DRIVE SUNSHINE!! -加速する世界の中で-   作:Professor灰猫

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第2話 彼はどのように事件を解決に導くのか

 暗闇の道、正確には闇夜の海に照る月によって少し藍色に光る道。そこを場違いな一台の赤いスポーツカーが静かに走り抜ける。

 スポーツカーの車内には一組の男女が乗っていた。一件、カップルのようにも見えるが、そんなヤワなものではない。それは男のだらしないスーツと、女────少女の制服が物語っている。

 

 この男女の関係は、つい数時間前────といっても昼間に新任式を終えた新任教師のエイトと、その教師が着任した女子高の生徒にして生徒会長のダイヤなのだ。

 

 

「…………」

 

 

 車内に静寂────ピリピリとした空気が漂う。このピリッとしたような電撃の走るオーラを、ダイヤが醸し出しているのは明確だった。

 

 ダイヤが気を失ってから暫くして、彼女は保健室のベッドで目を覚ました。起き上がれば、隣の椅子に座っているのは、あの第一印象が最悪だったエイトだったのだ。ダイヤの額に皺がよるとエイトは少しばかりオロオロした。普通の反応なのだが、何だか頼りなさげでダイヤは益々不機嫌になる。

 エイトが言うには、ダイヤが生徒会室で倒れていたので保健室まで運んだとの事。それは機械の怪物に襲われたからと話せば、現実味が無いと嘲笑される事は間違いないだろうし、第一、ダイヤ自信そんな事があったなどと信じる事は出来ない。夢ではないだろうかと、勝手に結論づけていた。

 

 ────ここまで運んでくださり、ありがとうございます。恐らく疲れていたのでしょう。と起き上がったダイヤからエイトに向けて一言。やはり好印象は持てないが、教師である彼に対して不服な態度を取るわけにはいかない。

 ────では、私はこれで。と立ち上がり、保健室を去ろうと扉に手を掛けるダイヤ。

 だが、

 

 

「こんな時間だし、家まで送るよ」

 

 

 その一言が耳に入り、はぁ?と言葉が口から飛び出そうになるが、何とか噛みしめて掛け時計を見上げる。

 今の時刻は九時を過ぎたところ。窓から外を見れば真っ暗で、夜目で薄く校門が見える程度。一体、どれだけの時間気を失っていたのかと。

 確かに浦の星女学院からのバスは、この時間帯になると出ていない。だが、それなら自分の執事にでも迎えに来させればいい。そうエイトに話すと────いや、家の人に迷惑をかける事出来ないし、俺が連絡入れるの忘れたし。ここは俺が……。とまた訳の分からないことを言い始めた。いや忘れたのかよとツッコミたくなる。

 

 結局、エイトのお節介に負けたダイヤが、こうしてエイトのスポーツカーに乗っているのだが。不服な態度を取らないと言った前言を撤回しよう。

 

 

「えっと、ダイヤさんは生徒会長をやってるんだっけ」

「ダイヤでいいですわ。教師に"さん"を付けられるのは、余りいい感じはしませんので。先程の質問ですが、泊先生は私が生徒会長として壇上に立ったのを覚えてらっしゃらないので?」

 

 

 さん以前に気分が悪そうなんですがそれは、と思うエイトを残して、ダイヤは喧嘩腰に質問に質問で返した。まぁ、エイトは遅刻してきているので生徒会長からの言葉など聞いていないのだが。

 

 

「な、なんかゴメン」

「別に、謝罪は要求していませんが?」

「……とにかく、俺はまだ沼津に来て少ししか経たないから、色々と世話になるかもしれないから、よろしくな」

「えぇ、貴方とは短い間だと思いますが、私がお世話をするかも知れませんわね」

 

 

 皮肉った様な言葉だが、これは浦の星女学院が廃校するという事実を突き付けるのと、彼女なりのよろしくなのかもしれない。いや、彼女の今の心境を考えると後者は全くと言っていい程、可能性はゼロに近い。

 

 しかし、こんな空間ももう終わる。ダイヤの自宅が近付いてきたのだ。

 外観は木でできた二階建ての普通の民家のようにも見えるが、似合わないような大きい庭や玄関の前にある門が他の家と格が違う事が分かる。

 そして、何よりも目を引いたのは門に付いた灯りに照らされる大柄な男であった。白髪をオールバックにしており、肌は浅黒く日本人とは思えないが、日本人特有の童顔。180センチはあるエイトよりも一回りは多い身長に、着こなしている黒スーツと白手袋。ダイヤが言っていた執事であろう。こう見るとダイヤは、相当なお嬢様なのかもしれないとエイトは思う。

 二人が車を降りると、男は右手を前に回して一礼した。

 

 

「おかえりなさいませ、お嬢様」

「遅くなりましたわ、イチヤ」

 

 

 イチヤと呼ばれた男、その姿は豪快かつ優雅だ。数秒間頭を下げ、顔を上げる。男の視線はエイトに行っていた。

 

 

「その男は……ダイヤ、遂に硬度十のお前にも男が出来たか。別に見せびらかせに来てもいいが程々にしろ。爺さんに見つかったら世話役の私はクビだからな」

「はぁ……そうではありませんわ。今日、浦の星女学院に来た教師です」

「ほう、君が噂の……」

 

 

 急に口調が変わり、男はダイヤを皮肉ったが、そんな無礼をいつもの事のようかにスルーする。エイトが戸惑うのも束の間、男は顎に手を添えエイトをジロジロを見定めている。

 そしてそのゴツゴツした手を差し伸べてきた。

 

 

「……ダイヤの幼少期から世話役をしているイチヤだ。あのダイヤモンドを通して長い付き合いになると思うからな、よろしく頼む」

「泊エイト、浦の星女学院の教師をやってます。よろしく」

 

 

 エイトも手を差し伸べて熱い握手を交わす。やはり、イチヤの手はエイトとは違って硬く、とても重い握手であった。

 

 

「イチヤ、行きますわよ」

 

 

 と、そんな光景など見もせずに、ダイヤはすたすたと玄関の方に向かって行く。

 

 

「すまんな。今、ダイヤには色々と余裕が無くてな。君とは色々と話してみたい事はあるが……今日はこれで失礼する」

「あぁ、それじゃあまた。」

 

 

 イチヤは先程のように一礼すると、ダイヤの後ろを付いていく。幼少期からの付き合いらしいので、何だか親子みたいだなと感想を持ってしまう。

 

 

「さて、んじゃよろしくな。ジャスティスハンター」

 

 

 二人を見送った後、胸ポケットに入っていたミニカーに指示をする。その白と黒を基調としたパトカーのミニカーは分かったかのように前後に動くと、黒澤邸に飛ぶようにして走って行った。

 それを確認すると、エイトもまたトライドロンに乗車してエンジンを蒸し、その場を去って行った。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 《何故、ジャスティスハンターをダイヤ君の護衛につけたのかね》

 

 

 場所は変わって、エイトの住んでいる純の別荘の地下。中央にはトライドロンが停車しており、下から発光するLEDがトライドロンを照らす。周りを見渡しても数々の機械設備が存在している。

 

 ここはトライドロンの格納庫某メンテナンス施設『ドライブピット』

 

 このドライブピットはクリム曰く三代目となるらしい。前のドライブピットには開発施設もあったのだが、今のクリムの姿では開発が出来る訳でもなく現在の装備の調整のみ。エイトに関してはそのような技術を持っている訳では無いので、開発施設はここに移転する際に前のドライブピットに放置してきたのだ。

 

 閑話休題。

 

 二輪のタイヤが付属した機械に身体を巻き自立可能のなったクリムは、エイトに対してそう投げかけた。何故なら彼女を襲ったロイミュードはもう撃退した筈だ。今更、シフトカーであるジャスティスハンターを護衛につける必要があるのだろうか。

 

 

「それは後で説明する」

 

 

 そんなクリムの疑問を置いておき、エイトは冷静に答える。何やら彼には策があるらしい。

 エイトはそばに置いてあるノートパソコンを操作すると、空間に電子画面が映る。どうやらビデオ通話のようで、奥には一人エイトやクリムには見い知った顔が映る。

 

 

『よぉ、エイト。元気か?』

「ゲンさん、久しぶり」

 

 

 画面の奥にいる彼は矢追(やおい)源八郎(げんぱちろう)。元警官でエイトの父親であるシンノスケの同僚で、エイトも多く世話になった人である。

 彼は警視庁捜査一課の課長であり、捜査一課と警視庁特状課の橋渡し役だ。しかし警視庁の人間の多くは重加速を信用していない現実主義者なので、ほぼ機能していないも当然だが。

 

 

「それでゲンさん……今回の怪死事件は」

『被害者は堀内麻耶、二十二歳女性。沼津に仕事に行っていた東京の大企業の社長らしい。金持ちが狙われたのも前の事件と同じ。死因は首を絞められた事による窒息死……なんだが、これも不可解でな。人間以上の力で締め付けられ首の骨が折れているにも関わらず、首の皮膚には人の手の形で内出血の跡がある。そして……』

 

 

 源八郎は手元にある資料を読み始める。特状課は警視庁の一階に設立されている。源八郎は課長なので警視庁から動く事はほぼ無いと言っていい。更に東京から静岡までは200キロはある。出張以外は行かないであろう。

 資料は静岡県の県警と連携して入手したモノだろう。

 読んでいる口が止まり、源八郎は険しい顔になった。

 

 

『緊急での死亡解剖の結果、彼女の身体中の水分が金になっている(・・・・・・・・・・・・・・)事が判明した』

「これも前の事件と同じか」

 

 

 身体中の水分が金になるなど、普通では考えられない事だ。涙、唾液、胃液、血液……その全てが別の物質になっていると考えると、普通の人間なら身体が震えるくらいに悍ましい。

 だが、この二人は冷静に状況を把握している。

 

 

『後、俺の部下が現地に行ったんでな。あの超小型ピコピコ八号を持たせてやって、嫌々だったが測定した所、重加速粒子を確認。そしてその現場では、どんよりがあったとの証言もある』

「やっぱりか……」

『あぁ、やっぱこの事件はホイコーローの仕業に違いねぇ』

「ロイミュードな、ゲンさん」

 

 

 源八郎のいつもの言い間違いに呆れ顔になるエイト。

 ロイミュードの存在は普通なら他人には絶対に口にしないが、源八郎否特状課は例外だ。特状課のメンバーは全員で四名。課長である純、橋渡しの源八郎、そしてあと二人。その二人は警視庁の人間では無いが、捜査に協力する客人である。

 彼等はエイトの数少ない協力者だ。別に自分達からバラしたわけではなく、色々と様々な経緯があって判明しただけというのが大雑把な説明だ。本当なら現実主義者である源八郎がロイミュードの存在を話すのは、彼なりに事件があったからだ。

 

 

「で、今回のロイミュードがコピーした人間は」

『それなんだが……って先生と究太郎! 今エイトと……』

『はーい! エイト君、元気?』

『エイト君! 沼津の生活はどう?』

「お陰様で、元気です」

 

 

 源八郎だが、隣から出てきた二人の男女に押し出され、座っていた椅子とともにひっくり返ってしまった。

 その二人の男女とは、源八郎より少し若い特状課の客人である。

 

 

『あの強化シューズの調子はどう?』

「普通のロイミュードだったら余裕で蹴り飛ばせますね。威力はかなり強かったです」

『でしょ〜! さっすがー、私!』

 

 

 白衣を身につけるんるんと椅子で回っている彼女は稲神(いながみ)リンナ。見ての通り研究者である。

 彼女の重加速やロイミュードに対しての開発作品は数知れず。重加速の粒子を感知する重加速探知機、ピコピコだったり、エイトが履いている対ロイミュード用の強化シューズも彼女が開発した。つまり天才科学者の部類に入る。

 他にドライブの武器なども開発しているのだ。

 

 

『エイト君、多分今回ロイミュードがコピーしたのは舞田仁志、三十二歳男性。第一の事件の社長が経営していた会社に勤めていて、重役の人間のミスを押し付けられて退社させられたらしいね。数週間前に死体が発見されたんだ。こいつも変死。そしてこの男はいすれも四つの事件の現場で目撃されている。防犯カメラにも映ってたんだよね』

「舞田仁志……あの連続殺人犯のか」

『うん。元々彼が殺害した人間や、この事件で殺害された人間は彼が勤めていた会社の関連会社、又はミスに関わっていた会社の社員だ。ロイミュードがコピーしたなら、ほぼ確実にその意思を継いでいるかもしれない』

「分かった。なぁ、究ちゃん。その会社の関連会社とかで、黒澤っていう企業みたいなのはあるか?」

『どうだったかな……心当たりがあるなら調べてみるよ』

「あぁ、よろしく」

 

 

 眼鏡を掛け、エイトから究ちゃんと呼ばれる彼は西城(さいじょう)(きゅう)。と言ってもこの名はネットなどでのハンドルネームで、本名は誰も知らない。知らないので、この名で呼ぶしかないのだ。

 彼は情報を入手する事に優れており、自分のサイトを使った情報収集や某掲示板の書き込みを情報源としている。ネットの情報の殆どは嘘と言うが、究は本当の情報を見抜く事が得意。彼の情報を頼りに解決した事件は何個ある事か。

 

 

『いててて……っと言うわけだエイト。俺達はお前の味方だ。独りで抱え込んだりしねぇで、俺達を便りにしろよ』

「……ありがとう、ゲンさん」

 

 

 源八郎からかけられた言葉に、何かを思いながら微笑むエイト。

 エイトは教師という立場上、事件と向き合う事は表側では出来ない。彼は警察としてはこの沼津に来る事は無理だ。何故ならもう警察という夢には戻れないのだから。

 そのままビデオ通話を切る。エイトの後ろには黙って話を聞いていたクリム。そのクリムと向き合った。

 

 

「……ベルトさん、さっきの質問の答えだ。犯人であるロイミュード────031は舞田をコピーし、関連会社の人間を殺害している、という事はまた(・・)ダイヤか身内が襲われる可能性が高い」

 《むぅ……しかし、ロイミュード031はあの時撃破した筈だ》

 

 

 確かに今日、あの森の中でロイミュード031を含めた三体はドライブの攻撃を受けて爆発した。あの場には跡形も残っていない。

 しかし、例外はある。

 

 

爆発はした(・・・・・)。但しコアの破壊は確認出来ていない。もう四人も殺したとなると進化に近づいていてしぶといからな。勿論、他の二体もまだ生きている可能性はある」

 《あの日の反省……という訳かね》

「それもあるな。それに部下のロイミュードはあの二体だけじゃないかもな。031が撃破された恨みで同じような惨状を繰り返すかもしれない」

 《もう一度、黒澤君の身内に被害者が出る可能性がある、というのが正解だね?》

「だな」

 

 

 クリムが答えると、エイトはあっさり正解だと言う。

 ロイミュードはコアが残っている限り、何度でも肉体を手に入れて復活する事が可能だ。その対策の為にも撃破した際にコアの自動破壊機能が、ドライブの機能として付属しているのだが、強化されたロイミュードのコアまで破壊出来ない場合もある。

 更にロイミュードは意気投合した仲間と共に、ロイミュードの中で団体を作り動く事もある。ならば部下がもう一人二人いるかもしれない。そんな可能性をエイトは考慮して動いている。

 とクリムと話し、まだスーツ姿だったエイトは背伸びをした。

 

 

「じゃあベルトさん、今日はもうシャワー浴びて寝るよ。明日が本番になるだろうからな」

 《そうだね。今日はゆっくり休みたまえ》

「おやすみ、ベルトさん」

 

 

 欠伸しながらクリムに挨拶してドライブピットを出ていくエイト。その様子を不安そうな表情をモニターに浮かべながら、一人のベルトは見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「おはようございます、泊先生」

「おはよう、の……一条先生」

 

 

 昨日の襲撃から一晩立った。より一層増した桜吹雪がそれを物語っている。

 今日は浦の星女学院の入学式だ。校門の辺りでは、それぞれの部活が勧誘を行っている。入学者はパッと見少ないが、この賑わい方を見ると学院も捨てたもんじゃないなと感じる。

 

 エイトが学院に着くと、校門の橋に背中を授けているノゾカの姿を見かけた。ノゾカはエイトを見つけると微笑みそうになるが、咳払いをして挨拶する。待っていてくれたのかとくちにしそうになるが、言うと強化シューズ以上のキックボクシングが始まるので言わない事にする。

 

 

「あっ、先生! おはようございます!」

 

 

 二人が並んで満開の桜の下を歩いていると、黄色いメガホンを持った少女が元気良く走って来る。様子を見るに新入生では無く、在校生らしい。朝から元気だなとエイトは感心した。

 

 

「おはようって、えーっと……」

「あっ、二年の渡辺曜です! よろしくお願いします」

「おはよう、曜ちゃん。部活の勧誘みたいだけど……水泳部の?」

 

 

 彼女は渡辺曜というらしい。部活の勧誘らしいが、水泳部となるとどうしてこんなに元気なのかが分かる気がした。ただ、ノゾカが疑問詞にした事が、エイトとしては何か引っかかったようだ。

 

 

「えーっと、千歌ちゃんがスクールアイドル部を始めたので、その勧誘を……」

「スクールアイドル部……ですか?」

 

 

 そういう事かとエイトは頷く。つまりこの子、曜は友達が始めた部下と掛け持ちし勧誘を行っていたらしい。そのスクールアイドル部とは、高校の生徒を集めて結成されたローカルアイドル────言ってしまえば高校版ご当地アイドルといったものだ。今から五年前に、とあるスクールアイドルが大会で優勝してから、人気が爆発。今では数え切れない程のグループ数にまで発展した。

 ノゾカは首をかしげてスクールアイドル、スクールアイドル……とぼやいている。きっとスクールアイドルとはどんなものなのか、あまりイメージが湧いてこないのだろう。スクールアイドルは学校の許可さえあれば、すぐにでも始めることが出来る。学校の許可さえあれば、だが。

 曜の指さす先には新入生らしき生徒二人を勧誘している少女の姿。彼女が曜の言っていた千歌という人物だろう。一見、普通の勧誘に見えるのだが────

 

 

「ピギャァァァァァ!!」

「またルビィちゃんの人見知りが始まったずら」

 

 

 千歌が赤髪の少女に触れた瞬間────ノイズを思わせる様な悲鳴が赤髪の少女の喉から震え出てくる。思わず、その場に居座っていた全員が両手で耳を塞ぎ込んでしまう。一緒にいた同級生の口からは人見知りと溢れていたが、ルビィと呼ばれたこの少女の人見知りは、極度にも程があるだろう。

 しかし、この状態ですぐ動き出す者もいる。

 

 

「エ、エイくん!? ……あっ」

 

 

 それは、悲鳴に敏感なエイトだ。彼は元の職業からして、それ以前にほっとけない性格。身体がつい、というぐらいに悲鳴に敏感だ。

 突然、走ったエイトを昔の呼び名で呼んでしまい、赤面になりつつ口を塞ぐ。

 

 

「どうした?」

「ヒギャ────」

「ここはあえて地雷を踏んでいくスタイルずらね」

 

 

 だが、空気読めない泊一族の血を受け継いでいるエイト。正義感が強いだけなので、同級生の少女が言ったように、あえて地雷を踏んでいる訳では無いが、人から見れば見え見えの地雷に向かって走って行き、最後には跡形も残らなくなる状態だ。

 超強化音波装置作動ずら、と幻聴が聴こえてくる。エイト以外は耳を塞ぎ、第二のノイズが走るのを待っていた。

 

 

「きゃぁぁぁ!」

「なん、ぐぉぉぉっ!?」

「……ピギッ?」

 

 

 ────いくら待っても耳への衝撃はやって来ない。代わりに聴こえてきたのは、違う少女の悲鳴、少し太い悲鳴、お前は別の生物か何かかと言わんばかりのルビィの謎の悲鳴だ。

 第一の悲鳴は、どうやら小鹿のように立っているお団子少女のものらしい。その場に散った桜の量を見ると、桜の木から落ちてきたのだろう、と考察出来る者はエイトぐらいだろうか。

 そして、そのエイトなのだが────少女のリアルヒップドロップが頭に直撃し、そのまま地面にノックアウトしている。

 

 

「ごめんなさ……こ、この変態っ────たぁっ……」

「ぐふっ」

「泊先生!」

 

 

 スカートの下に男性が倒れていたら、誤っている途中にも変態と思って反射動作を起こしてしまうものなのだろうか。アスファルトと接吻をしていたエイトは死体蹴りが炸裂し呻き声を上げ、蹴った本人も涙目になりながら脚を抑えていた。

 その光景を見てしまったノゾカと曜、千歌はエイトに駆け寄った。

 

 

「大丈夫ですか!?」

「うーん、何だか川の向こうに人が」

「駄目だよ、先生! 川は泳がないで!」

 

 

 恐ろしい事を口にしているエイトに、曜やエイトと話した事が無い千歌ですらも心配の声を掛けてしまう。

 上を見れば天国の後に地獄、下を見ても地獄。エイトの運命とは決まっているものであり、何とも哀れなものなのだろうか。

 

 

「じゃーんけーんぽん」

 

 

 この騒動の元凶は、何故かジャンケンを執り行っていた。

 

 

「あーっ! そのチョキ、やっぱり善子(よしこ)ちゃんだ!」

「善子って言うなー! ……って、ズラ丸!?」

「やーっぱり善子ちゃん、昔から変わってないずら」

 

 

 特殊なチョキを出したお団子少女は、善子というらしい。彼女は否定しているが、これが本名だろう。

 もう一方の語尾が気になっていた少女はズラ丸────とは呼ばないだろう。彼女達は幼馴染みか何かで、こうやって奇跡の再会を果たしたのだろう。状況が状況なので、美しい奇跡の再会とはならなかったが。

 

 

「いい! 私はヨハネ、ヨハネなんだからねっ!」

「あっ、お騒がせしました。善子ちゃん、どうしたの〜!?」

「待って〜っ! 花丸(はなまる)ちゃん!」

 

 

 善子は鞄を拾い上げ何故か頭に乗せると、自分をヨハネと自称し走り去ろうとする。ズラ丸もとい花丸はそれを追いかけ、ルビィもそれに付いて行く。いつの間にか、三人の新入生は嵐のように過ぎ去ってしまった。

 

 

「何だか……私達が台風に突っ込んで行ったみたいですね。泊先生?」

「完全にのびてるね」

 

 

 嵐が過ぎ去り、改めてノゾカがエイトに声をかけるが、彼は完全にのびきっていた。何回か戦ってきたロイミュードとの激戦でも気絶した事、無いのに。

 

 

「それよりも先生、時間大丈夫ですか?」

「はっ、もうすぐ会議の時間ですよ、泊先生! 早く起きて下さい!」

「うーん……」

 

 

 どうやらエイトが起きる様子では無い。仕方無いですね、とノゾカが自分よりも重い筈のエイトを、走りながらズルズルと引きずっていってしまった。

 その場にスクールアイドル部のチラシを持った千歌と、メガホンを大事に握りしめた曜だけが取り残されていた。

 

 

「……あはは、勧誘失敗しちゃったね。色々と巻き込んじゃったし」

「もう、一回の失敗で諦めちゃ駄目だよ! 気を取り直して、いってみ────」

「へぇ、スクールアイドル部……いつ設立されたのでしょうか?」

 

 

 その声に、二人は冷や汗を流しながらブリキのような動きで振り向く事となった。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「チッ、今度は邪魔が入らねぇように、あの赤いヤツでも狙ってみるか。ヒヒヒ」

 

 

 不気味な笑いをするのは────全身黒の服に包まれた男。桜並木の下を走る少女を見つけると、次のターゲットにした。

 

 

「さぁ、苦しむ顔を見るのが楽しみだァ」

 

 

 まだ何もかもが始まりの、この日。

 舞うのは桃色に染まった桜の花びらか、それとも赤黒い血飛沫か。

 

 

 それは仮面ライダーにかかっている。

 

 

 

 

 




5ヶ月ぶりの更新、待たせたな(土下座)

サンシャインのアニメも一期終了という事で、書く事にしました。いつも間にか亀更新になっているのは、作者のリアルな忙しさによるものです。

さて書いてはみてますが……まず、廃校知らされるタイミングが違いましたね。ただ、ダイヤさんのキャラは自分の予想どうりだったのはびっくりです。
次回予告詐欺でしたね。やっぱり慣れない予告とかするもんじゃないです。ですので前回のに修正を入れておきます。次回は戦闘ですね……。
自分の後書きでは、ある程度考察していましたが……数少ない読者の方に楽しんで頂く為にも考察は無しにします。

質問などは感想でも受け付けています。ただし、ネタバレに関するモノは返信しないかもしれません。どうしても知りたい場合は作者にメッセージの方でお願い致します。

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