黄金の蠍と魔法少女   作:Keiko

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再び出会う聖闘士と魔法少女 の巻

 宇宙の開闢、つまり始まりは「ビッグバン」と呼ばれる現象だと言われている。

 その理論によると、宇宙は「時空特異点(singularity)」という原子として、およそ137億年前に現れたと考えられている。この「時空特異点」とはどのようなもので、どこから現れたのかは定かではない。だが、「ビッグバン」の初期にはこの微小・高温・高密度の「時空特異点」が爆発し、膨張して冷却されたものが現在の宇宙になったと示されている。その後膨張と冷却を続け、全てはその内部に位置しているのだ。

 

 つまり、すべての存在はひとつの原子から始まり、すべての存在は、原子と分子によって構成されていることとなる。

 

―――故に、ミロ。私もお前も、宇宙の一部であり、宇宙そのものなのだ。

 

―――宇宙、そのもの?

 

―――そうだ。

 

 かつて、ミロは敬愛していた人物からそう言われた。

 

―――我ら聖闘士はそれを理解し、その身に宿す小さき宇宙、つまり小宇宙(コスモ)を高め、燃焼させ、力とする。

 

―――コスモ…。俺にも?

 

―――もちろんだ。だからな、ミロ。お前は聖闘士(セイント)として―――

 彼はそこで思い出を打ち切ると、顔を上げた。

 聖闘士(セイント)

 この世に邪悪がはびこるとき、必ずや現れるという希望の闘士。それが聖闘士。その拳は空を裂き、蹴りは大地を割るという。

 彼らは神話の時代より女神アテナに仕え、武器を嫌うアテナのために素手で敵と戦い、天空に輝く88の星座を守護としてそれを模した聖衣クロスと呼ばれる防具を纏う。彼ら聖闘士は小宇宙に目覚めることによって、超人的な力を得ることができる。それは常人には考えられないほどの素早さや腕力だったりもするし、超能力とも呼ばれる力でもある。

 彼らは地上の危機という有事に備え、普段はギリシャのアテナイ市の近くにある聖域と呼ばれる隠れ里に普段は存在する。

 彼、ミロは聖闘士(セイント)だった。

 自在に小宇宙(コスモ)という力を操る戦士。聖闘士である。

 身の内にある小宇宙を高め、燃焼させることによってあらゆる力を使うことができる。

 彼はそれをフルに使い、空間移動(テレポーテーション)を行っていた。

 少女と別れてから、彼は夜を徹して西へと移動した。

 ただひたすら、自分の目的地である場所、ギリシャのアテナイ市へ。

 

「…」

 

 だが、到着したその場所に、自分が知る聖域はなかった。

 青ざめる彼の耳に、観光名所となっているアテナ神殿を説明する、ガイドのギリシャ語が素通りする。

 

「馬鹿な…アテナは…星矢たちは…どこに…」

 

 彼は小さく呟くとその場をすぐさまに立ち去る。

 疾風のごとく動きを人々が振り返るが、誰もそれが人間であることは理解できず、首を傾げる。

 彼は人を倒したりせぬように注意を払いながらも、スピードは緩めずに駆け、そして、人気のない路地裏に駆け込むと、空間移動で別の場所へと飛んだ。

 今度は遥か東へ。中国の山奥、五老峰を目的地とした。

 そこにあるべきモノを探すために。

 

「…」

 

 観光客が気がつかぬほど高い場所にある岩の上で、彼は絶句していた。

 五老峰から西方の千キロ先にある秘境にある塔。

 聖闘士の宿敵であり、邪悪な存在とも言われる戦士たちが封じられた場所。それが五老峰から見えるはずだった。

 だが、それも存在しない。

 

「…」

 

 ミロは目を見開き、僅かに震える手で口元を抑えた。

 そして、再び空間移動を行う。どこか祈りすらも込めながら、彼はインドと中国の国境へと移動した。

 その後も、シベリア、イタリア、ブラジル。さらには日本の各地を彼は空間移動を駆使して文字通り飛び回った。

 だが、彼が知るものは何一つ存在せず、彼を知る者も誰ひとり存在しなかった。

 

 

 

 

「それじゃあねー」

 

「バイバーイ」

 

「うん、また明日ねー」

 

 少女、高町なのはは親友の二人と別れると、家に向かって歩き始めた。

 昨日は同じ塾に通うために一緒に帰っていたのだが、今日は別だった。塾はなく、親友たちはそれぞれ稽古事があり、一緒に帰れなかったのだ。

 それでも、なのはにとっては慣れていることのため、彼女は一人で歩いて帰り始める。

 その思考は、昨夜のことに飛んでいた。

 昨夜出会ったユーノから、彼の世界について多くのことを聞いた。魔法のこと、ジュエルシードのことを。

 だからこそ、彼と魔法についてはなのはも理解した。

 わからないことは、あの青年のことだった。

 突然、まるで風のように現れた青年。不思議な、それこそ魔法のような技で自分を助けてくれたあと、再び風のように去ってしまった。

 一体何者だったのか。

 なのはの思考はそこに集中した。

 まるで幻想(ファンタジー)の世界から現れたかのような立ち居振る舞いと、強さ。そして、別れ際に見せた焦り。それがなのはの中で強い印象として残っている。

 

(…どこに行ったんだろう、また来るって言ってたけど…)

 

 と、その彼女の足が止まる。

 帰り道。商店街に据えられた休憩用のベンチ。そこに、一人の青年が座り込んでいた。足元には大きな箱が白い布に包まれて置いてある。

 

「あ」

 

 なのははゆっくりと眼を見開いた。視線を感じてか、青年が視線をなのはに向ける。

 

「お、お兄さん?」

 

 なのはが尋ねると、青年は少し驚いた顔をしたものの、「君か」と答えた。なのは慌てて駆け寄った。

 

「えと、こ、こんにちは。昨日は、ありがとうございます! あ、あの、私全然お礼もちゃんと言わないで…」

 

 ずっと思っていたことをなのはは口早に告げる。青年は少し驚いた様子でそれを聞いて、

 

「いや、気にするな。突然いなくなったのは俺だからな」

 

 そう告げた。なのははほっとした様子になり、青年はその様子を見て、コロコロ変わる表情に思わず微笑ましいという言葉を覚える。

 

「あ、そうだ」

 

 なのはは同じように、ずっと気になっていたことを言った。

 

「あの、私、なのはです。高町なのは」

 

「ナノハ?」

 

 日本語特有の響きに、青年は少し不思議そうな表情となったが、

 

「はい」

 

 なのはは慣れているのか笑って返す。

 

「ナノハ、か。俺は、ミロだ」

 

「ミロ、さん?」

 

「ああ」

 

 なのはもまた口の中で名前を確認するように何度かつぶやく。そして、ミロをもう一度見やって訪ねた。

 

「どうしたんですか? 具合でも悪いんですか?」

 

 若干青ざめているようにも見える様子に、なのはが心配そうな表情になる。

 

「いや…」 

 

 ミロは少し迷った様子で言いよどんだ後、言う。

 

「そう、だな。腹が減ったな」

 

「…へ?」

 

 徹夜で世界中を飛び回り、その間何も口にしていなかったことに、いまさらながらミロは気がついた。

 予想外の言葉になのははキョトンとした後、ぱぁっと顔を輝かせる。

 

「じゃあ、うちに来てください!」

 

「…何?」

 

 今度はミロのほうがなのはの言葉に驚いた様子を見せる。

 

「うち、喫茶店やってるんです。昨日のことを話したら、お父さん達も、ちゃんとお礼を言いたいって言ってましたし」

 

 すぐさま頷いてしまいそうな自分を自制しつつ、ミロは口を開いた。

 

「昨日のこと、全て話したのか?」

 

「…えっと…いえ、魔法のことは…話してません…。ただ、襲われたけど、ミロさんに助けてもらったってことだけです…」

 

 決まり悪そうになのはが答える。

 

「ユーノ君はうちで休んでますけど、その、誰かのペットで、飼い主が見つかるまで預かるって形になってます」

「そうか…」

 

 昨日の非現実的な状況は、説明しづらいだろうなとミロは予想した。

 

「と、とにかく、まずはうちに来てください!」

 

 なのはは少々強引ながらも話を打ち切ると、ミロの手をとって引っ張った。ミロは苦笑しながら立ち上がると、足元の荷物を背負い、彼女を追って歩き出す。

 そんな奇妙な組み合わせのふたりは、彼女の家族が営む喫茶店「翠屋」に辿りついた。

 

「ただいま、お母さん」

 

「あら、おかえりなさい、なのは」

 

 客を見送ったのか、店先に立っていた女性に、なのはが声をかける。母と呼ばれた女性はなのはを見たあと、その後ろに立つミロを見て首を傾げた。

 

「お母さん、この人が昨日話した人で、ミロさん」

 

「まあ、そうだったの」

 

 母にはそれだけで理解できたようでミロに笑顔を向ける。

 

「なのはの母の、桃子と言います。昨夜は娘がお世話になりました」

 

「あ、いや…」

 

 そう言われて、ミロは一瞬言葉をなんと返すべきか迷う。

 

「あのね、お母さん。ミロさん、お腹すいてるって」

 

「まあまあ。なら、中にどうぞ」

 

 なのはがあっさりと桃子に教え、桃子はそれを聞いて嬉しそうに彼を中へと案内する。ミロはなのはに再び手を引かれ、中に入った。その様子を見て、桃子は少し驚いたようであったが、嬉しそうに微笑んでそれを追う。

 結局、なのはとその母である桃子の行為に甘え、ミロは食事を取らせてもらうこととなった。一緒になのはもおやつをもらうらしく、彼の向かい側に座る。

 一番奥のテーブル席であったため、なのはは桃子がその場を去るなり口を開いた。

 

「あ、あの、もしかして、迷惑とかじゃありませんでしたか?」

 

 思えば少し強引に連れてきたような気がして、なのははミロに確認を取る。ミロは笑って首を横に振った。

 

「いや、腹が減っていたのは事実だ。それに、正直、金もなかったからな」

 

「え!? お金無いんですか?」

 

 なのはは驚いた顔になって思わず聞き返す。彼女は知らなくて良い事だが、ついでに言うなら、ミロはつい先程まで他国に不法侵入と脱出を繰り返してきてもいるのだ。

 なのはは表情を怪訝なものに変えると、

 

「…ミロさんって、どこから来たんですか? それに…」

 

 言いかけて彼が足元に置いてある箱に目を移す。昨夜見た時にもそれを背負っており、ってきりそれがミロの荷物だと思っていたなのはだったが、違うのだろうかと勘ぐる。

 なのはが言いたいことをだいたい理解したミロは、口を開いた。

 

「俺はギリシャから来た。知り合いがこの国にいるはずだったんだが、あてが外れてな」

 

 世界のあらゆる場所を回って、ミロが出した結論。

 それはこの世界が、自分のいた世界とは違うのではないか、というものだった。

 何らかの理由で自分は生き返った上で、この別世界に飛ばされた。

 彼はそう考えている。

 

「あ、そう、だったんですか…」

 

 なのははそう返しながら、

 

(そうだよね。まさか本当にファンタジーの人じゃないよね)

 

 と、自分の考えを恥じた。

 

「じゃ、じゃあ、昨日の夜のあの、キラキラした鎧とかビームって何ですか?」

 

「とりあえず、ビームではない」

 

 ミロは苦笑しながらそう答えると、なのははシュンとして「ごめんなさい」と言った。

 別に怒ったわけではないミロは軽く手を振ると、

 

「あれは、小宇宙(コスモ)だ」

 

「コス、モ…?」

 

 聞いたことのない言葉に、なのはは不思議そうな顔になる。

 

「ああ。俺は、聖闘士だからな」

 

「せいんと…さん、ですか?」

 

 ますます分からない単語に、なのはは首をかしげる。

 ミロはその様子に思わず笑ってしまった。

 

「あ、笑わないでくださいよ、ミロさん! ちゃんと説明してください!」

 

「分かった分かった」

 

 プンスカと今度は怒り出すなのはに、面白い子だという感想を胸にしまったミロは、水を一口飲んで話し始めるのだった。




8000文字は多すぎたので、ガッツリと削ってみる。
どの程度で話を切ればいいのか、未だ試行錯誤中です。


友人「何で~の巻ってつけるの?」

作者「聖闘士星矢の原作でついてたから。サブタイぐらいは星矢っぽくしたい」

友人「なんか昭和臭が…」

作者「ちょっとそこ座れ」


1日、若干修正。
4日、なのはのセリフが抜けていたので修正。
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