黄金の蠍と魔法少女   作:Keiko

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帰る場所と帰らざる者 の巻

 ふと、ミロが外を見ると日が暮れる時間になっていた。

 正面に座るなのはも泣き止み、落ち着いた表情を見せる。

 

(長居したな)

 

 そう思いながら、ミロは立ち上がった。

 

「世話になった」

 

「え!?」

 

 なのははミロを見返すと、

 

「ど、どこに行くんですか!?」

 

「どこ、と言われてもな」

 

 ミロは苦笑しながら言うと、

 

「いつまでもここにいるわけにもいくまい」

 

「で、でも、ミロさんは、知り合いはいないって…!」

 

 なのはは慌てて引き止めるために立ち上がった。彼女の言いたいことを理解してか、ミロは言い返す。

 

「確かに、俺が帰る場所はない。だが、やろうと思えば、どこででも生きていける」

 

「だ、ダメです。そんなの! 待ってください! おかーさーん!! おねえちゃーん!!」

 

 そのまま立ち去ろうとしたミロを見て、なのはは強硬手段に出た。逃げられないようにしっかとミロの手を掴む。

 呼ばれた桃子とみゆきが近づいでくる。

「はいはい。どうしたの? あら、ミロさん。お帰りですか?」

 

「お姉ちゃんはミロさん見てて! お母さん、ちょっと来て!」

 

 ミロが何か言うよりも早く、なのはは美由紀にその場を任せると、母の手を引いて父がいるであろう厨房へと向かっていった。

 

「お、おい、ナノハ?」

 

「ミロさんはそこにいてください! お姉ちゃん、ミロさんが帰らないようにちゃんと見ててね!」

 

「え!? あ、うん」

 

 あまりの珍しい強引さにみゆきは頷いてしまう。桃子は「あらあら」などと言いながらなのはに連れられていった。

 

「…」

 

「…」

 

 しばし、奇妙な沈黙が降りる。なのはに、あそこまで言われてしまえば、ミロも立ち去りづらいし、美由紀もポカンとした表情でそれを見送る。

 

「ええと、あ、私、なのはの姉の美由紀です」

 

「あ、ああ。俺は、ミロだ」

 

 同じようになのはの強引さに驚いていたミロも、なんとか返事をする。

 

「あんまり事情はわかりませんが、何かなのはがご迷惑を?」

 

「いや…むしろ世話になった。これ以上は俺が迷惑になると思ったんだが」

 

 ミロが苦笑しながら答える。

 

「はあ」

 

 美由紀は全く話が見えずに生返事をした。とりあえず、なのはに言われたとおりに話をつなげる。

 

「ちなみに、ミロさんはどちらから日本に?」

 

「ギリシャだ」

 

「そんな遠いところから。あ、観光ですか?」

 

「いや…人探し、のようなものだ」

 

 とりあえず世間話をして美由紀が場をつないでいると、厨房から桃子と一人の男。そして、なのはが出てきた。

 なのははどこか緊張したような面持ちで男を見上げると、男は人のいい笑みを浮かべて頷いてみせた。

 

「あれ? お父さん?」

 

 美由紀が小さく呟くと、男はなのはを連れてミロたちの方へと近づいてくる。

 

「ミロさん、ですね。昨夜は娘がお世話になりました。父の士郎と言います」

 

 ミロはちらりと士郎のそばにいるなのはを見たあと、士郎を見やる。士郎はそんなミロに座るように進めると、自分も向かい側の席に座った。

 

「話は娘から聞きました」

 

 何を話したのかとミロは再びなのはを見ると、なのはは罰が悪そうに目をそらした。士郎は気にせずにつづける。

 

「もし、よろしければ、しばらくうちに滞在しませんか?」

 

 しばらくの沈黙。

 

「………何?」

 

 言われたことが理解できずに、ミロは思わず聞き返していた。

 

 ただ、士郎は笑みを浮かべ、なのはは心配そうにミロを見つめ、美由紀は呆然として父親の顔をみやっていた。

 

「それは…どう言う意味だ?」

 

「そのままの意味ですよ。うちに居候したらどうかという話です」

 

「そうさせてもらえるのはありがたい、が」

 

 士郎の発言に驚いていたミロだったが、気を取り直すと口を開いた。

 

「こんなどこの人間とも分からない奴を、そう簡単に信用していいのか?」

 

 それはどこか呆れているような、感心しているようなどっちともつかない口調だった。

 

「なのはの恩人でもあるし、こう見えても私には人を見る目があると自負しているよ」

 

 士郎はミロの言葉を受け流す。ミロは軽く眉をひそめた。

 

「ナノハはどんな説明をしたんだ」

 

 そう言って、ばつが悪そうな表情をするナノハに「別に責めてるわけじゃない」と語気を荒げたことを謝罪する。

 

「貴方の行くアテがない、ということと、少しあなたの身の上の話を聞いた」

 

 士郎はサラリとそう言い放つ。

 ミロはわけが分からないという表情で、

 

「なら、尚更だ。何故、俺にそんなことが言える?」

 

 士郎は苦笑すると答えた。

 

「貴方がどこから来たかは別に重要な問題ではない。私にとっては貴方が娘の恩人であり、悪人ではないということの方が重要だよ」

 

 ミロが呆れた様子で口を閉ざす。士郎はさらに続けた。

 

「まあ、もちろん無理強いはしません。いつまでもここにいるようにという強制も。ただ、しばらく衣食住をお世話させて欲しいというお願いだね、どちらかといえば」

 

「それは…ありがたいばかりだが…」

 

「よし、なら決まりだ」

 

「お、おい。待て」

 

「今日泊まる所のアテはあるのかい?」

 

「ぐっ」

 

 年の甲なのか、士郎は強引に話をまとめあげた。

 その後は、ミロが見ている間にあれよあれよと話は進み、彼は高町家へ居候させてもらうことになり、その代わりに喫茶店『翠屋』で働くということになった。

 食事代などは給料から天引きではあるが、手元にも残る。

 お金がたまったら、独立するなり出て行くなり好きにすれば良いという士郎のお墨付きまでもらう。

 どこか楽しそうに人の世話を焼く士郎と、それに便乗して早速ミロの制服を作ろうとする桃子。その二人を見て、ミロはなのはに呟く。

 

「…お前の強引さは親譲りだな」

 

「にゃはは…」

 

 なのはは嬉しそうな、恥ずかしそうな表情で思わず笑う。

 

「まあ、困っていたのは事実だ。礼を言うぞ」

 

「い、いえ、そんな」

 

 今度は恥ずかしげにわたわたとするなのは。ミロは彼女の頭を軽く撫でてやり、なのはは顔を赤くしながらも嬉しそうにしていた。

 

 

 

 

 

 なのはと美由紀の兄である高町家の長男、恭也にとっては、『学校から帰ってきたらいつの間にかギリシャ人の居候がいた』というわけのわからん状況となっていた。

 

「…」

 

 なのはや士郎たちからは事情を説明してもらったものの、突然現れた形となるミロに対して、若干の警戒心を抱いているようだった。

 ミロはそんなものはどこ吹く風といった様子で恭也の視線を、受け流している。

 

「そんなに警戒するな、恭也」

 

「でも、父さん」

 

 大丈夫だというように肩を叩かれても、恭也の警戒は結局消えない。

 その視線の先では、なのはが慣れた様子でキーボードをうち、翠屋のチラシを作っており、ミロは信じられないという目でそれを見ている。

 

「ミロさん、やってみます?」

 

「壊すぞ」

 

「断定ですか!?」

 

 どうやら機械系は全くダメらしいミロに、画面を指差したりしながら説明もしている。すごいな、と感心しきりな様子のミロに、なのはは誇らしげに笑ってみせた。

 

「…」

 

「さ、出来たわよ。席について頂戴」

 

 恭也が無言でいると、桃子が全員を促す。

 その日の夕飯はミロを気遣ってか、スプーンだけで食べられるカレーライスであった。

 

「おかわりありますから、遠慮しないでくださいね」

 

 桃子がそう言いながら大盛りのカレーライスをミロに手渡してくる。何故大食いだと思われているのだろうかとミロは考えながらも、礼を言った。

 食事は基本的に和やかに進んだ。

 料理の感想を聞かれて、素直に美味いとミロが言うと、桃子は嬉しそうに笑う。

 士郎とは食事前にある程度の事情を話しており、ちゃんと礼も言っていたおかげか、親しげに話しかけてくる。

 恭也にはその士郎から、夕食前に簡単な紹介をされていたが、未だ警戒をされているようだ。チラチラと視線を送ってくる恭也に対しては、ミロは気がつかないふりを決め込む。

 やがて、ミロへの質問などが終わると、家族同士での会話に移っていく。

 ミロふと、一度手を止めると、逆に高町家の様子を見やった。

 

 夫婦である桃子と士郎は料理に関しての話で盛り上がっている。

 

 兄と妹である恭也と美由紀は明日の鍛錬の打ち合わせをしている。

 

 なのははモクモクと食事をとっている。

 

 しばしそれらを見ていたミロだったが、なのはに話しかけた。

 

「ナノハ」

 

「え?」

 

 驚いた様子でなのははミロを見た。

 

「水、とってくれ」

 

「あ、はい」

 

 なのはは水の入ったペットボトルを手に取ると、ミロに渡す。

 ミロは受け取り、礼を言うとからになっていたグラスに水を注ぐ。

 

「そういえば、ナノハは学校に行ってるんだったな」

 

「? そうですけど」

 

 思わず首をかしげるなのはに、ミロは苦笑しながら教える。

 

「俺は行ったことがないからな。興味はある」

 

「え? そ、そうなんですか?」

 

「勉強は年上の人間に教えられていた」

 

「へー…」

 

 思いもよらない言葉に、なのはは驚いた顔をする。だが、すぐに気を取り直すと、自分が行く学校について話し始める。

 楽しげに話すなのはに、ミロは相槌をうち、自分が幼かった頃の話も少しする。なのはは目を輝かせてその話しを聞き、自分の今と照らし合わせた。

 二人の話も一段落する頃、高町家の夕食は終わるのだった。

 

 

 夕食後、子供たちは寝るために部屋に去っていく。

 なのははミロを気にしていたが、そのミロ自身に「大丈夫だから早く寝ろ」と頭をなでられながら促され、仕方なしに頷いて自分の部屋へ行った。

 残ったのはミロと士郎、そして、桃子である。

 

「さて」

 

 士郎はミロに椅子を勧め、自分も向かい側に座ると改めた様子でミロを見やった。

 

「ミロさん、あなたから聞いた話をもとに、いろいろと調べさせてもらった」

 

「…」

 

 ミロは口を挟まずに、話を聞き続ける。

 高町家に世話になると決まった時、ミロはなのはに話したように、自分が聖闘士(セイント)という存在であることと、この国にいるはずの知り合いがいなかったということを話している。

 ミロとしては、これで士郎の気が変わるかと思ったのだが、そんなこともなく、居候として彼に受け入れられたのだった。

 

「まずは、あなたの言う聖闘士(セイント)だが、それは存在しない」

 

「よく言い切れるな。お前が知らないだけかもしれんぞ」

 

「こう見えても、裏稼業には詳しくてね。そういう話は入ってくるのさ」

 

 そう笑う士郎に対して、ミロの目つきは鋭くなる。

 先程までとは違い、空気がピンと張り詰めた。

 

「だが、貴方が嘘を言っているようにも見えない」

 

「どうだろうな」

 

 ククッと笑ってみせるミロに対して、士郎は首を横に振った。

 

「傭兵」

 

「?」

 

「前の職業さ。いろんな人間を見てきた」

 

 自分より人生経験は長い、ということをミロは心中で認めた。

 

「だから、聞きたい。あなたは、どこから来たんだ?」

 

「…」

 

 ミロは一度沈黙するも、すぐに息を吐いた。

 

「存外あっさりバレたな」

 

「隠すつもりもなかったようですけどね」

 

「否定はせん」

 

「つまり?」

 

「想定くらいしてるだろう」

 

「…」

 

 今度は士郎が沈黙する。

 彼の思考は、信じられないが様々な考察の結果それしかない。というところにまで落ち着いている。

 そっと桃子が士郎の肩に触れ、励ますように頷いてみせる。

 士郎も頷き返すと、ミロに向き直る。

 

「ミロさん。あなたは、この世界の人間ではない。いわゆる、平行世界や別次元世界と呼ばれる場所から来たんだ」




サブタイ 隠す気もないので存外あっさり身バレするミロ氏


次回予告 芋づる式にバレる魔法とジュエルシード (ネタバレ)
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