結論から言おう。可愛いは作れる。
私、アリス・マーガトロイドがこのような結論に至った経緯を話す。
事の発端は人里でいつも通り、子供向けの人形劇を終えた後の事だ。
無邪気な笑顔を浮かべながら、私に対してさよならを言う。また来てね、と笑顔で返しその場を去ろうとしたその時、おそらく彼らの親御、その仕事仲間であろう男たちに声をかけられた。曰く、「我々大人に対しても、劇を演じてくれないか」と。
普段子供向けの者しかやっていない私に大人に対して、とはどういうことだろうか。その人形劇で劇を演じるのは私の人形ではなくて私自身ではないだろうか。人里の人間の中では似た類の無い私をねじ伏せ人形のように弄ぶ気ではないだろうか。エロ同人みたいに。
そんな訝しげな目線を問いに対する返答として返すと焦ったような顔をして「実は、最近元気の無い方がいてな……その人を元気づけてやりたいんだよ。一押ししてお酒でもみんなで飲めればきっと」と実に幻想郷らしい解決方法をしたいというとてもとても心の清い男性たちだと判明した。ごめんなさい。
軽くその元気づけたい人に対して敬称を用いていたことにいろいろ考えを馳せながら夜、指定された酒場に到着。そこにはすでに良い方向に出来上がっていた里の民たちが出迎えてくれた。あんまりこういう歓迎は得意ではなかったが、それはそれ。一流の演者として恥の無いように私は振る舞う。自身を人形と見立てた自動操作に隙はなかった。
行った演武は子供向けに寄せた内容でありながらも、その中身は紅魔の門番も好きそうなかの国の異伝。その膨大な知から後に聖獣と化したとある幻想の生き物の物語。
演じきった後にはいつもとは違う、少々男臭く在りながらも芸術として称賛する声が高く上がり、いつもとは違う充実感に私は満たされた。こういうのも、たまにはいいかもしれない。だがやはり私には少々重たくも感じる。
店の奥の方には感極まって涙している、その元気づけたい人、里長の片棒を担ぐワーハクタクがいた。普段からやれ堅物だの頭が固いだの角が固いだの胸部と臀部は肉があるけど他は硬いだのとあまりいい話を聞かされずかつハクタクとしての評価もされていないのでアイデンティティがどんどん失われてしまっている、自分に存在価値ははたしてあるのだろうかとさめざめしていたところだったそうな。
「教師なんて、私じゃなくて阿求や藍殿や永琳殿にもできるしな……妖怪は妖怪らしく里から出てどこか山奥でひっそりとしていればいいのかもしれない……神霊廟と言われるものもできたしそこで祀られているのもいいかもしれないな……」
励ましの後の宴会でも酒を煽りながらダウナーな口調でつぶやいている彼女は確かに危なかった。永夜の時が初対面だったがこういう酔い方をする人物ではなかったはずだ。むしろ、酔っていても素面でも頭が固くて割と熱血な印象があった。これでも持ち上がってきた方だと里民の話だが。
彼女に酌をしながら何か足りないことに気付く。周りは特に気づいていない様子であり、本人の顔を見ても切り出す場面ではない。
そう思った私は宴会を最後まで付き合うことにした。普段の神社での宴会でも盛り上がりの熱が最高潮に達する少し前には退席することを決めている私だが、今私に課せられているのは彼女の気付けである。本気を出すわけではないがその一歩手前にも至ってない以上、その責を捨ててしまうのは信条に反する。
一刻、また一刻と時間と酒瓶が積み上がり、夜も更け月がルナティックターイム!! したころには酔いが回ってうとうととしている者、飲みながら寝ている者、吐しゃ物を掃除しながらもまた汚すものと散々な結果になっていた。これだから男は。その上さらに飲みに行こうぜ! と行く辺り鬼にも負けない気力はある。違いはアルコール度数くらいか。比べるまでもないし比べるにはかわいそう。
女性陣はそろそろお暇させていただきます、と華麗に切り上げ、涙と酒と鼻水にまみれた慧音も共に連れて行く。だいぶ笑顔が戻ってきたと人は話すが私にはとてもそうには見えない。おそらく私の推測は間違ってないのだろう。
飲みすぎで一人で立ち上がることもできなくなっていた彼女をよいしょよいしょと家まで送り、着いた先で直接に彼女に問う。
「そうなんだ!!! 最近妹紅が私を相手してくれないんだ!!!」
水を一杯飲ませようとしたが彼女は落ち着かず、先ほどまでの騒霊ヴァイオリニストが頭の中に住み着いているのではないかと思う空気を一蹴して今度は騒霊トランぺッターが頭の中に住み着いているのではないかと思うがごとく普段の理知的な姿をぶち壊す勢いで唾を吐き散らしながら泣き喚く。
「オカルト事件があってから全然私の方に来てくれない! 会いにも来てくれないし会いに行ってもどこかよそよそしいし! 私の事が嫌いになったのか!? 私以外に好きな人ができたのか!? 私はずっと変わらずに妹紅に寄り添うと言ったのに、妹紅から私を捨てるだなんてひどいじゃないか!!」
たぶんそれは愛とかそういうのではなく蓬莱人によくある寿命がどうのこうのの繋がりであって決してあなたを捨てたわけではないと思う。だからそんなに私の身体を揺すりながら話さないでほしい。爪が食い込んで痛い。それにオカルト事件ってまだ全然経ってはいないじゃないか。というか愛が重すぎるというかそもそも同性だよね。
「最近妹紅に近づくと違う女の匂いがするんだ……輝夜とか永琳とかの月の民どもとは違う、霊夢とかとも違うガキ臭いというか……なんていうか嗅いだことの無い雌犬の匂いが」
最高にクールだ。私は今すぐ逃げ出したい。責とかもうどうでもよくなってきた。金髪つながりで地底からその道のプロを呼んできたい。きっと盛り上がるだろう。さっき敬称つけてた永琳呼び捨てにしてるし確かに慧音からすれば霊夢も、おそらく私も子供の域に入るだろうけどあなたの口からガキ臭いという言葉も雌犬という言葉も聞きたくなかった。
私の胸に顔をうずめてがうがうと泣き喚く彼女の頭を撫でている自分に気付く。嗚呼、反射というか。こんなことをされると相手がどうであれ頭を撫でて落ち着くようにしてしまう。すっかり早苗で身についてしまった。
「……アリスは優しいな。妹紅みたいだ……」
違う。
「……アリスの手、妹紅に似ているな……もっとガサガサにして、ボロボロにして爪の一つや二つ剥いだ痕があれば妹紅にそっくりだ」
それはもう別の手だ。
「……アリスの髪、妹紅に似ているな……もっとこう、足まで長くして数百年苦痛に濡れてストレスで髪の色が落ちれば妹紅にそっくりだ」
それはもう別の髪だ。
「……アリスの顔、妹紅に似ているな……もっと、顔立ちを幼くして目を真っ赤にしてケアしてない肌にすれば妹紅にそっくりだ」
それはもう別の顔だ。
「……アリス。お前は妹紅なのか」
そんなわけない。そう思った矢先に自分がとんでもない危機的状況にいたことに気付かされる。
慧音の頭に生える二本の角と、割と妹紅にそっくりな髪色が幻想郷であまり見ない緑がかった銀の色に変わるその様。ふさふさとしたその尻尾は裾からスカートをめくり上げてかわいいお尻を丸出しにしている。
全力を持って蹴り飛ばして急いで空に逃げる。外は既に人里はなく、何とも形容しがたい空間に変わっていた。急いで月を確認するが、どう見ても満月ではない。
「無駄だ! たとえ満月でなかろうと私の心が月に満ちればこの姿は取り戻す! お前の歴史を上書きして、お前を妹紅と同一にしてやる!」
最高にルナティックだ。今すぐにでも逃げ出したい。まさかこんなところで一人永夜抄を行うことになるなんて。夜を止め魔理沙と飛んだあの頃が懐かしい。魔理沙に会いたい。主にマジックミサイルとマスタースパークがあればいい。一人がこんなに心細いとは思わなかった。だから彼女はこんなにも暴走しているのだろう。私が許してはいけないのは彼女を放った妹紅だろうか。妹紅に気に入られてしまったらしい宇佐見なんちゃらさんだろうか。こんな私の一大事に隣にいない魔理沙だろうか。あ、やっぱ最後はなし。
そんなことを一晩つづけて、手持ちのイナニメトス用人形が残り一個あたりになったあたりで慧音は気絶した。もはや後半はスペルカードルールもなく直接の掴み合いを試みられたので必死に人形を繰って距離を稼ぐ戦いになっていた。掘られる。嫌だ。そこは清いまま出口のままにしたい。
ボロボロになった体を引きずり、一夜隠された里を念のため見回る。あの状態の適当な能力の使用ではもしかしたらまだ一部隠されたままだったり能力の暴走で妹紅が増えているかもしれない。そんなので喜ぶのは慧音と輝夜だけだ。
特に見回したところで怪しい所はなかったが、むしろ自分自身が不審者にみられたのか、里を行く何人かにその身を案じられた。
「人形劇のお姉さん、どうしたの……?」
「アリスさん、これ以上不審者情報増やさないでくださいよ。霊夢さんから藁人形が増えてるって文句言われるんです」
「つらそうな顔。そんな時の面はこれ」
その都度にわかる人には説明し、分からない人には愛想笑いで返す。結局は何もなく、徒労感だけが私の身を包んだ。
里の喫茶では既にお客がまばらに入っており、モーニングメニューが終わりそうになっている。もうそんな時間かと思うと空腹感が私の頭からおなかにかけて刺激する。本当は必要ないのだが敢えて習慣として続けてしまっていると、不思議と脳まで魂まで影響されてくるのだ。思い込み大事。あぁ、慧音。
軽く何かつまめるものを買って帰ろう。もはや人形を操ることにもだるさを感じた私は店に入り、よく頼むメニューを持ち帰りでお願いする。案の定店主のおじさんにも気に掛けられたが、もうそれは流しておいてほしいと固まった笑顔で返す。
「……フム、今日のもおいしそうだ。では、いただきます」
傍らではご満悦の表情で命蓮寺のネズミさんが食事を取ろうとしている。誰もいないのにしっかりといただきますを言うあたり育ちがいいというか。神の遣いらしく周りにそう見えるよう振る舞えるということか。主も見習っていただきたい。それほどよく合う仲ではないが、彼女の主が30分と威厳を保てていたのを見たことが無い。
メニューを待つ間の手持無沙汰、ふと彼女をじっと見ていた。ナズーリンはそれを特に気にすることなく、珈琲に砂糖を5杯くらい入れた後、店自慢の子どもの顔ほどもあるふっくらとしたパンを両手で持ち、かじりつく。
その時、私に電流走る――!!
見た目小さい少女が、自分と同等、それこそ自分より大きい物を両手で持ちながら直接にかぷかぷもぶもぶとかじりつく様。それほどのサイズなら小さく一口サイズにちぎるのが常識なのにあえてそれをしない幼稚さ。そしてそれを口に頬張った後の満足げな表情、頬の中に入ったことでただでさえ丸みを帯びたその顔がさらにしもぶくれにもっちりした形。小動物が物を食べる様のように見えながら、それは確かに人にしか醸し出すことのできない雰囲気なのだ。
後に思い返せば酒と徹夜による疲労と一晩中口に付き合わされたことと空腹によるストレスも多大に影響しているだろう。それでも、その時は私にとって自律人形作りに多大なインスピレーションを与えたことに違いはない。そういう感情を、私はいちばん大事に思うしそれが魔法使いにとって正しいことだとも信じている。魔法使いは皆そうなのだ。
その瞬間に人里全域に伝わる様な私の奇声と興奮の挙句持っていた財布を店先に叩きつけて肝心の品物を受け取らず全力を持って、普段出すことの無い限界の力を振り絞って自宅に帰る。そのまま家に
以上を持って、今目の前には自分より大きいスコーンをさくさくと食べる人形が存在している。普段人形に取り入れてる術式は当然ながら、今まで人形が物を食すというのを考慮に入れたことが無かったのでその循環機構を人体と同様に設けてみた。違いは血の流れていないこと、取った栄養分を活用する機構が無いことだ。外装は、何となく桃色巻き毛の青着物、ふんわりとした印象を持たせた。別に他意はない。何となく、だ。
完成して久しぶりに空を見上げる。二日、三日ぶりに浴びるその日差しは森に遮られて胞子を纏った実に気味の悪い空気だった。絶好の天気だ。入り口にはあの時私が店に投げつけた財布と整っているようで細部に丸みを帯びた、貸した本に直接書かれているメモ書きでよく見る字で
「うんこでももらしたのか?」
というメモが入っていた。あれでいいとこのお嬢様成分は入っているはずなのにどうしてアイツはそういうことを吐けるのか。たとえ書面上でも自分が美少女に入るレベルだということを忘れないでほしい。多感な成長期、は今もだろうがそれを形成するタイミングで保護者だったあの悪霊は何をしていたのか。当時の私をいぢめている暇があったら魔梨沙を育成しろ。魔理沙の家に到着したら30秒後に大爆発する人形にお返しを持たせて出発させる。皆には知られていないが魔理沙の家は紅魔館より爆発しているのだ。主に私の手によって。
外でいつものやり取りを行った後に、食べ終わった人形の様子を見てみると、それはおなか一杯になって仰向けになりながらおなかをぽんぽんと叩いていた。クッソ可愛い。成功だ。笑みがこぼれる。おそらく鏡を見ると最高に気持ちの悪い笑みを浮かべているだろう。ちょっと窓ガラスに移ったその顔を見てみると、全く整容していないぼさぼさの髪とくたくたの顔、必要ないはずなのに心身はそれを許さず目の周りにクマを作り。そんな女が口角だけ挙げてにやにやと笑っていた。隣には射命丸文がいた。光が走った。
全速力で逃げていく彼女に自動追尾型の空飛ぶ大江戸からくり人形を発進させる。文の事だから打ち落とすことは容易だと思われるため爆発後に多量の有色の液体を指向性を持たせて彼女に着弾するように仕向けてある特別性だ、色とりどりに光る文が天狗の里に帰るか、誰とも知れぬ水場で色を落とす姿を誰かに見られるか。どうなるかはわからない。
しかしここで一つ疑問が生まれる。確かにこれは可愛い。だが、それはあくまで一例のみを自分の想像で具現化した者でありその姿は本当に正しい物なのだろうか?
調査はしていない。だとするならこれは独りよがりの可愛さを搭載しただけであって、真のものではない。それを胸を張って自信作と出すのは恥ずべき行為だろう。調べる必要があった。
入浴、整容をしてさっぱり綺麗ないつもの都会派魔法使いアリス・マーガトロイドに戻ると、ある程度目星を付けた者達の、
「あら、アリスじゃない。何しに来たの? お賽銭箱はあっちよ」
最初に向かう先は博麗神社。もちろん相手はこの赤貧巫女ではない。
「違うの? なら帰りな……ああ、直接奉納したいのね。預かっておくわ」
黙っていれば誰もが振りむく脇巫女に魔界謹製の一升を渡して、目的の人物が今いるかどうかを聞く。
「えー? 今……いたっけな? ちょっとー、いるのー? 居るなら返事しないとみそ汁に入れるわよー」
「やめて!」
賽銭箱の裏から、威勢のいい声が聞こえる。そこからぴょっこりと顔を出したのはみそ汁のお椀、否、今幻想郷一かわいいみそ汁の具と評判の小人族だ。
小さくてかわいい、と言ったら今は迷わず彼女の名が上がるだろう。まず物理的に小さい。その上で子供の様に小さい。そしてかわいい。チルノ以上にそのまま人形として私のコレクションの中に紛れても気づかないかもしれない、それほどにだ。私の作った人形の方がかわいいけど。
下剋上の異変からは空に浮かぶ逆転の城に住まっているが、そこの界隈には誰からの嫌われ者の天邪鬼も潜んでおり、あまり顔を合わせたいものではない。だから、それ以外に居そうな博麗神社を訪れたのだ。神社には、大体会いたい人物が居たりするので特定組織に属する誰かに会いたくてもまずは神社に訪れればいい。意外と早く物事が解決することがある、こんな風に。
「げ、あなたは悪名高き人形遣い」
いつの間に悪名が付いたのか。私はまだこの子には何もしていない。宴会の時に少し撫でた程度はあったが、小さい身体の割にはプライドは吸血鬼や天人のように有頂天なのだろうか。
「里中でうんこもらしたって」
それは悪い魔法使いの嘘よ。小さい彼女の肩をつまみながら、笑顔でそう語る七色魔法使い、わたしマーガトロイド。魔理沙の家には到着後5秒で大爆発する人形を派遣しておいた。給料を払う前に人形そのものがいなくなる画期的なシステムだ。
手のひらの上で顔を真っ青にしながらこくこくと頷く針妙丸は嗜虐心をそそるものがあった。元ねぼすけのろま妖怪の気持ちが少しわかる。一応霊夢の方にも顔を向けて牽制しておくが、
「今のあんた顔酷いわよ。幽香みたい」
どうやら私の悪評に興味はないらしい。霊夢の無関心主義はこういう時は優しい。
とりあえず事情を説明し、協力を得られないか聞いてみる。最も、彼女たちからすればただおやつを食べるだけでいい。それだけで何もしないので受け入れてもらえるに違いない。
「いいよ! お菓子食べるだけだなんて簡単なもんじゃない! それくらいならもっと頼ってもいいよ!」
「私の分もあるわよね、当然。敷地内でやるんならショバ代いただくわ、当然」
二回言うな霊夢。それくらいの礼は支払うつもりでいたし、お菓子作りは食べてもらう人が多いほど楽しくなる趣味というものだ。感想を、称賛を聞きたいために作るものだから。
針妙丸のお椀にすっぽり入るほどのシュークリームを取りだし、二人に渡す。作り置きだったから、ちょっと形は崩れてしまっているけどいいかしら。そう問いかけるが、
「わ、なにそれ! おいしそー、はじめてみた!」
「あんたの作る洋菓子っていつみてもパサパサしてそうね。今お茶淹れてくるから待ってて。前もらった紅茶、咲夜に淹れ方教えてもらったからそれ淹れたげるわ」
なかなか好評のようで何よりである。
霊夢が席を立ったその横で、さっそく頬張る小さい娘。見かけどおりの小さい口を大きく開けたまま、ちぎろうとする。ああ、だめだめ。このお菓子は直接かじりつくのが一番おいしい食べ方なの。
「そんなこと言われても、私には大きすぎる」
だからいいんだよ! 声を大にして言いたいがそれを堪え、シュークリームの構造について話す。
「え、じゃあなんでそんな食べづらいのを私に寄越したの? クッキーとかでもいいじゃない。……あーっ、食べないなんて言ってないじゃない!」
取り上げようとすると頬を膨らませて仁王立ち。なんだこれ、ほんとかわいい。このまま持ち帰ってケージに入れたいくらい。カゴメカゴメ、あなたの主は私。私がママになるのよ。
そうこう考えている内におやつのシュークリームに懸命にかぶりつき、中のクリームをこぼれないように皮を抑えながら必死の対抗をしている。ちょっと見たかったものと違うが、これはこれで。手と足と顔と着物をクリームでべたべたにしながらも、最初はめんどくさそうにしていた表情を甘味でほころばせながらに食べ勧めていく。エロ同人みたいだ。
「……石鹸も持ってきた方がいいわね、これ」
以前私が置いていった紅茶用のティーポットを、今度こそちゃんと紅茶淹れに使って持ってきた霊夢が呆れ顔をしながらつぶやく。以前そこから緑茶が出てきたことを私は忘れない。いつもの御幣を孫の手代わりにする風船巫女なので言っても聞かないのが彼女なのだけれど。
「んみゃーー!」
クリームに頭から突っ込んでもがいているのがいた。随分古典的で器用なことができるものだ。かわいい。
次の目的の人物は、普段ならばなかなか会えないだろうし、彼女の仕事が休日の時でも会いたいときに会えるわけではない。いつもは是非曲直庁にて勤務しており、今の時間なんかまっとうに働いている以上会えることは絶対にない。そして勤務後の彼女の住まいを知る者は、彼女と親しい者しか知らない。私も知らないのだ。
親しい者と言えば彼女の部下の死神が思い当たるがそこの線引きはしっかりしているのかそれとも箝口か独占欲かはわからないが、そういうことは教えてくれない。彼女についての色々な話はしてくれるが、実際に会えるような環境を作るようなことは漏らさないのだ。何故そういう所はまじめなのか、本当にあの死神の線引きはわからない。あれでいて仕事の愚痴などは話すが職務法規に触れるようなことは話さないのだ。ならサボるな、と思う。
だが私にはわかる。そんなこちらから接触するのは困難なのにあちらからは悠々と現れ説教して回る、一種の災厄のようにも扱われている閻魔、四季映姫の行動パターンが。彼女の休日は交代制なので大体いつかは予想が付けられる。そして気ままに説教に幻想郷を回るのだ。そしてそれは複雑かつ彼女の気のままに、と見せかけて固定ルートを回っている。きっと、知らず知らずに同じように回るようになってしまったのだろう。それに感付けるかどうかは映姫を意図的に見ていないと気付けないくらいには長いスパンであるほどに。
「まったくみんな言いつけを守らないで。私に後で泣きついたって知らないんですから」
ぶつぶつと文句を垂れながらふよふよ飛んでくる。うむ、間違いない。彼女の行動範囲を理解するのはブレイン。常識よ。
閻魔である彼女、四季映姫は幻想郷の中で幼いかどうかと言われたら別に幼いわけではない。確かに背は低いし幼顔ではあるが、外見以外で小さい子っぷりを発揮することはない。むしろ、大人びている類だ。役職が役職だから当然ではあるが。
「おや、人形遣い。今日は森の中にはいないのですね。陽の光を浴びることは良い事ですよ、あなたも生きているということを意識させるのであれば人形たちにも陽を見るようにしなさい」
むしろ、初めて会った時は割と背が高かった。今では小町の二回り位小さいのだが、初対面の時は小町より大きかったはず。以前そのことをちらりと聞いてみたら『その方が私らしいと言われたのであれば、そう見えるようになるでしょう。そのくらいの記号はどうとでもなりますからね』と軽く流された。閻魔も神様、それくらい容易いものなのだろう。……少し、うらやましい。
「……もしもし、聞いてます? じろじろ見ながら無言ですと怖いのですが」
おっと、考え事をしていたら引かせてしまった。これから交渉だというのによろしくない。
「……もしかして、何か我慢してます? 辛いことがあったら何でも私に相談しなさい。人を導くのはひいては自分の為にもなる」
何か発そうとする前に映姫から声をかけてきた。別に何も我慢しているわけではないし辛いことがあったわけではないのだが。
「あの……真偽はともかく立っていますから。その、里中で粗相を」
あれは魔理沙が勝手に言っただけでそんなこと一切してませんから! 思わず大声で叫んでしまう。まったく、どこまで言いふらされているのやら。人形は3体送った。
火のない所に煙は立たないとよく言われるが、勝手に火をつけて回られては噂が真実になってしまうのも遠くないように感じる。そこに当事者の意志は介在しない、できない。情報を掴んだ者が勝者となる。天狗の好きな言葉だがそれには激しく同意であり、また既にマウントを取られている事に悔しくもある。天狗に頼んで記事を書いてもらおうか。『【朗報】人形遣いは粗相をしていない【速報】』あ、ダメだこれ。事実だけど印象が酷すぎる。これは私のイメージではない。却下だ。
何はともあれ映姫にもう一度目を向ける。ここからは普通にお話しタイムだ。そう思った矢先に心配はしているのだろうけど、真偽は掴めず、そもそも誰もいないとはいえ外で、人に向かって粗相といったことに対しての恥ずかしさから赤面している映姫が立っていたら、あなたはどう思うだろうか。私は可愛いと思う。すごく、ええすごく。この程度で顔を赤らめるとか初心にも程がある。幼い子どもだったらもっと直接的な言葉を言うだけで笑って転がり、成長して互いに男女を意識し始めるような辺りで外で口に出すのも恥ずかしがるようになる。その時の少年少女たちが浮かべるような赤ら顔だ。お前何年閻魔やってるの?
そんなことを考えながらもおくびに出さず実は、と話を切り出す。映姫相手に隠したりごまかしたりするのは難しい。最も隠す内容でもないのでありのまま話す。可愛い人形の為にモデルになってくれ、可愛いあなたにお菓子を食べてほしい、と。
「……あの、馬鹿にしてません?」
あれー? おかしいな。全くそんなつもりはなかったのに。
「頼むなら普通に頼みなさい。不要なこだわりで過度に修飾しているせいで周りから敬遠される。理解しがたい者に手を伸ばすことなどないのですよ。そう、あなたは少し派手すぎる」
あ、そうだった。謝礼を渡してない。そりゃお断りするわけだ。霊夢にだって渡したし、針妙丸にだって……うん、渡した渡した美味しいって言ってた。
「聞いていますか? きらびやかに飾ることはもちろん大事でもあります。しかし常に、過剰に飾っていては誰もあなたという人物を見ようとしません。そもそも、って、わっ」
私は手荷物から彼女に頼まれていた『もうやめてっ! 天女のお姉ちゃん! そんなことされたら僕はもう……3 ~おねショタ100%リバなし! おね上位ショタ総受け編~』を取り出して渡そうとする。が、
「ちょ、あなた、どうして今こんな所でっ!!」
あぅあぅと喚きながら手を本と胸の間で行ったり来たりさせている。間違えた? いやいや彼女の趣味に合った総受けだしバックナンバーも間違いなく新刊だ。いつもなら表情も変えずさっと受け取ってくれるのだが。
彼女の動向を私が知る必要があったのはこのようなエロ同人みたいな酷い本を渡す必要があったからだ。業者も通さずに小さなコミュニティで作られてる薄い冊子なので、エロ同人と言われても全く差支えないのだが。
閻魔である、というそのプライドがこういった物の購入を控えさせているのだろう。そのコミュニティに近しく且つ容易に口を開かない私がターゲットにされることは考えに難くない。以来こういった冊子を渡すために何度か会っていたのだが……。とにかく、これあげるから早くシュークリームを食べてほしい。
「いや、その、その……」
あくしろよ。
「ぁ、あ、ぁ」
「ちょっとー? 閻魔さまー? どこ行ったのー!」
人形の声が聞こえると共に、分かりやすいぐらい映姫はビビる。なるほど。なるほど。そりゃ確かに焦るわけだ。それならまた今度にでも……
「わああああああああああああああ!!!!!!」
しまいかけた私の手から、人前に出すには恥ずかしい本をひったくると全速力で飛び抜ける。なんということだろうか。閻魔ともあろうものがまるで泥棒のように逃げ出している。もうあそこに飛んでいるのは幻想郷の裏番長、泣く子も黙る鬼の閻魔四季映姫・ヤマザナドゥではない。社会と自分の性癖にがんじがらめに捕らわれてしまって成す術なく駆けだす映姫ちゃんだ。おそらくこの後自宅で自分のしたことに涙し、罰しながらもあの冊子の女性と自分を重ね合わせてショタ成分を味わうのだろう。エロ同人みたいに。
「閻魔さまー? ……あー? アリス」
手に余ったシュークリームが寂しく光る。どうしよう。ダメもとで渡してみるか。
「いや、人形なんだから食べれるわけないじゃん。それよか閻魔さまと話してたよね? どこ行ったの?」
ですよねー。メディスンじゃ……うーん、違うんだよなぁ。そもそも食べれないなら被験対象にはならない。
その後適当にメディをあしらい、次なる目的地に向かう。まったく、私がメランコリックになりそうだ。別に後日落ち着いてやり取りすればよかったのに映姫も何を焦っていたのか。大体わかっているけれど。わかっているけれど私の目的は何一つ果たせず勝手に説教してあちらの目的の物は持ってったって割とひどい。ああいうのを省みるとやはり自分の趣味は自分の中で抑えるべきだと思う。おしゃべりな部下のおかげで、彼女のちょっぴり曲がった性癖は幻想郷中に知られているのだから。それを知らないのは当人だけだ。
ええい、くよくよしないで次の気分になろう。七色のうち一つがしょんぼりしても他の色で輝かせればいい。きらびやかになりすぎて悪いことはない! 都会派は前向き!
気持ちを入れ替えながらいつも肌寒く感じる湖を渡る途中に鋭い殺気を感じる。いつから? たった今。
感じる先は目的地、紅魔館。ザ・幼女がいるレッド・ロリ・マンションだ。妖精とかよりよっぽど分別があり精神が幼い。レミリアでもフランドールでもどちらでもいいが、今回の目的にかなり適していると言えよう。
だが、この殺気は何故だろうか? 誰が発しているかはわかる。館の門番、紅美鈴だ。幼い子の対極ともいえる上も下も引き締まった、それでいて主張できるくらいには出ている大人ボディ。個人的に当主の幼さを際立たせるためにあえてこういった者を置いていると私のブレインは推測する。
とにかく、警戒をしつつ敵意はないことを表せるよう武装せずに近づく。彼女と争うのは得策ではない。
何せ、防御が高いのだ。あのスリットの奥の防御も高いが、そもそもの戦闘能力の高さ、弾幕用ではなく対人用の強さを彼女は持っている。そして今の殺気を顧みるに、もし戦いになったら弾幕ではないだろう。スペルと体術を用いた真剣勝負となる。そうなると勝ち目がかなり薄くなる。
私は人形を多数に攻め立てる質より量の戦闘スタイルを得意としている。その性質上小さなダメージを蓄積させ戦闘不能に追いやる、という流れが多い。だが、弾幕ごっこではない場合彼女はそんな攻撃ものともせず突っ切ってくる。アルテリオス計算式で戦う相手としては分が悪すぎる。台風で逃げ回るのは全く私のイメージにそぐわない。だが実際肉体言語で語るとなると台風どころか彼女だけ永続無念無想の境地だ。勝てるわけがないッ!!
勝てない勝負は挑まない。負けそうなときはギリギリで負ける程度には努力する。そんな私の信条を全て打ち砕く程度には美鈴との戦闘は相性が悪い。弾幕ならともかく、勝てるわけがないのだ。
戦闘にならない様に、私は何もしませんよアピールをしながら門の入り口まで近づく。ほーら、無抵抗なアリスちゃんですよー。決して下手に出るわけではないけれど、可愛いだけのアリスちゃんですよー。と意志表示をしながら近づいていく。幸い、紳士的な彼女なので無抵抗な者を攻撃したりしない。門番たるもの、専守防衛なのだ。それくらいはわかっている。攻め込みをされてしまっては勝てるわけがない。
「アリスさん。申し訳ありませんが今宵は貴方を通すわけにはいきません」
態度でのアピールの次は言葉でのアピールだ。口に出して言われるまでもなく通してくれない雰囲気を、改めて話してくれる。そこの所をしっかり伝えてくれるあたり彼女の善人っぷりがわかる。
だが、何故だろう? 全く心当たりがない。ちょっと前に紅魔館を訪れたが、その時に何かしでかしてしまっただろうか? 変なことをした覚えはないし、何より紅魔館はなんだかんだで懐の広い館だ。魔理沙がいつもコソ泥に来ているのに彼女を取り締まろうとしないしあまつさえたまに暇だからともてなすこともある。レミリア自体があいつを気に入っているのもあるし、パチュリーも何だかんだで「あと50年も経たずに死ぬんだから気楽に待つわ」という無感情ツンデレスタイルで受け入れているくらいだ。そんな彼女たちに私は何をしてしまったのだろうか?
「パチュリー様の命となっております。あれほど激高したパチュリー様を見たことはありません。お嬢様も友人を兼ねて、ということです。どうか、お引き取りを」
しかもパチュリーかよ! そうなるとなお全く思いつかない。以前訪れた時にパチュリーとチェスをしていて少々負けが込んでしまった時、
「随分な結果ね、七色魔法使い。二色と共に居て色が落ちたんじゃない? それとも、元々それくらいだっけ?」
何故か妙に煽られ、自分も妙にいらっとしてしまった。直前に撮影もあったことも相まって、少し欲求不満もあったのかもしれない。余談だが、パチュリーは細い割には妙についている所は付いているので嫌いではない。
とにかく、感情的になってしまった私は先ほどまでの盤上勝負を投げ捨て、目の前の肉付きもやしを素早く縛り上げた。
「ちょ、離して! やめて、ごめんなさい悪かったから!!」
さて縛り上げてどうしようか。ねちねちと文句を言うのもよしその姿を写生するもよし。
「お願い!! 今だけはまずいの、あいつが! あいつが襲ってくる!! 許して、ねぇ助けて、謝る、なんでもするから!」
ん? 今なんでもするって言ったわね? ……と思っていたが妙に焦っている。妙だ。それに、自分が悪い事を認め、あまつさえ『助けて』と。いつものパチュリーであるなら、声を荒げることなんてせずねちねちと罵倒の言葉を紡ぎ続けるはず。彼女特有の妙に早口で小声な、それでいて高めの聞き心地の良い声で。きっとパチュリーに耳元で囁いてもらいながらやることをやればいろいろ能率的だろうと思う。エロ同人みたいに。
とにかく妙に感じている中、
「助けて! ねぇ、助けて! たすんぐむっ」
唐突に現れた誰かがパチュリーの口をふさぐ。この図書館には二人だけ。二人で話し合いたいというか遊びたいから人払いをさせた。ここには咲夜は近づかないだろう。優秀な使用人だから。では、そこに立ち入る者は? 一人しかいない。レミリアの従者ではなくパチュリーの従者だ。従者というか小間使いというか。彼女の名前を聞いたことはないが、便宜上小悪魔、と私は呼ばせてもらっている。
「うふふふふふふふふふふふふ、あぁ、素敵よパチュリー。いつもあなたは素敵だけど手も足も出ず口も塞がれ、何もできなくなったあなたはそれはそれで魅力的。ふふふふ、あぁ、興奮してくる。今夜は終わらない火を灯しましょう。始まりの火を見出した太陽の光の王のソウルのように」
なにで口を塞いでいるのか、彼女の足回りだけ何処からか垂れてる水滴あたりで判断すればいいと思うけど。とにかく専門の司書として働く彼女の難点というか特徴というか、とにかく同性が好き。特にパチュリーが大好きなのだ。主従としてもさることながら、性的な意味でも。
普段はおとなしい娘なのだが、なるほどそういう状態でありましたか。なるほどなるほど。道理でパチュリーが焦っているわけだ。ちなみにスイッチが入っているかはどうかはパチュリーを呼び捨てにするかどうかでわかる。普段は従順で敬称を忘れないが、色ボケモードでは普通に呼び捨てだ。
彼女に掴まってしまえばいろんな意味でただでは済まない。エロ同人みたいなことになること一直線だ。そんな状態で拘束なんてされてしまえばそりゃあ確かに焦るわけだ。
「……どうしましたかアリスさん? これからパチュリーとの蜜月の時間を過ごすのですけれども……あ、以前のように、『御一緒』します?」
決して私自身男性に興味が無いわけではないということは声を大にして伝えておくが、別に愛というか楽しいことに男女の差は関係ないと考えている。その上で女同士、という経験が全くないわけではない。生殖するうえでの本能的な嫌悪感などは他の者と比べて少ないし、興味がなかったわけではなく、それに首を突っ込まないなんて、知的好奇心を満たすことはできない。とはいえ、経験後に思ったが相手は悪かった。
「むっ、んむー! むぅむー!!」
助けを求める様なくぐもった声が聞こえるが私には聞こえない。聞こえないッたら聞こえない! 変に仲違いを起こしたくないし、二人で居たいって言っているのでそれを優先させてあげればいいだろう。部外者の私には関係ない。
何やら粘ついた液体音とくぐもった息遣いが薄暗い図書館に響き始めるのを耳に残しながら、私は帰ることにした。チェスの借りは後日返すことにする、とパチュリーに伝えて。
「いや、明らかにそれでしょう……何してるんですかアリスさん」
先ほどまでの剣呑な空気と打って変わって呆れた声を出す門番さん。おかしいな。私はそんなつもりは全くなかったのだが。パチュリーが怒る理由が見当たらない。
「狼の群れの中に手足縛った羊を投げ入れたようなものじゃないですか……お嬢様が救出しなかったらどうなっていたことやら」
「後、妹の情操教育に悪い事をあんまり館内でやらないでほしいんだけど」
館の中から当主が現れる。意外と大変なことになっていたらしい。だがそれは誤解だ、少なくとも私は妹の情操教育に悪いことはやっていない。やっているのはあの小悪魔ではないか。私は何もやっていない。
「種撒いたのはあんたでしょ!」
というかそれが嫌なら小悪魔との契約解除すればいいのに、パチュリーも何故それをしないのかは疑問である。扱いに困る部下なんてそれこそ害悪でしかないのだが。それに比べて私の部下は忠実で従順で優秀で何よりかわいい。
そんなことより、レミリアにお願いしたいことがあるんだけど。
「館内が地上の縺れで混乱しててその原因がそんなことで通すか」
シュークリーム作ってきたんだけど食べない?
「食べるー!」
「お嬢様ぁ!?」
ちょろいなぁ。
「いやさ、アリスの言う通りなんだよね。友人のケツくらい拭くけどさ、種撒く前にそんな土壌を作ったのはその友人なんだよなぁって」
「そんな下品な言葉使わないでくださいよお嬢様、ここ一応外ですしアリスさんとはいえ一応客人ですから」
「まあまあ固いこと言わないで。アリスのおやつなんてあんまり食べられないしさ。咲夜のおやつもおいしいんだけどたまには平民のおやつも味わいたいというか」
いい度胸してんなこの幼女。でも可愛いから許せる。基本わがままで子どもで咲夜も大変だろうなと思ってしまうが、こういう顔を見れるからやりがいとかを感じられるんだろうか。だって今自分でも敷居低いと思ってしまったもの、可愛いの。
レミリアにシュークリームを渡し、食べてもらう。先ほどの相手には食べてもらえなかったため調査が進まなかったが、今回は相手も乗り気なので無事に済むだろう。彼女並の顔の大きさのどでかシュークリームをかじりつき始める。
「みゅっ!?」
かじり始めた矢先に、中のクリームが飛び出し彼女の顔を汚す。おぉっと、とんでもないハプニングだー。レミリアの幼い顔が白くてべたべたしたもので汚されてしまったー。ひどい絵面だなー。まるで顔
「あーあー、お嬢様ったら……ほら、拭いてください」
「うー、ちょっとなにもー……」
あ、くそっ! 美鈴対応速すぎ! 咲夜でもないのに何でそんなに気遣いが、美鈴だからか。
しかし私の写真記憶ができるブレインを舐めてはいけない。意識して導いた場面であるなら完全に記憶できる。その準備ができるかどうかの違いだ。可愛い云々以前にいろいろと必要となる。写真記憶からの精密な記憶模写を行えば多方面で需要があるだろう。本来は映姫にあげるつもりだったのだが世の中上手く回らないものだ。
何はともあれ、目的を達成した。顔の汚れを取った後、それでもうまうまと食べる姿は非常に愛らしい。一つ余ってしまったので、迷惑料がわりに美鈴にもあげた。そしたら二つに割ってから食べ始めた。何を疑っているのか知らないがそちらは普通のシュークリームだ! そして割ってから思い出したがそういえば変な疑い掛けられていたので、もしトラップ仕込みのものを渡していたら殴られてたかもしれない。レミリアも加わったら勝てるわけがない。
「うん、おいしい! やっぱりアリスの作るおやつは美味しいわね。前にもらったブラウニーも、しっとりとしてべたつかない、すっきりした美味しさだったわ」
お褒めにあずかり光栄で。
目的を達成した私は、後日パチュリーにお詫びの品を届けるので許す気があるなら受け取ってほしいと言伝を頼んで帰ることにした。
「心はひん曲がってるけど、ちゃんと誠意をこめればわかってくれると思うよ、きっと。なんだかんだで、そういう奴だからねあの魔法使いは」
彼女の親友がそう推してくれるのであれば安心だろう。私とて彼女が心底嫌いでやったわけではないしこれからも有益な関係を築いていきたいのだから。魔法使いとは孤独を愛する者ではあるが、僅かな繋がりは欲する者なのだ。だって研究の成果見せ合いっことかが一番血が滾る瞬間なのだから。今だって、自分の作る可愛さの証明の為に幻想郷を回っているのだから。
「そう言えばアリス、人里でうんこ漏らしたって聞いたけど本当?」
「お嬢様ぁ!!」
人形10体ほど送っておいた。
……ところで、先ほどから気にかかっていたのだけれど、門の脇に捨てられている袋詰めの肉塊は何なの?
「諸悪の根源」
あっ……。
『何者かが天狗に宣戦布告か? 烏天狗に輝く汚物が掛けられる! 発見した白狼天狗は語る「全く様が無い」』
『爆マリ 今季149回目! 魔理沙氏「これからも良好な関係を築いていきたい」吹き飛んだ自宅をバックに語る』
今朝届いた新聞を読みながら朝食を食べる。その傍らには研究されつくした食べる人形が美味しそうに丸パンにかじりついている。食べる姿、適度にこぼす姿、それにたまに気付いて拭ったり慌てたりとリアクションも抜かりはない。これはベストオブカワイイだろう。私はついに手に入れたのだ、可愛いの全てを。
しかし、これは可愛い。それについては誰もが同意するだろう。だが、自律人形としてはどうだろうか? 自分で食べたい物を食べ、それを糧に可愛さを振りまく。この点は間違いなく完璧に作れた。だが、私が本来目指している物とは完全に逆だ。用途に合ったオートマチックを作ることは目的ではない。
ならばこれも自律のそれを組み込むべきだろう。自分で考え、自分で行動し、自分で取捨選択のする、自らを律する人形を。
だとしたら、まずは何を考えるべきか……考えている内に少々催してきた。ちょっと待ってて。
……。うん、まずは自分の食した物の処理を考えよう。例えば、私は本来必要ない食事を敢えて摂り、そしてそれの処理を肉体に依存している。要はトイレを必要としている。これも捨食を治めていた場合食べる必要もないしもし食しても消化の行程をわざわざ踏まえることなく全てを魔力として変換できる。パチュリーなんかはまさしくそれだ。食べた物は全て魔力に返還されるので排泄を必要としない。いくら食べても太らないし出るものも出ない。
私はそれをしていない。少しの人間らしさを持つため、排泄のそれも残している。本当は女子としてそれは嬉しいものではないのだけれど、人間の友人たちとの足並みを揃えたい。その点ではやはり欠かせられないと思う。
……だとしたらまずはそれを組み込むべきか。排泄のコントロールは人間の子どもでも自律の一歩だ。ならば、それの調査もせねばならない。自分のならともかく小さい子の排泄は見たことが無い。大なり小なり。
今回は神社に居なかったため、少し気が進まないが天にそびえる輝針城に向かう。おーい。
「あ、昨日の! どうしたの?」
あなたの排泄姿を見せてほしいんだけど。
「えっ」
あなたの排泄姿を見せてほしいんだけど。
「えっ」
一度でいいことを二度も三度も言わなけりゃあいけないってことは相手の頭が悪いってことよ……無駄なことはしたくないの。
「……へ……」
ああ、もし今出そうにないのなら、これを
「変態だーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!」
えっ、何それは……
「うわぁーん、正邪ぁー! 助け、助けないでー! 変質者がいるーッ! 助け、正邪あああああぁぁぁぁ!!!!」
「どうしました、姫!? って、お前は里のうんこ漏らした人形遣い!」
案の定嫌われ者の天邪鬼が共に住まっていた。それでも姫呼びが続いているってことはそのまま何だかんだでともに良好に過ごせているのだろうか? 針妙丸は苦労しそうだ。それよりなんだその枕詞は。それは私ではないお前に直接危害を加えた黒白の罠だ。
だが、誤解を解く前に、明らかに戦闘態勢だ。どうしてこうなったのかわからない。しょうがないが目の前の問題を解決せねばならないだろう。最も、彼女相手であるなら本気を出すまではないだろう。ちなみに魔理沙には後日本気で掛かる必要がある。
ともあれ、目の前の障害を越えて針妙丸の排泄を見ないといけない。私の研究の、悲願の達成の為に!!
「まったく、戦いに餓えているのはどこも変わりないのね……いいわ、加減してあげるから本気でかかっておいで!」
糞団子
瑞々しい排泄物。大便
持ち歩くことへの心理的な抵抗は大きい
だが、開き直れば案外平気なものだ
魔法使いは排泄物に懐古を感じるものだろうか
いや殆どは、そんなことはないだろう