【艦これ】陽炎型の少女   作:白井マナ

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4000字を超えて、「あ、これ文字数どんどん増えるな」と確信した。

何とか実装中の陽炎型全艦(ではないけど)の話を書けました。
秋雲には別の役目があるので出てきますが当分後です。
具体的には、この前書きのことを忘れるくらい後。
もちろん、それまでお話を続けられたらの話です。

ツイッター:https://twitter.com/shiroi_mana521



4、ひゅ~、熱いね~

 7月。梅雨が過ぎ、からっとした天気が日常となり始めたある日。

 嵐は2段ベッドの上で眠る萩風を起こさないように布団を抜け、ジャージに着替えて自室を出た。

 時刻は05:00。まだ日は出ていないが、水平線上は仄かに明るみ始めている。

 それでもまだ暗い事には変わりない。鎮守府にところどころ置かれた電灯がコンクリートの地面を程よく照らしていた。

 嵐は十分にストレッチをした後、朝のランニングに出かけた。

 夏の朝はこの時間に走るのが一番すっきりするのだ。遅すぎると日が照り始めて汗が止まらなくなる。

 鎮守府の外周を一周した後は正門を通り、側にあるトンネルをくぐった。

 トンネルを抜けた先を少し走ると、やや小高い丘に出る。

 その丘でターンをして鎮守府まで戻ってくれば良い具合に息が上がっていた。

 最近は毎日のように雨が降っていたため、トレーニングルームで筋トレくらいしかできなかった。嵐は、溜まっていたものを吐き出すように、最後の100メートルを全力で走り抜けた。

 上がった息を整えるため少し歩き、船に乗り降りするための桟橋にどかりと腰を下ろす。

 水平線に目を向けると、走り始める前にはまだ海に隠れていた太陽が顔を覗かせていた。

 明るくなる空と暗い空の境目は幻想的で、思わず目を奪われてしまう。

「お疲れさま」

 不意に後ろから、すっとタオルが差し出された。

 萩風が制服を来て、嵐ににこりと微笑みかける。

「萩か。まだ寝てりゃいいのに」

 嵐は受け取ったタオルで汗を拭く。

「タオル持って出るの忘れてたでしょ」

「ん? ああ、これ俺のやつか」

「もう、ぼーっとしちゃだめだよ」

「昨日までずっと雨が降っててランニングできなかったからな。早く走りたかったんだよ」

「雨が降ってる間もトレーニングルームに行ってたくせに、何言ってるんだか」

 どうやら気づかれていたらしい。起こさないように気を使っていたんだが。

 嵐の隣に萩風が腰掛け、2人並んで遠くの海を見る。

「夜が明けるね」

「そうだな」

 汗でじとりとした肌を潮風が撫でる。気持ちいい反面、やや背中が寒く感じた。次は羽織るジャージでも持ってこようと嵐は反省する。

「私、この時間好きかも」

「ん、何でだ?」

「夜が終わるから」

 萩風は桟橋から投げ出した足を戻し、両足を抱える。

「夜は、まだ怖いの。だから、夜が終わる、この時間が好き」

 なるほどな。

 嵐は納得する。

 何と声を掛けようかと嵐が迷っていると、萩風が顔を嵐の方に向けた。

「ねぇ、嵐。なんで毎日、朝早く起きてまで自主トレーニングしてるの?」

「別に大した理由はねぇぞ」

 嵐はそう前置きし、ランニングで気持ちも高ぶっているのだろう、普段はしない話をすることにした。

「俺はまだまだ弱い。たった一人の味方すら、この腕で守りながら戦えない。それが分かるからだよ」

 先ほどよりももっと遠くを見やる嵐。

「俺たちは、昔の戦いで沈んでいった艦の生まれ変わりだ。艦と一緒に沈んでいった奴らの生まれ変わりでもある。だから、昔の『俺たち』がどんな最期だったかをよく思い出せる」

 嵐の話を聞きながら、萩風も彼女と同じように遠くを見る。

「失敗を失敗のままにしておく訳にはいかねぇ。また似たような状況になっても、俺が敵を殲滅してやる。倒せなくても、危なくなった奴を引っ張って逃げられるくらいにならねぇと」

 無意識に、嵐の握る手が強くなる。

「まっ、腕は2本しかねぇからな。少なくとも、2人は連れて帰れるくらいにならねぇとな」

 にかっと笑顔を萩風に向ける。

 その笑顔が、何とも頼もしく見えた。 

 つられて萩風も頬が緩む。

「そうだね」

 

 といったやり取りを、遠くから見ていた艦娘がいた。

「ひゅーひゅー。熱くて溶けちゃいそうだよ」

「舞風、煽るのはやめておこうね」

 慣れない口笛を吹かせているのは舞風。

 その舞風を制しているのは野分。

 2人とも陽炎型駆逐艦の艦娘で、嵐・萩風と共に、第4駆逐隊を編成しているメンバーだ。

「いやいや、煽ってなんかないよ? もし二人が『じょーじ』に至ったときに止めに入らないといけないじゃない?」

「どこでそんな言葉を覚えたの?」

「青葉さんがよく言ってるよ。『スクープです! ついに提督と例のあの人がじょーじに!』って」

「それ、ネタが無いから適当に作った話だよ」

「ところで『じょーじ』って何?」

「知らないで使ってたんだ」

 野分は呆れ顔が隠せなかった。

 それと、舞風の知らない『情事』の意味を知っていて、何だか自分が汚れているような気がしてならない。

 桟橋に座る二人が、あのまま互いの口を近づけ合うのではと想像したのは舞風には内緒だ。

「でも凄いよね、嵐って。夢に向かって突き進んでる感じがして」

「ん~、夢とはちょっと違う気もするけど」

 舞風の言わんとしていることはなんとなく伝わった。

 自分の信念に忠実に、ひたすら努力を惜しまない。

 自分達も見習うべきだと、野分は自身に言い聞かせる。

「あれ、あんたたち何してんの?」

 野分は、うひゃあと変な声を上げてしまう。

「陽炎姉さんでしたか。びっくりしました」

「何、変なことでもしてたの?」

「わたしたちじゃないよ! 変なことしてたのは嵐と萩かごっ!」

 野分は慌てて舞風の口を塞ぎ、「あはは」と愛想笑いをする。別に嵐と萩風が悪いことをしていた訳でもないのに、鎮守府内で変な噂が広がるのは避けたかった。

 話題をそらそうと視線をうろつかせると、陽炎の後ろであくびをする不知火がいた。

「あれ、不知火姉さんも。どうしたんですか?」

「陽炎に朝のランニングに付き合えと言われまして。いい迷惑です」

「うるさいわね。体力つくんだからありがたいと思いなさい」

「聞きましたか、今の横暴な発言を。見てみなさい舞風、これがあなたの長女ですよ」

「舞風に変なこと吹き込まないでよ!」

 舞風も悪ふざけに乗って「かげろうねえさんこわいー」と身体をくねくねさせている。

 さすがにうるさすぎたのか、嵐と萩風がこちらに気づいて近づいてきた。

「ん? 陽炎ねぇたち、いたのか」

「あれ。嵐、もしかしてランニングした後?」

「ああ、そうだぜ。陽炎ねぇたちはこれから?」

「うん、駆逐艦の日課にしようかなって」

 舞風は「え゛、日課?」とあからさまに嫌そうな顔をする。それとは対照的に、嵐は目を輝かせた。

「お、いいなそれ! 楽しそうじゃん!」

「でしょ? なのに不知火ときたら」

「別にやらないとは言ってません。強引に連れ出そうとする陽炎に文句があるだけです」

「なんや、もうみんな集まって来てるんやんか」

 関西弁でひょいっと会話に入ってきたのは黒潮。 

 遅れて親潮もやってくる。

「黒潮さん、天津風たちはもうすぐ来るそうです」

「ありがとね、親潮」

 黒潮にお礼を言われて、親潮は分かりやすく嬉しそうな顔をした。褒められて喜ぶ忠犬のようだ。

 和気藹々と話す姉妹たち。

 野分はふと冷静になった。

 こんな風にみんなでいられるのは、一体いつまでなのだろう。

 もし、誰かが沈んでしまったら。

 もし、艤装を解体して()()()()()()()()、普通の少女になりたいと思う子が出てきたら。

 もし、深海棲艦との戦いが終わったら。

 私たちは今のように、笑うことができるのだろうか。

 悪い癖だ、と野分は自覚している。

 みんなで楽しんでいるときに、時々冷たいくらいに冷静になる。

 考えないようにしてはいるが、なかなかそうはならない。

 しかし、そんな時には必ず……。

「どうしたの、野分。怖い顔して」

 舞風が不思議そうな目で訊ねてくる。

「楽しくないのか? そうなんだな! じゃあ一緒におどろー!」

「あ、ちょっと」

 野分の手を引き、舞風は軽くステップする。その場で考えたテキトーな鼻歌を歌いながら、舞風のペースで踊り始めた。

 こんな風に、こちらの機微を察してか知らずか、舞風は野分をダンスに巻き込む。

「ねぇ、野分」

「なに、舞風」

 舞風はステップを止め、野分の片手を取る。

 まっすぐに野分の目を見つめて、いつものようにこう言った。

「ずっと、一緒に踊ってようね」

 その言葉は、冷たい心を温めるには十分だった。いつも聞いている言葉だけど、いつも心が温かくなる。

「そうだね」

 野分は空いている方の手で、自分を包む舞風の手を握り返した。

「おーおー、熱いね~」

 煽ってくるのは嵐。

「ふっふー。そうでしょ?」

 舞風は握った手を離して野分に抱きついた。

 さすがの野分もこれには慌てる。

「ちょ、さすがに恥ずかしいって」

「え~、何でさ~同性同士なのに」

「良いから離れてって!」

 ぶーと口を膨らませて舞風は離れる。

 そして、何を思いついたのか、悪い笑顔を浮かべた。

「でも~、嵐と萩風に比べたらまだまだだよ~」

 嵐は何のことかさっぱりな様子だ。

 そこへ舞風の不意の一言。

「『失敗を失敗のままにしておく訳にはいかねぇ。また似たような状況になっても、俺が敵を殲滅してやる。倒せなくても、危なくなった奴を引っ張って逃げられるくらいにならねぇと』」

声をわざと低くして嵐の声を真似ようとしている。

 途端に嵐の顔はゆでだこのように真っ赤になった。

「て、ってめ! 聞いてやがったな!」

 嵐は舞風に掴みかかろうとするが、ひょいっとかわされてしまう。

 舞風の攻撃は止まらない。

「『まっ、腕は2本しかねぇからな。少なくとも、2人は連れて帰れるくらいにならねぇとな』」

「だぁぁぁぁぁぁ!!」

 嵐は猛然と舞風に走り寄った。もちろん舞風は逃げる。

「へっへー。捕まえてごらーん」

「舞、てめぇ待ちやがれ!」

「待たないよー」

 ふたりはそのまま鬼ごっこのように正門の方へ走り去ってしまった。

「もう、まだ全員そろってないのに」

 陽炎は腰に手を当てる。

「しょうがないか。じゃあ、今いる子たちでストレッチしたら2人の後を走ろっか」

 こうして、陽炎姉妹は先を走る二人を追うため、ランニングの準備を始めたのだった。

 

 ここは、陽炎型のいる鎮守府。

 陽炎型駆逐艦姉妹と、有力な艦娘たちで作られた、戦闘の最前線。

 よその鎮守府からは「堅苦しい」と思われているのだが、実際はそうではない。

 そこでは、殺伐とした、重苦しい雰囲気だけが覆っている場所ではなく。

 普通の、人間の女の子のような。

 可愛らしく、温かい日常も繰り広げられているのだ。

 

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