Girls und Panzer Re.大洗の奇跡 作:ROGOSS
二回戦の対戦校がサンダース大付属高校だと判明した二日後、次の試合会場が鬱蒼とした密林であることが知らされた。
みほと優花里、そしてマーさんこと熊野と絵音は一足先に試合会場の下見へ来ていた。
密林特有の水分を多く含んだ地面。生い茂る木々を抜けた先には、開けた丘が広がっていた。ただの密林ではなく、併設して丘陵地帯があることを先に把握できたのは良かった。
知波単学園戦で嫌というほど思い知ることとなった、先に高所を取られることは何としても避けなくてはならない。
「だけど、そう簡単にはいかないだろうね」
「そうでありますね。先に高所を取ろうと躍起になるのは、サンダースも同じことでありますし」
「まずは、この密林をどう抜けるかを考えるべきかな?」
「そうは言われましても、密林内での砲撃戦はかなり難易度の高いものであります。密林に入る前にサンダースの本隊を叩くのが、最もベストなのではないでしょうか?」
「確かに、言われてみれば……」
マーさんと優花里の会話を聞きながらも、みほと絵音はジッと眼下に広がる景色を見つめていた。彼女たちが今、問題となっている丘の頂上に立っていた。想像していたよりも見晴らしはよく、一部木々が薄い場所への砲撃も可能なように思えた。
「密林に入る前に叩くとしても、サンダースのシャーマン部隊を今の大洗女子で相手取るのは分が悪すぎます。かといって、練度の高い彼女たちを密林で迎え撃つわけにもいきません。丘陵地帯で戦うなどもってのほかです。この状況、隊長ならどうしますか?」
「うーん……。やっぱり、一番良いのは先にこの丘を取ることだよね」
「そうですね。機動力だけを比べるならば、まだ五分で戦えるかもしれませんからね」
「それに私たちの戦車は小さい物が多い分、小回りが利きます。まずは密林を走行する訓練をするほうがいいのかもしれません」
「わかりました」
みほと絵音の会話を邪魔することがないように、マーさんが優花里に小さく
「なんだかんだ言って、あの二人は良い感じね」
「当たり前であります。二人とも、根っからの戦車好きでありますから」
「ふふ、楽しくないとやってられないものね……」
遠い目をするマーさんに優花里は不思議そうな視線を送る。
しかし、優花里が追及することはなかった。知り合ってまだ僅かだが、熊野という人物も何か人には言うことのできない闇を抱えている気がしたからだ。
かつて自分が、趣味が合わないということだけを理由に虐げられてきたように、彼女にも混沌とした過去があるのだろう。
みほと絵音はやがて、地図を取り出しあれやこれやと議論を交わしながら、書き込みを始めていた。まだ、当分終わることはないだろう。優花里はそんな姿を誇らしく、微笑ましく眺めながら、リュックサックから温かいコーヒーの入った水筒を取り出すと紙コップへと注ぎ始めた。
〇 〇 〇
大洗女子学園自動車部の部室では、オイル
Ⅳ号戦車の砲身は1回戦の時とは変わり、長身砲へと変えられていた。これにより火力・射程が大幅にパワーアップし、支援戦車から主力戦車へと立ち回りを大きく変えることができた。シャーマン軍団を相手にするには、必要な改良だろう。
対して、深い緑色の戦車の方のオーダーは少々変わっていた。
「まさか、初めて持ってくる戦車のこんな場所を弄ることになるなんてね」
「砲手用の車載窓を用意してくれって。ふふ……溶接とかしちゃっていいのかなー?」
「失敗したらしたで、元からこうでしたって言えばいいよ」
不穏な内容を話しながらも、自動車部の面々の表情は明るい。戦車道大会が始まったことで今まで以上に無理難題を言われる可能性があるが、それすら自動車部は楽しみとして捉えていた。
自動車バカ、戦車バカと呼ばれる日もそう遠くはないだろう。
「これ、なんて言ったっけ?」
「ナウエルDL43だよ。これまたマニアックな戦車だよね。大戦中に作られたけど、そんなに多くは作られなかったみたいだし」
「マニアックだと整備のためのマニュアル見つけるのも大変だよ」
「これ以上増えないといいんだけどね」
「いや、増えるでしょ。うん、絶対増える。そんな勘がする」
「やめてよ……ただでさえ勘がいいのに、こんなところで発揮しないで」
彼女たちはまだ知る由もなかった。
自分たちがまさか、戦車に乗ることになるなどと。それも、試合中の走行中に整備するなどという荒業に出たため、月間戦車道で取り上げられプチ有名人になることを。
真新しく塗装されたナウエルが鈍く光る。二回戦まで残り一週間を切っていた。
大洗女子の縁の下の力持ちの奮戦も、誰に知られることなく続くのであった。