時は、乱世ーー
足利の世が、13代将軍である足利義輝が三好家の重臣にて大和の多聞山城という山城と境目にえる居城をしている松永久秀と三好三人衆による襲撃によって事実上、足利家は崩壊したのを機に京の都から遠のく関東小田原では、真っ黒な衣服に白く描かれた三つ鱗の家紋が描かれている黄金色をした陣羽織を羽織っている何かしら疲れきっているのだろうか………
黒い髪の合間には幾つかの白髪が生えており三尺四寸(約172cm)ある中肉中背の男が目の前にいる小柄で胸も控え目な割に態度が非常に大きい姫大名を相手に頭を下げている。
「折角、古河御所を抑え足利晴氏めの一人娘を此方の駒といたしましたし、次期当主とし推挙致したいのですが如何でしょう?」
「大方、可能だとしても相模守護の位から何か魅了するものが越後にあるままなのでしょ?誰かさんが上野攻略に手を焼いて越後へ憲政を逃がしてなきゃ多少は違ったでしょうね」
彼女の一言に彼は額から冷や汗を垂らしつつも何かしら貯蓄していた財の五分の一も費やして手に入れた西陣織りの羽織へと何かを探るかのよう目を通している。
「まぁ、この羽織で許してあげたいとこだけど……最近、戦での費用を抑えながら上野城下で織物造りに力を入れてる誰かさんがいるらしいじゃないの。その上、越後の田舎重臣が資金まで出してくれてるそうじゃない」
「………まことに、他国の武将相手に何を仕掛けておるのでしょうな。ただ、その重臣が一言で最近では上野攻略が延期されたともお聞きしております」
「……一応、言っとくけど貴方に上野一国はあげないわよ」
「…………え?厩橋城の改修作業が進んでおりますし、箕輪城の長野業正がようやく人質を寄越してくれるのですぞ!?今や上野一国は統一寸前まで進んでおります!」
男は必至に手に入れたばかりの国を手放したくないせいか、どうにか説得してるものの彼女の頭は横を降る素振りすれ見せていない。
寧ろ、何かしら記されている書状を強く握りしめてる。
「義尭がようやく此方に人質として送ってくれるそうなのだけど………その人質の重臣が誰かさんにお熱なのよ。で、貴方には玉縄一城で当分満足してもらいたのよね」
「いゃ、義尭殿には鶴岡八幡の修復で先の当主殿が派手に燃やしてくれたからそれを名義に幾らか資金援助に協力していただいたまでで………決して姫を裏切ってる訳ではありませんぞ?」
「………だけどあんな乳持ち女に媚びて貰うなんてどういう了見かしら?最近じゃ氏政まで貴方達の意見を重視し過ぎて頭がいたいのに………」
相模を拠点に持つ北条氏康は、目の前にいる重臣の北条綱成という男を以下にすれば自分の臣下として信用出来るのかと内心、睨んでいた。
何せ、この男は過去に今川の下にも仕えていた経緯もあるのだが、義元が姉である氏輝が亡くなったのをきっかけに身内の中で彼女達の腹違いの妹が自分達が一族であるのを利用し、今川の実権を狙わんが為に戦を引き起こしたのだ。
だが、その家督争いも義元側についていた太原雪斎という今川の名宰相が家中の重鎮等をかき集め敗北してしまいそれから全てを無くした彼を引き受けたのが、彼女の父である北条氏綱という先の北条家当主である。
綱成は、この氏綱という男をきっかけに北条家で槍働きや周囲の豪族や勢力との仲立ちまでする事もあり今では、河越夜戦で活躍して以来、北条に仕えるようになった忍城の成田家と岩付城の太田家を北条家へ仕えさせる条件として両家共、鎌倉時代よりその領土を守り続けた名家という事もあり、鎌倉の鶴岡八幡宮といった源頼朝ゆかりの地にて両家の縁談を持ち込ませた実績もある。
また、これをきっかけに北条と睨み続けている里見義尭という安房・上総の大名が目をつけ先代の当主が鶴岡八幡を焼き討ちにした経緯もあるからと彼からも幾らか鎌倉の町を維持する資金を頂いている経緯もある。
これがまた氏康の悩みの種でもあり綱成という男が何時かこの北条を乗っとるのではないかとも警戒しているのだが、この悩みの種を打ち消したい彼女の狙いもあるのだが………
「………あの娘がこいつにぞっこんじゃなければもっと事が進みやすいのだけどね」
「ん?その様子ですと上野一国をこの綱成に任せてくれる気でもなりましたか?いゃ~あの田舎に最近、資財がかかかり頭が痛かったとこですけどようやく雇用なども落ち着いたとこですからねぇ~」
「そのくらい、他の者でもなんとかなるでしょう。後、あんたはやっぱり他を任せたくないわね。玉縄で大人しく落ち着いたら良いじゃない。そろそろあの自称軍神様が此処へ攻めてくるのよ?上野の上杉の旧臣だって信用出来ないわね」
氏康が警戒するのも一理あるものの彼は退く姿勢を見せないがまま懐よりとある書状を彼女に献上する。
「この様に、その旧臣が自らの後取り娘をここ北条領内へと赴く文すら預けられております。後は、佐野家を黙らせ宇都宮攻略の足掛かりを見出だしてくれるのであれば……」
「そう簡単に事が進むのならいいんだけどね。で、噂の軍神様からすれば折角頂いた関東官領様なら尚更、あんたの下野攻略を邪魔しに来るわよ」
彼女の危惧する点に彼は手を打っていた。
そのせいか、上野で山内上杉を攻略してから築いている前橋城という平城へと向けていたのが、これから上杉謙信という姫大名との戦とも大きく関わる事となる。