この場にいるものはそう多くない。部屋の前で待機している俺と相棒のギンガを除いて、他には8人ほどしかいない。これは機動六課の前線部隊である高町なのは率いる『スターズ部隊』とフェイト・テスタロッサ・ハラオウン率いる『ライトニング部隊』の顔合わせの場である。
「それじゃあ、新人チームのリーダーを紹介しまーす!」
入って〜、というなのはさんの声が聞こえる。ギンガの方を見ると彼女は不安そうな目でこちらをじっと見つめていた。俺の不安が伝わってしまったのかもしれない。
入らなきゃ、何も始まんねーよなぁ。
俺は逃げ出したいという気持ちを抑えつけ、一気に扉を開いた。
部屋の中は思っていたよりも広々としていた。司会進行役であるなのはさんが二列並んでいる机の正面側に立ち、席には手前からフェイトさん、シグナムさん、ヴィータさん。もう片方には10歳ぐらいの子が2人とギンガの妹のスバル、それと……ティアナ。
「今日からここ、機動六課に配属になったライト・モーリス陸曹だ。よろしく頼む」
「同じく、ギンガ・ナカジマです」
新人たちに向けての挨拶。不安を悟らせぬように堂々とやる。それが、彼女を余計にイラつかせてしまったのかもしれない。
バタンッ! と椅子が倒れる音がしたかと思うと、いきなり胸ぐらを掴まれた。
「どうしてあんたがここにいる! なんで人殺しのあんたがここにいる!!」
▽▽▽
その日の夜、俺は何をすることなくベランダで夜空を見ながら涼んでいた。隣の部屋の窓がガラリと開く音が聞こえる。俺の隣の部屋はギンガだ。
「ねぇ、ライト」
「なんだ、ギンガ」
「大丈夫なの?」
主語のない質問ではあるが、俺はギンガが何を言いたいのか理解ができた。決まってる。ティアナとのことだ。ギンガから今朝の顔合わせ以降ずっと言われていた。今更聞き返すこともない。
「スゲェ目が怖かったな。人でも殺す勢いだったぜ」
「はいはい、ふざけない」
別にふざけたつもりはなかったんだが……。まぁ、いいか。
「俺もあいつも、もうそこまで子供じゃないんだ。公用と私用は分けられるだろ」
俺はぶっきらぼうにそう返す。数秒した後、はぁ、というギンガのため息が聞こえてきた。
「いつまで強がってるつもり?」
今度はこっちがため息を吐きそうになる。図星だ。こいつには敵わない。俺は正直に胸の内を打ち明けることにした。
「正直、怖いさ。あいつの名前を聞くだけで足が震えそうになるぐらいにはな」
嘘偽りない俺の言葉。ギンガは黙って耳を傾けてくれている。
「でもさ、逃げるだけじゃダメなんだよな。それじゃあ、前には進めない。俺はさ、ギンガ。あいつの兄貴と約束したんだよ。あいつを守れるぐらい強くなるって。だから、前に進まなきゃダメなんだ」
こうは言ってはいるが、結局、あのザマだ。ティアナの暴走に俺は立ち尽くすのみ。スバルとエリオが止めてくれなきゃどうなってたかわからなかった。それぐらい、今の俺とあいつの溝は深い。
「それにしても、結局ギンガにはバレてたか。うまく隠してたつもりだっんだがなぁ」
「きっと、私以外にはわからないわよ。一体何年ライトとコンビ組んでると思ってるの?」
「まだ4年かそこらだろ」
俺とギンガは訓練校時代からのコンビだ。ティアナとスバルと同じようなものだな。それがそのままゲンヤさんの部隊に2人揃って厄介になって、コンビは今もなお続いてる。
「私、偶にあなたともっと前からコンビを組んでいたと思う時があるの」
「奇遇だな。俺もだ」
笑いが込み上げてくる。ギンガとのこのやり取りも何回目になるか。
「俺はギンガが相棒でよかった」
「私もライトとコンビが組めてよかった」
お互い、そう恥ずかしげもなく言えるぐらいにはいいコンビなんじゃないかと、俺はそう思う。
春の涼しげな風に桜の花びらが舞う。
「ねぇ、ライト?」
「なんだよ」
「私はあなたの相棒だから、いつでも背中は守ってあげるね」
その声はいつもの大人っぽいものではなく、年相応の明るいものだった。