Girls und Panzer Re.大洗の奇跡 作:ROGOSS
森の中を一台の偽装トラックが疾走する。
その重そうな巨体に対して、速度はゆうに60km/h近くは出ているだろう。
目指す地点はただ一つ。
この偽装を最も効率よく活かせる場所。
「あー、たく。ただでさえ視界が悪いっていうのに、もっと悪くなってるでぃ!」
「おまけに、発砲禁止だと? これでは私の力を十二分に発揮できないではないか」
「本当だ。これだから私達の隊長は……」
「あぁ、後でマーさんに文句を言おう。どうせ、この作戦を入れ知恵したのはアイツだろ。あれはまさしく悪魔だ」
「悪魔かどうかは知らんが、私達のことをもっと考えるようには言わなきゃいけないな」
『そうかいそうかい。私が何も考えていないと。おまけに、悪魔』
「ひぃっ!」
三上と由多が同時に悲鳴を上げる。
恐る恐る振り向くと、無線機を彼女達のほうへ向け笑顔の絵音がいた。
「ど、どうして……」
『ちょっと今後の話をしようと思ったらこれだよ。あんた等……覚えておきなよ』
「ごめんなさい!」
「申し訳ないと思っている! ゆえに、許してくれ!」
二人の本気の謝罪を聞くことなく、通信が切れた。
絵音は覗き窓から外を見て、敵がいないことを確認すると由多に小さな声で質問をする。
「何を怖がっているんですか? マーさんは良い人じゃないですか」
「罰ゲームを受けたことない人にはわからんのだ……ぬうぅ……一生の不覚」
「罰ゲームって、いつもファミレスでやってるやつのことですか?」
「そうだ。なんだお前、知らなかったんでぃ?」
会話に入っていた三上に、絵音はキョトンと首をかしげる。
見る人から見れば、その小さな体からしてロリ萌えなどと言うのだろう。
もっとも、彼女の本性を知っている二人は次に出てくる言葉に予想がつき小さくため息をつきたくなっていた。
「そうだったんですか。てっきり、活躍できなかった人が可愛い後輩である私におごるためにやっているのかと」
「アホ抜かせ! 三上、こいつここで降ろそう! いいや、ロープで縛って引きずりまわそう!」
「そうだな、それが良い」
「何を言ってるんですか? 私がいなかったら、この試合勝てるんですか?」
「……」
確かに、と彼女達は思い直す。
どれだけ憎まれ口を叩こうとも、戦車道に対してはどう転んでも追いつけない才能を持っている絵音がいなくては試合には勝てない。
仲間割れで試合に負けるなど、プライドが許さない。
「あとで覚えてろ……」
由多の小さな呟きを最後に、その話題は流れた。
間もなく偽装テトラークは森を抜け、ある施設へとやってきた。
今回は、そこも試合会場となっているため今日は無人となっている。
普段は学園艦の物流の中心となる場であるが、戦車道の試合が優先となっていた。
そして、そこだからこそ……偽装テトラークと同じような形をした本物のトラックが大量に駐車してあった。
念入りに作られた偽装との差はほとんどない。
ここに紛れ込んでしまえば、かなり至近距離まで近づかなければ判別は困難だ。
そして、絵音には西住流がここへ来ると確信に近い考えを持っていた。
「どうしてここに来ると思うんだ」
「簡単な話です。あの流派は逃げるようなことは絶対にしない。だからこそ、今回のステージの最深部であるここで待っていれば良いんですよ。こっちは虱潰しに私達を探す相手を待つだけで良いんですから。おまけに、Ⅳ号の装甲が抜かれるはずがないという、相手の油断を突くのがポイントです」
「言ってる意味が分からんぞ」
「つまりですね、確かな兵站があることを基本として成立している西住流は
「もっとわからなくなったぞ……」
嘆く由多に同情しながらも、三上は考えをまとめた。
要約すると、隠れる場所や障害物の多い流通センターに私達がいると考えるであろう敵は、まずここへやって来て一つ一つ虱潰しに確認しながら、捜索エリアを狭めていくと言いたいのだろう。その隙を突けば、脆弱な場所を狙撃できるタイミングがあると……。
もっと簡単に言えばいいのに……。
三上は心の中でため息をつきながら、エンジン音が響かないようにした。
優秀な戦車長は、自車のエンジン音と他の戦車のエンジン音を聞き分けられるらしい。たとえ、同じ車種だとしても、その使い手や歳月によって些細な違いは出る。
絵音がそこまで出来るのかを確認したことはないが、彼女ならそんなことも出来ないんですか? などと言いそうで聞くことが出来ない。
「来ました……」
三上はハンドルを握り、由多は標準を合わせる。
紺色のⅣ号は、一つ一つ確認するようにゆっくりと近づいてきていた。
その距離はおよそ500m。
当てられないことはないが、正面装甲を抜くことができない。
もっと近く、さらに近く。
ギリギリまで近づき、側面か背面を抜くことが求められた。
ここまで来てしまえば根競べだ。
汗で手が滑らぬよう、タオルで手をふく。
何十もの戦場を戦い抜いてきたとはいえ、この瞬間だけは慣れることはない。
ただ一人、絵音だけは涼しい顔をしたまま命令のタイミングを図っていた。
「残り200になったら急発進。すれ違いざまに、側面を撃ち抜きます。出来ますね?」
「あぁ」
「当たり前だ」
命令を下し、絵音は再び沈黙を続ける。
Ⅳ号がジワジワと距離を詰めてきていた。