんな上鳴をあきれた様に見ながら衝也は軽く指を耳に突っ込んで鞄を背負い始めた。

 

「んで、わざわざ俺の治りたての肩を壊そうとしてまで言いたかった用事とはなんですかな上鳴くん?」

「治りかけの肩で出せるようなパンチじゃねぇだろ今の…ばっちり回復してんだろーが…」

「その様子ならやっぱ誘ってもダイジョブそうだな。」

「てか、相変わらず容赦ねぇよな。一歩間違えりゃ大変なことになりそうだけど。」

「今度は切島に瀬呂か、どうせならもう少しかわいい女の子にでも近寄ってきてほしいんだけどなー」

 

上鳴に続いて出てきたのは切島と瀬呂の二人。

瀬呂は心配そうに上鳴を見ているが、切島の方はいつものことと半ば放置して衝也に話しかけてきた。

それを見た衝也も軽く肩をすくめながらやれやれといった様子で首を振る。

だれとでも仲が良く、クラスのガヤ担当でもあるこの四人は、つるむこともそれなりに多い四人であり、時々一緒に飯を食いに行ったりしているのだ。(衝也はこの三人にすでに莫大な借金があるぞ!)

 

「まあまあそういうなって、お前にとっても悪い話じゃねぇからよ。」

「ふむ、まぁ詳しく聞いてみようじゃないか。」

 

瀬呂が笑顔でそういうのを見て、衝也も鞄を肩にかけながら三人の話に耳を傾ける。

 

「実は、俺たち今日の放課後に第26トレーニングルームの予約入れてるんだよ。んで、そのメンバーの名前にお前も入れといたから、こうして誘いに来たわけだ。」

「え、ちょっと待ってくださるかな切島君。普通、順番逆じゃね?」

「あそこなら退院初日のお前のリハビリにもうってつけだろ?変に個性使ったりせず鍛えるだけだし。どうだ、俺たちの気遣いに泣いて喜べ。」

「偉そうにしてんな瀬呂!スルーすんじゃねぇよ!順番が逆だって言ってんの聞こえねぇのか?普通は俺に声をかけてからメンバーに入れるもんだろうが!」

「なんだよ、じゃあお前はいかないのか?」

「行く!」

「「行くんかい」」

 

上鳴の問いかけに笑顔で即答した衝也を見て思わずツッコミを入れてしまう瀬呂と切島。

第26トレーニングルーム。

数多くあるトレーニングルームの中では珍しい『個性使用完全禁止』の場所である。

ほとんどのトレーニングルームは教師が同伴していれば個性の使用によるトレーニングも可能なのだが、その26トレーニングルームはその個性使用すら禁止される。

その理由は、そのトレーニングルームの目的が、個性以外の基礎的な力を伸ばすことだからである、

まあ、速い話が筋トレジムのクオリティを極限まで高めた感じの場所である。

常に最新鋭の機材を持ちいって、様々な個所の筋力を鍛えることができる最もシンプルなトレーニングルームの一つである

 

「リハビリのためにまずは筋トレから始めようと思ってたんだよ、サンキューな三人とも。」

「おう、気にすんなって!今度缶ジュースおごってくれ」

「ああ、気にすんなよ、俺豆乳でいいから」

「俺ら友達だからな!コーラでいいぜ」

「お前らの友情を信じた俺がバカだった畜生!」

 

本来ならば許可さえ下りればタダで使えるトレーニングルームに金がかかることになってしまい、頭を抱える衝也。

そんな彼を笑いながら、上鳴は懲りずに衝也と肩を組み、指を前へと突き出した。

 

「まぁ、こまけぇこと気にすんなって!さ、行こうぜ行こうぜ」

「お前みたいなすっからかんな頭持ってたらどれだけ楽なんだかなぁ…」

「はは、気楽そうでいいよなー。何も考えてなさそうで。」

「ばっか、俺だって結構いろんなこと考えてんだぜ?こう、なんていうの、地球の平和…とか?」

「「「内容うっすいなぁ…」」」

 

どや顔でとんでもなくうっすいことを言った上鳴に半ばあきれたような顔を浮かべる三人はそのまま教室を出てトレーニングルームへと向かっていった。

そんな様子を一部始終見ていた今日トレーニングを一緒に行う予定の八百万、蛙吹、耳郎、葉隠の四人は衝也達が教室から出ていったのを見つめていた。

 

「すごいですわね、五十嵐さん。あれだけの怪我を負ってもなおめげずに己の実力を高めようと奮闘する。私たちも見習わないといけませんわね!」

「いや、リハビリに筋トレするようなアホ見習っちゃだめでしょ…。明らかにオーバーワークじゃん…。」

 

衝也の様子を見て、ぐっと拳を作る八百万に対し、半ばあきれた様にため息を吐いた耳郎。

だが、耳郎とは対照的に、少し感心したように数回ほどうなずいている(?)葉隠は感嘆の言葉を述べる。

 

「でもさ、退院後すぐにトレーニングするなんてすごいよねぇ。…だからあんなに強いのかも?私もちょっとトレーニングしてみようかなー。」

「ケロ…いくら怪我が治ったとはいえすぐにトレーニングをするなんて、少し心配だわ…。」

 

そう言って心配そうに衝也の出ていった方向を見ていた蛙吹。

そんな彼女たちの反応を見た耳郎はあきれた様にため息を吐いた後、手に持って肩に置いていた鞄を軽く揺らしながら肩をすくめた。

 

「ったく、あんなケガした後だってのに、もう鍛えようとするなんてさ。あそこまでアホだともうあきれを通り越して逆に感心するわほんと。バカは死ななきゃ治らないっていうけど、衝也の奴は死んでも治らなそうだよね。実際死にかけても治らなかったし。」

 

耳郎のあきれ半分のその言葉に苦笑いを浮かべる八百万と、同意するようにうなずく蛙吹。

そんな彼女たちの反応を見た耳郎は軽く笑った後、衝也達と同じように教室を出ようと歩き始めた。

 

(ま、だからこその衝也なんだろうけどね…)

「さ、とりあえずウチらも早く行こうよ。あんまり遅いと場所とられて特訓できなくなるかもだしさ。」

「そうですわね。五十嵐さんたちに負けないよう私たちも切磋琢磨していきましょう!」

「ケロ…そうね、五十嵐ちゃん達に置いて行かれないように、私たちも頑張らないと!」

 

そう言って気を引き締めたような表情で歩いていく八百万と蛙吹だったが、その二人とは対照的に、葉隠だけは動かずに何かを考えているように腕組をしている。

時折「あれー、私の思い違い?」とつぶやいているのが聞こえてくる。

そんな彼女を見て、耳郎が葉隠へと声をかけた。

 

「何やってんの透?速く来ないと置いてくよ!」

「…ねぇ、響香ちゃん」

「?」

 

改まって名前を呼んだ葉隠に違和感を覚え、軽く首を傾げた耳郎。

そんな彼女を見た葉隠は組んでいた腕をほどき、真面目そうな雰囲気を醸し出したまま意外なことを口にした。

 

「響香ちゃんって、いつから五十嵐君のこと『五十嵐』じゃなくて『衝也』って呼ぶようになったの?」

 

その言葉を聞いて八百万と蛙吹は一瞬目を見開いた後、お互いに顔を向けあった。

そういえば、言われてみると耳郎はUSJの事件の前は確かに「五十嵐」と彼のことを呼んでいたが、いつの間にかそれが「衝也」に代わっている。

何気ない変化なため気づくことはなかったが、よくよく考えてみると、耳郎が下の名前で呼んでいる男子はそれこそ衝也しかいない。

そんな彼女が呼び方を変えたということは…?

ヒーロー科に入学しているとはいえ八百万たちも年頃の女子高生。

色恋沙汰の話はとっても大好きであり、そういった男女の関係の些細な変化はとっても気になるお年頃なのである。

八百万も、蛙吹も、気づかれないようにこっそりと…しかしはたから見たらもろばれするくらい耳郎の方へと顔を向ける。

そして、その耳郎は

 

「な、え…あ…」

 

顔どころか耳のイヤホンまで赤く染まっていた。

 

「ち、ちち、違うって!ここ、これはね!べ、別に変な意味なんかじゃなくて!そ、そそ、その…あ、あれ!あいつにはその、いろいろな借りができたし!な、名前くらい呼んでやってもいいかな…っていうか!ぜ、全然深い意味は無くて!ほ、ほんとにそう!ほんと、全然そんなつもりじゃないから!!」

 

顔を真っ赤にさせながら手と首をぶんぶんと横に振りまくる耳郎。

それに合わせて耳の真っ赤なコードもぶんぶんと横に振られていく。

 

「て、ていうか!名前呼ぶなんて別に普通じゃん!ウチらだって、女子同士で名前呼びあったりするし…それが男子ではその…しょ、衝也だったってだけ!全然そんな感じじゃないから!ほ、ほら!三人とも早くいくよ!」

 

早口でそうまくしたてた耳郎はいまだ真っ赤だった顔をぐるんと身体ごと回転させて後ろにやり、そのままずんずんと教室を出ていった。

そんな彼女の首はうなじまで真っ赤だった。

その様子を一通りみた三人は、しばらくの間茫然とした後、ゆっくりかおを見合わせた。

 

 

「間違いないね」

「ええ、間違いありませんわ。」

「絶対に間違いないわね」

 

 

「「「絶対に何かあったんだ(のね)(りましたわ)!」」」

 

 

1-Aヒーロー科女子

心も腕っぷしも男顔負けの有精卵、されど心は乙女のままなのである。

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

衝也も無事退院し、各々がトレーニングを積み重ね、万全な状態でついに迎えることができた体育祭初日

1-A控え室は、緊張と期待と不安で包まれていた。

 

「おい、外みたか!?今年の1年ステージの観客はんぱねぇぞ!!なんか俺変にテンション上がって緊張してきた!」

「落ち着け瀬呂、何を言ってるかわからないぞ。まあ、世間ではヴィランの襲撃を耐え抜いた超新星ルーキーなんて呼ばれてるからな。期待度も跳ね上がっているのだろう。」

『ぼ、僕、もう一回お手洗いに行っとこうかな…』

 

瀬呂が興奮半分不安半分のような声色で騒いでいるのを聞いて、障子が冷静に状況の分析を口にし、口田が不安そうな表情でハンドサインをしていた。

 

「けどさ、ヴィランの襲撃とかあった後にやるのってやっぱちょっと不安だよねー、大丈夫かなー」

「聞くところによるれば、今年は体育祭の安全を守護せし警備員の数をふやし、プロヒーローにまで警備の委託をしているらしいな。」

 

芦戸の全然不安そうに感じない話に腕を組んで答える常闇。

それを聞いた尾白は不安そうな表情を浮かべた。

 

「確かに、この体育祭にいきなりヴィランが乗り込んでくるとかも、ありえなくはないもんな…そうなったら俺たちどうなるのかな?」

「大丈夫ですわ。仮に襲撃しに来たとしても、先生方や観客、警備員を含め多くのプロヒーローたちが来ているんです。よほどの強者のヴィランでなければすぐに鎮圧されるはずですわ。」

 

尾白を励ますように声をかける八百万。

各々がこれからの体育祭についてや、ヴィランの襲撃について、などを話していたり、あるいは緊張をときほぐそうとみんなでおしゃべりをしたり、精神統一をして集中力を高めようとしたりと、様々なことをしている中、耳郎は一人、控室の隅でうんざりした様子でおなかをさすっていた。

 

「うあー、緊張するなぁ…なんか、おなか痛くなってきた。」

「おう嬢ちゃん!こんな隅っこで何しとんじゃい!」

「うわぁぁ!」

「ッ!ノグファッ!?」

 

そんな彼女の背後から声が聞こえたため、耳郎はつい驚いて思いっきり背後にる者へとコードを叩きつけてしまう。

そして、背後にいた少年も顔面をコードで打たれて、痛そうに鼻のあたりを抑えていた。

 

「あ、ご、ごめん衝也。ちょっとびっくりしちゃって…」

「い、いや…こっちにも非はある、謝んなくていいさ…。あ、ごめん、やっぱ無理結構痛いかも…」

「ご、ごめん…」

 

真っ赤なお鼻の衝也トナカイはさすさすと自身の鼻をさすりながらしゅんとしている耳郎に「あ、違う違う!別に攻めてるわけじゃないからさ、大丈夫!」と慌てた様に励ました。

実際いきなり背後から話しかけた衝也にも非はあるのでまさしく半々といったところだろう。

 

「いやぁ…しっかしみんな緊張してるよなー。なんか、ちょっと息苦しいよな。もっと肩の力抜けばいいのに。」

「アンタみたいにアホばっかじゃないんだって。図太いアンタには繊細な奴の気持ちはわかんないの。」

「何を言う!俺の心だって繊細で敏感なんだぞ!?」

「『繊細』と『敏感』の意味を辞書で調べてこいこのバカ。」

「ならば八百万から辞書を借りてこなければ!」

「……」

「…冗談だよ。だからその『おお、めんどくさいなこいつ』みたいな視線を向けないでくれよ。」

 

耳郎は目の前ではしゃいでる衝也にジトーッとした視線を向けたまま、おなかをしきりにさすっている。

衝也はしばらく苦笑いを浮かべていたが、不意にそのおなかに目が行き、口を開いた。

 

「…便秘を治すにはまず食生活を見直すことをお勧めするぞ耳郎」

「あぁ?」

「ごめんなさいマジですいません何でもしますからそのイヤホン=ジャックをこちらに向けないでください。」

 

割とがちなトーンと視線に思わず平身低頭して謝り倒す衝也を見て、あきれた様にため息を吐いた後コードを元の位置へと戻した。

 

(ったく、こいつはこんな時でも平常か…。相変わらずあきれるほどの図太さというか…ある意味ヒーローに向いてるのかもね…。)

 

そこまで考えて笑みを浮かべた後ふと自分が感じていた緊張がほぐれ、笑みを浮かべられるほどの余裕をモテていることに気が付いた。

心なしか、先ほどより身体も軽く感じられる。

どうやら、衝也のバカな行いのおかげで少しだけ心にゆとりを持てたらしい。

 

(まさか、こいつ、ここまで考えて…?)

 

思わず視線を衝也の方へとむけるが

 

「…?トイレはここを出て左にあるぞ?」

「うん、やっぱないな、偶然だ。」

「なんだろう、なぜだかわからないが俺は今バカにされていたようなきがする」

 

衝也の間抜け面をみてすぐにその考えを外へと放り投げた。

それを見た衝也はなんだか釈然としないという風に首を傾げた。

が、すぐに視線をとある方向へとむける。

その表情はいつになく真剣で、あのUSJのとき並みの表情をしていた。

そんな衝也を見て耳郎も視線を彼と同じ方向へと持っていく。

そこにいたのは、緑谷と正面から向き合い、なんと宣戦布告をし始めたクラス最強と周囲から言われている天才ハーフ&ハーフイケメン、轟焦凍だった。

どうやら、お互いにお前にはかつ!みたいな感じの熱い言葉を言っているようだ。

 

(見てるのは…緑谷じゃなくて、轟の方?)

 

もしかしてこいつもだれが一番とか、そういったことに興味があるのだろうかと首をかしげた耳郎は思い切って聞いてみることにした。

 

「アンタも、優勝とか、誰かに勝つとか、そういうのに興味あるわけ?」

「んー?そりゃないって言ったらうそになるな。誰だって上からの眺めを見てみたいってよくはあるし、それは俺にだって例外じゃない…」

 

耳郎の問いかけに一瞬彼女の方を向いて目を見開いた後、ガシガシと頭を掻く衝也。

その顔はやはり真剣そのもので、視線も轟から動かない。

 

「けど、今はそんなことより大事なことがあるからなー。優勝云々の前にさ。…あのひとにも頼まれちまってるし。」

「?まあ、なんでもいいけどさ。そろそろ選手入場だよ、ほら、あそこで飯田が騒いでる。」

 

そう言ってコードを飯田の方に向ける。

つられて衝也が飯田を見てみると、まるでロボットのようにビシぃ!と一つの動作ごとに動きを止めて皆を誘導している飯田がいた。

動きそのものまで真面目なその姿は最早機械である。

 

「うーむ、アイツは普段と変わらず平常運転だなぁ。あんな図太い神経持ってるやつそうはいないな、うん。」

「……」

「…何よその目は?」

「別に。」

 

目で『お前にだけは言われたかないだろう』ということを伝えようとした耳郎だったが、衝也は首を傾げるばかりで伝わってそうにない。

そんな彼を見てため息を吐いた耳郎はゆっくりと飯田の誘導しているところへと移動する。

それについていくように衝也も移動を開始した。

と、その時、耳郎はふと立ち止まり何かを思い出したように衝也の方へと顔を向けた

 

「あ、そういえばさ、アンタあれはどうなったの?ちゃんと考えてある?」

「…?あれ?あれってなんだ?」

 

訳が分からないという風に首を傾げる衝也に、耳郎は呆れた様に言葉を続ける。

 

「だ・か・ら!あれだって!

 

 

 

選手宣誓!ちゃんと言葉を考えてあんのかって聞いてんの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「選手宣誓??」

 

 

 

その衝也の言葉を聞いた瞬間

耳郎は確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この体育祭、のっけからグダグダになるであろうことを。

 

 




障害物競争どうするかなー。
ぶっちゃけある裏ワザを使えばすぐに終わるんだけど
そうするとさすがになー
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