救える者になるために(仮題)   作:オールライト

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久しぶりにタイトルを真面目にしてみたり。
このタイトルがしばらく続いたり続かなかったり。
まぁ、体育祭ですからね!
ちなみにオリジナルキャラクターは恋以外にもまだ登場予定です、いつになるかはわかりませんけどね。
それでは。二十二話です。
どうぞ


第二十二話 囚われる者、囚われた者

昼休憩も半分をすぎ、幾人かの生徒は休憩を終え各々自由に行動をとり始めていた。

荷物を取りに更衣室へ行こうとするもの、皆で談笑を交えながらツレションに行くもの…様々な人たちが様々な理由で体育祭特設の食堂から出始めている。

そんな中、緑谷出久はその出始めている人々の波にもまれながらも食堂へと足を進めていた。

 

「…まいったなぁ、ずいぶんと遅くなっちゃった。みんなまだいるかなぁ…。」

 

困ったようにそうつぶやきを漏らしながら食堂へと向かう足を速めていく。

が、ふと何を思ったのか表情を険しくし、視線をわずかに下へと逸らし始めた。

 

(それにしても…凄い話だった…。)

 

自然とその表情はこわばり、その額に冷や汗を流す。

騎馬戦が終了してステージから退場してすぐ、緑谷は轟に呼び出されていた。

体育祭が始まる前からなぜかいきなり彼から宣戦布告を受け、それからも何かと対抗してくる轟からの呼び出しということで、若干の緊張をはらみながらも彼は自然とその呼び出しに応じていた。

単純な話、なぜ彼が自分にここまで固執しているのかを知りたかったのだ。

客観的に見ても主観的に見ても、轟と緑谷…この二人のどちらが強いのかなど一目瞭然だ。

自分の個性…正確にいうならばオールマイトやその先代から受け継いだ個性、『ワン・フォー・オール』は確かに規格外のパワーを出すことができる。

だが、その扱い方はどんなに希望的な観測をもって見たとしても及第点以下だ。

例えるとするなら、初めての個性の発動で暴走してしまった子供というような感じだ。

最近ようやく力の調整に成功し始めて来たものの、その力の向上は微々たるもの。

それなのに、少しでも気を抜けば調整が失敗し、自分が大けがを負ってしまうかもしれないという危うさまでおまけでついてきている。

衝也や爆豪などのほとんど呼吸をするかのように行っているそれが、緑谷にとっては意識と集中力を高めてやっと行えているような状況だ。

個性だけではない。

運動能力や判断力、およそすべての能力が自分を上回ってるような高嶺の存在に近い轟。

緑谷が彼と勝っている能力があるとするなら分析能力とクレーバーな発想力くらいだろう。

クラスどころか学年全体で見ても、轟に勝てるような生徒は数えるほどもいないとすら緑谷は考えている。

そんな彼が、どうして爆豪でも、衝也でもなくこの自分に宣戦布告をしてきたのか…どうしてここまで自分に勝ちたいと思うのか?

それが知りたかったのだ。

 

 

そして、呼び出した先で轟が語り始めたのは、自身の予想をはるかに超えるものだった。

轟焦凍の父親、轟炎司 またの名をNo,2ヒーロー『エンデヴァー』

野心の塊のようなその男の歪んだ欲、その強欲が求めたのは轟の母の個性。

自身の個性をより強くして子供に受け継がせるためにだけ配偶者を選び、結婚を強いる『個性婚』。

その倫理観の欠如と人間の感情を排除した前時代的結婚方法。

 

そう、その個性婚によって轟焦凍は生まれた。

オールマイト(NO,1ヒーロー)を超えるため、そんな身勝手な父親の欲を満たすためだけに。

轟の母も、轟焦凍も、その欲を満たすためだけに入念に用意された『道具』にされていたのだ。

 

『お前の左側が憎い…そういって、俺の母は俺の左側に煮え湯を浴びせた。』

 

その結果焦凍に生まれたのは、母と子の確執と癒えぬ心と顔の焼け跡

そして、父への復讐心だった。

母との確執を離しながら左側を手で覆い隠した轟の右目は、まるで暗闇に燃える炎のように光る憎悪の火をともしていた。

どこから聞いたのか緑谷がオールマイトから目をかけられていることに気づいた轟は、父親への復讐のために、緑谷へと対抗心を燃やしていたのだ。

 

この話だけで一冊の本を書けるような世界の話…自分とは、あまりに世界が違いすぎるその話。

そんな轟の話を聞いた緑谷は、最初彼に何かを返すこともできなかった。

だが、自分に話すだけ話して去ろうとする轟の後ろ姿を見た瞬間、そんな緑谷の脳裏に思い浮かんだのは、

 

自身の憧れであるオールマイトの笑顔だった。

その次に浮かんだのは、自分の雄英合格に涙を流して喜び、お手製のコスチュームまで作ってくれた母の笑顔。

それを皮切りに、高校でできた初めての友達、飯田と麗日や自分やほかのクラスメートをそれこそ自分のあこがれたヒーローのように救ってくれた衝也など、様々な人の顔が頭の中を駆け巡った。

そう、どの人も、無個性だった自分を…力のなかった自分を変えてくれた、救ってくれた大切な人達だ。

そのことが分かった瞬間、緑谷は自分でも気づかないうちに轟に話しかけていた。

轟と比べたら、あまりにちっぽけでしょうもなさすぎる理由かもしれない。

けれど、それでも

 

自分は、誰かに救われて今ここに立っている。

だからこそ、負けるわけにはいかないのだ。

自分を変えるためにも…変えてくれた人たちのためにも。

たとえ、相手が轟であったとしても。

ちぐはぐで、いまだまとまっていなかった自分の言葉が、轟にどう響いたのかはわからないが、それでも自分の言いたいことは少しでも伝わったはずだ。

 

(僕にも…轟君にも、負けたくない、負けちゃいけない理由があるんだ。)

 

思わず拳を握りしめ、その拳に視線を送る。

自分のあこがれた人、自分を応援してくれた人、自分を支えてくれた人、そんな人たちのためにも…自分は強くならなければいけない。

そう考えると、拳を握りしめる強さが、より一層強くなる。

 

「…!もっと、頑張らないと!」

 

小さくそう呟きながら視線を元に戻す緑谷。

その瞬間、食欲を刺激するおいしそうな匂いが彼の鼻をくすぐった。

どうやらいつのまにか食堂にたどり着いていたらしい。

あんなに思考を重ねながらも誰にぶつかることもなく食堂まで歩いてこれたことに感心を通り越して呆れてしまう緑谷だったが、とりあえずおなかの虫が盛大になりそうなため、急いで食堂のメニューに手当たり次第に目を配っていく。

 

(かつ丼…かつ丼は…あった!)

 

お目当てのかつ丼の文字を見つけた緑谷は足早にそのかつ丼の列へと並ぶ。

昼休憩が半分すぎていることもあってか、人は思ったほど多くなく、サクサクと列が消化されていく。

そして、あっという間に緑谷の番がくる。

すると、物の数分でホカホカご飯に卵でとじた豚肉がのせられたかつ丼が緑谷の用意していたお盆の上に乗せられた。

その食欲をそそる匂いに我慢ができなかったのか、ついに緑谷の腹の虫が大暴れを始め、あと少しでもしたら大声をあげてしまいそうなほどだ。

自身の食べ盛り真っ只中な食欲に負けないためにか、ぶんぶんと首を振った後慌てたようにあたりを見渡し、知り合いがいないかを探してみる。

むろん、空いている席は山ほどあるのだが、せっかくの体育祭の昼休憩を知らない人や、一人で過ごすなどということはさすがにしたくない。

いや、まぁ中学の頃は爆豪にいじめられていたせいか一人で寂しく給食を食べていてばかりだったのだが、悲しきかな人間は一度友達と食事をする楽しみを覚えると、なかなか一人で食事をしにくくなってしまうのだ。

特に、今まで友達といえる友達がいなかったボッチ系男子ならばなおのことである。

 

(…っ!と、とりあえず先に席を探さないと。って言っても、もうみんなあらかた食べ終えて…あっ!)

 

思わず嫌なことを思い出してしまった緑谷は、ぶんぶんと首を振って意識を切り替え、クラスメート(できれば麗日と飯田)がいないかどうかを探してみる。

すると、食堂の奥の席である一人の少年がぶんぶんと大きく手を振っているのが目に入った。

 

「おーい!緑谷君!ここだ!!ここだぞー!」

 

「飯田君!」

 

思わず笑顔になりながらその少年、飯田天哉のところまで速足で歩み寄っていく緑谷。

そして、彼が近くまでやってくると、彼は自慢げに眼鏡をクイッ!と上げた後、隣の空いている席へ指をさした。

その空いている席の向かいには蛙吹がおり、その隣には麗日、さらにその隣には耳郎も腰を掛けている。

 

「あー、デク君やっと来た!もう待ちくたびれちゃったよ!」

 

「緑谷ちゃん、お疲れ様。あなたの騎馬戦、すごかったわ。」

 

「おつかれー緑谷。」

 

「隣は君のために開けておいたぞ緑谷君!さぁ、早く食事を食べよう、もう時間はあまりないぞ!」

 

「ありがとう飯田君、麗日さん!よかった、もうみんな食べちゃったのかと思ってたよ。」

 

そういって飯田の空けてくれていた席へと腰掛、嬉しそうな表情を浮かべる緑谷。

てっきりみんな食事を終えているのかと思っていたため、そのうれしさも倍増しているのだろう。

そんな彼の言葉を聞いた麗日の隣にいる蛙吹は麗日の方を指さして口を開いた。

 

「ケロ…お礼ならお茶子ちゃんに言うべきよ緑谷ちゃん。お茶子ちゃんが、緑谷ちゃんが来るまで私たちだけでも待ってて上げようと提案してくれたのよ。」

 

「え、そうなの!?」

 

「あー、ま、まぁね!だってほら!みんなで食べたほうがごはんっておいしいもんやん!だからどうせなら人が多いほうがええかなぁーって思って!」

 

(麗らかだ!!)

 

少し照れたように頬を掻きながら笑顔でそういう麗日に、緑谷は思わずと心の中で叫びながら目を潤ませる。

だが、そんな彼に水を差すかのように麗日の隣にいた耳郎が少し呆れたように視線を目の前へと持って行った。

 

「ま、そうは言ってもほとんどのみんな…特に男たちはさっさと食べ終えてどっか行っちゃったけどね。ここに残ってる男子はもう飯田と…あとはそこでうなだれてる衝也だけ。」

 

耳郎の言葉につられて緑谷が視線を耳郎の正面に向けると、目の前に置かれたさんまの塩焼き定食に手も付けずにうなだれている衝也が額のみを押し付けていた。

 

「…疲れた、俺もう疲れたわほんと…。マジでアイツといるとほんと疲れるんだけど…。」

 

「えっと…五十嵐君、どうしたの?」

 

「さぁ?なんかいろいろあったんじゃない?ウチは知らないけど!」

 

そういって機嫌悪そうに顔を衝也からそらす耳郎。

そんな彼女を見て蛙吹は、耳郎をなだめるように肩に手をおいた。

 

「耳郎ちゃん、あんまりそんなことばかりしてると本当に嫌われちゃうわよ?」

 

「う…で、でもさぁ…」

 

「五十嵐ちゃんは何も悪くないもの。耳郎ちゃんがやきもきしてしまう理由もわからなくはないけれど、ここはひとつ落ち着いて。冷静に、大人の女性のような対応をとるべきよ。」

 

「ウチそんなに器用なことできないんだけど…。うー、まぁ…ちょっと頑張ってみる。」

 

「その意気よ耳郎ちゃん。」

 

「うん…ていうか、ウチは別に衝也に嫌われようが構わないんだけどね?まぁ、一応ってだけだから。」

 

小声でそういってくる蛙吹に頬を掻きながら返答する耳郎を見て、蛙吹は思わずめったに見せない苦笑をもらしてしまう。

そんな中、蛙吹は視線を緑谷の方へと戻した。

 

「それにしても、緑谷ちゃんはすごいわね。私思わずびっくりしてあの時鳴いてしまったわ。」

 

「え?ぼ、僕が?僕、何かすごいことしたかな?」

 

蛙吹に褒められた理由がわからず思わず目をぱちくりさせてしまう緑谷。

そんな緑谷を見て、耳郎がにやりと笑みを浮かべながら緑谷の方へプラグを向けた。

 

「何言ってんの緑谷。アンタ、衝也とのあの一瞬の攻防で

 

衝也からハチマキ奪ってたじゃん。正直こっちはハチマキを奪えるとは思ってなかったからさ、ちょっと驚いちゃったよ。」

 

そういって感心したような表情を浮かべる耳郎の言葉に、今まで机に伏していた衝也の耳がピクリと動き、モゾモゾと顔だけ上げ始めた。

 

「…ん?緑谷?あれ、誰か今緑谷って言った?あの野郎がどこかに…っていた!緑谷ぁお前ぇ!」

 

「うわ起きた!?」

 

顔を上げて緑谷の方を見た瞬間、勢いよく椅子から立ち上がり、緑谷の方へと指をさした衝也。

そのあまりの剣幕に思わず緑谷は少しビビってしまう。

そして衝也は緑谷の方へと近づくと、緑谷のもじゃもじゃ頭をつかみヘッドロックをかましてきた。

 

「またしてもだ!またしてもお前にいっぱい食わされたぞこの野郎!かんっぜんに見切ったと思ったのによぉ!なんであそこであんなことできるんだお前は!?」

 

「痛い痛い!ちょ、五十嵐君痛いって!」

 

「何をしているんだ五十嵐君!食事の席の途中だぞ!?それに何より、人に暴力をふるうのはいただけない!今すぐやめて席に座るんだ!」

 

飯田の制止も聞かずに緑谷にヘッドロックをかまし続ける衝也。

だが、その顔はセリフとは違いどこか嬉しそうな表情を浮かべている。

 

そう、緑谷と衝也のあの一瞬の攻防。

あの攻防で緑谷は目的のハチマキは奪えなかったものの、別のハチマキを奪うことに成功していたのだ。

 

 

 

 

~時間を少し巻き戻し、騎馬戦終了のすぐあと~

 

空中で10,000,000Pのハチマキを首元で揺らしたままどや顔を決め込んでいる衝也。

その顔は、もはや完膚なきまでの勝利を疑っていない表情だった。

 

『第一種目の借りはきっちり返した。お前はここでリタイアだぜ緑谷。観客席で俺の活躍を指をくわえてみてるんだナ』

 

そういって底意地の悪い笑みを地面に倒れ込んでいる緑谷へと向けた後、ゆっくりと顔を彼からそらし、ゆっくりと地面に着地しようと高度を下していく。

それと同時に、プレゼントマイクの声が会場に響き渡る。

 

『さーてと!そらじゃあ興奮冷めやらぬうちに順位を発表していこうか!

ま、1位はさっき言った通り五十嵐チームな。こいつらはもういいでしょ。』

 

『軽い!?1位だぞ!?もっとド派手に発表しろよ!』

 

プレゼントマイクのサラッとした発表にブーブー文句を垂れる衝也だが、そんなことは気にせずに発表が続けられる。

 

『んでもって!2位は轟チーム!!』

 

そう高らかに発表される轟チームだが、リーダの轟の顔はすぐれず、その拳は小さく震えていた。

 

『そして3位は…心躁チーム!?え、ちょっと待って心躁って誰だよ!なんだかよくわかんねぇけどよくわからねぇ奴が決勝進出!!爆豪チームは騎手が落ちたから失格な!惜しいけどそれも勝負ってもんよ!』

 

『ご苦労様』

 

続いて発表されたチームは心躁という少年をリーダーとしたチームらしいが、そのチームのメンバーはリーダーの心躁以外、何がどうなっているのかわからないというように何度もあたりを確認していた。

その反応は、かくれんぼで隠れ続けていたらいつの間にかかくれんぼに変わってしまっていた時に似ている。

いわゆる『あれ、いつの間にかくれんぼ終わったん?聞いてへんよ俺!?』というような感覚である。

そんな彼らの様子に気づいていないマイクは決勝進出の最後のチームを発表する

 

『そして4位はこいつらぁ!

 

 

 

 

 

緑谷チーム!』

 

 

『……

 

 

 

 

 

 

 

 

ファッ!!?』

 

一瞬、何を聞いたのかわからないという風に素っ頓狂な声を上げた衝也は慌てて後ろを振り返り緑谷の方を向く。

するとそこには、麗日や発目、常闇に駆け寄られ心配されながらも、ゆっくりと起き上がりこちらを見据えている緑谷がいた。

 

『確かに…一千万はとることはできなかった…!でも

 

 

 

 

僕だって、負けられない理由があるんだ!たとえ、五十嵐君が相手でも!だから、ここでリタイアするわけにはいかないんだ!』

 

そういって突き出した右腕、その手のひらには 

 

565Pと書かれたハチマキが握りしめられていた。

それをみた衝也は一瞬目を見開いた後、すぐさま額に手を当てる。

だが、そこに自身のしているはずの布の感触はなく、触りなれた額の感触がしっかりと感じられた。

 

(…っ!まっじかよおい!)

 

予想外のことに思わず心の中で驚きの声を上げる衝也。

なまじ完全に緑谷の動きを見切ったと思っていた衝也からしてみれば、ハチマキを奪われたということはあまりに予想していなかったことだったのだ。

 

(いつだ…一体いつ俺のハチマキを…あの時の攻防でとった?…いや、あいつが狙ってたのは明らかに一千万のハチマキ、俺の額には一切意識も視線を送っちゃいなかった。つーか、俺が投げた時はハチマキはちゃんと巻いてあったし…。ならいつ緑谷は…ッ!?まさか

 

 

 

 

『投げられた時』か!?)

 

そう、緑谷がハチマキをとった瞬間

それは、衝也が緑谷の懐に入り込んで彼を後方へとなげとばしたあの時、

緑谷は投げ飛ばされるその瞬間彼のハチマキを背後から咄嗟に奪い取っていたのだ。

 

(首元のハチマキを狙わなかったのも、おそらく偶然じゃない!Pの数が分からなかったから、ランダム要素の高い首元のハチマキではなく、確実に上位に食い込める俺の持ちPを狙ったってわけか!)

 

そこまで考え、衝也は思わず嬉しそうに小声で

 

『すげぇなおい…!』

 

とつぶやいた後、何かに気づいたのかふと眉を顰め始めた。

 

『…ってちょっと待てよ。アイツが投げ飛ばされた瞬間にハチマキをとったってことは…つまりは背後にいたてめぇが仕事してねぇからじゃねぇかクソブドウがぁぁぁ!!』

 

『いや、それたんなるやつあたりじゃねぇかッブッフ!?』

 

自身のミスを他人に擦り付けた衝也は背後にしがみついていた峰田の首根っこをつかみ、思いっきり床へとたたきつける。

そして、一呼吸置いた後、ゆっくりと緑谷の方へと顔を向ける。

ほんの僅かだけ、嬉しそうに口角をつり上げて。

 

『今回こそは借りを返せたと思ったんだけどな…

 

 

 

残念ながら次回に持ち越しってわけか…エンターテイナーしてくれんじゃねぇか緑谷!!』

 

そういって笑顔で緑谷へと話しかける衝也はビシィっと人差し指を緑谷へと向けた。

 

『ここまでもつれちゃ、もう最後は真剣勝負で借り返すしかねぇよなおい!

 

次の最終種目、今度こそ借りは返させてもらうぜ!』

 

『え…いや、借りも何も今回は一千万とられちゃったから僕の負けだと思うんだけど…』

 

『借りは返させてもらうぜ!!!』

 

『僕の話聞いてる五十嵐君!?』

 

どこまでも空気を読まない緑谷に強引に話を進める衝也。

まぁ、とどのつまり

緑谷の咄嗟の機転とあきらめない心が、彼の技術を上回ったという話である。

 

 

 

 

~休題~

 

「メンバーを見た時に緑谷当たりなら追撃してきそうとは思ってたが、まさか投げ飛ばされたときにハチマキをとってくるとは予想外だったぜ。完璧に一本とられっちまったわけだ。これが悔しくないってほうがおかしいだろ。」

 

「いや、あの時は無我夢中だったし…正直ハチマキをとれただけでも奇跡に近かったというか…」

 

飯田に説教をされしぶしぶ席に着いた衝也が箸でさんまの身をほぐしながら悔しそうにしているのを見て、緑谷はかつ丼の器を持ちながら照れたように言葉を返す。

 

「そんなことはないぞ緑谷君!まさかあそこで攻勢に出ることはできたとは…君はもしかして空中へ逃げるチームもいると仮定してチームを組んでいたのかい?」

 

「いやいや!そんなこと考えられるほどの発想力は僕にはないよ!あの時はほんとにたまたまメンバーが良かっただけで…!だからハチマキをとれたのも、全部麗日さんや発目さん、常闇君のおかげで、僕なんてほんと微々たる活躍しかできなかったよ。」

 

「そんなことあらへんよデク君!それいうんなら私だって騎馬戦ではほとんど何もできへんかったし。」

 

 

お味噌汁をきちんと飲み終えてから話した飯田に緑谷はぶんぶんと大げさに首を振って謙虚な言葉を口にする。

そんな彼の言葉を否定した麗日は申し訳なさそうに頭を掻いて笑みを浮かべる。

それを見て緑谷が慌てて言葉を言おうとするが、それよりも早く蛙吹が口を開いた。

 

「緑谷ちゃんもお茶子ちゃんも、みんな自分ができることを必死に頑張ってたじゃない。そこにきっと優劣は何もないのよ。みんながみんな頑張ったからお互い前に進むことができた、チーム戦の勝利ってそういうものじゃないかしら?」

 

「梅雨ちゃん…!」

 

「蛙吹さん…!」

 

「梅雨ちゃんって…ウチらと違ってなんか大人だよね、ちょっとうらやましいかも。」

 

「ケロ?そうかしら?私としては、思ったことを言ってるだけなんだけれど…」

 

「そんな考えを持てるってところがなんかウチらとは違って大人っぽいんだよね…。」

 

「ケロ…そこまで言われるとちょっと照れちゃうわ…。」

 

蛙吹の言葉に感激したような表情をする麗日と緑谷の二人、そんな二人に続くかのように発せられる耳郎の羨ましさをはらんだ言葉に、思わず照れたようにモジモジした後、顔を俯かせてしまう。

それをみた衝也は食べていたさんまを飲み込んでから意外そうな表情を浮かべた。

 

「へぇ…意外だな、蛙吹でも照れることなんてあるのか。」

 

「私だって人間だもの、照れることはあるわ。五十嵐ちゃんだってさっき照れてたじゃない。」

 

「あれは照れたというよりも…なんていうの…こう…錯乱した?」

 

「照れるよりもひどくないかそれは!?」

 

衝也の言葉に驚きの表情を浮かべる飯田だったが、たいする衝也は「ていうか、もうこの話はやめよう。思い出したくないもんには蓋をするに限る!」と言って適当に話を逸らそうと何か話題を考え始め、ふと何かを思いだしたように緑谷の方へと視線を向けた。

 

「そういえば緑谷、お前ここ来るまでどこ行ってたんだ?結構時間立ってからこっちに来たけど。」

 

「え、ああ、うん。そのちょっと色々あって…」

 

「いやその色々を聞きたいんだけど?俺の言葉の意味わかってる?」

 

「やめなよ衝也。アンタだって人に聞かれたくないことの一つや二つあんでしょ?それとおんなじ。無理な詮索はよくないでしょ?」

 

少しばかり苦笑いを浮かべる緑谷から根掘り葉掘り聞こうとする衝也をたしなめながらご飯を口に入れる耳郎。

そんな彼女の言葉に衝也は不満げな表情を浮かべる。

 

「何を言うか、俺には聞かれて困ることなんて一つも」

 

「じゃああの恋っていう幼馴染と一体何があったのか教えてよ」

 

「人に聞かれたくないものってやっぱり誰しも持ってるよなうん!深く聞いて悪かったな緑谷!」

 

「?う、うん。別に気にしてないからいいけど…?」

 

耳郎の言葉を聞いた瞬間、冷や汗まみれの笑顔で緑谷に謝ってきた衝也を見て思わず首をかしげてしまう緑谷。

そんな彼の返答を聞いてあからさまにホッとため息を吐いた衝也を見て苦笑いを浮かべる緑谷だったが、ふいにある考えが脳裏をよぎった。

 

(…五十嵐君は、轟君の話を聞いたらどう思うだろうか?)

 

学年でも轟と互角以上に戦えそうなのは、緑谷から見て、目の前にいる衝也と自身の幼馴染である爆豪くらいしか思いつかない。

特に衝也は、あの戦闘センスにかんしてだけは類稀なるものを持っている爆豪以上にそのセンスをありありと発揮している。

頭の回転も、普段とは比べ物にならないほど戦闘では早くなるため戦闘能力や技術は他の生徒とは一線を凌駕している。

そんな彼の強さを彼の母親である静蘭は『もともと強かったわけじゃない』と言っていたが、だとしたら一体何をすればあそこまで強くなれるのか、思わず聞いてみたくなってしまうほどの実力を持つ。

だが、それ以上に緑谷が彼に目を送ってしまっていたのは、彼のその内に秘めた覚悟の違いが大きいだろう。

自分とは違い、誰かを救いたいという思いではなく、誰かを救うという覚悟を持っていた彼。

そんな彼が、轟の過去を聞いたとしたら、一体どんな反応を示すのだろうか

ふとそんなことが気になってしまったのだ。

そして、いつの間にか、緑谷の口は自然と彼の名前を口にしていた。

 

「あのさ…五十嵐君!」

 

「んぐッ?…ウッッンっと!どうした、緑谷?そんな大きな声出して?」

 

いきなり名前を呼ばれて一瞬戸惑った衝也は慌てたように口にしていたさんまを飲み込んで緑谷の方を向く。

 

「あ、ごめん…大丈夫?喉詰まらせなかった?」

 

「いや、大丈夫だから早く要件を言ってくださいどーぞ。」

 

衝也は特に問題なさそうに心配してきた緑谷をあしらう。

それをみた緑谷は少しばかり真剣な表情を浮かべて大きく一度息を吐いた。

 

「う、うん。それじゃあ、そのちょっと五十嵐君に聞きたいことがあるんだけど…その…

 

 

五十嵐君は自分の『個性』をどう思う?」

 

「……ごめんちょっと意味が分かんない。」

 

「あ!ご、ごめん!?いやあのその…!つまり何を言いたいかっていうとね!?」

 

緑谷の質問に一刀両断でそう返す衝也。

それを聞いて緑谷は慌てた様子でほかの言葉をひねり出そうとする。

さすがに本当のことをここで話すわけにもいかないのでいい代替話を作らなければならないのだが、いざ話すとなるといい代替話が思い浮かばない。

そして、しばらくの間うんうんとうなりながら考えていた緑谷はいい話を思いついたのか、やっとこさ衝也の方へと向き直った。

 

「うーんと、その…そう!僕の知り合いにね、自分の親のことが大っ嫌いな人がいるんだけど」

 

「…いきなり予想の斜め上を行く話をぶっこんできたなおい。つーかなんでそんなに嬉しそうに話してんだよお前。」

 

「ごめん、やっとうまい言い方が見つかってうれしくなっちゃたんだ…。」

 

開幕そうそう重すぎる話をぶっこんできて、なおかつそれを嬉しそうに話す緑谷に若干引き気味になる衝也。

それを見て、少しばかりしゅんとする緑谷だったが、すぐに話を再開しようと口を開いた。

 

「えっと、それで話をつづけるけど…その知り合いの子はさっきも言ったのに親のことが物凄く嫌いで、そんな親の個性を受け継いだことをものすごく嫌がってるみたいなんだ。それこそ自分の個性を使いたくないほどに…」

 

「……」

 

「でも、僕はそんな子にどういう風に声をかけたらいいかわからなくて、結局つまらないことしか言えなくて…だからその…五十嵐君は、その子のことをどう思う?」

 

「知らん、以上。」

 

「ええ!?」

 

緑谷の問いかけにシレっと答えて食事を再開しようとする衝也に思わずすっとんきょうな声を上げてしまう緑谷。

慌てて、話を続けようと彼に続けざまに声をかけていった。

 

「そ、そんなあっさり!?もっとこう、なんていう言葉を投げかけるかとか…ぶっちゃけるとそういったアドバイス的なものが僕としてはほしかったわけで!?」

 

「だって俺は別にそいつがどんな奴なのかも知らないし、知り合いでもない。そんな奴のことをどう思うか聞かれたって、『ふーん、難儀な家庭環境してんだなぁ』くらいにしか思わないって。ましてやそいつにどんな言葉を投げかければいいのかなんてわかるわけないでしょうよ。知り合いであるお前にすらわからないのに…」

 

「いや、そうなんだけど…その…なんて言ったらいいのかなぁ!?」

 

一応はこのたとえ話の知り合いは衝也のよく知る轟という人物なのだが、それを言うわけにもいかないのでどうしたらいいのかわからず思わずあたふたしてしまう。

そんな彼をしばらくの間見続けた衝也は呆れたようにため息を吐きつつ、ゆっくりと口を開いた。

 

「緑谷は、俺の持論知ってるっけ?」

 

「…え?」

 

「…『知ってる』か『知らない』かで、その人がとる行動は大きく変わる…だよね?たしか。」

 

衝也のいきなりの言葉に一瞬呆けた顔をする緑谷。

だが、そんな彼とは対照的に、衝也の言葉を聞いていた耳郎が軽く耳たぶのコードをいじくりながら答えた。

それを聞いた麗日がきょとんとした表情で首を傾げながら耳郎の言葉を反芻した。

 

「知ってるか…知らないか…?」

 

「そ、人がそれぞれ行動が違うのは、その人が何を知ってるのかがそれぞれ違うからだと、俺はそういう風に考えている。」

 

そういうと、衝也はゆっくりと箸をおいて、人差し指を緑谷へと向けた。

 

「例えば、緑谷がなぜ最後の最後まで俺からハチマキを奪い取るのをあきらめなかったのか。それはきっと緑谷しか知らないことがあったから、お前は最後まであきらめなかったんだろう?」

 

「!」

 

そういわれて、緑谷は思わず目を見開いた。

そう、確かに緑谷は知っていた。

自分ひとりが戦っているわけではないことを。

自分ひとりだけの勝利じゃないことを。

今ここで、自分が勝たなければ…自分を信じてくれた三人の思いを無下にしてしまうことを。

三人の思いを背負っていると知ってたからこそ、あの時緑谷は『あきらめる』という選択肢を考えることすらしなかったのだ。

 

「ここでさらにたとえ話をしていこうか。」

 

そういうと、衝也は自分の持っていた箸を一膳手に取り、皆に見せるように掲げてみた。

 

「うーん、そうだな…ここは13号先生の言葉を借りていこう。」

 

「13号先生の?」

 

「そ」

 

あこがれのヒーローの名前が出たせいか麗日が衝也の言葉に反応を示す。

そんな彼女に軽く返答をしながら衝也は、箸を二つに分けてからさらに話を続けていった。

 

「例えばここに、二人の人がいたとする。個性はどちらも『簡単に人を殺せるような』個性だ。どちらの人間も、そのことに恐怖を感じている。一歩間違えれば多くの人間を、自分の手で殺してしまうような個性。そのことに、この二人はトラウマや恐怖を抱え、個性を使うことに踏ん切りがつかないでいた。」

 

「…なんだか、緑谷君と同じかそれ以上に重い話だな…。」

 

「ま、元の話が重っ苦しいんだ。たとえ話もそれなりに重くしないと『例え』として成立しなくなっちまう。」

 

飯田の重苦しい表情と共に発せられたつぶやきに軽く笑みを浮かべた衝也は次に右手に握っていた箸を掲げた。

 

「さて、ここからが重要なんだが…まずはこの右手の箸…まあ適当にAという名前にしとくか。このAは、その恐怖のあまり、個性を使うことを良しとしなかった。結果、彼は何不自由なく残りの人生を過ごすことになる。心の奥底にずっとその恐怖とトラウマを抱えたままな。」

 

「…なんだか、悲しい話ね。あまりいい気分はしないわ」

 

「ま、不自由なく人生を過ごせただけAはラッキーだったってとらえてくれよ。そのほうが多少は気が楽だろ?っていうか、これ一応たとえ話だからそんなガチなリアクションしなくても…」

 

「いや、話が重すぎてなんか軽く考えらんないってこれ。」

 

「…うん、なんか、悪いな…ほんと。」

 

蛙吹の悲しそうな表情に衝也が気分を明るくさせようと声をかけるが、蛙吹と同じような表情を浮かべている耳郎の言葉を聞いて気まずそうに謝罪の言葉を放つ。

が、ここまで来たらやめるわけにもいかないのでそのまま話を続けていく。

 

「んで、こっちの左手の箸は…まあCにしとくか。このCは、恐怖から逃げたAとは対照的に、その恐怖に押し負けることなく、抗い続けた。それはなぜか?…知っていたからだ。人を殺してしまうほどの巨大な力を持つ個性で、あまたの人間を救う者がいたことを。そんな人に、自分があこがれていることを。『自分のこんな個性でも、誰かを救うことができるかもしれない』ということを。そうして自分の恐怖に抗いつづけた彼は、いつしか多くの者に慕われるヒーローとなった。」

 

「C君…なんと素晴らしい人なんだ!人を殺してしまうかもしれない恐怖に抗い…ヒーローとして活躍するとは…!まさに苦難を乗り越えた真のヒーローじゃないか!」

 

「ええ話…ええ話や…!」

 

「いや、あの…お二人さん、これただのたとえ話なんだけど?本当にあった感動する話とかじゃないんだけど?」

 

両目を潤ませながら『ブラボー!ブラァボォー!!』と拍手をする飯田と、もはや少し泣いてしまっている麗日に思わず突っ込みを入れた衝也は(かんじょういにゅうしすぎでしょうよ)と思わず呆れたようにため息を吐いてしまう。

 

「…それで話を戻すけどさ。この二人は抱える恐怖もトラウマも一緒だったわけだけど、そのあとの行動や人生には大きく差違が出たろ?持論を展開している俺のたとえ話だから俺の都合の良い話になっちまってるけど…その理由は自分の個性が『人を殺すだけではなく、救うことができる』個性であると知っていたか否かが相違点にあげられる。…ま、そういう風な文章で言ってんだから当たり前なんだけど。そこのところはまぁ、勘弁してくれ。」

 

そういって、軽く頭を掻いた衝也はゆっくりと視線を緑谷の方へと持っていく。

 

「言っとくけど、このAもCもどちらかが間違ってるとか、そういうわけじゃない。

どちらも自分が信じた思いを胸に行動した結果だ。Aは『個性を使わないでいれば人を殺さない』という思いも、Cの『自分の個性は、人を救うことができるはず』だという思いも、どちらも自分が正しいと信じて行動してたんだからな。

緑谷のその知り合いってのも、たぶん同じだと思うぜ?そいつが一体何を知っていて、何を理由に親を嫌ってんのかは知らないけど、少なくともその知り合いは自分の考えを信じて『個性を使ってない』んだろ?」

 

「でも…もしその結果Aさんみたいによくない方向へと進んでいったら、それは…」

 

「…嫌…てことなんだろ?」

 

「うん。」

 

そういって険しい表情のまま拳を握りしめる緑谷。

そんな彼を見た衝也は半ばあきれたような表情をして、軽く肘をついた。

 

「なーんぎな性格しとるなぁ緑谷も…。」

 

「うぐっ…」

 

「いいか?まず初めに言っとくけど、自分の考え方に基づいてみんなそれぞれの人生を、わかりやすく言えばその人の道を歩いてる。その歩く道筋を変えるのはほかならぬその人自身なんだぞ?たとえどれだけ人の言葉に流されやすかろうがなんだろうが、結局最後に考えや行動を変えるのは『自分自身』なんだ。その人の歩く道を変えることができるのは『お前』じゃなくて『その人』なんだ。だから『自分の行動には最後まで責任をもて』なんて言葉があるんだから。」

 

「…!」

 

衝也の言葉が、緑谷の心に突き刺さる。

確かに、緑谷がいくら言葉を投げかけようと…轟が考え方を改めない限り、彼の憎しみも楔もなにも消えはしない。

轟の考えを変えることは、ほかならぬ轟自身にしかできないのだから。

 

(…確かに、五十嵐君のいうことも一理ある…けど、だとしたら僕にできることは…もう)

 

「けど」

 

「…っ!?」

 

ないのかもしれない。

そう考えた緑谷だったが、ふいに衝也がさらに口を開いてきた。

 

「その道を増やすことことくらいはできるかもしれねぇぞ?」

 

「…道を、増やす?」

 

「そ、増やすんだ。」

 

そういうと衝也は右手の人差し指と中指で人が歩く姿を模し始め、その二つを歩かせていった。

 

「いいか、その知り合いってのは自分の考えのもと、『親から受け継いだ個性を使わない』という選択をしたわけだ。そして、その選択した道をひたすら歩き続けてる。

道ってのは、自分で新しい道を見つけることは中々難しいもんだ。現実だってそうだろ?普段の登下校の道ばかり通ってるけど、もしかしたら別の道で学校に行くことができるかもしれない。けど俺たちはそんなことはしないよな?自分の通ってる道が一番学校に早く着くルートだと信じ込んじまってるからだ。本当は曲がり角を左に行くより、右に行ったほうが早く学校につくかもしれないのに。

 

だけど、そこに第三者がいた場合は話は別だ。

第三者、そうだな…例えば自分の大切な友達が『この曲がり角は左を曲がるより、右に曲がったほうが早く学校につくよ』といったとしたら、お前らも『それなら行ってみようかな?』って気持ちになるだろ?…ごめん、ちょっと例え下手かもしれねぇけど…。

 

 

とにかくまぁ、それと同じだよ。そうだな…さっきのやつに似ちまうけど…例えば緑谷がその知り合いに『実はその個性はこんなにたくさんの人を救うことができる』っていうことを教えてやったとしたら、それを『知ること』ができたその知り合いは自分の考えを改めて、しぶしぶでも個性を『誰かを救うために』使うかもしれない。そうすればその知り合いは『人を救う時だけはこの個性を使う』という新たな道を歩いていくことになるわけだ。そうすればもしかしたら、人生がガラッと変わる…なんてこともあるかもしれねぇ。それを転機に親と仲良くなっちゃったり!とかな。」

 

そういって、衝也はまっすぐ歩かせていた指を右へと方向転換させる。

 

「気づかせてやるんだよ。君の歩く道は『一つなんかじゃない』ってことに、もっと左や右、斜めなんかもあるんだよってな。…ま、後退がないってのが俺的には一番つらいとこなんだけど。それはきっと、その知り合いのことを『知ってる』緑谷にしかできないことだと思うぜ?」

 

そこまでいうと衝也は出していた指を引っ込めて、いそいそと空になった食器を重ね始める。

 

「って言っても、新しい道を歩くかどうかはその知り合いしだいだけどな。けど、緑谷が言った言葉でその知り合いが何かを知ることができるかもしれないし、お前に感化されて緑谷が気づかせた新しい道を歩くようになるかもしれない。それに、ここまで言っといてなんだけど、結局はその人次第ってことに変わりはない。なら、あとはお前がどこまで頑張るかだろ?

どうしてもその知り合いに違う道を歩いてほしいっていうんなら、そいつの脛にかじりついてでも気づかせてやればいい。

『君の考え方は、君や家族を傷つけているだけなんだぁ』ってな。」

 

そこまで言って衝也は空になった食器をすべてお盆の上に乗せ、ゆっくりと座っていた席を立つ。

そして、くるりと身体を反転させて食器置き場へと移動し始める。

 

「んじゃ、俺のくそつまらん話はここまでだ。ま、今日はそんな知り合いのことは忘れて正々堂々戦いましょうや。お互い、手加減なしで頑張ろうぜぇぃ。」

 

そういって振り返らずに手だけを振ってそう告げた衝也はそのまま食器置き場へと移動し、やがて人込みの中へとまぎれていった。

そんな彼の後姿をしばらくの間見続けていた緑谷達四人。

だが、そんな静寂を麗日の一言が一気に破った。

 

「なんていうか…すんごく意外やね…。野球の審判が実は野球よりサッカーの方が好きだということを知った感じに似てる。」

 

「まったくだ…!まさか五十嵐君があんなことを言えるような人間だったとは。つくづく人は見かけによらないという言葉がしみてくる。」

 

「それ、五十嵐ちゃんの前で言っちゃだめよ?傷つくだろうから。あと、お茶子ちゃん、例えの意味が分からないわ。」

 

本人がいないとは言えとんでもなく失礼なことをしみじみとした様子で語る麗日と飯田。

そんな中、緑谷は自然と拳を握りしめながら、目を閉じて彼の言葉を反芻していた。

 

(そっか、轟君の歩く道を変えさせることは…轟君の過去を『知ってる』僕にしかできないことなんだ…。だったら、だったら僕は…)

 

そこまで考え、緑谷はゆっくりと目を開ける。

その表情には、何か吹っ切れたような、、それでいて覚悟を決めたような表情を浮かべていた。

 

そんな緑谷を尻目に、衝也が去っていった方向をずっと見続けている耳郎は、少しばかり怪訝な表情を浮かべている。

 

(…何かを『知ってるから』選択は変わり、『選択』が変わるから歩む道が変わる。アンタの言うことはいつもいつも回りくどいけど納得がいくよなぁ…。でも、あんな考えをウチらと同い年の高校生が考えたりする?なんだかちょっと本気で怪しくなってきたな。普段の言動はともかくとして…。それに…)

 

そこまで考えて、耳郎はわずかに表情を曇らせる。

 

『…ま、後退がないってのが俺的には一番つらいとこなんだけど』

 

(あの時のアンタ…凄くつらそうな顔をしてた。)

 

緑谷も麗日も飯田も蛙吹も、誰も気づかなかった彼の小さな変化。

おそらくは、それなりに付き合いができ始めた自分だからこそ気づけたその変化が、どういうわけか、耳郎の心に引っかかっていた。

 

「衝也…アンタは、一体何を知って、一体どんな選択をして今の道を歩いてんの?」

 

思わず漏らした耳郎のつぶやきに、返答する者は誰もいない。

 

そして、彼女のつぶやきが食堂の騒音にかき消されるのとほぼ同時に

 

昼休憩終了10分前を知らせるチャイムが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「あ…ごはんまだ食べ終わってない…」」」」

 

 

 

 

 

 

 

ついでに四人の慌てた声も響いた。

 




基本なんかそれっぽいことを書いておけば何とかなると思っている作者です。
ほんと、申し訳ないです。
そういえば、今現在募集中のアンケートで
『自信があるほうを書いてください』と書いてくださった方がいました。
自信があるストーリーはどちらかというと、やはりステインと会うストーリですね。
だって原作という下地がありますからね。
一から構成しなくていいって素晴らしいです。
…だから文才も構想能力も向上しないんでしょうね。
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