SCP Foundation ―久遠拓海の非日常恋愛譚― 作:まそらぱっく
今回の作品は投稿3作品目ですが、SCPと恋愛を主軸においたものになりました!
どうか、楽しんでいただけると幸いです。
小学生の頃ドッジボールをすれば、いちいち相手を宣言してから投げつけた。肩が他の子より秀でている訳でもないので簡単に取られた。仲間チームの連中から戦力外通告された。
中学生の頃テスト中に自分の消しゴムが机の上から落ちれば、肘を曲げないでピンと手を伸ばし、大声で先生に拾う許可を得ようとした。あまりに大声だったのでテスト中なのに廊下に立たされた。
融通が利かず、常にクラスの中で浮き続ける存在だった。しかし久遠拓海は何も困らなかった。
むしろ久遠拓海は孤独でいる事自体嫌いという訳でもなかったし、学業も真面目な性格から常に上位層で困る要素がなかった。
他の子が高校の受験で悩み続けている頃には県内トップクラスの進学高校である
そんな機械的で人間味に欠ける空気の読めない久遠拓海が初めて他人に興味を示したのは、卒業1ヵ月前のことだった。
中学3年生から同じクラスの
笹本瑞樹は久遠拓海と同様に他の人間と積極的に絡むようなタイプではなかった。全体的に小さくまとまった体格で、黒のカーディガンと、背丈に合わないために余った袖と、首が隠れる程度に伸ばした髪が絶妙なバランスの女性だ。
久遠拓海は笹本瑞樹が横を通り過ぎるたびに動悸が激しくなったり、いつの間にか視線で追っかけていたり、彼女の事を想像するだけで授業に集中できないほど日常生活に支障が出ていた。
このままではいけない。久遠拓海はそう思い立つとあらゆる図書室の文献とインターネットの情報網を駆使し、自分に起きている症状が恋であるという結論を導き出した。
そして、卒業式。あれだけ高校生活のプランを考え、卒業式を待ち望んでいた久遠拓海はもういない。今の彼はただ、笹本瑞樹に告白をする事で頭がいっぱいだった。
このタイミングを逃せば一生会えないかもしれない。これまで1度も笹本瑞樹と会話をしたことがなかった久遠拓海は、彼女の進学先さえ知らなかったのだから。
担任の先生のお別れの挨拶が終わる。クラスメイト達は立ち上がり、仲の良い友達同士で集まり始めた。もちろん、久遠拓海と笹本瑞樹の周りに集まる人間なんていない。
だからこそ、ここで行くしかない。久遠拓海は全身に巡らせたありとあらゆる勇気を振り絞ると、格好悪い裏返った声で笹本瑞樹に話しかけた。
「笹本瑞樹、話がある」
笹本瑞樹が何事かと久遠拓海を見つめる。その瞳は久遠拓海の今の心境など分からない平静そのものだった。久遠拓海もまっすぐ見つめていたが、強烈な魅了を秘めたその瞳に、視線を逸らしてしまった。
「…何?」
初めて聞いた、笹本瑞樹の声。弱弱しい口調だが、愛らしい。周りの卒業を祝う声で、しっかりと聞き取りづらいことが残念だ。
「あの、実は」
今にも口から飛び出しそうな心臓をぐっとこらえて、久遠拓海は逸らした視線を笹本瑞樹に戻し、震える声を引き締めた。
「笹本瑞樹。君の事が好きだ」
まるで、世界中の時間が止まったみたいだった。あれだけ五月蝿かった同級生の声が耳にまったく届かない。全ての動作がスローモーションに見える。笹本瑞樹の返答が来るまでが永遠に感じられた。
その間に、今告白されても笹本瑞樹はどういった反応をすればいいとか、こんなクソ真面目な僕に告白されても嬉しくないだろうとか、ロマンチックな方法がいくらでも考えついただろうに……なんて事が脳裏に浮かんだが、もうそんな事はどうだってよかった。
ただ、笹本瑞樹の返答を、久遠拓海は素直に受け取る。それが全てだと久遠拓海は覚悟を決めていた。
しかし、返ってきたのは想像していた苦言でも、待ち望んでいた両想いを告げるものでもなかった。
「さようなら」
笹本瑞樹はただお別れの挨拶をすると、教室から走りだしていた。笹本瑞樹の華奢な身体はどんどんと遠ざかっていき、久遠拓海が呼吸することを思い出した時には、もう視界からいなくなっていた。
世界中の音のボリュームが元の大きさに戻る頃、久遠拓海の頭の中はぐちゃぐちゃにかき混ぜられたホイップクリームのようだった。
久遠拓海は笹本瑞樹に一体どういう答えを求めていたのだろうか分からなくなった。ただ、頭の中で残響するのは『さようなら』の5文字だけ。
久遠拓海の初恋は、自分の秘めた想いを相手に伝えただけで終わった。
初恋の失敗から時は過ぎ、暖かい春の光が頬をそっと撫でる頃。
久遠拓海は喜乃原高校の入学式に向かっていた。
正門をくぐるとすぐに目に飛び込んできたのは部活動の勧誘を行う先輩達の姿だった。だが、久遠拓海にとって先輩達の必死な姿などは興味を示す事ではなかった。
笹本瑞樹が喜乃原高校に進学しているかもしれないという事の方が久遠拓海には重要だったからだ。
久遠拓海は自然と笹本瑞樹の姿を見つけようとしていた。未練がましいとは分かっていても、やるせない気持ちを未だ捨てずに抱えていたのだ。
しかし、笹本瑞樹はおろか、顔を見た事がある人間さえ見当たらない。辺りを挙動不審に見渡していた久遠拓海であったが、ふと自分の右肩を後ろから掴む存在に気が付いた。
「ねぇ、そこの君」
「悪いが、学業に差し障る部活動に入るつもりはない。他をあたってくれるか?」
間髪入れずに久遠拓海は釘を刺したつもりだったが、後ろから聞こえてきたのは、くすくすと笑う女性の声だった。
「違う違う。部活動の勧誘なんかじゃないよ」
久遠拓海はその女性の方へと振り向く。笹本瑞樹とは対照的な活発そうな笑顔と、自分と同程度の身長と、肩甲骨よりも長い髪を持つ女性だ。触れるほど近くにいるため、整った顔立ちがよく分かる。
だがその女性を久遠拓海は見た事がない。部活動の勧誘ではないのであれば、話しかけられるような事をした覚えはないのだが。
「じゃあ、何の用だ?」
「あたし、君に一目惚れしちゃった。付き合わない?」
「…うん?今なんて言った?」
「だから、付き合おうよ。君名前は?」
「く、久遠拓海」
「久遠拓海くんね。うん、とってもいい名前。あたしは
「え、よろしく?え?………え?」
久遠拓海が疑問符を浮かべていると、伊波真由子と名乗る女性はたくさんの新入生の中をかき分けて目の前から消えていった。
久遠拓海は断る隙もなく、言葉をたいして交わすこともなく、上級生の伊波真由子と付き合うことになった。
この伊波真由子との邂逅が、
いかがでしたでしょうか。
・・・・・・と言ってもまだ恋愛部分しか出ていませんが(笑)
本編となります第1章から、久遠拓海を中心とした非日常恋愛譚は始まります。