救える者になるために(仮題)   作:オールライト

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トーナメントに行きたいんだけどなんか書いてるうちにどんどん楽しくなっちゃって、結果文章がグダグダになるわトーナメントに行けないわという悪循環に陥ってしまっている…。
まぁでも、このオリキャラも後々結構重要なキャラになっていきますし、そのためにもこの話は必要なのです!
…た、たぶんね?
というわけで、第二十一話です、どうぞ


第二十一話 置き土産なんて残されてももらったほうはうれしくない。

人間とは、あまりに予想外のことが起こると固まってしまい、動こうと思ってもとりあえず何をしたらいいのかわからなくなってしまうことが多々ある。

現在の1-Aの生徒たちの状況がそれを淡々と物語っているといえるだろう。

突如として衝也に攻撃を仕掛けてきた士傑高校の生徒。

その生徒がまさかの超絶可愛いパツ金の女の子

しかも体をこれでもかと密着させ、顔をそれこそ接吻できそうなほどの距離に近づけている。

とどめに衝也はどうやらその女の子と面識があるように見える。

どれもこれも予想どころか普通ならあり得ないような出来事が立て続けに起きており、もはや1-Aの生徒達には何が何やらさっぱりというような様子だった。

 

「なぁ…俺達こういう時どういう反応すればいいわけ?正直あまりの超展開に頭がついてきてねぇんだけど…」

 

「でもなんか知り合いっぽいよね!?あの二人めちゃ深そうな関係性みたいだよね!?」

 

「いやいやいや!『あの』衝也にこんな可愛い子ちゃんの知り合いいるわけないでしょ!?」

 

切島は唖然とした様子で、芦戸が興奮した様子で言葉を漏らし、その言葉に目を限界まで見開いた上鳴が本人が聞いたら思わず個性を使ってしまいそうなほどの根拠でその可能性を否定する。

そんな中、話のタネの一人である衝也は少しばかりひきつった笑みを浮かべながら眼前の女の子、恋へと話しかけた。

 

「俺に会いに来たってどういう意味だよ…?ていうかできれば俺の身体から離れて話してくんない?」

 

「おや、久しぶりに会ったっていうのにどうしてそんなつれないことを言うんだい?少なくともボクは君との再会を身が焦がれるほど待ち続けていたというのに。」

 

「そのまま焦げて灰になってどうぞ。」

 

「アハハハハ!辛辣だなぁ、あんまりひどいとさすがのボクも泣いてしまうかもしれないよ?ボクの心はガラスのハートなんだからね。」

 

「防弾どころか戦車がいても壊せねぇだろそのガラス。つーかお前いい加減に体から離れろ!お前だって年頃の女子だろぉが!こんな不用意に身体を密着させんじゃねぇ!これが峰田だったら大変な事になってるからな!?」

 

「ふむ…その峰田という名前の人がどんな人なのかはひとまず置いておくとして、だ。ボクのことをちゃんと女子として扱ってくれるのはとてもうれしいんだけど…」

 

そこまで言葉を続けた恋と呼ばれる女子は衝也の目に向けていた視線をゆっくりと下げ、

 

「それなのに反応すら示さないというのは、少し残念かな?」

 

ある一点に集中させて少し笑みをこぼした。

より厳密にいうなら衝也の下半身のある一点に視線を集中させて。

 

「お前マジで俺から離れろよ!?なんてとこ凝視してんだてめぇは!!」

 

「うーむ、ここまで反応がないと逆に心配になってくるな…ねぇ衝君、君にとってボクはそんなに魅力のない女の子なのかい?」

 

「いきなり人に蹴りかましてきて、あまつさえ急所めがけて攻撃してくる奴に反応なんざできるわきゃねぇだろ!」

 

「いや、もしかしたら君がED(〇〇不全)という可能性も…」

 

「マジで離れねぇとその顔面ぶん殴るぞほんとに!?」

 

「フフフ、そういって君が本当にボクを殴ることが果たしてあったかな?ボクの記憶では今まで一度としてなかったように思えるのだけど。」

 

「わかってるならはよどけ!今どけすぐどけ早くどけぇ!」

 

「その要望は却下させてもらうよ。久しぶりに衝君と会えたんだ、ボクとしてはもう少しこうしていたい。」

 

そういってさらに身体を近づけてくる恋に思わず『だぁぁぁぁ!!』という意味不明な大声を上げる衝也。

そんな二人を見ていた上鳴と峰田はともに血涙を流しながら悔しそうにどこからか取り出したハンカチを噛んでいた。

 

「嘘だろ…嘘だろぉ!?なんで、なんで衝也にあんなかわいい子の知り合いが…!俺には…あんなかわいい知り合いなんていねぇのに!」

 

「なんで五十嵐にいておいら達にいねぇんだよぉぉぉ!アイツにいるんならオイラにだって一人や二人いるはずだろぉがぁぁぁぁ!!?」

 

「お前ら、それ衝也の前でいうんじゃねぇぞ、ぶっ飛ばされるから。」

 

悲痛のあまり雄たけびに乗せて衝也を軽くディスっている二人に一応くぎを刺しておく瀬呂。

そんな三人の少し後ろでは、麗日、芦戸、葉隠、八百万の女子四人が興奮冷めやらぬ様子で衝也と恋のやり取りを見つめていた。

 

「うわぁ、うわぁ!!なんか『運命の再会』って感じがしとるんやけど!!なんか猛烈にドラマチックな展開が目の前で繰り広げられとるんやけど!!」

 

「気になるぅ!五十嵐とあの子がどういう関係なのかすごく気になるぅ!!」

 

「麗日さんも芦戸さんもダメですわよ。あまり他人の交友関係を外野がとやかく言うのを好まない方もいらっしゃいます。ここはあまり不用意にかかわらないようにしませんと!」

 

「と言いつつ、本音は?」

 

「ものすごく気になりますの!」

 

「だよねぇ!私だって気になるもん!やっぱ学生って言ったら恋愛(これ)でしょ!」

 

麗日と芦戸をたしなめていた八百万だったが、葉隠の陽動により高らかに自身の好奇心をさらけ出す。

そんな興奮しっぱなしの四人とは対照的に落ち着いた様子の蛙吹はいまだ言い争い(とは言っても衝也が一方的に文句を言い続けているだけだが)を続ける二人を見て、不思議そうに首を傾げた。

 

「あの人、五十嵐ちゃんのお友達かしら?でもお友達にしてはちょっと仲が良すぎるようにも見えるけど…耳郎ちゃんはどう思うかしら?…あれ、耳郎ちゃん?」

 

自身の疑問を口にしながら隣にいるはずの耳郎へと言葉を持ち掛けた蛙吹だが、彼女が視線を送った先に耳郎の姿は見られなかった。

先ほどまで隣にいたはずの人物が消えたことに驚きつつも蛙吹はきょろきょろと首を回して耳郎を探し始める。

だが、そんなことを知る由もない衝也と恋はいまだ言い争いを続けていた。

 

「やっぱり前よりもだいぶ筋肉が大きくなってるみだいだ。相変わらずトレーニングばかりの生活かな?身体を鍛えるのもいいけれど、たまには学生らしく遊ぶのも大切だとボクは思うよ?というわけでどうだろう?今度ボクの家に久しぶりに遊びに来るというのは?父さんも母さんも衝君にあったらきっと喜ぶと思うんだ。あ、それかボクが衝君の家に遊びに行こうか?久しぶりに衝駕さんと静蘭さんにも会いたいし。」

 

「行かねぇよ、誰が行くか。そして俺の家にも来なくていい。ていうかなんで以前の俺の肉体の大きさ知ってるんだよ。」

 

「それは…ねぇ?さすがにこの場でいうのはちょっと」

 

「何をした!?お前一体何しやがった!?返答次第じゃ…」

 

「…アンタはぁ…」

 

「…ん?」

 

若干顔をヒクつかせながらそう叫ぶ衝也は恋にさらに文句を言おうと口を開く。

が、彼が文句を言おうとした瞬間、自分のすぐ横から聞きなれた人物の声が耳に入ってきたため、言葉を中断してそちらの方をへと顔を向ける。

その瞬間、彼の目の前に広がった光景は…

 

 

こちらに向かって勢いよく迫ってくる右拳だった。

 

「いつまでくっついてるつもりだぁぁぁぁ!!」

 

「おっと。」

 

「べばらぁぁ!!?」

 

振りぬかれた拳が怒号と共に衝也の鼻頭へと突き刺さり、衝也は打ち付けられた拳の勢いそのままにきりもみ状態で吹き飛んでいく。

ちなみに恋は衝也が殴られる寸前ちゃっかり彼から身体を離したため吹き飛ばずに済んだ。

そんな男子高校生一人を軽く吹き飛ばすほどの威力を誇る右ストレートを顔面にたたきつけたのは、ほんの少し前まで蛙吹の横にいたはずの耳郎響香ちゃんだった。

荒々しく肩で息をしながら耳たぶのプラグを揺らす彼女の右拳からは心なしか蒸気のような煙が見えている。

そんな彼女の右ストレートを目の当たりにした切島は唖然とした表情で感嘆のつぶやきを漏らす。

 

「すげぇ…男子を軽々吹き飛ばしやがった…。」

 

「おいら、もう二度とアイツのことちっぱいって呼ばねぇ…殺される…!」

 

あまりのその拳の威力に峰田ががたがたと身体を震わせる中、殴られた本人はしばらくうつ伏せに倒れていたが、すぐに右手で鼻を抑えながら起き上がった。

その手の下の鼻からはぽたぽたと血が滴り落ち、廊下を赤く染め上げている。

 

「い、痛ってぇぇ…おい耳郎!お前そんな細腕でなんてパンチ力してやがるヘヴィー級のボクサーかよおい!?」

 

「突っ込むところはそこなんだね…そういうところも変わらないなぁ。」

 

どこか的外れな彼のツッコミに懐かしそうな笑みを浮かべる恋。

そんななか、衝也を殴り飛ばした耳郎はどこか怒ったような様子でずかずかと衝也の方へ近寄っていき、ズビシィ!!という効果音が聞こえそうな勢いで彼に人差し指を向けた。

 

「衝也ぁ!アンタ、こんな公衆の面前で…女子と…あ、あんなに身体密着させて恥ずかしくないわけ!?もっと恥じらいってものを知りなよアンタは!!」

 

「異議あり!今までの一連の流れを見るに被告人は自身の意思とは関係なく無理やりああいった状況になってしまったのであって、罪のすべてはあの恋という少女にあります!よって俺は無罪です!」

 

「さっきから黙ってみてれば…人前でその…だ、抱き合ったりとか!か、身体をくっつけたりとか!アンタら…ほんと、い、いい加減にしなよ!!バカじゃないの!?マジバカじゃないの!?もうアンタバカなんでしょ!前から知ってたけどやっぱアンタバカなんでしょ!」

 

「あの、耳郎さん…俺の話を聞いてくださいません?ていうか今の会話の中でもう4回もバカって単語が出てるんだけど…。」

 

「うっさい!」

 

「頬が痛い!?何この理不尽!?」

 

ブオォン!という空気を切る音と共に振るわれた耳郎のイヤホンによって頬をぶたれる衝也。

その痛さに思わず『ぬおおおお!頬がぁぁぁ!鼻がぁぁぁ!』と叫びながら転げ回る彼は、耳郎の頬が真っ赤に染まっていることに気づくことができない。

そして、頬を赤く染めたまま一方的に彼に説教をし始める耳郎の姿を面白そうに見つめているのは先ほどまで衝也の身体にくっ付いていた恋と呼ばれる少女だ。

 

「うーん、あの右ストレート、腰の入り方も力の入れ方も素晴らしいね…。格闘技経験でもあるのかな?…あれ?ていうかあの子さっき衝君とチームを組んでいた…」

 

「あの…」

 

「ん?」

 

そういってしばらく腕を組んで考え事をしていたが、ふと後ろから声をかけられ、慌てた様子で顔を後ろへと向けた。

するとそこには、どこかぎこちない表情を浮かべている1-Aのクラスの面々が緊張した面持ちで彼女の方を向いていた。

 

「君たちは確か、衝君と同じクラスの?」

 

「あ、はい、私たちは五十嵐さんと同じクラスのものでして、私はクラスの副委員長を務めています八百万百と言います。」

 

「これはこれはご丁寧に…。衝君がいつもお世話になっているみたいで。彼の相手をするのには中々骨が折れるでしょう?衝君は普段からよく突拍子もないことをしでかす人だから。まぁ、ボクからしてみればそこも素敵な魅力ではあるのだけれど、普通の人だとなかなか相手をするのに疲れてしまうことも多いだろうからね。」

 

そういって笑顔を浮かべる彼女だったが、1-Aの面々からしてみればいきなり人に向かって攻撃を仕掛けてくるあなたも大概突拍子もないだろ、といった感じである。

そんな中、八百万は困ったような笑みを浮かべた後、意を決してさらに言葉を続け始めた。

 

「あの、それで…その、申し上げにくいのですが…あなたはいったい…?」

 

八百万の言葉に1-Aのクラスメート全員が心の中で何度も頷きを行った。

彼女の言葉は、ここにいる全員の気持ちを代弁してくれているようなものだ。

そんな彼女(兼クラス全員の)言葉を聞いた恋は、思い出したかのように手のひらをたたいた。

 

「ああ、そういえばボクまだ自己紹介も何もしてなかったね。いやぁ、ボクとしたことが衝君との再会に浮かれすぎて先にしておくべきことをすっかり忘れてしまっていたよ。申し訳ないね、八百万さん。もちろん、後ろの皆様も。」

 

片手で頭を掻きながら笑顔を浮かべた彼女は「いえいえ、そんな!」と言って首と両手を横に振っている1-Aの面々の方へ、一呼吸置いた後、大きく一度せき込んで、改まったように向き直った。

 

「ボクの名前は傷無恋(きずなしれん)。ごらんのとおり士傑高校の一年生さ。ってああ!帽子!帽子をすっかり忘れてた!」

 

自己紹介の途中で慌てたように落とした学帽のところへと歩いていき、それを拾ってついていたホコリを数回手で叩き落とした。

 

「危ない危ない…この帽子をなくすと先輩方がうるさいからなぁ。」

 

「あの…傷無さん?」

 

「ん、ああごめんごめん、話を中断させてしまって。というか、そんなさん付けで呼ばなくても大丈夫だよ。同い年なんだしもっとフレンドリーに『傷無』って呼び捨てで呼んでくれて構わないよ。」

 

八百万の言葉にそう返答を返してにこやかな笑みを浮かべる恋。

そんな恋に、切島は『それじゃあ』とばかりに声をかけた。

 

「えっと、傷無…でいいんすよね?」

 

「うん、それと別に敬語じゃなくてもかまわないよ。さっきも言ったけど同い年なんだしね。」

 

「あ、じゃあお言葉に甘えさせてもらうけど…傷無、アンタその…衝也とはどういった関係なんだ?さっきのやり取りを見るにただの知り合いってわけじゃなさそうだけど。」

 

切島の問いかけにクラス全員、特に件の女子四人が大きくうなずいて見せた。

それを聞いた恋は一瞬青い瞳をぱちくりさせた後、まるで小悪魔のような笑みを浮かべ始めた。

 

「そうだな…簡単に言うならば

 

 

 

浅からぬ関係…といったところかな。そこから先は君たちの想像に…」

 

「って待て待て恋!てめぇ何誤解されかねない言い回ししてんだ!いい加減な事言ってるとほんとに怒るぞ!?」

 

軽くウインクをしながら返答をする恋だったが、それを聞いていた衝也が慌てたように

耳郎の前で正座をしながら(正確には説教中のためさせられながら)彼女へと突っ込みを入れた。

 

「おや、聞いてたのか衝君。とはいっても、ボク的にはあながち間違った答えではないと思うんだが…。それとも、ボクと衝君の関係は所詮遊びだったということなのかい?それはあんまりじゃないか衝君。ボクはこんなにも君のことを想っているというのに。」

 

「お前そんなこと言ったらほんとに誤解されるだろうが!見ろ、八百万たちが口元に手を当ててキャーキャー言いまくってんじゃねぇか!完全に誤解されてるだろ!…待って耳郎!誤解だから!誤解だからその振りかぶった右拳とイヤホン=ジャックを俺に向けないでください!というかなんでお前はそんなに怒っとるの!?」

 

「そりゃぁ誤解されるような言い回しで言ったからね。そういう風にとらえてくれたならボクとしては大成功さ。」

 

「ふざけ倒せよお前ホント!」

 

意味深な恋の返し方にもう女子たちが興奮しまくり、男子(とはいっても上鳴と峰田の二人だけだが)はショックのあまり真っ白の灰と化しているのを見て、耳郎を必死になだめながら叫び声をあげる衝也。

そして、相変わらず正座したまま口を開いた。

 

「そいつは俺の幼馴染!浅からぬ関係ってのはそういうことだよ!断じてお前らが想像してるような関係性じゃないから!」

 

「む、もうネタばらしをしてしまうのかい?つまらないなぁ…」

 

「いやもうほんと勘弁して!これ以上誤解を生むと俺の今後の学校生活に支障が出るからさぁ!」

 

つまらなさそうに肩を落とす恋に半ば懇願するように大声を上げる衝也。

その鬼気迫る表情を見た恋は仕方がなさそうに息を吐いた後、再び笑顔を浮かべて1-Aの面々の方へと向き直った。

 

「さて、ヘタレで臆病ものな衝君のせいで「お前ホントいい加減にしろよ!?」ばれてしまったが、まぁおおむね彼の言った通りかな。ボクと衝君は小学生のころから面識がある世間一般的な常識でいう幼馴染という関係性にあるんだ。」

 

「といいつつも!?」

 

「本当は!?」

 

「中学卒業を控えた最後の春に一夜の甘く切ない夜をともに過ご…」

 

「してねぇからな!?葉隠も芦戸も変な横やり入れなくていいから!ツーカ恋!お前もお前で便乗してんじゃねぇよ!…っ!ま、待て耳郎!?冗談!今のアイツが言った冗談だから!だからその右拳を俺に向けないでくだゴバッファ!!?」

 

弁明も虚しく、羞恥のせいか顔を真っ赤にした耳郎の右ストレートをまたもや顔面に受ける衝也。

そんな一連の様子を見ていたクラスの面々、特に蛙吹や尾白、切島といった普段割と衝也と仲が良い面々は顔面に拳が突き刺さっている衝也を見て高らかに笑っている恋を見て

 

衝也の幼馴染だけあってやはりキャラが濃いんだなぁ…

 

ということをしみじみ感じていた。

 

 

 

 

 

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恋がクラスメートの前で誤解されかねない自己紹介をしてから数分後。

恋の悪意にしか満ちていない自己紹介によりいろいろな誤解をクラスメート(特に耳郎等の女子たち)からされてしまった衝也は、その誤解を解くために懇切丁寧に彼女との関係性をクラスメートたちに説明した。

途中途中恋の妨害にあったものの何とか誤解を解くことができた衝也だったが、その顔には疲労がありありと浮かんでいる。

 

「はぁ、疲れた…下手したら騎馬戦よりも疲れたぞこれ…なんて厄日だよ。」

 

「おや、それはよくない。まだ最終種目が残ってるんだ、体力を使いすぎるのはあまり好ましくはないよ衝君。」

 

「…」

 

「そんなに見つめないでくれよ、照れるじゃないか。」

 

まるで他人事のようにあっけらかんと言い放つ恋にジト目を向ける衝也だが、当の本人は相変わらず笑みを浮かべてばかりでまったくこらえた様子がない。

そんな中、衝也の隣を歩いている耳郎は顔を少しだけ赤くして恥ずかしそうに耳たぶのプラグをいじくっていた。

 

「ていうかさぁ…誤解なら誤解って早く言ってくれればよかったじゃん。なんか必死に怒ってたウチがバカらしいというか…なんかハズくなってくるんだけど。」

 

「いや、だいぶ序盤の方から誤解だって俺言ってたからね?聞いてなかったの耳郎の方だからね?ていうか、別にあそこまで怒らなくったっていいだろーよ…お前の右ストレートのおかげで俺は危うく三途の川をバタフライで泳がなきゃいけなくなっちまうところだったぜ?俺バタフライできないけど。」

 

「ふ、普通友達が…その…そういうことしてるって聞いたら怒るでしょ!?ウチらまだ学生なんだから!そ、そういうのはちゃんと大人になってからっていうか…なんというか…。が、学生でそういうことするのは早過ぎるっていうか…」

 

(意外と女の子らしいというか…ピュアだよな…耳郎。)

 

そういって顔を赤くしながらプラグ同士をつついてモジモジする耳郎を見て脳内でそんなことを思い浮かべる衝也。。

それを見ていた上鳴と峰田は呆れたような顔をしながら耳郎の意見に反論する。

 

「…大丈夫か耳郎?飯田の真面目菌が移ってねぇか?そんな真面目な高校生活送ってたら人生すさんじまうぞ?」

 

「そういうこともできない学生時代なんて監獄にいるのとたいして変わらねぇだろ。禁欲中の僧侶かよ。そんな事ばっか言ってっからちっぱいはいつまでたってもちっぱいなんだよ。いいかちっぱい?胸ってのはな、揉んでおッぶばぁぁ!!?」

 

「…次なんか言ったらコロス。」

 

人差し指を立てながら何やら解説を始めた峰田だったがものの数秒で耳郎に殴り飛ばされその姿は影も形もなくなってしまう。

そして耳郎は、峰田が吹っ飛んでいった方向へ顔を向けた後、魂が凍り付くようなドスの利いた声で殺害宣言をつぶやいた。

 

「おぉ~、さっきも見たけどやっぱりすごいなぁ…。衝君、彼女もしかしてボクシングクラブかなんかに入ってたりするのかい?」

 

「いや、俺が知る限りそんなことはなかった気がする…。」

 

「じゃあ、訓練もなしにあのパンチを…すごいな彼女。将来はゴリゴリの武闘派ヒーローになるかもね。」

 

「なんつーか、意外な才能を発掘した気分だな。」

 

「あのー、お二人さん?ツッコむところそこじゃなくないか?どっちかっていうとあの狂気に満ちた表情と物騒極まりない発言にツッコミを入れるべきじゃね?」

 

ほかの皆が彼女の意外すぎる一面に戦慄している中、まったく見当違いのことに視点を向けている衝也と恋にそこはかとなくツッコミを入れる切島。

そんな中、それまで感心したように耳郎に目を向けていた恋は、ふと何かを懐かしむような表情を浮かべて衝也の方へと視線を移した。

 

「それにしても…こうして会うのは本当に久しぶりだね衝君。いつ以来だっけ、こうやって面と向かって話をするのは?」

 

「いつ以来も何も…俺らまだ中学卒業してからそんな時間たってねぇだろ?久しぶりっていうほどでもないだろ別に。」

 

「確かに期間はそれほどあいてはいないかもしれないけれど、ボクの体感的にはもう何十年もあってないような気分だよ。それにほら、中学の時はクラスがずっと違ったから話す機会もなかったし。あと何より昔の衝君とは比べられないほど強くなってたから、そのころを知ってるボクからしてみたら、ちょっとこう…来るものがあってね。」

 

「お前は俺の母さんかよ…ていうか、強くなったのはお前もおんなしだろ?昔よりだいぶ動きのキレが増してる。危うくこめかみに蹴りもらっちまうところだったぜ。」

 

「そんな、奥さんだなんて、気が早いなぁ衝君は…。」

 

「…人の話聞かないところもほんっとあいかわらずだな。」

 

照れたように頬に手を添える恋に呆れた視線を送る衝也。

だが、そんな彼の表情はどこか嬉しそうで、いつもクラスメートたちに見せる顔とはまた違った一面をのぞかせていた。

 

「つーか、お前士傑に入学したんだな…よくもまぁあんな難関高校を。」

 

「それを言うならお互い様だ。ボクもまさか衝君が雄英に入学してるだなんて思わなかったよ。思わずびっくりしたんだからね?1年生にして敵の襲撃に会い、あまつさえ生き延びた雄英生がどんな人物か一目見ておこうと思ったら衝君がいたんだもの。思わず運命を感じてしまったよボクは。」

 

「嘘つけ。お前どうせ俺の父さんから雄英に入学したこと教えてもらってたんだろ?あの人は俺の友達…とりわけお前となるとすぐに何でもかんでも教えちまうからな。」

 

「そんな言い方は感心しないな衝君。もっと衝賀さんのことを信頼してもいいと思うよ。あの人は心の優しい良い父親じゃないか。」

 

「…で、正解は?」

 

「大当たりだよ。」

 

「やっぱりじゃねぇか…」

 

ニコニコ笑顔でそういう恋に思わず肩を落としてうなだれる衝也。

そんな彼らをじーっと見続けていた八百万が、ふいに彼らへと言葉を投げかけた。

 

「あの…お二人とも…一つ質問してもよろしいですか?」

 

「ん?どうした八百万の神。いきなりそんな改まった聞き方して。」

 

「…衝君、君は彼女のことを神様としてあがめているのかい?」

 

「慈悲深い神様だぞ?聖母と言ってもなんら差し支えないくらいに。」

 

「い、五十嵐さん!そういうことを言うのはやめてくださいと何度も言ってるではありませんか!」

 

衝也たちへ質問しようとした八百万だったが、なぜか自分が聖母扱いされてしまったことに軽く困惑してしまう。

そんな自分を落ち着かせるかのようにコホン!と大きく一つせき込んだ八百万は、ゆっくり息を吐いた後、途中だった質問を続けようとする。

 

「と、とりあえず質問の続きをさせてもらいますが、その…お二人は小学生のころからのご友人ですの?」

 

「んー、まあ…一応、そうなるかなぁ。つーか、友人というよりは一種の腐れ縁みたいなもんだよ。何の因果か小学校ではクラスが六年間ずっと一緒だったし、まぁ、中学は違ったけど。」

 

八百万の質問に衝也がめんどくさそうに答えると、隣にいた恋がまるでこの世の終わりを見ているかのような表情を浮かべ、大げさに体をのけぞらせた。

 

 

「そんな!衝君はボクとの縁を切りたいなんて、そんなむごたらしいことを考えていたのかい!?ああ!なんて人だ君は!ボクにとって君はかけがえのない友人だというのに!八百万さん!この心に良心のりの字もない人に友人の居る素晴らしさというものを教えてあげてくれ!」

 

「え!?あ、いえ、その!わ、わたくしは…ッ!」

 

 

まるで悲劇のヒロインのように叫び続け、八百万の手を両手で包み込むように握りしめてくる恋に、八百万はどうすればいいのかわからずにあたふたしてしまう。

その様子を見て、衝也は心底めんどくさそうに親指でその光景を指さし、近くにいた切島へと声をかけた。

 

「な、めんどくさいだろ。こいつやたらとテンション高く人に絡んでくるうえに人の話を聞きもしねぇんだ。困ったやつだよな。」

 

「いや、言っとくけどあれいつものお前とほとんど変わりないからな?」

 

「嘘つけ、俺はあそこまでウザい絡み方しねぇって。」

 

「うん…まあ、お前がそう言うなら、もうそれでいいよ…。」

 

「ケロ…五十歩百歩ね。」

 

切島のツッコミに腕を組んで否定する衝也を見て、呆れた表情を浮かべる切島。

そんな二人のやり取りを見て蛙吹が小さな声でつぶやきを漏らす。

 

「それにしてもなんかあれだよね~…やったら意味深そうな展開繰り広げておきながら結局ただの幼馴染って…なんかこう…期待外れだよね!あんだけ期待させてたんだからこっちとしてはもっとこう、桃色なエピソードがほしかったなぁ…。」

 

「勝手に期待したのはそっちだろうが…。ツーカお前ははよ更衣室に行って着替えをとってこい。いつまで俺のジャージ着てんだ。」

 

「いやぁ、男子のジャージってなんか新鮮でさぁ!このちょっとぶかぶかな感じが面白いんだよね!」

 

「いいから早く服を着ろよ…。」

 

葉隠がぶかぶかなジャージの袖をぶんぶん揺らしているのを見て、呆れたようにため息を吐く衝也。

ところが、衝也の反応とは裏腹にそんな葉隠の言葉に、今度は芦戸がうんうんとしきりにうなずきながら便乗してきた。

 

「いーや!確かに葉隠の言う通りだよ!ここまで全国の女子高生の期待を高めておきながらそれを一瞬で裏切るなんて、男のしていいことじゃない!期待させたんだったら最後まで夢見させてあげるのが男ってものでしょうよ!」

 

「いや、だからお前らが勝手に勘違いして期待しただけだろうが。俺には何の関係もないし…つーかそもそもそういう…なんて言うの?桃色なエピソード?って俺みたいな男より顔の良い轟とかの方がいっぱい持ってんだろ?俺みたいなフツメンにそんなエピソードがあるように見えるか?」

 

「あー…確かに。五十嵐君と轟君なら轟君の方がエピソードもってそう…!」

 

「ごめん五十嵐!私たちが過度に期待しすぎた!許して!確かに考えてみれば五十嵐がそんなエピソード持ってるわけないもんね!」

 

「うん…まぁ、俺が言いだしたことだからいいんだけどさ。少しは気遣いってものをしてくれてもいいんじゃんねぇか?いや、まぁいいんだけどね。まごうことなき事実だから…いいんだけどね?」

 

衝也の説明に一瞬で納得したような声を上げる葉隠と笑顔で衝也に謝罪をする芦戸の二人の言葉に若干納得できないような表情を浮かべる衝也。

そんな彼の肩に今度は上鳴といつの間にか戻ってきた峰田がそっと手を置いてきた。

 

「五十嵐、オイラはわかってたぜ…!お前にそんなおいしい展開があるはずなんてねぇってことにな。」

 

「ああ、何せお前は『衝也』だからな。あの『衝也』にあんなかわいい子とのあーんなことやこーんなことがあるわけねぇもんな。」

 

「え、何お前ら喧嘩売ってんの?ていうか気安く俺の肩に触れんな腐れブドウ、てめぇいつ戻ってきた?」

 

「もしも五十嵐にすらそんなおいしい展開があるんなら今頃オイラはトーストを咥えた超絶美少女と曲がり角で出会ってるはずだからな!」

 

「そうそう、きっと俺なんて空から降りて来た美少女をお姫様抱っこしてるはずだぜ!」

 

「ほーう、つまりはそれだけあり得ないって、そういいたいってわけだナてめぇらは?」

 

「「あったりまえだろ!」」

 

「よしお前らのその喧嘩高値で買ってやろうじゃねぇか。ありがたく思えよ腐れブドウに空っぽ豆電球が。」

 

そういうが早いが衝也は自身の肩をつかんでいた峰田の腕を即座に引きはがし、胸倉をつかんで思いっきり彼の右ほほを左手でぶん殴る。

 

「ぶげぼばぁぁぁ!!」

 

「み、峰田ぁぁぁ!!」

 

衝也の拳が頬に突き刺さった峰田は、またもや叫び声をあげながら再び吹っ飛ばされていく。

それを見て、思わず彼の名前を叫んでしまう上鳴。

しかし、衝也はすぐさまその上鳴の片腕をつかみ、腕をつかんだまま彼の背後へと移動し腕を締め上げた。

 

「いて、いてててて!!こ、降参!!降参です衝也さん!いや、ほんとまじ生意気言ってすいません!」

 

「いやいや、もうちょっと粘ってくれよ、ほら腕がいい音を奏でてるぜ?」

 

「腕じゃないから!?いい音奏でてるの骨の方だから!?あと数センチ動いたらポッキーみたいに折れちゃうからぁぁ!!ちょ、瀬呂!ヘルプ!ヘルゥプ!!ヘルプミィィィ!?」

 

「いや、だから俺さっき言ったじゃん、それ衝也の前で言ったらぶっ飛ばされるって。」

 

呆れたように肩をすくめてため息を吐き助けを求める上鳴にそう返答する瀬呂。

どうやら下手にかかわって飛び火を受けないようになるべくかかわらないスタイルをとろうとしているらしい。

それに気づいた上鳴が何とかして助けてもらおうと必死に瀬呂に言い寄り続ける。

 

「ちょ、まって瀬呂!マジでちょっと助けてくれって!今俺ぶっ飛ばされるどころか骨おられそうなんですけど!?」

 

「は?骨を折って終わると思ってるとか、もしかしてお前ホントに脳内空っぽ豆電球なの?」

 

「いやぁぁぁぁ!殺されるぅぅぅ!!」

 

「待て待て待て待て、それ以上はさすがにダメだぞ衝也。てかお前目が笑ってねぇからマジで。」

 

衝也のハイライトの消えた瞳を見て叫び声をあげる上鳴。

そんな上鳴の声を聴いた切島がガシガシと片手で頭を掻きながら呆れたように衝也を制止する。

そして切島に制止された衝也は「ふん、軟弱な男よ…」とつぶやいてから、ようやく上鳴から手を離した。

衝也の魔の手から解放された上鳴はつかまれていた腕をしきりにさすりながら衝也へと文句を言いまくる。

 

そんな様子をはたから見ていた恋は、思わずといった様子で笑みを漏らしてしまう。

 

「…フフフッ。」

 

「…っ!なんだよ恋、なんかおかしなことでもあったか?」

 

「いや、何も…。ただ

 

 

衝君、だいぶ『笑える』ようになってるなぁ…って。」

 

「…はい?」

 

思わず素っ頓狂な表情を浮かべる衝也に恋は笑顔で彼の顔を指さして話を続けていく。

それはもうとてもうれしそうな表情を浮かべて

 

「気づいてないかもしれないけど、衝君みんなとしゃべってるとき、ずっと口角が上がってるよ?」

 

「…マジ?」

 

「うん、見てるこっちが思わず楽しくなってしまうほどには、ね。きっと、それだけ君たちが大切な友人だってことなんだろう?中学の時、衝君あまり友達いなかったしね。」

 

「おい、さりげなく俺の黒歴史暴露してんじゃねぇぞ…!」

 

そういって軽くウィンクをする恋を尻目に、思わず首をひねって考え込むようなそぶりを見せる衝也。

そんな中、恋の言葉を聞いた上鳴と瀬呂がいやらしい笑みを浮かべながら衝也の方へと肩を組んできた。

 

「ほうほうほーう!なんだよ友達の少なかったボッチ系の衝也君はァ?嫌がるふりしてほんとは喜んでたわけぇ?」

 

「なんだよなんだよー、それならそうと早くいってくれればいいのになぁー。水臭いじゃないの衝也くぅーん?言ってくれればいつでも俺らお前にかまってやるぜぇ~?」

 

「…おい、恋。これでも俺の口角は上がってんのか?本当に?」

 

「いや、今はぜんっぜん上がってないね。」

 

「そうか、それを聞いて安心したぜ…!」

 

「あ、今口角がちょっと上がったね。」

 

「いや、ちょ!?それをカウントに入れちゃまずいでしょ傷無さん!?」

 

「これはどっちかっていうと獲物を狩る前の獰猛な笑みだから!」

 

いやらしい笑みから一転冷や汗だらだらで衝也から距離をとった上鳴がツッコミをいれ、それに続いて瀬呂も距離をとりつつ叫び声をあげる。

そんな彼らの言葉を聞いて恋は嬉しそうな笑顔を浮かべて彼らに話しかけた。

 

「もちろん、知ってるとも。だから教えたんじゃないか。」

 

「「余計に質が悪い!?」」

 

「アハハハハ!」

 

二人声をそろえてそう叫ぶ瀬呂と上鳴。

そんな二人を見て笑い声をあげる彼女だったが、ふと笑い声を止めて、嬉しそうに目を細めた。

その視線の先には、瀬呂と上鳴の二人にヘッドロックをかましている衝也へと向けられている。

その瞳に、ほんの少しの『愁い』をみせながら。

 

「さってと!とりあえず衝君に会うこともできたし、ボクはいったん先輩方のところに戻るとするよ。あんまり遅れるとさすがに怒られちゃうからね。」

 

「なんだ、もう戻るのかお前。」

 

「うん、まぁ、一応ボク個人で来てるわけじゃないからね。あれ?もしかして寂しかったりするのかな?」

 

そういってニヤニヤしながら衝也の方へ顔を向ける恋。

それに対して、衝也は軽く頭を掻きながら返答を口にする。

 

「ん…まぁ、久しぶりにお前の顔見れてうれしかった部分はあるし…そう考えると寂しいっちゃ寂しいのかもな。まぁなんにしても、相変わらず元気そうでよかったよ。」

 

「……」

 

その言葉を聞いた恋は一瞬目を丸くした後、顔を勢いよく下へと向けた。

 

「?どうした恋?」

 

「いや、何でもないから…気にしないで。」

 

「?お、おう。まぁ、なんだ、お前も怪我しねぇようほどほどに頑張れよ。おばさんとおじさんにもよろしく言っといてくれな」

 

そういって軽く頬を掻く衝也だったが、対する恋は相変わらず顔を俯かせたまま動かさない。

 

(…なんっでこう…不意打ちでそういうことを言うのかなこの男は!変なところで素直なんだからもー!!そういうところほんとずるいと思うんだよなぁ!!)

 

「…お前、さっきからぶつぶつ気持ち悪いぞ…?」

 

「…う、うるさいなぁ…元をただせば衝君のせいなんだけど?」

 

「…はぁ?お前が気持ち悪いのはもとからだろ?」

 

「ごめんそれどういう意味?」

 

呆れたように顔を上げてきた恋にわけがわからないと言って様子で生返事を返す衝也。

そんな彼を見た恋は、大きく一度ため息を吐いた後、再び笑顔を浮かべて、衝也の方へ向き直った。

 

「…まぁなんにしてもだ!今日は衝君の姿が見れて本当によかったよ。」

 

「そ、そうか…こっちとしては迷惑だった気もしなくはないけど。」

 

「さっきと言ってることが矛盾してるよ?」

 

「ふっ…男とは不器用な生き物なのさ…。」

 

「…君それ今適当に考えていっただけでしょ。」

 

「…いや、まぁ…うん。」

 

「君のその適当さも本当に変わらないよね。」

 

そういってますます大きなため息を吐く恋。

だが、次の瞬間、一瞬だけ目を細めポツリと、小さな声で、衝也にだけ聞こえるように呟いた。

 

「でも、本当によかったよ…少しでも、きちんと『前』を向けてるみたいでさ。」

 

「っ!恋…お前!?」

 

恋のそのつぶやきに一瞬目を見開いて口を開く衝也だが、すぐに恋は彼の背後にいるクラスメートたちに顔を向けた。

 

「1-Aの皆さんも、今日は会えてうれしかったよ。今日はあまりしゃべる機会がなかったけれど、『近いうちに』またいろいろと話を聞かせてもらうよ!もちろん、衝君の赤裸々な話をお土産に!」

 

「おい、お前余計な事言ったらマジでぶっ飛ばすからな。」

 

ニコニコと手を振って別れの挨拶を告げた恋は、くるりと身体を反転させてスキップしながら足を進めていく。

そんな彼女に手を振り返す1-Aのクラスメートたち

その中の一人である八百万は半ば呆然としながら口を開く。

 

「なんというか…まるで嵐のような人でしたわね。」

 

「衝也の幼馴染だけあってキャラが半端なく強烈だったね…ウチちょっとついていけそうにない。」

 

「いや、たぶんこの場にいる誰もがついていけないと思うぞあれには。」

 

八百万の言葉に続くかのように呆れた声色で呟く耳郎と切島。

その言葉にほかのクラスメートが同意するかのようにうなずいた数秒後

 

ふと何を思ったのか恋はその歩みを止めて、

再び身体をくるりと反転させてこちらへ向き直った。

より正確にいうならば、衝也の方へと向き直った。

 

「そういえば衝君。あの時の答えはもう決まったのかな?」

 

「?あの時?なんだよあの時って。」

 

恋の言葉に首をひねりながらそう答える衝也。

そんな彼の反応を見た恋は、まるで小悪魔のような笑みを浮かべて、ゆっくりと口を開いた。

 

「なんだ、もう忘れてしまったのかい?薄情だなぁ、衝君は…。

 

 

 

 

 

 

 

ボクと付き合ってくれるのかどうか、その答えに決まってるだろう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブッファ!!!!?」

 

『キャーーーーーーーーー!!!??』

 

『ぬわぁにぃぃぃぃいいい!!!??』

 

可愛らしくウィンクをしながらとんでもない爆弾を投下してきた恋に、思わず吹き出してしまう衝也。

続いて女子共が待ち望んだ桃色エピソードにキャーキャー言って興奮しまくり

そのあとに続くかのように男子共が驚きの叫び声を張り上げる。

そんな中、耳郎だけが口を少し開けて半ば呆然と立ちすくんでおり、それを蛙吹が心配そうに見つめていた。

 

「て、てめぇ恋!!おま、いい、今になっていきなりなんでこの話ぶっこんできやがたぁぁぁぁ!?」

 

「む、そりゃぁ早く返答がほしいからに決まってるじゃないか。まったく衝君は乙女心というものをまるで理解していないね。…とはいってもその様子だとまだ返事は聞けそうにないみたいだけどね。」

 

「そ、そそそれにしたって、たいたい、タイミングってもんがあんだろぉが!?」

 

今までにないくらいあたふたと動揺しまくっている衝也を見て嬉しそうに笑顔を浮かべる恋は、大げさに首を横に振った後、人差し指を頬の近くまでもってきて可愛らしく笑顔を浮かべた。

 

「まぁ、答えられないならばしょうがない。情けない男子の答えを待ち続けるのもよい女の条件というし」

 

「言わねぇよ!誰がいったそんなこと!?」

 

「お、それなら返答を今ここでくれるのかい?」

 

「いぃ!?いや、それは…その…」

 

「ほら見たことか、君がヘタレで臆病者なのは昔からよく知ってるからね。答えを求めるだけ無駄というものさ。君の答えは気長に待つとするよ。ただ、あまり待たせないでくれよ?君も知っての通り、ボクは意外とせっかちなほうなんだ。

 

 

 

 

あんまり待たせると、強行手段をとることになるかもしれないよ?」

 

そういって恋は今度こそ身体を反転させ、機嫌よくスキップをしながらその場を離れていく。

それと同時に、芦戸が高らかにこぶしを上へと突き上げた。

 

「きたーーーーー!恋だ恋愛だ桃色だ青春だーーーーー!」

 

「てめぇぇええええええ!!なにがあったぁぁぁああ!あのパツ金ねぇちゃんと一体過去に何があったのか今すぐ教えやがれぇぇぇ!!」

 

「なんで!?ねぇなんで!?なんでお前があんな美少女に言い寄られて俺にはなんもないの!?お前があるなら俺だってワンチャンあるでしょうよ!!なんでお前だけなの!?」

 

芦戸の叫び声に続くような形で峰田が衝也の胸倉をつかみ上げて血涙を流し、上鳴が床に崩れ落ちて悔しそうに拳を打ち付ける。

もはやこの後の昼休憩と体育祭最終種目があることなどほとんど頭の中から抜け落ちてしまっている。

そんな彼らを必死に引きはがそうと躍起になっている衝也。

 

そんな彼をちらりと横目で見た恋は

その表情をわずかに曇らせる。

 

(やっぱり…君は今も『あの日』を…『あの人』を引きずり続けているんだね、衝君。

君という男は、本当に…

 

 

どうして前を向いてばかりで…前へ『進もう』としていないのか…。)

 

「…君が『過去』にとらわれ続ける限り君は…前へ進むことはできないんだよ?」

 

小さく漏れた彼女のつぶやきは、彼のもとには届かない。

彼女の瞳には

 

深い悲しみと、ほんの少しの憐みが宿っていた。

 

 




前回飯田君を出すのを忘れてしまい、すっかり出番がなくなってしまった。
すまない飯田君よ、勘違いしないでほしいが私は別に君のことは嫌いではないよ。
ただ忘れてただけなんだ…!
それにしても今回は峰田君が殴られることが多い気がするなぁ。
ていうか、いい加減このグダグダを何とかしないと!
…ま、まぁ?トーナメントに入ればきっとそれも治りますよ!

た、たぶん

アンケートは引き続き募集中ですので、よろしかったらどうぞ。
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