異世界転生体験記 ~アスタリスクの場合~   作:jig

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戦い抜いて、決着

試合開始後1分30秒経過。

 

自分がダメージを受けている以外、状況は悪くない。

出血は止まらないが、量は減った気がする。あと数分、持つだろ。多分。

 

美咲の方は上手くやっている。

今気がついたが、例のルークスのワイヤーをお姫様の片腕に巻き付けて動きを制限している。と言うか、それで強制的に接近戦に持ち込んでいたか。やるもんだな。

 

さて、こちらも仕事を続けよう。

美咲の邪魔はさせない。

 

芸はないが、正面から突っ込む。

セル=ベレスタの1撃は避け、2撃はブロック。すぐさま回り込んで攻撃にシフト。こちらも躱されてダメージ無し。といって不利とも思えない。何とか戦えている。

まあ天霧がお姫さまの方を気にかけて集中しきれていない、とも言えるか。

しかしこちらがコンビネーションを捨ててかかった結果、相手の連携も断ってしまった事になる。皮肉なもんだ。

 

「おっと!」

 

今度は脇腹に斬り傷ができる。向こうが本気でなくとも、こちらは完全に集中しないと対応できない。つまらん感想は後にして・・・

 

「天霧辰明流剣術初伝―――」

 

「させねえよっ!!」

 

隙を見せるとこれだ。強引に踏み込むと、振るわれかけた剣の柄を殴りつける。技に入られたらヤバイ。

即座に身体を沈め片膝をつく。床に両拳を当てる。両腕のアームパンチ同時起動。反動でショートジャンプ。そのまま膝を上げると天霧の顔面に入った。

うん、こういう普通の人間がしない動きなら、天霧も対応できまい。

顔への打撃で怯んだ一瞬。

天霧の右手を抑える。またどこかに斬り傷ができたが無視。

身体ごと右拳を当て、アームパンチを連続作動。0.5秒間隔でナックルが射出され、打撃を繰り返す。反動が厳しい。

意外と有利、と思いきや、天霧の左拳が飛んできて殴り倒される。

あれ?拳を使ってくるか?

と言ってもこいつには組討術もあったな。

すぐに立ち上がる。しかし一撃で倒されたのは何故だ?いや、ダメージのせいか。

 

「咲き誇れ!ロンギフローラム!」

 

お姫様の叫びが聞こえる。と言う事は、向こうは遠距離の戦いに戻ったのか?不味いな。

 

「はっ!!」

状況を把握する間もなく、今度は天霧が突っ込んでくる。やはり大したダメージは無いようだ。厄介な。

「ちっ!」

ガードに専念する。だが腕はともかく、脚に力が入らなくなってきた。出血がはっきりとわかる。血で濡れた制服が重い。ヤバイな。

アームガードにも亀裂、それに切り込みが入ってきた。ん?切り込み?

水平の斬撃が来る。ブロックして止める。止めるが・・・

セル=ベレスタの刃が食込んでくる。天霧が怪訝な顔。お互いバックステップ。

 

(まさか・・・)

 

天霧が剣を下げる。

 

「深見先輩、その技、違いますね」

 

「・・・」(こいつは・・・)

 

「セル=ベレスタの刃を止めてはいない。そうですね」

 

「もうバレたか。これだから剣士という奴は」

 

「やはり・・・プラーナの干渉か何かを利用して、一時的に反発させている、といった所ですか」

 

「大体合ってる。やれやれ。この試合の間位は騙されてくれると思ったんだがなあ」

 

「一旦、ブロックで止められても、そこからさらに刃を進めれば斬れる。違いますか?」

 

「違わないねぇ」

 

自分とクラウスが考え抜き、煌式武装(ルークス)の調整と訓練を繰り返して作り上げた技だが、ここまでか。

いや、まだ終わった訳じゃない。

 

「だがね、たとえ一瞬でも、セル=ベレスタを止める事はできる。それは事実だ」

 

いや、これははったりに近い。天霧程の剣士なら、斬撃の瞬間に剣の動きを合わせる事によりそれすら無効化できるだろう。それに気が付くかな?

それに・・・

 

(試合開始から3分経過!)

 

天霧にとっても、そろそろ時間が気になり始める頃だ。

案の定、奴は剣を構えなおすと飛び込んできた。

 

(よーし、まだまだ)

 

迎え撃つ瞬間、轟音と爆風。体勢が崩れる。しかしおかげで天霧の剣撃も空を斬った。

すかさず距離をとり、呼吸を整える。

 

今の爆破は当然お姫様だが、こちらを狙った物ではなかった。隣の戦いの余波だ。

 

「リビングストンデイジー!」

 

炎のディスクが不規則な軌道で飛び交う。

美咲はダガーで迎撃、ナイフで切り払う。だが。

 

「咲き誇れ!アマリリス!」

 

爆発と炎。これがある以上、距離を取っての魔法の打ち合いではどうしても美咲が不利だ。

何とかもう一度接近戦に持ち込まないと。どうする?切り札を切るか、美咲―――

 

「うおっ!」

 

天霧の斬撃が来る。少しのよそ見もできないか。全くやりきれん。腕が痛い。

 

「まあいい!」

自分の仕事をやるだけだ。

もう何回目かわからんが、セル=ベレスタの刃を受ける。

全くとんでもない事をしているよ。下手をすれはまず左腕が無くなる。

 

いや、下手をしなくてもか。

とうとうアームガードが分断され、ルークス本体に割れが入った。これで左のアームパンチは使用不能だ。

次の一撃も同じ所に当たる。流石だよ、天霧。

関心している場合じゃないな。左腕に灼熱の激痛。刃が通ったんだ。プラーナをさらに集中させて防ぐが、止めきれない。骨まで傷が入ったな。畜生!

 

そろそろダメージがヤバイ。4分経過。あと少し、どうやって抑える?

一瞬だけ美咲を見る。あいつもこちらを見る。その視線。そうか、やる気だな。

ならばこちらも。

 

改めて天霧に向き合う。あえてニヤッと笑ってやった。

奴さん、戸惑った表情。そりゃそうだ。だが・・・

 

「ウォオオオオー!!」

 

会場の歓声をかき消すような叫び。自分でもお姫さまでもない。美咲だ。両腕を掲げ、叫ぶ。

 

あいつは普段、魔法の発動イメージに声を必要としない。だがこれだけは例外だ。

流石の天霧もこれには気を取られた。隙あり、だ。

 

あえて天霧の右側、セル=ベレスタの前に飛び込む。後は単純だ。腕をつかみ、体重と勢いを利用して引き倒す。

手首を決めながら両脚を回して抑え込む。

いささか変形気味だが、腕ひしぎ逆十字に近い関節技だ。昔良く見たプロレス技を思い出しながらだったが、なんとか上手くいった。

さあ、あと数十秒、付き合ってもらおうか!

 

その間、美咲はプラーナの集中を終わらせる。

ゆっくりと腕を前に出す。その先には・・・

 

「スパイラル・ブロウ!!」

大量のダガーが螺旋を描きながら飛び出す。

 

「咲き誇れ!アンスリウム!」

ほぼ同時にお姫様が炎の盾を形成。その判断は悪く無い。だが。

 

スパイラル・ブロウ。

この美咲の切り札である技は、通常より強化されたダガーを、直径20cmの範囲に集中して叩き込む。その数は1秒間で120発を超える。まるで航空機関砲だ。

当然強力だが、引き換えに多量のプラーナを消費する。美咲のプラーナ残量を考えれば、この1回が限界だ。

 

まさに切り札。その威力は炎の盾をあっさり消滅させ、お姫様を吹き飛ばす。

 

「ユリス!」

 

「!」

 

行かせねーよ。腕と脚に全力を込める。もう声も出せない。目の前の刀身の熱に焼かれるようだ。

歯を食いしばって締め上げ続ける。

 

だが、天霧の力が上回った。

腕を決められながら、自分を持ち上げ、同時に身体を起こす。

(おいおい、なんて強引な)

しかし不味い。とうとう立ち上がりやがった。どうする気だ?

答えは天霧が腕を振る事だった。左肩から床に叩きつけられる。

 

「ぐおっ!」

 

全身に衝撃。頭も打って意識が消えかかる。左腕に激痛。とうとう折れたか。身体の力が抜ける。

 

天霧が駆け出す。もう止められない。

 

だが。

 

美咲はすでにお姫様に斬りかかっている。

両手のナイフの連撃。

お姫様の細剣が跳ね上げられた。

(よし、今だ!)

自分の心の声の通り、美咲はルークスをまっすぐに、全速で突き出す。

その刃は、校章に深く突き刺さった。

 

(やった・・・!)

 

美咲のナイフが、柄まで刺さっている。ん?柄まで、だと?

 

違和感。

その正体はすぐにわかった。

美咲がナイフを離す。そこに刃は無かった。

 

左手のナイフも、刃が無い。つまり。

 

「プラーナ・アウト・・・」

 

そうつぶやいたのは誰だろう。

 

校章破壊のアナウンスは無い。

 

美咲が膝から崩れ落ちた。

 

天霧とお姫様は立っている。

 

(これまでか)

 

覚えているのは、そこまでだった。

 

 

 

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