スコープを覗いて狙いをつける。流れていく風を読み、的の動きを予測してーーーーーー撃つ。
肩が外れそうになるぐらいの大きな衝撃を身体を使って上手く逸らし、抑え込む。スナイパーモードの『罪と罰』から発射された黒い弾丸は、的に向かって一直線に飛んで行き―――――そして、外れた。
「あーくそ、またかよ」
これで外した弾数は47発。逆に命中した弾数はたったの3発。いくら的が高速で動いているからと言って、こんな結果では少々、いや、かなり情けない。俺は銃を手から離し、うつ伏せの状態で構えていた身体を起こして、その場に座り込む。
「はぁ………………」
そして、盛大なため息。数日前、2対4の模擬戦を行った次の日から各自の実力を伸ばすための個人訓練が始まっていた。フロントアタッカーであるギンガとスバルはヴィータさんと、ちびっ子組のエリオとキャロにはフェイトさんが、センターガードであるティアナはなのはさんと、そして、俺は一人、黙々と射撃練習。各自、ポジションにあった教官が付いているというのに、俺ときたら…………
「はぁ………………」
もう一度ため息。一応、俺に教官が付いていないのには理由がある。それは、単純に人手が足りない、ということだ。まぁ、元々、俺とティアナの仲が悪いせいで遠慮されている部分もあるのだろうが、タイプの違いもあるだろう。どちらかと言うと俺は接近戦の方が好みだ。それに、ある程度、実践経験のある俺よりひよっ子であるティアナの方を先に重点的に鍛えるのは当然と言ったら当然だ。
「おーい、訓練やってるかー…………ってなんだ、サボってるのかよ」
そろそろ訓練を再開するか、と大きく体を伸ばしたところに、後ろから、そう声をかけられた。俺はゆっくり顔を後ろに向け、来訪者の顔を見る。
「いや、サボってるわけじゃないですよ、ヴァイスさん」
「別に俺に嘘つかなくたっていいさ」
ヴァイスさんはそう言って、手に持っている魔法瓶を見せびらかし、ニヤリと笑った。
俺とヴァイスさんの付き合いはそれなりに長い。だいたい4年ぐらい前、ギンガとコンビを組み始めて少し経った時のことだ。当時、俺は苦手な狙撃を克服しようと1人、黙々と練習していた。その時にたまたま出会ったのが、まだ武装隊に所属していたヴァイスさんだった。その後もちょくちょく訓練校に顔を出しては俺に狙撃の手ほどきをしてくれた。そのおかげで今では動いていない的にならば確実に当てられるぐらいにはマシになった。
「なんだ、苦労してるみたいだな。弾が的に全く当たってないじゃねーか」
「そうなんですよ。どうにも読みを間違えているみたいで」
ヴァイスさんが持ってきてくれたコーヒーに口をつけながら二人、座って話し込む。話の内容は当然、今の訓練のことについてだ。あまりのひどい結果に頭を抱えられてしまった。だからか、訝しげな表情を浮かべながら、ヴァイスさんは問うてきた。
「何か気になってることでもあるのか?」
俺は、しばらく考えてから首を横に振った。
「特にないと思いますけど…………」
なんとなくだが、心当たりはある。だけど、それは他人に言うものではない。自分自身の気持ちの問題だ。
「ふぅん、そうかい」
何か納得したような、そんな顔をしながら短く返事を返すとヴァイスさんはコーヒーを一気に仰ぎ、立ち上がった。
「そんじゃ、俺はそろそろ行くとするか。ここにいるとライトの邪魔になるだろうし、来てるのがバレると色々とやばいからな」
立ち去る直前、俺にギリギリに聞こえるようにボソリと呟いた。
「あの嬢ちゃんのこと、しっかりと見ててやれよ。何かあってからじゃ、遅いからな」
それは、なんだか自分に言い聞かせているような、そんな風に俺は感じた。
「覚えておきますよ。なにより、ヴァイスさんの言葉ですからね」
「午後からはシグナム姐さんと模擬戦やんだろ? 怪我しない程度に頑張れよ」
ヴァイスさんは満足げに頷くとそう言い残して、今度こそ、本当に去っていった。
俺は雲一つない青空を見上げる。
「何もないと、いいけどなぁ」
俺のつぶやきは誰にも聞かれるわけもなく、虚空へと消えていった。
▽▽▽
もっと速く、もっと正確に…………ッ!
「ティアナ、少し動きが雑になってきてるよ。もっと集中して!」
「はいッ!」
あの模擬戦で、私はいったい何をしただろうか、何ができただろうか。ああ言っておきながら、私はライトに負けた。完敗だった。一度も攻撃を与えられず、おまけに、ライトは私に向かって引き金を引いていない。爆弾が置かれていた場所に私が飛び込んでいっただけだ。正直、勝負にすらなっていなかった。
こんなんじゃ、兄さんの強さは証明できない。
「次いくよ」
「はい!」
私はなのはさんが飛ばしてくる魔力弾の種類に合わせて細かく微調整しながら、撃ち落としていく。
「そうそう! その調子だよ!」
なのはさんのアドバイスを聞きながらも、私の頭は他のことを考えていた。
だんだんと訓練にも慣れてきて、強くなってきているのは自覚してる。だけど、本当にこれだけでライトに勝てるのか? 夢を叶えられるのか? もしかしたら、ライトだったらこの訓練も楽々クリアして次の訓練に移ってるのかもしれない。私は凡人だからそんなこともできない。
「あの、なのはさん」
「ん? どうかしたの?」
だから、休憩の合間、私は意を決して聞いてみることにした。
「モーリス陸曹なら、この訓練、もっと上手くやれていると思いますか?」
そんな私の質問になのはさんは一瞬、驚きの表情を見せたが、すぐに真面目な顔に変わり、口元に手を当てて考え始めた。
経つこと、数十秒、なのはさんは苦笑いを浮かべながら、こう言った。
「んー、ライトは苦手なんじゃないかな? この訓練」
その言葉に私の目が丸くなる。今の私にはその返答は予想できないものだった。
「どういうことですか?」
勢いで、ぐっと、顔を近づけて聞いてしまう。なのはさんは少し困った顔をしながらも、答えてくれた。
「生徒のことを悪く言うのは、あまりよくないんだけど、ライトって精密射撃はティアナに比べて全然ダメなんだよね。今でさえ、デバイスの能力が高いからそこまで気にせずに当てることができてるけど、なにも補助なしでや撃ったらそこまで命中率は高くないんじゃないかな? まぁ、だからこそ色々と考えて工夫して実践してるみたいだから、教官としても、一人の軍人としても素直に感心するけどね」
…………ああ、そっか。ライトにだってできないことはあるのか。そうよ、ライトは私と同じで凡人のはずなんだ。なんでこんなことも忘れてたんだろう。
そうだ、私はライトにだけは負けたくない。兄さんの汚名を返上するためにも、私が前に進むためにも。
「なのはさん! 訓練の続きお願いします!」
早く強くなるんだ。そうすれば、きっと――――――
そして、時は過ぎ去り、機動六課二度目の任務が始まろうとしていた。