「・・・どうしてこうなった」
言ってしまってから、異世界にきて最初の一言がそれかよ、と情けなく思う。
あの管理者とかいう野郎は理由の説明もなく俺を異世界に放り出しやがった。畜生覚えてやがれ!
いや、そんな事はどうでもいい。まずは状況把握だ。とりあえずこの世界で生きて行く為に、周囲と自分の事を知らなければ。
そもそもこの世界について、いわゆる原作知識はそう多く持っていないんだ。
(ん?自分?知識?)
そういえば自分は何者になってしまったんだろう?何か情報を得ないと。
携帯端末を良く見てみる。俺に使えるか?もっともこうした情報端末は基本動作は簡単にできるように設計されているはずだが・・・
少しいじってみると、何とか操作方法がわかってきた。空中に飛び出す空間ウィンドウという奴もなかなか良い。よし。所有者情報を展開してみる。
深見 令(ふかみ れい)
それが俺の名前だった。
年齢は・・・18歳か?高等部3年6組、星導館学園には高等部からの通常入学。
ウィンドウに表示された写真で見ると、この世界に来る前、いわば前世の自分とはかなり似ていない。ただ体格はあまり違いないようだ。長身で細目の体、これなら今後の生活でもあまり違和感無くやれそうだ。
ここまでは新しい自分については悪くない印象だった。さらに情報を展開する。
「何だと」
思わず声が出る。出身、両親の欄が空欄になっている。その代わり保護者としてよくわからない役所か企業のような名前が出ている。という事は・・・
(そうか・・・家族を持たないのか。まあいい。多分その方が都合がいい)
どうせ親、親戚等から連絡あっても何も答えられない状態だ。問題は星導館での1,2年時の記憶も曖昧な事だが(無い訳ではない)、それ位は何とかできるだろう。その為にも更に情報を検索・・・げ、学業成績が出てきた。ふむ、教科による差はあるが、何とか平均的という所か。
それよりも、ここではもっと重視される戦闘の成績は?
(リスト外か・・・)
そりゃ冒頭の12人(ページ・ワン)クラスとまではいかなくても、せめて序列入りしていて欲しかったが、何でもそう都合良くはいかないか。
それからもしばらくは端末をいじって情報を取り込んでいたが、ふと気が付くと周りが薄暗くなっている。風も少し冷たい。ずいぶん長い時間が経ったみたいだ。ウィンドウの表示を見ると今は4月中旬、まだ陽は長くない。そろそろ寮に行ってみるか。そちらには私物があるはずだから、もっと分かる事もあるはずだ。今日が日曜で良かった。
まだまだ調べないとな。
※ ※ ※
夕陽を浴びながら学園内を歩く。方向はウィンドウに表示させたマップと、所々に表示されている案内板で確かめる。場所が場所だけに、当然他の学生を見かけたり、すれ違ったりする訳で、何とも場違いな感覚に捉われてしまう。といっても今の自分もここの学生なので、いらん気遣いではあるんだが。早く慣れないと。
少し風が強くなってきた。結構肌寒い。
確かこの場所は、北関東多重クレーター湖上というわけのわからない土地に位置しているが、北関東と言う位だからこの時期はまだ暖かくなりきらないのかな。
そもそも元の場所はどこだったんだ?もしかしてグンマー?などとくだらない事を考えていると、どうやら男子寮の正面に着いたようだ。
見る限り全く普通の建物だな。玄関から入ると、受付みたいな場所に寮監?がいたので適当に手を振って通る。自分は前世では会社の社員寮にいた事もあるので、寮というものには抵抗感は無い。問題は二人部屋なのでルームメイトがどんな奴かという事だが・・・そう思いつつ3階の自室を見つける。ドアの前に立つと、ネームプレートが目に入るが、何と『深見 令』の表示だけ。という事は・・・?
「そういう事か・・・」
室内に入ると、一人分の生活の跡しかない。やはり何らかの事情で、自分はこの部屋を一人で使っているようだ。これでかなり気が楽になった。こんな状況だ。確実に一人になれる場所があるのはありがたい。ほっとした所で空腹が気になってきた。次は食堂だな。
寮に一番近い食堂で夕食にする。学園の食堂だけあって、味もメニューも良くてお値段そこそこ。他にも食事処はあるらしいが、当面はここを利用しよう。食堂でも行き帰りでも誰からも話かけられなかったが、もしかして深見 令という奴はどこぞのお姫様みたいに友達いないのか?
いや、その方が当面、都合良さそうだがね。
寮に戻ってこれからの事を考える。
異世界転生という形ではあるが、思いがけずに人生延長戦に突入したみたいだ。別に長生きしたい訳じゃないが、せっかくの第二の人生(?)少しは楽しんでも悪くないだろう。目立たない様に生きて行くのは構わないはずだ。
その為には、まずは周囲と生活に慣れる事。ただでさえとんでもない世界に来ている上、元の自分はいい歳したサラリーマン。高校生とはいろんな面でのギャップが大き過ぎる。とにかく知識と記録を頭の中に叩き込んで、上手くここに溶け込まないと。
次に気になるのは自分の体の事だ。この学園にいる以上、この肉体も星脈世代(ジェネステラ)のはずだから、普通の人間をはるかに超える身体能力を持っているはず。その力も計っておきたい。
というかかなり興味がある。
戦闘についてはその後に考えればいい。自分の能力も知らずに訓練もできないだろう。興味といえばこの世界のレギュラーの皆さんの存在も確認しておきたい。
端末で年間行事のカレンダーをチェックすると、夏に鳳凰星武祭(フェニクス)が開催予定になっているから、今年が物語のスタートで合っているはず。もっともまだ4月なので、天霧綾斗は来ていないだろう。彼が来るのは初夏になってからだったか?それも調べておこう。
その辺りまで考えた所で、かなりの疲労を感じる。少なくとも頭は使い過ぎたし、環境の激変は相当なストレスになっている。そろそろ休むとしよう。明日は授業もあるはずだ。何をするかは後で考えよう。そう決めてベッドに倒れ込んだ。
二度目の人生で二度目の高校生活。しかも異世界。俺はこの後、何をして生きていくのだろう。