アニメやドラマだと3話が大事みたいですけど、素人がそんなこと気にしてたらいつまでも投稿できないと思ったので上げちゃいます。
小説用にツイッターを始めました。投稿通知とか進捗に使えたらと思います。
プロフィールにURLを書いているので、お暇な方はどうぞー。
浦風が食堂のキッチンに入った時には、もう何もかもが遅かった。
谷風の切羽詰まった声を通話越しに聞き、秘書艦の仕事をすっぽかしてきたというのに。
いつもは埃一つないくらい綺麗に掃除されているキッチンが、今はその面影は全くない。
台の上には食材が散乱し、流しには使ったまま洗われていない調理器具が所狭しと押し込まれている。
炊飯器はスイッチを入れ忘れたのか、お米に水を張ったままだ。それも白く濁っており、米をきちんと洗えていないことがすぐに分かった。
IHコンロの上にはポツンとフライパンが一つ置かれているのだが、そこから何かが焦げたような黒煙を上げており、換気しきれないのか天井を覆っていた。
何より目を惹くのが、床に倒れている谷風だ。可愛そうに、四肢を投げ出して白目を剥いてしまっている。
そして、その谷風の隣。
「何だ、倒れ込むほど私の料理がおいしかったのか。また作ってやろう」
こんな状況を作り出した張本人である磯風は、実に満足そうな顔を作っており、谷風の頬をつっついていた。
ひとりでは片付けられそうもなく、浦風は浜風を呼んで、二人でキッチンを片付けた。
片付け終えた後、意識が戻らない谷風と、片づけを手伝おうとする磯風をテーブルにつかせる。
そのテーブルの中央には、磯風が作った、底の深い丼に盛られた何か。
「磯風、一体何を作ろうとしとったん?」
「これだ」
浦風の質問を受けて、磯風はどこからともなく料理雑誌を取り出した。
そこには美味しそうな丼の写真が貼られており、『これを食べて夏バテ予防! 手軽でおいしいスタミナ丼!』と題されていた。どうやら磯風はこれを作ろうとしていたらしい。
「磯風。味見をしてみましたか?」
浜風は恐る恐るといった様子で磯風に尋ねる。
それに対しての磯風の回答は。
「作れたらそれでいいじゃないか、味見は必要ない」
そうですか、と浜風は頭を抱えた。
「ですが、谷風はバテてますよ」
「何? 美味しさの余り卒倒したのではないのか?」
「何でそう思うんだよぉ!!」
磯風のとんちんかんな言葉に、意識を取り戻した谷風が反論した。
「大体さ! 磯風はキッチンを出禁になったじゃんか! 何でキッチンにいるんだい!」
「料理をするために決まっているじゃないか」
「磯風は料理をしちゃダメだって!」
「なぜだ」
谷風は口から火を出しそうなほど声を荒げている。あの丼に盛られたものを食べさせられれば、怒りたくもなるだろう。
しかし、磯風は谷風の怒りが理解できないらしい。
「良く考えてみろ。料理が下手というだけでキッチンへの出入りを禁じられるなんてことがあって良いと思うか」
そう言われてしまえば、誰もぐうの音も出ない。
だが、磯風が料理すると大惨事になるというのも事実なのだ。それだけならまだいいが、誰かに食べさせようとするのがいけない。
「お、そうじゃ」
「浦風、何か思いついたんですか?」
「こういうのはどうかな?」
浦風が指を立てる。
「磯風に料理を教える、っていうのは」
「はぁ? 何言ってるんだい?」
谷風は不満らしい。
「料理教えたって磯風が出来るわけないよ」
「いくら私でもそれは傷つくぞ、谷風」
流石にダメ出しをされすぎたのか、磯風は肩を落とす。
「でも、基本的なことを理解できれば、少なくとも食べられるものは作れるじゃろ?」
どうかな、と浦風は3人に提案する。
「そうですね、これ以上被害を増やさなくて済むかもしれないですし」
浜風は首を縦に振る。
谷風も、「まぁ、やらないうちからダメって言うのは酷だったよ」と渋々承諾する。
こうして、第17駆逐隊は磯風に料理を教えることとなった。
調理器具・食材を用意して、4人はキッチンに集まる。
料理は浦風が教え、浜風と谷風はそのサポーターの役割となった。
「んで、何を作るの?」
「カレーにしようかなって」
「大丈夫ですか?」
いきなりカレーとはハードルが高いのではと浜風は不安になる。
「カレーって意外と簡単じゃで? 野菜を切って、煮て、ルーを入れるだけじゃし」
浦風は自信ありげな様子だ。
鎮守府内でも料理の腕が立つ浦風が言うのだからそうなのだろう。
浜風と谷風は浦風の考えに従うことにした。
「よし、磯風。まずは包丁の使い方を教えるで」
浦風は磯風の隣に立ち、まな板の上にニンジンを置いた。あらかじめ野菜の皮は向いてある。
「まずは、磯風がどんな風に切っとったか知りたいけぇ、ちょっと切ってみてくれん?」
あの磯風の料理を見るに、野菜はきちんと切れているみたいだった。
つまり、調理の段階に何かしらの問題があるだけで、野菜を切ることは出来ていると浦風は踏んだのだ。
「心得た」
浦風に促された磯風は包丁を手に取る。
そして、勢いよく降りおろしニンジンを真っ二つにした!
さらにもう一撃とばかりに振りかぶる磯風を浦風はあわてて止めにかかる。
「ちょっと待って!」
「ん? 何だ? 抑えられていたら切れないではないか」
「その切り方は危ないって! 誰かを殺す時の勢いじゃったで!」
野菜を切ることはできるが、その切り方は非常に独特だったようだ。
さすがの浦風もこれは予想していなかった。
浜風と谷風も、これには渋い顔をしている。
「ええ? こう、左手で野菜を押さえて、ゆっくり切っていくんで?」
手本を見せるため、浦風は真っ二つに切られたニンジンのひとつに包丁を入れていく。
磯風にも分かりやすいようにと、普段よりゆっくりと。
「浦風よ、そんなに優しく切っていては時間がかかりすぎる。一思いにやってやった方がニンジンのためだ」
「磯風はニンジンを殺そうとしとるんかね?」
浜風と谷風は、早々に手助けが必要になりそうだと思わずにはいられなかった。
谷風たちの力を借りて何とか野菜を切り終え、続いて具材を煮込む。
「ジャガイモとニンジンに時々竹串を通して、きちんと火が通っとるか確認するんよ」
浦風はお玉でジャガイモをすくい、竹串を差した。
磯風も、動きはぎこちないが浦風のマネをする。
十分に煮込んだことが確認できたら、次はカレールーを入れる。スーパーで売られている固形のものだ。
「じゃあ磯風、このルーを3つ入れて、解けるまでこのお玉でかき混ぜて」
「よし」
ルーを入れた磯風は浦風からお玉を受け取り、ぐるぐるとかき混ぜる。
野菜を切るのを見てどうなるかと心配したが、何とかうまく行きそうだった。
まだ一人で料理をさせるのは無理だが、誰かと一緒になら間違いはあるまい。その誰かは心労がたまるだろうが。それでも、いつかは一人で出来るようになるだろう。
砲撃でも航行でも、最初はなかなかうまくいかないが、数を重ねて徐々に上手になっていくものだ。
料理も同じ、練習の積み重ねで上達する。
それに。
「よし、出来たぞ!」
磯風の嬉しそうな顔を見られるなら。
料理を教えるのも悪くないと、浦風も何だかうれしくなるのだった。
「なんでぇ。谷風たちは要らん子だったな」
「そうですね。結局浦風が一人で教えていましたし」
「そんなことないよ。手伝ってもらったし、お米も炊いてもらったし。二人がおらんかったら不安で仕方なかったわ」
磯風がカレーを盛るのを、3人は食堂で待っていた。
ご飯は時間の都合で谷風と浜風に用意してもらった。
「磯風に謝んなきゃ。料理なんてできないって言っちまったし」
「谷風でも反省することがあるんですね」
「おいおい、心外だねぇ。谷風だって反省くらいできるさ」
「持ってきたぞ」
3人のテーブルに、磯風はトレーを置く。その上には3人分に盛られた、美味しそうなカレーだった。
「美味しそうですね」
「浦風がいたからできたんだ。私一人では無理だった」
磯風はテーブルにカレーとスプーンを置いて行く。
市販のカレールーではあるが、どこか懐かしい香りが食欲をそそってくる。
「それじゃあ、いただきます」
「おう、存分に食べてくれ」
浦風たちがカレーを食べ終わるまで、磯風は楽しそうに見ていた。
翌朝、朝礼にて。鎮守府庁舎前に並んだ艦娘を見て、戦艦娘である霧島が首をかしげる。
「あら? 17駆、今日は3人も休み? 何かあったのかしら」
第17駆逐隊の列には、磯風だけが元気に立っていた。何かいいことがあったのだろう、にこにこと笑顔だ。
「カレーを盛るときに福神漬けのことを思い出してよかった。即席だがすぐに作れたからな」
その笑顔を見て、「こいつのせいです」とは、流石に駆逐艦娘の誰も言えなかった。