「ど、どうしたの……? こんなところに呼び出して……」
桜が舞うこの木の下に、私は幼馴染の彼と2人っきりでここにいた。周りに人影はない。空が夕焼けに染まるこの時間、もうみんな家に帰っている。
「いや、その、聞いて欲しいことがあるんだ」
「う、うん……」
なんとも言えない空気が辺りを漂う。嫌な空気じゃない。チリチリするような、ヒリヒリするような、そんな感じ。彼は何か緊張しているのか短く切り揃えられた黒髪を掻いた。とはいえ、私も心臓がバクバク言っているのがわかる。落ち着け、落ち着け、私。そう言い聞かせても心臓の音は鳴り止まない。暫くの沈黙。彼はその噤んでいた唇を大きく開いた。
「突然でごめん!オレ、ティアナのことがーーーー
チリリリリン、というアラームの音で目を覚ます。
「なんだ、夢か……」
時計を見ると時刻は午前6時を指していた。あの夢の続きが見たい、そんな衝動に駆られるが、時間がないので名残惜しいが今日のところは起きるとしよう。
綺麗に布団を片ずけてからキッチンへと向かう。
私の家は小さなアパートの一室だ。個室が2つ。それとリビングとキッチン。トイレと風呂は共用だ。兄さんの貯金が貯まってきたので近いうちに引っ越そうという話も出ている。
洗面台で顔を洗って、歯を磨いて、髪を整えて。そうしている間に今日のお弁当の中身を何にするか考える。 だけど、先ほどの夢のせいでイマイチ考えが纏まらない。
「はぁ……」
溜息も吐きたくなる。私は幼馴染のライトのことが好きだ。どんな意味で好きなのかと聞かれたらたぶん、恋愛的なものだと思う。別になにか大きな出来事があったわけじゃない。ただ、私にとってあいつは何があってもずっとそばにいてくれる、月みたいなやつだから。きっと、そんな理由しかない。
「とりあえず、これで準備は終了っと」
テーブルの上には弁当箱が大きいのと小さいの2つ、トーストが3枚、それとハムに卵にサラダ。あとは兄さんを待つだけ、そう思って、私が席に着こうとしたのと同時に玄関の扉が開いた。
「いやー、悪い悪い。遅くなった」
そう言って兄さんは帰ってきた。
「ライトのやつがいつにも増して真剣にやるからさ、つい、色々と教えたくなるんだよなぁ。あの約束が効いてる感じか? まぁ、でも、まだ負けてやるつもりはないけどな」
朝食を食べながら兄さんは嬉しそうにさっきまでのことを話してる。 私とライトの約束。ライトが兄さんに勝つことができたら告白について考えてあげる、ライトの告白が素直に頷けない私が考えた苦肉の策。2人の最初の対決から、もう2週間近く経っている。その間、毎日のように2人は勝負している。結果は見ての通り兄さんが全部勝っているけど。
「私の強くて格好いい兄さんがそう易々とライトごときに負けてたまるかって話よ」
「はははっ、俺も今のライトじゃあティアナを任せていられないな。もっと強くなって、ティアナを守れるようになってもらわなきゃ困る」
兄さんはそう言って笑った。
「そんじゃあ、仕事に行ってくる。今日も遅くなるかもしれないが、なるべく早く帰ってくるからな」
「うん。いってらっしゃい」
さてと、私も早く学校にいかないと……
今日はライトと一緒に登校してあげようかな、なんて上機嫌に考えながら私は家を後にする。
「よぉ、ティアナ。一緒に学校行こうぜ」
「何よ、待ってたの? チャイム鳴らしてくれたらよかったのに」
私はライトと並んで学校への道を進む。
これが、最後に兄さんを見た日。これが、最後にライトと並んで登校した日。これが、最初にあいつを憎んだ日。