とびきりの悪夢を見ていた気がする。
体調を崩して眠るといつもこれだ。
気分が悪い。そうとしか表現できない。
ああ、あちこちに痛みもあるな。
何故こんな事になっている?
今日も仕事だから不味いんだが。呼ばれている会議はあったかな?
仕事?そもそもここはどこだ?
「ああ、気が付きましたか?」
誰?
「ここは治療院の高度治療室です。では先生をお呼びしますが、その前に、痛みが酷い所はありますか?」
「治療院・・・?」
そう言えば自分は何をしていた?
「はい。魔法治療で危険な状態は脱しました。後は時間が---」
「何だと!」
一気に思い出す。どうやら人生延長戦はゲームセット、とはならなかったようだ。
では試合は?美咲は?
気が逸る。とにかく、状況を把握しよう。そう思ったところで、身体が動かない事に気づいた。同時に何とも言えない不快感がやってきた。
「落ち着いて下さい。容体はまだ安定していないのです」
うーむ。相当なダメージだったらしいな。これはおとなしく看護師さんに従っているしかないな。
医師の説明によれば、試合直後の自分の状態は・・・
骨折、打撲、裂傷、火傷がそれぞれ複数、出血多量の所へプラーナ切れを起こして意識不明の重体、となったそうだ。美咲だけでなく、自分もプラーナを使い果たしていたとはね。防御用のメテオアーツが予想以上に負担になっていたか。
そして美咲もここに入院しているが、ダメージはそれ程でもなく、そろそろ退院らしい。
試合終了後3日が過ぎていた。もう本戦が始まる頃かな。
まあ、後はここでゴロゴロしていればすぐに回復するだろう。どうせもうやる事は無いんだ。のんびりするさ。
試合は観戦するとして、その他の暇の潰し方も考えないとな。
※ ※ ※
考えが甘かった。
面会謝絶状態ながら、一般病室に移されたところまでは良かったが、直後に高熱を出して意識を失う事になった。
どうもジェネステラとしては、身体の回復力が低いそうだ。
結果、再び目が覚めて回復が明確になる頃には、鳳凰星武祭(フェニクス)は終わっていた。
自分にとっては何とも締まらない、イベントの終了となった。
「深見さん、面会の方がお見えです。お話できそうですか?」
そう看護師に言われたのは、ここに運び込まれて10日か11日目の夕方だった。
(やっと来たか、美咲)
そう思って入室させたんだが、やってきたのは全く予想していなかった相手だった。
「失礼します。深見さん、この度は本当にご苦労様でした」
(会長・・・)
なんとまあ、クローディア・エンフィールドか。意外や意外、何も言えない。
「面会が可能になったと聞いて来たのですが、まだ具合が良くありませんか?」
自分が黙っていると、気を遣う表情になる。
「いや、別に話す位なら問題ない。しかし生徒会長が何故?暇じゃないでしょう」
何しろ星武祭(フェスタ)が終わった直後だ。
「はい。ですがフェスタで善戦、負傷した生徒を見舞うのも生徒会長としての義務です。それに、試合で怪我をした生徒は他にもいますが、重体となったのは深見さんだけです。心配したのですよ」
「そりゃどうも。しかしあの試合を善戦と言っていいのか?」
勇戦はしたつもりだが、善戦と言われるとどうかな?何しろ試合終了時、相手は二人共しっかり立っていて、自分達はこのざまだ。
「まさに善戦です。それも優勝ペアを相手にですよ。お二人は今後、注目されると思います」
そうか。わかっていたが、天霧達は順当に優勝したんだな。自分達との闘いは、物語に大した影響は与えなかったと言う事だな。
「まあどうでもいいさ。しばらくは戦いの事など忘れる事にする。どうせ退院まで時間かかりそうだしな」
「はい。ぜひ回復に専念して下さい。当然の事ですが、治療費等については心配いりません。それに、学園としても何らかの褒賞を考えています」
「そんな規定があったのかな?俺達は予選落ちだぞ」
「規定ではフェスタ上位入賞者に、ですね。しかし今回のあなた方の戦いには、それに近い価値があると思いますよ」
「ふーん。ま、くれる物なら貰っておくけど」
「楽しみにしておいて下さいね。他に聞きたい事はありますか?」
「一つだけ。美咲はどうしている?」
「ふふっ。すぐそこにいますよ」
「何だって?」
「この病室の前のソファーに。面会可能になるのをずっと待っていたんでしょうね。私が来た時には眠っていましたので、悪いと思いましたが、お先に入らせてもらいました」
「そうだったか。じゃあ寝かせておいてくれ。そのあたり、看護師に伝えてくれるとありがたい」
「わかりました。では、私はそろそろ」
「ああ」
「またお会いしましょう」
生徒会長が出ていくと同時に、看護師が入ってくる。
不味くは無いが、美味いかというと微妙な病院の食事となった。
美咲はこのまま起きないと面会時間帯が終わってしまうが、叩き起こせとも言いにくいな。どうするか?
※ ※ ※
朝。
目覚めると隣に美咲の顔。
「おはよう」
「ああ」
そういえば美咲と共に朝を迎えた事は無かったな。
その最初がこんな場所になるとは。
「何でいるの?」
ここは病室で、この時間は病院の受付が、じゃなくてそもそも面会時間帯じゃないだろ。
「細かい事はいいの」
左様ですか。
「まあ退院はしたけど、通院はまだあるから。毎日来てるよ」
「それにしたって・・・いや、まあいいか」
「そういう事。じゃあ何しようか。何して欲しい?」
「あんまり看護士さんの仕事取るなよ。ああ、その前に話す事があったな。ちょっと降りてくれ」
美咲をベッドから追い出すと、右腕だけで起き上がる。左腕は肩から前腕まで固定されているので使えない。全く面倒だな。
「さて、契約終了だな」
「は?何の事?」
「お前との約束は一緒にフェニクスに出る事だった。その替わりにお前をセフレ扱いしたが、もう終わりでいいよ」
「・・・あんたはあたしに惚れてると聞いた覚えがあるんだけど!」
「それはそれ、これはこれだ。フェニクスが終わった以上、契約も終わりだろ」
「あんたって奴は・・・今更そんな事・・・」
そう言って美咲は俯く。
「あんたが死にかけて、どんな気持ちだったか・・・」
涙が落ちる。
いかんな。これは言い方が間違ったか。それとも言うべきでは無かったか。
「でもはっきりさせておきたかったんだよな」
「・・・」
「お前を俺に縛り付けたくは無かった」
「そんな気遣いはいらない!」
「わかった。余計な事を言ったな。すまない。それじゃあ、俺の・・・」
「うん」
「俺の恋人になってくれるか?」
「・・・はい」
そう言って美咲が寄り添ってくる。
自分の胸で泣く女がいる。そんな事が起こるとはね。でも悪くない。このままずっと・・・。
だがやはり、自分にとっての良い時間は長続きしない法則が発動してしまった。
「瀬名さん、何してるの?」
病室のドアが開き、看護師さんが入ってきた。
あ、こりゃ怒られるな。
※ ※ ※
ちょっとしたトラブルはあったが、その後は割合平穏だった。
面会時間中は美咲は入りびたりになって、医師と看護師を呆れさせているが仕方ない。
クラウスと煌式武装研の連中もやってきた。時間はあるので、ルークスの再改造、あるいは機能拡張について相談してみる。
当面戦いとは距離を置くつもりだが、せっかく星武祭の試合でデータを取ったんだ。改良点は出てくるし、自分の戦術の幅を広げたいとは思っている。
そして数日後。
やっと歩けるようになって、とりあえず治療院内を一回りしてみた。当然のように美咲が付きそっているが、それは正直ありがたい。かなり体力が落ちている。
無理をせずに病室まで戻ってくると、彼らがいた。
「そうか。来たか」
「深見先輩。この度は・・・」
「・・・」
今回の鳳凰星武祭(フェニクス)、その優勝ペアがそこにいた。