救える者になるために(仮題)   作:オールライト

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バトルが、バトル場面が全く書けない…!
なんか、戦闘が始まると一気に作品を書きたくなくなりますね、あまりの駄文さに…

てなわけで、吹き荒れる駄文の嵐に要注意な二十五話です、どうぞ



あ、それと、一部激しいねつ造が入りますので、そこにもごちゅういください


第二十五話 ヒーロー 下

「す、すげぇ…」

 

観客席

先ほどまで目の前にあった特大の氷山と、それを一瞬で砕いた衝也の衝撃

その規模の大きすぎる戦いに、思わず切島はごくりと唾を飲み、半ば無意識のうちに呟いていた。

 

「まるで氷山と見間違えそうな氷結と、それを粉々に打ち砕いてしまうほどの衝撃…とてもじゃありませんが、あのお二方は私たちとは闘いの規模が違いすぎますわ…」

 

それに続くかのように、唖然としている八百万が少しだけ額に汗をにじませて呟く。

その言葉に、クラスの全員が返答はせずとも納得するかのように唾を飲み込んだ。

 

「…ッそが…」

 

あの爆豪ですら、一瞬だけ驚きからか目を見開いてしまったほどだ。

しかし、それもわずかな間だけで、すぐに彼は目を細めて小さく悪態をつく。

だが、その表情はいつもとは違いどこか苛立ちを感じているように見えた。

…いつも通りなきがしないでもないが。

 

「まっじかよ…あんな規模で凍らされたら誰も勝てねぇよ普通…ツーカ、それを砕いた衝也もマジやべぇだろ!どっちも才能マンどころじゃねぇぞおい!」

 

「これ、どう考えても一回戦レベルの戦いじゃないでしょ…」

 

上鳴が恨めしそうに叫び声を上げると、その前にいた葉隠が思わずといった様子でつぶやきを漏らす。

そう、どう考えてもレベルが違う。

少なくとも個性の『規模』はそこらの生徒どころかプロヒーローの中でも間違いなくトップクラスになるだろう。

もちろん規模が大きいからと言って強いとは限らないということを多くのヒーローたちは知っているが、経験の浅いヒーローやまだまだ卵であるヒーロー科生徒たちからしてみれば、まさしく次元の違う闘いとして見えてしまうだろう。

 

「いや、規模(そこ)じゃないでしょ。すごいところ」

 

「…へ?」

 

だが、ふと呟かれた耳郎のつぶやきに思わず上鳴が素っ頓きょうな声を上げる。

耳郎の表情はほかの者たちとは違い、驚いた様子もなく、真剣な表情を崩さないままだ。

 

「お、おいおい何言ってんだよ、耳郎。お前だって見ただろあのバカでけぇ氷山とそれを粉々にした衝也の個性をよぉ!あれがすごくないってんだったらほかの試合みんなごみクズみたいなもんじゃねぇか!」

 

「うるさい上鳴、集中できないから黙って。」

 

「えー…」

 

思わず大声を上げて抗議の声を上げる上鳴だが、即座に耳郎ににらまれてしまったため肩を落としてしまう。

それを横目で見た耳郎は呆れたようにため息を吐き、再び視線をステージに戻した後、ぽつりとつぶやいた。

 

「ま、見てればわかるよ。」

 

「…?」

 

その言葉に一瞬首を傾げた上鳴だったが、耳郎のつぶやきが気になってしまったので、仕方なしにステージの方へと向き直る。

すると、先ほどよりも霧がだいぶ晴れてきており、今まで視認できなかった二人の姿がようやく視界にとらえられそうだった。

そして、霧がすべて晴れて、二人の姿が見えた時、上鳴は思わず首を傾げた。

 

「…いや、轟が鼻血出してるだけじゃん」

 

そういってどういうことか問い詰めようと耳郎の方を向こうとするが

 

「…凄いな、五十嵐君は。」

 

耳に入ってきた緑谷の言葉に思わず動きを止めてしまう。

 

「…?どういうことだ緑谷君?」

 

緑谷の言葉の意味がよくわからなかったのか、隣にいた飯田が首をカックンと曲げながら緑谷に問いかける。

 

「見てよ、轟君が鼻血を出してる。おそらくは、五十嵐君の何かしらの攻撃が当たったんだと思う。」

 

「?それがどうしてすごいことなの?」

 

麗日の問いかけに思わず心の中で同調してしまう上鳴だったが、次の緑谷の言葉を聞いて、その考えが吹き飛んだ。

 

「考えてみてよ、今さっきの状況を。」

 

「状況?」

 

「そう、さっきまでここは轟君の氷山の冷気のせいであたりを覆い隠すほどの霧が立ち込めていた。そんな視界の悪い中、五十嵐君は何の迷いもなく攻勢に出て、あろうことか、轟君に攻撃を当てたんだ。」

 

「あ…」

 

「!…そうか!そういうことか!」

 

その言葉を聞いて麗日がわずかに目を見開き、飯田は曲げていた首を元に戻して思わずといった様子で声を上げた。

 

「あんな視界の悪い中、攻勢に出るのはもちろん、攻撃を当てることも難しい。普通は何もできずに攻めあぐねることしかできないと思うんだ。少なくとも僕だったら何もせずに相手の動向をうかがうと思う。そういう時の人の警戒心って普通よりも高いと思うんだ。どこから来るかわからない攻撃に備えるために、どんな些細な変化も音も漏らさないよう、集中すると思うし。何より、自分の視界が遮られてるってところは相手と全く変わらない。それなのに五十嵐君は攻撃を当てることができたんだ。」

 

視界良好の中攻撃を当てることは何ら難しいことではない、だが、その視界が潰されてしまったとき、攻撃を当てるということはほとんどの人間ができることではないだろう。

もし、両者ともに何も見えない状況かだったとしても、攻撃を当てる側と受ける側とでは難しさが違う。

こちらを警戒し、神経を研ぎ澄ましている者に攻撃を当てることなどそうそうにはできない。

逆によけられてカウンターを入れられる危険すらある。

それなのに、衝也は轟を蹴り飛ばすことができたのだ。

 

「でも、わからないんだ」

 

「む…?何がだ緑谷君?」

 

「五十嵐君がどうやって轟君の場所を特定したか」

 

「?それはもちろん聴覚だろう?視覚が見えないとしたら次に可能性があるのは聴覚じゃないのか?」

 

「うん、僕もそれは考えたんだけど…よく考えてみてよ飯田君。飯田君はこれだけ歓声がある会場の中で目をつぶったまま相手の出す音『だけ』を正確に聴き取ることなんてできる?」

 

「…!それは…」

 

「仮に視界がつぶれていても聴覚で補えばどうとでもなると考えるかもしれない

けど、これだけの雑音が響く中対象者一人だけの音を拾うことなどできはしないでしょ?

そんな中、五十嵐君は轟君を攻撃することができた…一体どうやって?

これだけの雑音が響きわたる中、あまたある音の中から轟の音を拾う。

そんなことが、視覚障害も何もない五十嵐君ができるとはボクは思えないんだ。

もしそれができるのならば、それこそ彼は超人…」

 

「できると思うよ、たぶん…」

 

「…えぇ!?」

 

緑谷の解説を途中で遮るような形で声を出したのは、先ほど上鳴を黙らせた耳郎だった。

慌てて緑谷は視線を耳郎へと移すと、耳郎はいつから聞いてたのか少しばかり視線をこちらへと向けていた。

 

「ど、どういうこと耳郎さん、できると思うって…本当に?」

 

少し驚いた様子で耳郎に問いかける緑谷とそれに合わせて視線を耳郎に向ける麗日と飯田。

そんな三人の視線を浴びた耳郎は少しばかり頬を掻いた後、再び視線をステージの方へと戻す。

 

「んー、まぁ…たぶんだから何とも言えないし、それが絶対ってわけじゃないからどうとも言えないけど…衝也が轟の位置が分かったのはおそらく」

 

 

 

 

 

 

 

「フゥー!」

 

「ひゃあああああああ!?」

 

「「「うわぁあああ!?」」」」

 

と、自身の考えを言おうとした耳郎だったが、突然彼女が身体をビクン!と跳ね上がらせて可愛らしい声を上げる。

その声に、思わず緑谷達三人も大声を上げ、それに気づいたクラスの面々がなんだなんだ?という風にザワザワしながら彼らの方を向く。

 

 

「…ッ!だ、誰ウチの耳に息吹きかけたの!?」

 

「アハハ、これはまた可愛らしい反応だなぁ…ボクが男の子だったらちょっとときめいちゃうところだった。」

 

「…ッ!」

 

自身の横から聞こえて来た声に気づき、顔を赤くしながらすぐさまそちらへと視線を向ける。

すると、その顔が驚いた表情へと変化する。

クラスメイトの面々も一様に少しばかり驚いたような顔をしてその人物に視線を送る。

そんな中、切島が人差し指を耳郎へと息を吹きかけた人物へと向けた。

 

「えっと…とりあえず聞いとくけど…ここで何してんの

 

 

傷無。」

 

「お、さっき言った通り敬語が抜けてるね!そういう切島君のフレンドリーなところ、ボクは好きだよ。」

 

そこにいたのは、つい先ほどまで衝也へ会うためにわざわざここまで来て、出会いがしらに攻撃し、あまつさえ場を荒らしに荒らしまくって帰っていった彼の幼馴染

傷無恋だった。

 

「いやいや、そういうのはいいから、とりあえずなんでアンタがいんのか説明してくんない?ていうかなんで耳郎の耳にいたずらを…」

 

「え、それはもちろん面白そうだったから」

 

『この人衝也と思考回路一緒だぁ~…』

 

半ば呆然としていた上鳴の問いかけに笑顔で答える恋にどこぞのお調子者の影を見てしまう1-Aの面々だったが、いたずらをされた耳郎は、少しばかり顔を赤くしながら彼女を問い詰めていく。

 

「なッ…ちょ、面白そうなんて理由でウチの耳に息を吹きかけないでよ!」

 

「フゥー」

 

「ひぁあんっ!?」

 

「おお、今度はちょっと色っぽい…耳郎ちゃん、耳が弱点なのかな?」

 

「…っ!こんのぉぉぉ!」

 

先ほどの少し強めの息とは違い、優しく吹きかけられた息に思わずちょっとあれな声を上げてしまった耳郎は羞恥心からか顔を真っ赤に染めながら彼女の方へと再び問い詰めていく。

そんな彼女たちのやり取りを見つめていた緑谷は少しばかり小声で隣の麗日に話しかけた。

 

(あの、麗日さん、あの人一体…)

 

(ああ、そういえばデク君はおらんかったね。あの人は傷無恋って言って、五十嵐君の幼馴染なんやて。)

 

(!五十嵐君の幼馴染!?)

 

「その通りだよ」

 

「うわぁぁぁ!?」

 

わざわざ聞こえないように小声で話していたというのに、いつの間にか自分の目の前にまで顔を近づけて来た恋に、思わず飛びのいてしまう緑谷。

奥を見ると彼女と口論していた耳郎は顔を真っ赤に染めながら肩で息をしている。

どうやらあれやこれやいじられたようだ。

そんな緑谷を見て、恋は面白そうに笑い声をあげた。

 

「アハハ、君もなかなか可愛らしい反応だね、まったくこのクラスにはいじりがいのある人ばかりで面白いなぁ。ボクの士傑高校には真面目な人の方が多くて…ヒーロー科の先輩の中にはとんでもないほど真面目で融通の利かない人がいてね、こちらとしても息が詰まりそうなんだ。」

 

そういって軽く肩をすくめる恋に、葉隠が再度ほかの者たちと同じように言葉を投げかける。

 

「えっと、それでそれで、傷無ちゃんはどーしてここに?もう帰ったんじゃなかったの?」

 

「やれやれ、ひどいなぁ葉隠ちゃん、もう忘れてしまったのかい?

 

『近いうち』にまた会おうと、ついさっき約束したばかりじゃないか。」

 

「いや近すぎだろいくら何でも!?」

 

「いいじゃないか、女の子は案外せっかちなんだよ。」

 

瀬呂のツッコミに軽く笑みを浮かべた恋は視線をステージの方へと移し、ゆっくりと耳郎の隣の空椅子へと腰を掛けた。

 

「まぁ、もちろん衝君を見に来たっていうのが本来の目的で、君たちにあったのはほとんどついでみたいなものなんだけどね」

 

「ケロ…傷無ちゃん、正直なのね。」

 

「アハハ、まぁそういうところは彼と同じかもね。でも、君たちに会いに来たのもついでとはいえ目的の内に入るんだけど…」

 

高校の彼がどんな感じなのか知りたくてね、と言葉をつづける恋だったが、彼らからすれば今のあなたと似たような感じですと言いたくなってくる。

 

「いやー、それにしても…衝君はほんと強くなってるなぁ。昔はあんな大きい氷山壊すことなんてできなかっただろうに…ん?みんな何してるんだいぼーっと突っ立って?とりあえずは君たちも座ったらどうかな?いつまでも立ってたら疲れるだろう?」

 

「いや、傷無が言うことじゃないでしょそれ」

 

「む…そういわれると確かにそうだな…」

 

芦戸にツッコミを入れられて苦笑する恋を見て少しばかり肩を落とす面々だったが、特にこのまま立っている理由もないため皆一様に座り始める。

そんな中、耳郎はジト目で隣に座っている恋のことをにらみ続ける。

 

「?どうしたんだい耳郎ちゃん、早く座ったらどうかな?」

 

「…変な事しないでよ…耳に息吹き替えるのも禁止。」

 

「む、これはあれだな…俗にいう振りというものだね?」

 

「違う!」

 

「アハハハハ!かわいいなぁ耳郎ちゃんは。」

 

「あーもー!調子狂うんだけど!」

 

彼女が頬を真っ赤にして怒る姿に思わず笑ってしまう恋。

そんな彼女を警戒しつつも隣へと腰かける耳郎。

対する恋は相変わらず笑顔で彼女へと話しかける。

 

「そんなつれないことを言わないでくれたまえよ耳郎ちゃん。ボクとしては君ともぜひ仲良くしたいと思ってるというのに」

 

「だったらせめてウチの耳にいたずらするのはやめてよ。」

 

「む、これは」 

 

「違うって言ってるじゃん!」

 

「言う前にツッコミとは、できるね耳郎ちゃん。」

 

そういって笑ってから再びステージへと視線を戻す恋。

するとその表情がほんのわずかにだが鋭いものへと変わる。

だが、それも一瞬のことで、すぐにまた表情をもとへと戻した。

それを見ていた耳郎は少しだけ目を細めて彼女のことをじーっと見つめ続ける。

すると、その視線に気づいたのか、少しばかり居心地が悪そうにモゾモゾしながら耳郎の方へと声をかけた。

 

「あの、耳郎ちゃん。ボクに何か用事でもあるのかい?あるのならできれば言葉で示してくれないと…君が誰を想っているのか、ボクはしっかり言葉にしないとわからない…」

 

「ちょっと!なんか告白する前みたいな感じ出すのやめてよ!」

 

「む、これは」

 

「だーかーらぁ!」

 

「アハハハハ、ごめんごめん、それで?ボクへの用事は?それとも本当に愛の視線だたのかな?だとしたらボクは衝君一筋だから残念だけどお断りさせてもらうけど。」

 

「違うって、そーじゃなくてさ…その、傷無…でいい?「もちろん」じゃあ傷無で。

 

 

その、傷無はさ…この勝負どちらが勝つと思う?」

 

耳郎のその問いかけに恋は少しだけ目を丸くした後、少しばかり目を細めてステージの方へと視線を向けなおした。

 

「ふむ、なかなかに難しいな。何分ボクは衝君のことは知っていても相手の轟君についてはこの体育祭で得た情報しかない…そのうえボクの知ってる衝君の情報も中学時代までのもので高校の後はボクも知らないからね。そういうのを加味したうえで結論を出すとしたら

 

 

衝君じゃないかなぁ…。」

 

「…理由は?」

 

「君が想っている理由と大体同じ、とだけ言っておこうかな。」

 

「…何それ、ウチはどっちが勝つかわからないからアンタに聞いたんだけど…?」

 

「でも、少なくともどっちが強いと想っているかはわかってる…でしょ?」

 

「……」

 

そういって軽くウィンクをする恋の言葉を聞いてわずかに視線を動かした耳郎はその視線をうろうろさせた後、結局ステージへと戻す。

そんな彼女をしばらく見つめたまま、恋はわずかに眉を動かした。

 

(ふむ、耳郎響香ちゃん…か。一応警戒しておいては損はなし…かな。ほんっと、やんなっちゃうなぁ…)

 

そして、ゆっくりと、呆れたような疲れたような長い溜息を吐いた後、傷無は目の前のステージへと意識を向ける。

 

ステージの上に立っている衝也は前見た時よりも身体も大きくなっており、男子高校生らしく、より逞しく成長している。

だが、おしゃれのおの字もないぼさぼさな黒髪と優しく相手を包むような目と、時折見せる相手を射抜くかのように鋭い目は相変わらずそのままだ。

その変わらない彼の容姿に思わず恰好だけでも高校デビューとかしたらいいのにと思う反面、おしゃれをしたら悪い虫が引っ付いてくるかもしれないからあれくらいがちょうどいいのかもと思いなおしたりもした。

 

そう、変わっていない。

 

容姿はもちろん、彼の目も、心も、高校生になってからも、彼は変わっていなかった。

 

『あの日』から、彼は何一つ変わらずに、ひたすらに強くなろうと必死に走り続けてる。

だが、それを恋は手放しには喜べない。

『あの日』があったからきっと彼はあそこまで強くなれたのだろう

『あの日』があったからきっと彼は誰かを救おうとすることができるのだろう。

だが、彼はいまだに『あの日』に…正確には『あの人』にとらわれ続けてる。

『あの人』という彼の鎖が、彼を縛り続けてしまっている。

それは、きっと彼がヒーローになるうえでの、最大の障壁になるだろう。

その時、このままではきっと彼は

 

 

 

ほぼ確実に挫折することになるだろう。

 

(…待っててくれ、衝君。ボクは、いつか君よりも強くなって、君と肩を並べる存在になって、ずっと君の傍にいる。そうすれば、そうすればきっと)

 

君の挫折を、止めることができるかもしれないのだから。

 

だから、恋は強くなろうと決意した。

彼を一人にしないために、彼を孤独にしないために。

いつまでも、彼の傍にい続けられるために。

子供のころ、自分のことを救ってくれた、彼のために。

 

(強くなるよ、衝君。ボクは強くなる、強くなって、ボクは君の隣に立つ。

だから君も

 

 

どうか、負けないでくれ。)

 

そう心の中で祈りながら彼の試合を見続ける。

心の片隅で、『あの日』の彼を思い出しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ポタポタと

コンクリートで作られたステージの床に轟の鼻から流れ出た粘膜混じりの血が流れ落ちる。

外を歩けば女性が彼をみて振り返り、戦えば黄色い声援が飛ぶほど整ったその顔から出てくる鼻血を手の甲でふき取りながら轟は険しい表情を浮かべながら目の前で「ハックショ!!ハァァックショ!!」と豪快にくしゃみをしている五十嵐衝也へと視線を向けた。

 

(クソ…なんていう蹴りかましてきやがる。あんなもの何発も食らったらまともに立てなくなるぞ…!)

 

鼻どころか顔中に走るその激痛に顔をゆがませる轟だったが、それでも視線を衝也から外さない。

目の前で相変わらず無防備にくしゃみを続ける彼は先ほど蹴りをかましてきた奴と同一人物には思えないほど無防備で、思わず蹴りのお返しとして殴ってやろうかと思ってしまいそうになるがそうやって油断して攻撃を仕掛けると何をされるのか分かったものではないため、努めて冷静に相手の挙動を確認する。

そして、同時に

 

自身が置かれた…いや、自身の手によって陥ってしまった窮地を改めて認識する。

 

(いや…正直蹴りのダメージよりも、俺の限界値の方が問題だ…。)

 

わずかに視線を下へと落とし、先ほど血をふき取った手の甲を確認する。

その手の甲にはべっとりと粘着質な鼻血がついているが、轟の視線はその血へとは向けられていない。

彼が視線を向けているのは、その手の先、わずかに震え続けている自身のその指へと視線を向けていた。

 

(身体の寒気が消えねぇ…震えも出てきてる…ということは

 

俺の限界が近づいてきてる…クソ!やっぱり最初の一手は悪手すぎた!)

 

個性とは非日常的でありながらも超常的な超能力根本的には違う。

医学的、科学的にしっかりと証明されているれっきとした『身体機能』である。

筋肉などと同じように、酷使すれば身体に多大なリスクを生じさせる。

わかりやすいのは、緑谷のような増強型や五十嵐のような発動型の個性だろう。

緑谷のように自身の身体の許容上限を超えた力を出せば身体が壊れ、五十嵐のように強すぎる個性の衝撃は身体の筋肉や内臓に多大なダメージを与える。

漫画のように、何のリスクもなく放てるような力ではないのだ。

等価交換というわけではないが、強い力にはそれ相応の対価が存在する。

それはもちろん、轟の個性も例外ではない。

 

身体の限界。

 

轟の個性、『半冷』は文字通り氷を発生させる個性。

その気になれば先ほどのような氷山を出すことすら容易にできるほど強力にして強大な個性。

しかし、その強大な『冷』は自身の身体すらむしばんでいく。

冷気によって過度に冷やされた身体は徐々に動きを鈍らせてしまう。

筋肉は柔軟性を失って硬くなり、関節も思うように動かなくなっていく。

要するに轟は『半冷』の個性を使えば使うほど身体の動きが鈍くなってしまうのだ。

 

ゆえに長期戦は好ましくはない、ましてや速さで自身を上回り、かつ個性による加速もできる衝也にこのデメリットは相性が悪すぎた。

 

そのための先手必勝の広範囲攻撃だったが、それも彼の個性の力によって打ち砕かれた。

 

(あいつの個性の力の大きさは、わかってたはずだ…わかってたはずなのに…!今の今まで失念してた!)

 

湧き上がる父への怒りによって

膨れ上がる父への憎悪によって

燃え上がる父への復讐心によって

どうしようもないほど狭くなってしまっていた視野によって生まれたたった一つの失敗が、今まさに彼を窮地へと追いやっていた。

 

(最大出力を出した後だ、この後俺の身体機能は著しく低下してく。あの五十嵐相手にこれ以上の低下は好ましくない…だったら

 

 

短期決戦、攻めて、攻めて、一瞬でもいいからアイツの隙を作り出す。そうしてアイツを凍らせて動きを止めれば俺の勝ちだ。)

 

あの五十嵐衝也相手に短期決戦の勝負、少なくとも今までのどの闘いよりも困難なものになるだろう

だが、負けるわけにはいかない。

こんなところで、立ち止まるわけにはいかないのだ。

自身の復讐を成し遂げるには、忌々しいあのクズを潰すためには、こんなところでてこずっている場合ではないのだから。

 

「潰す…!」

 

たとえ相手がどれだけ強くても、たとえ相手がどれだけ否定しようとも、

自分の目的を邪魔する奴は絶対に潰す。

目の前にいるこいつも自分の邪魔をしているうっとうしい障害物だ。

 

 

(俺の邪魔をするものすべては潰す

 

完膚なきまでに、あいつと同じように…あいつ以上に徹底的に!)

 

そして、轟の視線は再び衝也へと向けられる。

轟のその目は、試合前エンデヴァーに向けていたものと同じ闇を帯びていた。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

(さて、まだ動く気配はなし…か。こんだけ隙だらけなら攻撃してきそうなもんなんだが、出方をうかがってんのか?)

 

ポタポタと

コンクリートで作られたステージの床に衝也の鼻から流れ出た粘着質な鼻水が流れ落ちる。

轟と流れている箇所は同じだというのに、流れている物と顔立ちが違うだけでこうも絵面が変わってしまうのかと思ってしまうほどの汚い顔である。

これがイケメンだったら笑われるくらいですむが、フツメンの彼ではむしろ同情をしてしまうレベルである。

少しばかり大げさに音を立てて鼻をすする衝也、次いで大きく二度くしゃみをしてみるが、それでも目の前の轟が動く気配はない。

こちらの様子をうかがっているのか、それとも今までさんざん出し抜かれてしまってるからか、これだけ無防備にしていても轟は視線をこちらに向けたまま動こうとしない。

 

(来てくれればカウンターで二、三発入れることもできるんだがな、)

 

そこまで考えて苦笑をもらした衝也だったが、ふいに表情を少しばかりこわばらせた。

 

(それにしても、少しばかり計算が狂ったな…まさかあそこまでの規模の凍結ができるとは)

 

初撃、しかも衝也がしゃべっている際の不意打ちによる大規模凍結。

何とか咄嗟に左手で衝撃を放ち氷結を防いだものの、完璧に虚をつかれてしまった。

そのうえ

 

(右手の負傷…轟相手にちょっちこれはきっついかもな…)

 

右手が思うように動かない。

彼の右手は少しばかり震えており、ほんの少しだけ手のひらを握ったり閉じたりをするだけで痛みが走るような状態だった。

 

(USJの時における戒め…まさか本当に縛めになるとは思わんかった…。)

 

USJの時、脳無に放った最大出力…もしくはそれ以上の排撃。

それによって彼の右手は歪み、痛々しい傷が刻み込まれてしまっていた。

自分の力量も考えずに、強大な敵と戦ってしまった報い。

だが、彼のその戒めは右手の歪み以上の報いを残していったのだ。

 

(放った衝撃はおよそ六割弱、前までならそれでも動かすことも手のひらを握ることもできたんだが…

 

 

右手の衝撃の耐久力の低下…まぁその前に恐らくは(・・・・)、をつけなきゃならないほどの確証しかないけど…)

 

衝也自身もほんの数日前に気づいた無視できないデメリットの増加。

戦いにより歪んだその右手は、左手に比べて個性を使った際の反動が大きく来るようになってしまっていたのだ。

連続使用も、左手と違い何秒かのアドバンテージが必要となってきてしまっている。

なまじ衝也は戦いのために両利きになってはいるものの、もともとは右利き

無意識のうちに右手を使う回数がおおくなってしまう。

今まで通りに戦っていたら、アドバンテージを忘れてとんでもないことになるかもしれない。

一応初めて気づいた日から今日まで修正は行ってきたが、正直まだ課題しか残っていない。

実際、轟のあの氷山をぶち壊すために咄嗟に右手を使ってしまい、結果右手を負傷してしまっている。

 

(まいったね、開始早々この負傷…加えてあの大規模氷結…そうポンポン出せるもんじゃねぇだろうが、最悪もう一、二発来ると踏んで行動しないと思わぬところで閉じ込められっちまう。ま、右手一本で轟の出力上限を知れたなら儲けもんか…まさかあれ以上の意規模を出せるのはさすがにないだろ…あったとしたらそれはもうまさしく超常だ。

…まあ、この世にはその超常にふさわしい頂上に立つ者がいるためあながちない話でもないわけだけど…。)

 

そこまで考えた衝也が、軽く左手と両足をほぐし、どう攻めようか思案し始めようとしたその時、ふいに彼の鼻血がついた手のひらへと視線が止まる。

そして、同時にある光景が頭の中へと駆け巡る。

 

こちらを視てニッコリと慈愛に満ちた笑顔を向ける白髪の老人

そのあと広がった目の前一面の銀世界

防寒服フル装着で両こぶしを構える複数の人間

 

まるで記憶の断片のように流れていくその光景を頭の中で確認した衝也はわずかに目を見開いた後、

 

 

わずかに歯ぎしりの音を立てた。

 

(なるほど…なるほどね…。そういうことか…よくわかったよ轟。

お前のその決心、その覚悟は尊敬するけどよ…

 

あんまり…舐めんじゃねぇぞ?)

 

ゆっくり、ゆっくりと衝也は少しだけ態勢を低くする。

 

(…すげー視線だなおい、蛇ににらまれたマングースみたいな気分だ。俺、なんもしてねぇんだけど)

 

こちらを、まるで親の仇でもあるかのようににらみつける轟に思わず苦笑してしまう衝也。

だが、それも一瞬で、すぐさまその顔が真剣な物へと変わっていく。

 

(轟、俺はやっぱり…お前をヒーローと認めたくない。

お前を…ヒーローにしたくない。そのままヒーローになれば…いつかお前は…)

 

そして、衝也が一瞬、ほんの一瞬だけ表情を曇らせたその瞬間、

 

まるで蛇のように地面をはいずる氷が、彼を凍らせようと勢いよく向かってきた。

 

「…ッ!」

 

それに気づいた衝也はほぼ反射的に後ろへとバックステップの要領で距離をとる。

 

一瞬、ほんの一瞬逸れてしまった意識、その一瞬の意識の逸れは、すぐさま自身の首元へと突き立てられる刃となる。

 

一秒にも満たない、わずか0,24秒の意識の逸れにより、

逃げようとした衝也の右足が、氷の蛇につかまった。

 

「しまっ…」

 

「悪いが五十嵐…俺の勝ちだ」

 

目の前から聞こえた言葉耳に入ったと同時に衝也は意識を声がした方向へと向ける。

するとそこには、こちらにむけて右手を振りぬこうとしている轟の姿があった。

 

 

 

 

 

 

「すごい動きですわね、相手を凍らせた後、その氷を足場にして一気に距離を詰める…まるで軽業師のような芸当です。」

 

「才能マンかよ」

 

「足も凍らされている上にあの距離まで詰められたら蹴りもできない。とすれば両手での迎撃しかないが、このままいけば轟の方が早く凍らせられるだろうな。これはこのまま凍らされて五十嵐が負けるかもしれない。」

 

「才能マンかよ」

 

「うーん、さすが轟、闘い方もかっこいいね…」

 

「才能マンかよ」

 

「黙れこのクソ電球」

 

「……」

 

八百万と障子の解説にいちいち才能マンという単語を入れてくる上鳴を完璧に無視しながら試合に見入ってるクラスの面々。

それでもめげずに感心した様子の芦戸の言葉に返答を返すが、爆豪の一言になすすべなく撃墜される。

 

「うーむ、あの轟君もなかなかに戦い方が上手いね。攻撃の直前、わざと声をかけることで意識を自分へと向けさせている。意識が自分へ行けば、攻撃への移りがワンテンポ遅れるから。意識を攻撃に向けるのにはそれなりのタイムラグがあるからね。」

 

「な、なるほど…正直ちょっとよくわからんけど、とりあえず衝也は絶対絶命ってことか?」

 

恋の解説に首を傾げながらも瀬呂は彼女にそう問いかける。

確かに、このままいけば轟が彼を氷結させて試合続行不可能と判断されて終了になるだろう。

さらに恋から轟を褒めるような解説を出されたら彼が勝つのかと思ってしまう。

だが

 

「弱くはないよ。」

 

「へ?」

 

「これで負けるほど、五十嵐君は弱くない。」

 

何のためらいもなく、そう緑谷はステージから目も離さずに瀬呂の言葉を否定した。

その言葉に、耳郎や蛙吹、切島などの数名の男女がわずかにうなずいて見せる。

爆豪も、一度緑谷に視線を向けた後、大きく舌打ちをして視線を目の前へと戻していた。

そんな彼らの様子を見た恋は、一回だけうなずいた後、指を衝也たちへと向けた。

 

「君たちは根本的に勘違いしているようだけど、彼のもっとも危惧するべきはその個性の威力なんかじゃない。

 

 

 

 

もっと別のものさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

一秒たりとも、衝也から目を離さず、ひたすら攻める好機を窺っていた。

ただひたすら、彼の挙動、指の動き、眼球の向きの一つも逃さずに彼を見続けた轟。

だからこそ見つけることができた、ほんの一瞬の彼の意識の逸れ。

その逸れを突くような形で出した自身の最速の攻撃。

全身を凍らせることはできないが、それでも両足を凍らせるには十分な規模。

そして、その攻撃は彼の片脚を地面へと縫い付けた。

 

瞬間、轟は個性を発動させて足場を作り、彼の方へと向かっていく。

そして、その右手を、彼へと向けて勢いよく振りぬいた。

 

あとわずか数秒、ほんの数秒で衝也の身体が氷によって拘束される。

そうすればもはや動くことは不可能、試合は終了されるだろう。

 

 

(これで、

 

俺の勝ちだ、五十嵐!)

 

心の中でそう叫びながら、轟は右手を振るう。

 

そして、彼の右手で衝也の身体を氷結させようと、勢いよく振りぬかれるその刹那

 

 

 

彼の右手が突然ピタリと止まった。

あと数センチ、たった数センチ動かせば衝也に届くというその距離で彼の右手はその動きを止めたのだ。

 

「…は?」

 

そのことにほかならぬ轟自身が素っ頓狂な声を発した直後

 

彼の顔面に、衝也の頭突きが突き刺さった。

 

「がふッ…!?」

 

二度目の顔面の打撃にたまらず一歩後ろへと下がる轟。

 

だが、そんな彼の横っ腹に衝也の左回し蹴りが休む間もなく蹴り込まれた。

 

 

「…ッ!」

 

もはや声にならない痛みと骨のきしむ音と共に轟の身体が蹴られた方向へと吹き飛んでいく。

 

「すごすぎだろ…」

 

そんな中、観客席にいた尾白がすこしばかり震えながら感嘆のつぶやきを漏らした。

ほかの者たちも、半ば唖然とした様子でステージに視線を送っている。

 

「五十嵐のやつ、あの瞬間に…脇を抑えてた!」

 

尾白が、誰に言うでもない呟きが響く中、対する衝也は即座に右足の氷を自身の衝撃で砕き、拘束を解く。

 

轟が右手を動かせなくなった理由、それは、先ほど尾白が言った通り

衝也が彼の右わきを左腕で抑えたからだった。

脇が腕によって抑えられた轟の右手は即座に動きを止める。

そしてその隙を逃さずすぐさま頭突きで相手に距離をとらせたところを動く左足で回し蹴りを叩き込んだ。

つまり、衝也は

 

相手の攻撃を完璧に見切り、それを即座に潰して反撃したということになる。

そもそも振るわれる腕に合わせてわきを抑えることなど、相手の動き方から攻撃の癖まで見切っていないとできない芸当だ。

それを、演武でも何でもない、完璧な実戦でやって見せたのだ。

武術に少なからず精通している尾白だからこそわかる彼の動きの洗練さ。

それを見た恋は、わずかに唇の端を釣り上げた。

 

「そう、これこそが彼の真骨頂。

 

 

圧倒的なまでの技術の『洗練さ』。

技術を習得するのではなく何年もかけて洗練させる。

その洗練された動きは、やがて常人にはついていけない領域へと進化する。

 

彼の強さは、その類稀なる努力の才能によって生まれてるのさ。

だから、上鳴君の言う才能マンという言葉もあながち間違いではないんだよ。」

 

衝也に蹴られた方向へと吹き飛んでいく轟。

しかし、今度は無様にバウンドすることはなく、地面についた瞬間に態勢を立て直す。

 

だが、その表情に余裕はなく、むしろ大量の汗にまみれていた。

 

(…ッ!なん、だよあの蹴り…!…あんなの、もう一発でもまともに食らったら動けねぇぞ…!)

 

そして、轟はほとんど反射的に衝也のいた方向へと氷を発動させた。

その後、彼が顔を上へ上げると、やはり予想した通り、衝也がこちらへめがけて移動しているのが目に入った。

どうやら休む時間などははなから与えるつもりがなかったらしい。

咄嗟に氷を発動させておいて正解だったと、心の中でそう呟くが、

 

次の瞬間、その氷が轟音と共に粉々に弾け飛んだ。

 

「…っそ!」

 

その強風と衝撃に思わず両腕で顔をかばう轟。

その瞬間

 

「それはダメだろ」

 

「…ッ!」 

 

ガードの甘くなった鳩尾に彼の左拳が突き刺さった。

 

「…ッゲェ!」

 

瞬間、吐き出される肺の中の空気とよだれ、そしてわずかな血液。

伝わってくる衝撃と重さ、そして強烈な痛み。

まるで内臓を直接めちゃくちゃにかき混ぜられたような感覚。

 

一度に襲ってくるさまざまな感覚が頭の中を駆け巡りながら、再び轟は大きく吹き飛んでいく。

 

(氷を吹き飛ばし、それに乗じて個性を使い、懐へと入り込む。

俺が強風と衝撃を防ぐためにガードを上にすることまでをふんで。

一つ一つの攻撃が連続しており、幾重にも思考がされている。

 

 

強ぇ…!わかってはいたが…ここまで強かったのか…!)

 

「グ…アァッ!!」

 

体中に走る激痛を無理やり抑え込み、個性を氷を発動させて無理やり吹き飛ぶ身体を止める轟。

そして、すぐに態勢を立て直し大きく右足で地面を踏みつける。

すると、先ほどよりも規模もはやさも大きい氷が衝也へと向かっていった。

 

(負けない…負けない!あのクソ親父を潰すまで、俺は負けるわけにはいかねぇんだ!!

勝つ…お母さんの力だけで…親父を…

 

 

 

超える!!)

 

それは最早執念と呼ぶにふさわしいほどの執着心。

父親に対する憎悪が、父親に対する嫌悪が、父親に対する復讐心が、それだけが彼の満身創痍の身体を突き動かした。

あれまで嫌悪していた、憎悪を抱いていた、復讐すると誓った父がいたからこそできたという皮肉に満ちた反撃。

 

だが、轟は知らないのだ。

この思い以外を胸に抱いて力を振るう方法を。

その思い以外で胸に抱いて強くなる方法を。

 

ずっと父親に復讐するためだけに自分を追い込んできた。

右側の個性を何度も鍛え、身体が凍えようとも限界まで個性を引き出し、今では氷山を作れるほどまでに成長した。

咄嗟に回避行動をとれるように身体を鍛え込んだし、実戦を視野に入れたトレーニングも何回も繰り返してきた。

父親への復讐心だけが、彼をここまで強くした。

全ては、忌むべき父を叩き潰すために。

 

ここで負ければ、それがすべて水の泡になる。

そんなことは許されない、許されるはずがない。

父親の復讐のため、時にはひどいこともしてきた。

緑谷にだって、半ば八つ当たりのような喧嘩を吹っ掛けた。

何度も自分を心配してくれた姉を、それこそ何度も拒絶した。

様々な人を傷つけて、一人でずっと、孤独に復讐の道を歩んできた。

そんな茨だらけの道を歩いてきた

 

それがすべて水の泡になる、そんなこと、認めていいはずがないのだ。

絶対に、ここで勝たなければならない。

ここで、自分の復讐を終わらせることなど、許されていいはずがないのだから。

 

「う、あああああああああ!!」

 

そして轟の心の中が『黒』で染まり、彼の絶叫が会場にこだまする。

それに呼応するかのように衝也に向かう氷が、さらに大きく、勢いを増して迫っていく。

しかし

 

「…ワンパターンなんだよ」

 

彼が左手の平を前へと突き出し、衝撃を放ったその瞬間

轟の放った氷がまたもや粉々に吹き飛ばされる。

次いで彼の衝撃によって発生した衝撃波と強風が彼の前方、つまりは轟に向かっていく。

それとほぼ同時に衝也は個性を使って前へと飛び出した。

個性によって速度を増した衝也は先ほどと同じように、数秒もかからずに轟へとたどり着くだろう。

 

「ワンパターンなのは…お前も同じだ!!」

 

彼の目の前に、氷の壁が障害として現れなければ。

 

「!」

 

突如目の前に現れた氷の壁にわずかに目を見開く衝也。

対する轟は、その氷の壁の内側でわずかに垂れて来た口元の血をぬぐう。

 

(確かに、こいつの動きははやい…とてもじゃないが俺の視界じゃとらえきれないし、とらえたとしても身体が追い付かない。だがその動きは単純で、直進的!なら、こうして壁を作っちまえば)

 

「大丈夫、とか考えてるよなぁ、これ出してきたってことは…」

 

「!?なッ…」

 

突如として道をふさぐように現れた氷の壁、その外側にいるはずの衝也の声が自身の後ろから聞こえて来た。

それに驚いた轟が、すぐさま後ろを振り向こうとするが

 

「おせぇよッ!」

 

それよりも早く衝也の蹴りが轟の背中へと打ち込まれる。

たまらずに吹き飛び、目の前の氷にぶつかる轟。

しかし、追撃は止まらない

 

「ほら、もう一個おまけだッ!」

 

氷にぶち当たった轟の頸椎めがけてダメ元の左ラリアット。

個性を使った攻撃では本当にやばいので個性が発動しないラリアットでの攻撃。

それでも、その威力は相当のもので、事実彼がラリアットをした瞬間氷が砕けて轟が地面へと放り出される。

 

「…ッは!」

 

コンクリートでできた地面へと投げ出され、思わず息を漏らす轟。

対する衝也は、悠然と彼を見下ろし、コキコキと音を立てながら首を回す。

そして、未だ倒れ伏している彼のもとへと、ゆっくりと足を進めていく。

 

「不思議だよな、お前だって、USJの時に俺の戦い方は観てるはずだし、障害物競走の時の俺の動きも見てるはずだ。

そう、わかってたはずなんだよ、俺に対して『あんな』障害物は意味をなさないって事によ。

だけど、人間ってのは面白いもんでさ、この試合中に直線的な移動ばかりしてるとそのことが頭の中から抜け落ちちまうんだよ。まぁ、早い話が刷り込みされるってわけだ。

だからこんな簡単に、敵の思い通りの動きに誘い込まれる。」

 

そういって歩くのを止めて、轟を見つめる。

その瞳には、変わらず強い意志の炎が燃えている。

 

「さて、絶体絶命だぞ、轟。…ここからどう逆転するよ、ヒーロー。」 

 

淡々と

轟を見下ろしながらそう呟く衝也に対し、轟は何も言わずによろよろと拳を支えに身体を起き上がらせる。

食道から上がってくる異物と鉄の味のするものを無理やり飲み下し、よろめきながらも必死に立ち上がる。

だが、その体は、衝也よりもはるかに深手を負っていた。

 

『…次元が違うな』

 

『!え、えーと…WHY!?つまるところどういうことだイレイザー!?』

 

『仕事しろよお前』

 

ぽつりと、今まで試合に圧倒され過ぎて仕事を一切していなかったマイクの代わりに解説の相澤がつぶやきを漏らす。

 

『轟も弱いわけじゃねぇ、判断力だってあるし、機動力も十分、応用力にも長けてた。だが、五十嵐の強さはそれ以上だ。動き、技術に対する洗練さが頭二つとびぬけてやがる。

判断力も同等、応用力も同等、個性の規模も同等。

だが、機動力と戦闘技術の洗練さが轟の倍以上はありやがる。

正直、俺でも近接戦闘でアイツに勝てるヴィジョンが浮かばねぇ…。』

 

(あの野郎…本当に何をしてここまで洗練させた?どう考えても高校生がたどり着いていいような領域じゃねぇだろう…?)

 

思わず、ステージ上にいる衝也へと視線を送る相澤。

そして、わずかにその表情を曇らせる。

 

惜しい、ここまでの戦闘技術を持っているというのに…

『あれ』さえなければおそらく彼は…

 

そこまで考えて、相澤は小さくかぶりを振った。

 

(いかん、これ以上は考えても無駄だ…非合理的なことはいったんわきに置いていこう。…しっかしまぁ…まさか同年代でここまでの差がつくとはな…

 

いや、それも当然と言えば当然か…

 

全力で戦おうとしてるものとしてない者、勝つのがどっちかなんて、ガキでもわかる問答だ。)

 

そこまで考えて、相澤は視線を衝也から轟へと移す。

ふらつきながらも、それでもなお戦おうとする意志は評価に値するだろう。

だが、彼が全力で戦うことがない限り、万に一つも勝機はないだろう。

こちらも、やはり惜しい。

もし家庭環境にいざこざがなかったら、彼は今頃もっと強くなっていたかもしれないのに。

 

だが、そんなもしもは訪れない。

あるのは無慈悲な現実のみ。

実際に轟は心に闇を抱え、それが鎖となって彼を縛り付けている。

 

(だが、それを解くのは…今は俺じゃァねぇよな。)

 

自然と、衝也へと視線を移す。

 

USJの事件の後、相澤はすぐさま衝也のもとへと訪れ、怪我とかそういうものを一切考慮せずに思いっきりぶん殴った。

当たり前だ、結果こそ勝ったものの、個性の相性は最悪、おまけにパワーとスピードがオールマイト並みという化け物だ。

そんな奴に卵以下の生徒が真正面から戦ってしまったことを、褒めていいはずがない。

というよりまず先に命が惜しくないのかと叫びたくなる。

そして、この時相澤は衝也を除籍処分という選択肢も頭の中にいれていた。

個性の相性が悪い、もしくは勝てない敵だったら救助を要請する

プロのヒーローどころかそこらの一般市民ですら行っている超大前提。

それを無視しての暴挙だ、これで結果が伴っていなかったら即刻除籍にしていただろう。

だが、彼の一言が、相澤のその考えに待ったをかけた。

 

『先生、俺は…敵の強さを、誰かを救うための言い訳にしたくなんかないんすよ。

敵の強さを、…何かを言い訳に救うことをあきらめたりしないために、俺は今まで強くなってきたんです。』

 

自分の弱さを言い訳に、個性の相性を言い訳に、救うことをあきらめたくはない。

そういった衝也の言葉に、相澤は飲まれてしまったのだ。

抱える闇は決して小さくはない、もしかしたら、この彼の光は闇に飲まれてしまうかもしれない。

だが、彼のこの光は、この先の社会において必要になってくるのではないか。

そう感じてしまったから、この光を守らなくてはいけないと、一ミリでも感じてしまったから。

 

(不思議な奴だよ…あんな風に感じたのは生まれて始めてだ)

 

その光を見た相澤だからこそ、想ってしまう

彼ならきっと、轟の闇の鎖を断ち切ってくれるのではないかと。

普段の彼ならあり得ないような非合理的な期待を目に宿らせながら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

「……」

 

「…っは…っはぁ!」

 

苦しそうに、つらそうに、肩どころか全身を揺らしながら荒く呼吸を繰り返す轟。

それでも、なお立ち上がろうとするその姿を、ただただ何もせずに見つめ続ける衝也。

 

「…負けて、たまるか。俺は…俺は…あいつを、親父を…超える…ヒーローにッ!」

 

そういって俯かせていた顔を上にあげ、衝也の方へと視線を向ける。

その視線はまるで猛獣のように獰猛で鋭く、息を詰まらせるような圧を感じさせる、

だが、それでもひるまずに、衝也は声を上げる。

ここからが、おそらくは彼らにとっての本番。

轟はもちろん、衝也にとっても

 

「…轟、色々めんどくさいからはっきりと言わせてもらうけどよ

 

今のお前じゃ、俺には絶対に勝てないよ」

 

「…ッ!」

 

衝也の言葉に、轟がより一層にらみつける視線を鋭くする。

もしここに立っているのが衝也以外だったとしたら、その圧に負けて戦意をへし折られてしまうだろう。

だが、それでもなお衝也の口は止まらない。

 

「気づいてるだろ自分で…。お前、

試合開始直後と今とじゃ動きにまるでキレがねぇんだよ。」

 

そういって衝也は轟の右手を指さした。

その彼の右手には開始直後にはなかった霜が大量にこびりついていた。

震えも、開始直後よりも大きくなっている。

 

「そりゃそうだ、あんだけ氷をばんばん発動させてりゃ身体がその冷えに耐えきれなくなってく。筋肉の柔軟性は落ち、関節だって思うように動かせなくなる。これは戦闘では致命的だ。」

 

そういって衝也はガリガリとぼさぼさの頭を掻きながら何かを思い出すかのような遠い目をし始めた。

 

「俺もさ、極寒の場所で戦うのがどれほど不自由なのかは多少なりとも知ってるからな、そんな中動いてるお前のことは正直褒めてやりたくなってくる。

 

 

だが、褒めてはやるが負けてやるつもりはねぇよ。お前のそのデメリットは、機動力でお前を上回る俺を相手取るには最も致命的な要素だ。そのデメリットがある限り、お前は俺に勝てはしない。俺が負けようと手ぇ抜かねぇ限りな。もちろん、手を抜くつもりは俺自身にもねぇ。」

 

轟をにらみつけながら衝也は頭を掻いていた手をゆっくりと落とし、轟に劣らない鋭い視線で彼をにらみつける。

 

「ここまでおぜん立てすればわかるよな…?お前にある唯一の勝機。

てめぇのデメリットを帳消しにできる一手。

 

 

 

 

 

使えよ、左側。

 

何をそんなにこだわってんのか知んねぇけど、今の俺に勝つにはそれしか方法がねぇぞ?」

 

「…ッ!」

 

その言葉を放った瞬間、轟の視線が、圧が、雰囲気が一気に膨れ上がる。

そのあまりの急激な膨れ上がりに一瞬だけ衝也の心がおじけづく。

 

「てめぇには…関係ねぇだろう?」

 

底冷えするような、まるで深い闇の穴の底から聞こえてくるような凍え切ったその声色に、衝也の心が足を引く。

やめたほうが良い、これは轟の傷を広げるだけだ、余計なおせっかいで、友達を傷つけるなよ。

 

そんな心の声が耳の中をこだまする。

それを

 

(うるせぇよ)

 

たった一言で無理やり押さえつける。

 

(救うって決めたんだろ?救う覚悟をしてきたんだろ?だったら、その救うべき奴のことを言い訳に使って逃げんじゃねぇ!)

 

そう心の中に喝を入れて、衝也は今一度大きく深呼吸をして、再び目の前の轟へと視線を向ける。

 

「なぁ、轟…お前はさ…ヒーローって何をする奴がそう呼ばれると思う?」

 

「……」

 

轟は衝也の突然の問いに眉を顰めるが、その質問に答えようとはしない。

それを見た衝也は、相変わらずこちらをにらんでいる轟に向けて視線を向け続ける。

 

「何をするなんて、決まってるよな…

 

 

人を救うんだ。人の命を、救うのが、ヒーローのすることだ。」

 

「……それがどうしたっていうんだ、そんなことお前に言われなくてもわかって」

 

「わかってねぇよ

 

 

てめぇは何一つわかってねぇよ轟。

 

だからてめぇは、ヒーローになるべきじゃねぇって言ってるんだ。」

 

衝也のその言葉に、轟の動きがわずかに止まる。

視線が、強く、鋭いものに変わってく。

自分のことを強く、そして真っ向から否定した目の前の人間を、それこそ父親を見るような目で射抜いていく。

だが、それでも衝也は止まらない。

いや、むしろその目に宿っていたひかりが、より輝きを増していく。

 

「簡単な話だよ、例えば轟お前がヒーローだとしよう。緊急の連絡を受け、現場に駆け付けたヒーローだ。そして、この俺、五十嵐衝也は

 

今まさに人の命を奪おうとしているヴィランだとしよう。

だとしたら、お前はどうする?」

 

その問いに、轟の動きが今度こそ完全に止まる。

 

「そりゃ、ヒーローなんだ、俺と戦おうとするよな。そこはいいんだ、何一つ間違っちゃいねぇ。実際、お前はそういうことができる人間だと想ってる。

だがよ、その時、お前は、俺が奪おうとしている命を

 

救うことができるのか?

 

 

断言してやる…無理だよ。

なぜか?そんなの簡単だよ、『今』のお前じゃ逆立ちしたって俺には勝てねぇからだ」

 

そう、仮に衝也の話の通りの状況だとしたら、轟にその人の命を助けることなどできはしないだろう。

なにせヴィランである衝也に今まさに手も足も出ていないのだから。

仮に万全の状態で臨んでも、すぐに個性のデメリットによって衝也をとらえきれなくなり、あっけなく負けてしまう。

そしたら、

 

一つの命が、失われることになる。

 

「もし、てめぇがその命を救えなかった時、てめぇはなんていう?てめぇは、救えなかったという事実に打ちひしがれてなんていう?

 

 

まさかお前

 

『自分の力が足りませんでした』なんていうつもりじゃねぇよな?」

 

その言葉に、轟がわずかに体を震わせる。

それは、果たして、個性のデメリットによって来るものなのか…それとももっと別の者なのか。

 

だが、少なくとも、彼の瞳に、先ほどのような圧はなくなっていた。

そして逆に、先ほどの轟をゆうに超えるほどの重い圧が、衝也の視線からあふれ出した。

 

「ちげぇよな?てめぇの力が足りなかったからじゃねぇ…てめぇのその『クソ身勝手な』理由で、てめぇが『全力を出さなかったから』救えなかった…これがほんとの理由だよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

てめぇ、それが言い訳になるとでも思ってんのかよ?」

 

そして、まるで、決壊したダムから流れ出る水のように、衝也の感情が、

 

一気に彼の心から流れ出る。

それは、彼がずっと、この体育祭が始まる前から

病院であの…

 

『轟』という名前の病室を訪れたその時から、彼に言いたかった言葉。

 

「ふざけんなよ…ふざけんなよ轟ぃ!!

 

 

 

そんな言い訳が通用するわけねぇだろうがよ!!

 

 

人を救うことが、人の命を救うことが…全力も出さずにできるなんて…そんな簡単なわけねぇだろうが!!」

 

顔を俯かせ、拳を握りしめ、全身を激情に震わせて、衝也は胸の内に秘めた思いを、轟に伝えたかった言葉を、ただひたすらに叫んでいく。

 

「人の命を救うのがそんなに簡単だったら…人の命は簡単に失われたりなんてしねぇんだよ!百戦錬磨のプロのヒーローたちが、必死こいて頭悩ませて治安維持なんてやる必要なんかねぇんだよ!!

 

いつだって、いつだってヒーローは全力で!命かけて!限界超えて!出せるもんすべて出し尽くして人の命救ってるんだよ!

 

 

でも!

 

そんだけ全力でやり通しても…救えなかった命が、絶対にあるんだよ!!

 

その背中に!背負わなきゃいけねぇ贖罪背負って人の命を救ってるんだよ!!

 

救えなかった人の命背負って!何人もの人の命を救ってんだよ!!

ここにいるプロのヒーローたち全員!救えなかった命があって!それでもその救えなかった命の分まで多くの人の命を救ってるんだよ!

それがヒーローなんだよ!それが『英雄』ってやつなんだよ!」

 

会場中に響き渡る彼のその言葉にその場にいるすべての人間が気圧されていた。

それは、この社会において、平和の象徴とうたわれるオールマイトですら、彼の言葉に心が奪われていた。

 

(…五十嵐少年…君は…もう知っているのか?その歳で、もうそれを知ってしまっているのか!?)

 

普段彼を見て、彼のそのお調子者の姿を見て、こんなことを想っていることなど想像すらできなかった。

だからこそ、USJの時あそこまで命を懸けてクラスメートを救おうとしていたのが、とても意外だった。

だが、今ならわかる。

彼は、彼はきっともう知っているのだろう

 

「少なくとも俺は!!

 

俺は知ってる!!

 

どれだけ全力を出していても!!どれだけ力を絞り出していても!!

 

その力が足りなかったがゆえに…たった一人の命すら救えなかった人間がいるのを…俺は知っている!!」

 

人の命を救うことがどれほど難しいのか、そして

 

「後悔してからじゃおせぇんだよ!!たとえそのあと、どれだけ強くなろうとも、どれほどの人間を救おうとも!!

 

 

 

救えなかった命が!!戻ってくることなんかねぇんだよ!!

もう二度と、救えなかった人が戻ってくるなんて、そんな漫画みたいなことはねぇんだよ!!」

 

人の命が救えなかったことが、どれだけつらく、苦しいことなのかを。

 

(その歳で、そんな若きときに…!!君は知ってしまったのか!?それでもなお押しつぶされずにそこで立っていたというのか!?君は…君は…

 

一体過去に何を見た!?)

 

平和の象徴は、その少年の言葉に思わず顔を覆ってしまう。

彼のその言葉をもう彼の方を見ながら聞くことができなかったから。

 

そして、それは観客席にいるクラスメートたちも同じだった。

その場にいる全員が、衝也の名前をつぶやいて、顔を下に俯かせていた。

ただ二人、轟と耳郎の二人を除いて

 

「衝也…アンタ」

 

「五十嵐…お前」

 

『『泣いて、るの?』か?』

 

それは、目をそらさずに衝也のことを見続けた二人だからこそ気づけたこと。

そう、彼は顔を俯かせながら、コンクリートでできた無機質な床を

涙で濡らしていた。

 

(お前…どうしてそこまで…)

 

「轟、人の命を救うのは、半分の力でできるほど簡単な事じゃねぇんだよ。

その時その時に、全力出しきって、それこそ命までかけて、ようやくできる偉業なんだよ。」

 

「…五十嵐お前…」

 

「もしお前が、誰かの命を…大切な人の命を救えなかった時、お前は『自分の父親が憎かったから全力が出せず、誰も救うことができませんでした』って、言い訳するつもりなのかよ?」

 

「ッ…」

 

その衝也の言葉に、轟は明確に目を見開いた。

そして、それを見た衝也もまたその涙にぬれた瞳を轟の方へと向けた。

 

「轟、…そんな自分の父親を…人を救えない時の言い訳にするような真似、してんじゃねぇよ…」

 

「…ッ、五十嵐!」

 

「自分の父親の復讐を、人を救えない時の言い訳に使うなよ…」

 

「…」

 

「自分の…大切な人を…自分の母親を…人を救えない時の言い訳に使うなよ!!」

 

「…!?お前、それ…どこで」

 

「思い出せよ、轟焦凍!!

 

お前がヒーローを目指した理由を!

 

思い出せよ!

 

お前が初めて救いたいと思った人を!!

 

思い出せよ!!てめぇの原点を!!

 

今のお前は…その人を救うことができるかもしれねぇんだぞ!!」

 

「っ…!?」

 

そういって衝也は轟に向かって拳を握りしめながら向かっていく。

個性も使わずに、その両足で地面を踏みしめながら、轟の方へ近づいていく。

 

あの日、『轟』という病室であの人と会った日から、轟焦凍の物語については知っていた。

言葉では言い表せないほど壮絶で、自分では理解しえないほど凄惨な彼の物語を。

 

(何が身勝手な理由だよ…そんなわけがねえだろうが!あんだけつらい思いして!あんだけ自分の大切な人傷つけられて!自分や家族の人生まで捻じ曲げられた奴の決心が、身勝手な理由なわけねぇだろうが!!)

 

実際に轟の仕打ちを受けていない衝也には轟のつらさをわかることなどできはしない。

だが、そこまでの仕打ちを受けた轟が、きっと強い覚悟を持って決意を固めたのは想像するのにたやすい。

だが、それでも、衝也は轟を救うことを決心した。

例え、彼が固めた決心をも折ろうとも

 

(それでも…轟!俺は…お前に後悔してほしくねぇんだよ!そんな戦い方のままヒーローになったらお前は、いつか人の命を救えなかった時、必ず自分をせめて…後悔して!きっと心を折られてしまう…そんな友達の姿を俺は観たくねぇんだよ…!あんな、あんな…)

 

思い出される、一人の女の顔。

傷だらけで血だらけなその顔を、最後まで笑顔にしたまま

 

『衝也…私の分まで

 

 

 

 

生きて』

 

自分の命を救ってくれた人の顔を、思い出す。

 

(あんな思いを…友達に味合わせたくなんかねぇんだよ!!)

 

「思いだせぇぇぇぇ!!轟ぃぃぃぃぃ!!」

 

そして、彼の拳が、轟の元までたどり着こうとしたその瞬間

 

轟の左側が、灼熱に包まれた。

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

想えば、母親にやけどを負わされたあの日から、

 

自分がどうしてヒーローを目指していたのかを、忘れてしまっていた。

 

父親への復讐のためだけにヒーローになろうと躍起になって、

いつの間にか、自分がなりたかったヒーローがなんなのか忘れてしまっていた。

 

昔は、嫌っていたはずなのだ、自分をいじめる父親のようなヒーローを。

自分の大切な母親をいじめるような父親のようなヒーローを。

 

けど、その母親のある一言が、自分を導いてくれた。

自分がヒーローを目指すきっかけを与えてくれたはずなのに、いつの間にか…それを忘れてしまってた。

その思い出せないきっかけが、母親の言葉が、靄のようにまとわりついて轟を狂わせる。

 

だから轟は、自分の復讐の邪魔になるその靄を強引に心の隅へと追いやった。

だが、

 

『思い出せよ、轟焦凍!!お前がヒーローを目指した理由を!

 

思い出せよ!

 

お前が初めて救いたいと思った人を!!』

 

 

(俺は…俺は…ッ!)

 

彼の言葉によってその心の靄が、無理やりオモテに引っ張られる。

 

『いいのよ…お前は…』

 

 

『思い出せよ!!てめぇの原点を!!』

 

 

(俺は…俺は!)

 

その靄は、彼の言葉によって急速に晴れていく

 

『いいのよ、お前はなりたい自分に…』

 

(俺は…!!)

 

そして、彼の心の中の靄は、衝也の最後の一言で、

 

『今のお前は…その人を救うことができるかもしれねぇんだぞ!!』

 

(…ッ!!)

 

すべて遠くへと吹き飛んだ。

 

 

『いいのよ、お前は。血にとらわれることなんてない。なりたい自分に、なっていいのよ。』

 

遠い、遠い昔の記憶。

テレビの前のヒーロー、オールマイトに憧れた自分。

父親であるエンデヴァーのようなヒーローになりたくない自分。

その両方の板挟みで、どうすればいいか泣きじゃくった自分をあやす母親が、言ってくれたその一言。

しかし、その一言に轟少年は一瞬笑顔を見せるが

すぐにその表情を曇らせる。

 

『で、でも!僕は…やっぱり、父さんのようなヒーローにはなりたくないよ。

 

 

ぼ、僕、母さんを傷つけなくて済むならヒーローじゃなくてもいい!』

 

そういって母親にしがみつく轟少年を、母親は困ったように撫でた後、

名案でも思い付いたのかふと笑みを浮かべた。

 

『そう、なら…母さんを傷つけずに、救ってくれるヒーローになってくれる?』

 

『!母さんを、救うヒーロー!?』

 

『そう、父さんの力でも、母さんの力でもない、焦凍自身の力で、母さんを救ってくれるような、そんな強いヒーローになってくれる?』

 

自分な大切な人を傷つけずに、救うことができるヒーロー。

そんな夢のような響きに、轟少年は、瞬時に心を奪われた。

 

『…っ!なる!ボク、母さんを救えるような!そんなヒーローになりたい!』

 

『そう…なら、これからもっともっと強くならないとね!頑張って、焦凍

 

私は、いつまでも焦凍を見守って、待ってるからね!』

 

『うん!!』

 

 

 

 

 

 

(ああ、そうだ…思い出した。思い出したよ、母さん

 

そうだよ、俺はあの時

 

 

 

母さんを救えるような奴になろうって思ったから、ヒーローを目指したんだったよ…!)

 

そして、そのことが分かった瞬間…彼の心が熱を帯びる

 

(ごめんよ、母さん。今の今まで忘れてたけど…ようやく、ようやく…

 

 

俺の力で、母さんを助けられそうだ。)

 

彼の心が熱を帯び、それが頂点にたっしたその瞬間

 

彼の左側が、その心を体現するかのように紅蓮の炎に包まれた。

 

 

 

「うへぇ、こりゃまた…想像以上の規模と熱気。いや…右側があれだけの規模出せたと考えると、こっちの規模も相当と考えるべきだったかな」

 

いつの間にか近づいていた衝也が、若干苦笑交じりにそう呟いた。

 

「…なーんか眠れる獅子を起こしたような気分がする。」

 

「?俺は獅子でもないし眠ってもいないぞ?」

 

「…え?ちょっと待ってお前ってそういうキャラなの!?」

 

初知りなんだけど!?と首をかしげる轟に驚愕する衝也だったが

 

「…ありがとな、五十嵐。」

 

轟のその言葉にその表情が優し気な物へと変わる。

 

「…思い出せたか?」

 

「ああ、思い出せた…お前のおかげだ、五十嵐。」

 

「ふっきれそうかい?」

 

「いや、その前に…救わなきゃならない人がいる…俺が吹っ切れるのはそのあとだ。」

 

「かぁー、いうことがいちいちかっこいいなおい。思わず嫉妬しちまいそうになるぜ…」

 

「…正直お前は俺よりかっこいいよ。」

 

「イケメンに言われても心に響かないんですけど…」

 

「…それより、お前、どうして俺の家のことを…いや、俺の母さんのことを」

 

「おーっと、まぁそういうこまけぇ話はあとにしようぜ轟。今は、目の前のことに集中しろよ。

 

それともお前

 

俺に勝てると想ってるつもりかい?

…あんま調子こくなよハーフ&ハーフ野郎!」

 

「…ッ!…ああ、そうだな…!」

 

衝也が唇の端を釣り上げて笑うと同時に、轟も自身の唇を釣り上げる。

そして

 

「調子に乗るのは…お前に勝ってからにする!!」

 

「やってみろやハーフ野郎!!」

 

お互いが全く同じタイミングで前へと飛び出し

 

互いの最大出力の攻撃が激突し

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで轟の鎖が解き放たれたことを示すかのように会場中を震わせた。

 

 

 

 

 




基本それっぽいこと叫んでれば何とかなると想ってるんですよね…
おかげでダメダメですねストーリー。

これでなんで轟君左側使うんだよ!とかいう言葉が出てきそうです…
持つかな、私のメンタル。
そしてやはり戦闘がヒドイ…
ちょっと…いやかなりへこみますね…

そして、この衝也の言葉のすべてに私が轟君を好きになれなかった理由のすべてが詰まってます。
全力も出さずに人の命を救うなんてふざけてます。
だって、それを言い訳に逃げ放題なんですから、救えなかったつらさから。
もしそれが自分の大切な人だったらお前どうすんだよって本気で思ってました。
今は大好きですけどね!
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