早いもので季節は完全に夏。
7月の青空である。
あれ、梅雨はどこに行った?
星武祭(フェスタ)が近くなると、煌式武装研究部もそれなりに忙しくなるらしい。
参加選手の中にはここを頼りに煌式武装(ルークス)の調整を依頼してくる者もいる。
それに加えて今は、例のアルルカントとの協定でこちらにもある程度の技術資料は回って来ている。その解析もないがしろには出来ない。
「やっぱり大した物だよな・・・」
そんな資料の一部を見ながらクラウスがつぶやく。その表情は複雑だった。まあ連中のやり口については話しておいたし、実際面識ある生徒がフェニクス出場を諦める事になったそうだ。称賛すべき技術を見せられても、素直に感心は出来ないだろう。
ん?その資料はパペットの駆動系とエネルギー制御についてか。
となると、エルネスタ・キューネが関与しているな。
あの性格のぶっ飛んだ天才か。
夢を実現するには何でもする、だったか?その意志は良いんだが、人に迷惑かけ過ぎだろう。
星導館の(いや、うちに限らず)何人があいつに運命をねじ曲げられたのか。
美咲もそうなるところだったんだ。
パペットに意志を与えて学生として扱う?
その為にそこまでするか?
いや、技術的には面白いとは思うよ。特にアルディとリムシィだったか。あれを作り上げたのは大した物だが。
でも、駄目だね。自分だったら付き合えないな。
少し、深く考え過ぎていたみたいで、美咲が来た事にも気が付かなかった。
見あげると、今日もまた厳しい表情だ。残念。笑うと結構可愛いのにな。
無言で空間ウィンドウを立ち上げる。
映し出されたのはトーナメント表。という事は!
「フェニクスの試合組み合わせ、発表されたか」
「うん、予選Cブロックを見て」
「Cブロック!そうきたか!」
そう。予選Cブロックと言えば天霧/リースフェルトのペアがいる。
そして同じブロックに、自分達。
「同じブロックになったか~」
「2回勝てば、あいつらと当たる」
「まあ天霧達が予選で負ける訳がないからな。うん。この組み合わせだと3回戦で当たる事になるね」
これで美咲の目的の半分、お姫様と戦う、という事は何とかなりそうだ。
もう半分の勝つ、という事は、運と努力、どちらが必要になるのかな?
※ ※ ※
いよいよ時間が無くなってきた。
とりあえず攻撃力の方は、流星闘技(メテオアーツ)のアームパンチ(仮)が完成した。
メテオアーツと言っても使い方は簡単で、ナックルとアームガードを固定して内蔵した爆圧プレートに星辰力(プラーナ)を叩きつけて爆発反応させるだけある。
自分は魔術師(ダンテ)ではないので、直接爆発は起こせない。その為に工夫されているのがこのクラウス特製の爆圧プレートである。これの完成によって、最終的にアームパンチ(仮)は実現した。
という訳で、トレーニングルームにて。
とりあえず右腕を水平に構える。
ルークスからは数本のケーブルが伸びて計測装置につながっている。
「始めていいか?」
「オーケーだ」
特に声も出さず、右手を握りしめる。
プラーナをマナダイトではなく、意識して爆圧プレートに集中させる。
瞬間、ガン!という音と衝撃。ショックダンパーが機能して、かなり反動をやわらげている。
「よし、いいぞ。続けてくれ」
その後10回以上、アームパンチを空撃ちする。
「平均射出速度37.6m/s、射出圧力5.9MPa、ストローク120mm。シミュレーションとの誤差は5%以内だな」
「問題無し。ではいってみよう」
この部屋には、サンドバッグは元より、木板、鋼板、コンクリートブロック等、色々持ち込んである。
「どれほどの破壊力か、見せてもらおう」
それから15分後。
「痛ててて・・・」
「もう無理か」
「うん、肩が限界」
床には吹き飛んだサンドバッグ、木の破片、凹んだ鋼板、割れたブロック等が散乱している。
確かに、なかなかの威力だった。
それと引き換えに、自分の両肩は関節炎一歩手前のような状態である。
「やはり反動キツイ~」
「威力は自在に調整できるから、後は使い方だな」
「ごもっとも。何でも訓練次第だよ。まあ何とかなるだろう」
今日はもう両腕を休ませるか。軽く走ってから寮に戻るとしよう。
明日は美咲とコンビネーションの調整だな。
※ ※ ※
本来、今日も訓練、のはずだったんだが。
「何言ってるの。無理しすぎだから」
「大げさだ。まあ大変だったのは確かだが」
朝、寮を出ようとすると寝ていていい、と電話され、しかたないので昼過ぎまでゴロゴロして過ごした。
午後は医務室に連れていかれ、メディカルチェックと多少の治療を受けた後、商業エリアに連れ出された。
休養日、という事かな。
「少し早いけど、令、夕食どこにする?」
「何が食べたい?」
「あんたに合わせるよ」
「そういう事なら・・・」
自分が立ち止まったのは、和風の、結構賑やかな感じのする店だが・・・
「・・・ここって」
「うん、居酒屋だね」
「本気?」
「酒を飲まなければいいのだ」
まあ今は私服だしね。
早い時間だけあって、テーブル席だがいわゆる個室が空いていた。
美咲と二人ならあまり周りが騒がしいと困るのでちょうど良い。
注文はとりあえずビール、と言いたいのをこらえてノンアルコールビールを頼む。
「お前はどうする?」
「同じので」
無理するなよ、と思いつつ、その他にサラダ、枝豆、唐揚げ、じゃがバター、刺身セットと、前世を思い起こす定番居酒屋メニューをどんどん頼む。うん、いいね。実にいい。
「ああ、こんな所で話すのもなんだが、フェニクスの戦い方について」
「うん、いいよ」
「俺達は絶対に予選1回戦、2回戦は勝たないといかんわけだが」
「そうね」
「その戦い方も考えておかないとな。お前はどうしたいんだ?」
「うーん。あたしが魔法で援護してあんたが突っ込む?」
「普通に考えればそうだな。それでいい。詳細は相手にもよるが、1、2回戦ともそれでいこう」
3回戦は別だ。それに意表を突く事もできよう。天霧君達もこちらがあっさりコンビネーションを捨ててかかってくるとは思うまい。
「とにかく明日からは、お前が支援、俺が接近攻撃のトレーニングといこう。訓練用パペットの申請はどうなった?」
「使えるよ。数は少ないけど」
「上等だ」
その後は戦術談義をやりながら、居酒屋料理を楽しんだ。
美咲もこういう店は初めてながら、雰囲気は楽しんでいた、と思う。
自分も結構良い気分だった。やはりのんびりするのはいいな。
※ ※ ※
最終調整、とまではいかないが、いよいよ時間が無くなってきた。
何とか借りてきたパペットは2体だけなので、設定をいじって出来るだけ能力を上げておく。
「はじめるか」
「いいよ」
模擬剣を持ったパペットが動き出す。
同時に美咲が右手のルークスを高く掲げる。
身体を中心に、半円状にプラーナが輝き、閃緑のダガーが出現する。
美咲が右腕を振り下ろす瞬間、自分もダッシュをかける。
背後から飛んできたダガーが自分の左右を追い越し、パペットに突き刺さる。
強度を上げた設定なので、決定的な効果は無い。だが左側のパペットがバランスを崩す。
(よし、まずはこいつだ!)
一瞬で距離を詰め、体勢を立て直す前のパペットに拳を叩き込む。
数発がヒット。相当のダメージのはずだが、反撃してくる。剣撃はそれなりに速い。
アームガードで受け止め、そのまま右側面にまわり込む。
蹴りで再度バランスを崩させたところで左拳の一撃。校章部分にヒット。破壊判定。
パペットが停止する。
もう一体は・・・
美咲の投げたナイフが校章に直撃した所だった。破壊判定。
ナイフから伸びる光るワイヤーを美咲が引くと、ナイフはあっさり抜けて美咲の手に戻った。
「こんなものか」
「こんなものね」
よし、これで試合も何とかやれそうだ。