どうぞご了承くださいませ。
『ジュエルシード対策会議IN高町家』から二日後の昼間。
ユーノはジュエルシードの探索を行っていた。
(…よし。ここからここまではジュエルシードはない)
高町家のリビングで、ユーノは手に持ったペンを滑らせて、床に置いてあった地図に印をつけた。
探索に役に立てばと、桃子がくれた海鳴市の地図である。
ユーノはその地図を使って、ジュエルシードの探索を行っていた。
(次は、ここからここまでだ)
探索の魔法をもう一度手早く組み直す。
幼い頃から
故に、探索の魔法に影響を及ぼさないまま、思考の一部は全く別のことを考えることもできる。
(…
その思考は、あることを思い出していた。
高町家で行われた『ジュエルシード対策会議』の翌日の夜。
夕食が終わったあと、ミロとユーノは士郎によって高町家の道場へと呼び出されていた。
集まったのは、士郎、恭弥、美由紀、そしてミロとユーノの4人と1匹。
ユーノが結界を張った道場の中で行われたのは、ミロの実力を見るための手合わせだった。
ミロの相手は最初に美由紀、次に恭也が行った。
が、それらはミロの圧倒的な勝利で終わっている。
ミロは最初の場所から一歩も動かずに、木刀で斬りかかってくる美由紀や恭也(ユーノが見るに、後半は二人共本気になっていた)をヒョイヒョイと投げたり転ばせたりと好き勝手やっていた。
散々に打ち倒され、最終的に二人は一歩も動けなくなっていたのだ。
当時の道場内。
床に転がるのは二人の人間だった。無論、恭也と美由紀である。
本来ならば行儀が悪いことだが、先程まで行っていた手合わせを見れば、仕方がないとも士郎は思っている。
士郎と同じく二人を見下ろしていたミロが、口を開いた。
「なかなかやるな、二人共」
「…ゼェ、ハァ…い、イヤミ?」
「ま、ったく、届かない…なんて…」
美由紀、恭也ともに息も絶え絶えの様子で答えた。
「お前たちの『技』は凄まじい。それは認めている。俺との差は
士郎が口を挟む。
「この国で、それは難しい話ですね」
「むしろ、ない方がお前たちにとっては好ましいんだろう?」
「もちろんですよ」
そんな会話が終わる頃、恭也と美由紀はのろのろと立ち上がる。
そして、道場に壁に寄りかかると座り込んだ。
士郎がそんな二人に飲み物とタオルを渡し、ミロもまた座る。と、そこでユーノが口を開いた。
「あの、ミロさん」
「何だ?」
「その…
何故か若干つまりながら、尋ねてくる。
ミロはちらりとユーノを見ると、
「理論上、ということならな。ただ、修行で挫折したり、死んだりする人間もいる。それを乗り越えなければ、
話に興味を持ったのか、息を整えた美由紀も加わってきた。
「じゃあ、もし、修行をクリアできたら私も使えたりとか?」
「できるだろうな。まあ、修行の前にきちんとした師匠かどうか、だが」
「そこから!?」
「…一体何があったんだ…」
美由紀のツッコミに続き、恭也もまた額に手を当てる。
ミロは何かを思い出すかのように軽く目を閉じて、
「例えば、自分より巨大な岩を背負って崖を登らされたり」
「え゛!?」
「例えば、落ちたら即死するであろう高さの場所に突き刺したポールで懸垂をさせられたり」
「…したのかい?」
「例えば、致死性の毒を食事に混ぜられたり」
「ちょっと待て」
「フ。終わってみれば懐かしい思い出ばかりだ」
「それらを『懐かしい』でくくれるものなの…?」
ユーノが、士郎が、恭也が、美由紀が、それぞれにツッコミを入れる。
「で、やるか? ミユキ」
「謹んでお断りさせていただきます」
深々と頭を下げる美由紀に対して、ミロは、その方が良いと言って快活に笑ってみせる。
「というか、今さらっと毒とか言ってたな」
恭也がそこまでやるのかと呆れた様子でミロを見る。
士郎もどこか心配そうに聞く。
「聖闘士というものは対毒の修行までするのかい?」
「いや、俺は少々特別だ」
他のやつらは一部以外はしないだろうとミロは告げると、おもむろに右手を上げた。
肩からまっすぐ前に伸ばしたその手。
「…見ていろ」
ミロがそう言うと、空気が変わる。まるで、空気に重さが加わったかのようだ。
思わず息を飲む3人の前で、ミロの人差し指の爪がミシミシと音を立てて赤く伸びた。
「え!?」
思わず美由紀が目を疑う。
「…これは…?」
絶句する士郎に変わり、恭也が尋ねる。
「スカーレット・ニードル。代々の『蠍座』が引き継いできた技だ。この爪はその技を使うための変化だ」
なんでもないことのようにミロは言った。
「端的に言えば、この爪から俺は
重い雰囲気を振り払うように、ミロは軽く手を閃かせる。すると、赤く伸びていたはずの爪は、いつの間にか消えていて、重い空気も若干は和らぐ。
いつの間にか積めていた息を吐きだしつつ、士郎は先程までの重さの正体がミロの『殺気』であることを理解した。軽く首を振って、話を戻す。
「…その技を使いこなすために毒を?」
「ああ。何度か本気で死ぬかと思った。まあ、死なない程度には抑えられていたし、解毒もされたから大丈夫だったが」
「なんで」
硬い声が響く。
声を発した本人以外がそちらを見ると、美由紀が悲しそうな顔で言った。
「なんで、そこまで…」
「決まっている」
だが、問われたミロははっきりと答えを返した。
「アテナの
(…)
ユーノはその時のことを鮮明に覚えている。
ミロは気負いもなく、かといってふざけているわけでも全くなく、はっきりと言い放ったのだ。
(あれが…
ユーノは、今まで魔法が全てだと思っていた。
だが、それはあっさりと打ち砕かれる。
高町家の人々は、魔法を使わなくとも素晴らしい剣技を持っているし、ミロは魔法以上の力を持っている。
(ミロさんは、『魔法の方がいろいろできて便利そうだ』って言ってたけど…)
ユーノはミロや高町家に頼まれて、いくつかの魔法を見せた時のことを思い出した。
モノを浮かばせる魔法。魔力弾を打ち出す魔法。身を守る魔法。傷を癒す魔法。結界を張る魔法。
確かに、使えるものを並べるだけで、その汎用性は高い。
だが、こと、戦闘においては
ミロによれば、最低の
(多分、ミロさんが言ってた一番下のクラスに該当する
魔力による身体強化を行ったとしても、その動きが音速に届くことは滅多にない。
それこそ、魔力ランクSオーバーとも言われる一部の天才以外は。
速さが足りない部分を技で補うことは可能だろうが、だとしてもミロには決して届くことはない。
あの黄金の
(ッ!)
パンッとユーノは自分の頬を叩く。
(何を考えているんだ、僕は!)
本当はわかっているのだ。
何故、そこまで
(僕は…)
魔法の限界。
(僕は…!)
他人に戦わせるしかない自分の無力さ。
(本当は…)
サポートなどという後方に座するだけでは嫌だというワガママ。
(強く、なりたいんだ…!)
ユーノははっきりと、己の憧れと、願いを自覚した。
「少し、時間をもらっても良いか?」
その日の夕食後、ミロにそう話しかけてきたのは恭也だった。
ミロは頷いてみせ、二人は縁側へと向かって行く。
「…どうしたんだろ」
それを見ていたなのはが、不安そうに呟いた。ユーノもフェレットの状態ではあるが、心配そうに二人を見る。
美由紀が笑ってみせると、
「大丈夫よ。ほら、恭ちゃんてミロさんのことさんざん警戒してたでしょ? そのこと謝りに言ったのよ」
「…そうなの?」
「そ。だから、ちょっと二人にしてあげないと」
「うん…」
なのはは変わらず不安そうだったが、追いかけるようなことはしない。美由紀は少しでも不安を解消させなければと、なのはに話しかけた。
「そうだ、なのは。DVD見よう。面白そうなの借りてきたの」
「ホントっ?」
美由紀がそう誘うと、なのはの表情が明るくなる。
「ホントホント。ほら、これ。何でも今流行の特撮なんだって」
「えっと…電王?」
「あと、一緒にこれも借りてみたの」
「ゲキレンジャー?」
「どっちから見る?」
「えっと、じゃあ、こっち」
「はい、電王ね」
デッキにDVDがセットされ、ストーリーが始まる。
士郎と桃子はそんな姉妹の様子を見て、微笑ましそうに笑い、ユーノもまた安心したように大きく息を吐いたのだった。
「…」
「…」
高町家にある庭に面する縁側。
そこに、二人の人間が座っていた。
一人は高町家の長男、高町恭也。もう一人は、居候のミロ。
数分ほど会話もなく、無言のままいる。
先に焦れたのはミロだった。
「俺に用があるのか? ないのか?」
彼にしてみれば、呼び出されたのに何も言われないというのは苦痛以外の何者でもない。
「いや…ある…。その…すまなかった…いろいろと…」
対する恭也は、歯切れ悪く言葉を返す。
「もしや、俺を警戒していたことか?」
「それもある。それに、あなたの実力を疑っていたこともだ。なのはの恩人だというのに…」
「お前の判断は間違ってはいない」
恭也は驚いた様子でミロを見た。ミロは視線を庭に向けたままだったが。
「俺はこの家にとって部外者だ。何故かは知らんが、ナノハやシロウからは信頼されているようだがな」
お前の行動は当たり前の結果だ。と、ミロは続けた。
どこか、達観したような物言いに、恭也は返す言葉が見つからなかった。
「…」
「…」
ミロも言いたいことを言ったらしく、再び沈黙が降りる。
ぽつり、と恭也が尋ねる。
「他人から毛嫌いされることは苦痛じゃないのか?」
「…」
もうしばらくの沈黙の後、ミロは口を開いた。
「俺たちは幼い頃からそうだった」
「?」
「常人が見えないものが見え、触れられないものに触れ、感じられないものを感じる。
自分と同じ悩みや苦しみを持つ人間がいた。
ミロはそう静かに告げる。
「そこで生活をして、理解したことがある」
一度言葉を止めると、ミロは恭也を見た。
恭也は、その視線の強さに僅かにたじろぐ。
「本当の友や仲間が俺を認めてくれていれば、見ず知らずの人間の言うことなど関係ないとな」
「本当の…」
恭也は思わず呟く。
そして、思った。
(俺に、そんな存在がいるのか?)
空をなんとなく見上げれば、半月が浮かんでいる。
ふと、脳裏に浮かんだのは、『月』の苗字を持つひとりの少女。
(って、俺は何を考えて…)
「何だ、好きな女でもいるのか?」
「ぶふっ!?」
突然のミロの発言に、思わず恭也は吹き出す。
「ああ、そう言えば、お前、恋人がいるんだったな」
「だ、誰がそんなことを!?」
「ナノハとミユキとシロウとモモコだ」
まさかの全方位攻撃である。
別に隠していたわけではないのだし、今更バレたところで恥ずかしがる必要などないのだが、先程までの話題が重かったせいか、なんだか気恥ずかしくなる恭也。
「それで? 押し倒すくらいしたか?」
「それを聞くかあぁぁぁ!!?」
完全におちょくられて真っ赤になりながら叫ぶ恭也と、楽しげにそれをからかうミロ。
妙な方向へと転換してしまった話題は、もう少し続きそうであった。
書きたいことが多すぎて、同じところ足踏みしてるような…。
い、いや、そんなことはないはず!
この日常回が、ちゃんと後の伏線になるといいなぁ…(白目)
Q なんで『電王』?
A みんなも知ってる声ネタ。いつかいじりたい。
Q なんで『ゲキレン』?
A 『電王』やってるとき戦隊枠は『ゲキレン』だったから。
あと、個人的に一番好きな戦隊がコレだから。