「まあ、入ってくれ。ああ、その椅子は使っていい」
立ち話ができる状態ではない。ちょっと歩いただけでかなりの疲労感がある。本当に疲れた訳でも無いだろうが。
ともあれベッドに落ち着くと、美咲も上がってきた。そういえばこの病室には椅子が2つしか無かったな。ならば仕方なし。
当然のように自分に寄り添う美咲を見て、お姫様の方は何か言いたいようだが、先に口を開いたのは天霧君だった。
「それで、体調の方はいかがですか?」
「ようやく歩けるようになったところだね。回復が遅れ気味だが、それ以外は心配ないらしい」
「良かった。瀬名先輩は・・・大丈夫ですね」
ベッドの上で自分に抱き着く美咲を見て、天霧君は困ったような笑顔。お姫様の表情はというと、複雑、を通り越している。
「それで、試合では、その・・・」
「言わなくていいよ。大体、勝者が敗者にかける言葉なんて無いだろう」
「私は勝ったと思えないのだがな」
と、少しうつむきながらお姫様が呟く。ああ、その表情はそれか。
「まあ気持ちはわかるよ。美咲にあと1%でもプラーナが残っていたら、校章は破壊されていただろう。だがそんなのはイフの話に過ぎない。それに例えそうなったとしても、試合の結果は変わらない」
そう、プラーナをほぼ使い果たした美咲がほとんど無傷の天霧と戦う。一撃で終わりだな。
「それは・・・そうだが・・・」
「この件は考えるだけ無駄さね。で、美咲。お前もう1回やりたいか?」
「うーん・・・。あたしはもういいかな。何て言うの?全力を出し切った、みたいな。それでこの結果だから」
「そりゃ良かった。俺としても、お前が傷つくのはもう見たくない」
そう言って頬を掻く。無意識だったが、それで気が付いた。自分も美咲も顔の同じ所に治療パッドを貼っている。
自分はセル=ベレスタに、美咲はリビングストンデイジーに斬られたんだっけ。
どちらも高熱の刃による傷なので、治るのに時間がかかるし痕が残るだろう。妙な共通点ができたな。
「そういえば、おんなじだね。これ」
美咲も気が付いて、笑顔で頬を寄せてくる。いやいや、お前は顔に傷がついて喜んじゃいかんだろう。
天霧君とお姫様は居心地が悪そうだ。
「まあ、俺達の試合の件はもういいだろ。それよりもお二人さん、その後の試合でかなり苦労したみたいだな」
「ええ。まあ本戦ですから」
「そうじゃない。試合以外での問題が大変だったんじゃないのか」
「まあ、色々と」
「本当なら幾つかアドバイスをして、楽にしてやるつもりだったんだが。意識不明で何日も寝込むなんてなあ」
まあ死なないだけ良かったが。
「とりあえず終わりましたし。その事はまあ・・・? アドバイスですか?」
「ああ。レヴォルフの会長に目をつけられているだろ」
「え?知ってるんですか」
「あの謀略家には関わるべきじゃないんだが、セル=ベレスタの事がある以上、やむなしだな」
「まあ、こちらからは関わるつもりはないですよ」
「そうか?では何故直接接触した?まあ姉の手掛りは重要だろうが」
「! どうしてそれを!」
うーん。爆弾を投下って所か。お姫様も驚いている。
「ねえ、どういう事?」
多少は美咲も知ってていいか。
「天霧の姉は数年前、失踪している。ああ、ウチの学校に一時在籍していたらしいな。本人都合により退学、だそうだが、実際の所、エクリプスで大怪我したせいじゃないのか」
「エクリプスって、噂にあった非合法の? ていうか、何でそんな事知ってるの?」
「そ、そうだ!エクリプスはともかく、何故綾斗の姉の事まで知っている!?」
「・・・・・」
3人の反応それぞれ。天霧君は驚きのあまり声も出ないようだが。
「何と言うべきか、俺は限定的だが、まあ正確な情報源を持っている、と言うことさ」
うん、嘘は言ってない。その情報源は頭の中にあるんだが。
「もう少し詳しい事情も知ってはいるが、流石にこれ以上はここでは話せない。また次の機会にな。ああ、慌てなくてももうしばらくは、多分冬になるまでは面倒事は起こらないと思うよ」
「では・・・いずれ教えて貰えるんですか?」
「約束しよう。ただ、余計なお世話かもしれないが、天霧、少し姉に拘り過ぎていなかったか?もっと隣にいる女の事も気にかけてやれよ」
「えっ」
天霧君に見つめられてお姫様が俯く。いや、隣の女とは言ったけど、それはお姫様に限らないんだが。
「ともあれ、後は俺が退院してからだな。まあヤバイ話だけじゃなく、色々役に立つ事も教えてやるよ。お姫様にもな」
うん、この結果がどう出るか。
早く退院したいね。
※ ※ ※
翌日。
かなり体の方は楽になってきた。
美咲は飽きもせず、面会時間中は近くにいる。
しかし。自分の身体機能が回復してくるにつれ、美咲と二人きりという状態は色々マズイのだが。
いずれ我慢できなくなるかも。
「あたしはいいよ。ここでも」
いや、病室は流石にいかんだろう。どこぞのAVみたいな真似はゴメンだ。
「そんな事言って。あんたも本当は・・・」
こらこら。変な所から潜り込んで来るのはやめろ。
「ちょ、やり過ぎだ。やめ―――」
「あらあら。いつも仲が良くてよろしい事ですね」
ああ、クローディア・エンフィールドか。来たのね。っていうかいつの間に。
「会長さんか。これからいいところなんだから邪魔しないで」
そういえばこの会長、気配を消すのも得意技だったか。
「いや、邪魔していいから。美咲もちょっと待て」
とりあえず美咲をおとなしくさせて、話を聞こう。
「瀬名さんもいて丁度良かったです。お二人にお話しがありますので」
「ひょっとしてこの前の褒賞の件か?」
「はい。やはりお二人が試合で見せた実力は、ページワンに準ずるとの判断です」
「美咲がそう評価されるのはわからんでもない。だが俺はどうかなあ」
何しろあのお姫様自身が勝ったと言わないんだからな。でも自分は天霧を抑えていただけ。それも短時間。
「全力状態の綾斗を抑える。それだけでも大変な事ですよ」
「そんなもんかね。で、どうなるんだ?」
「お二人がよろしければ、ページワンとしての特典を全て受け取って頂く事も可能です」
「それは寮の個室とか報奨金とか、って事?」
ああ、美咲も知ってるのか。それにしても随分と気前が良いな。
「はい。その他の特典もありますが、良く知られているのはその2つですね」
「個室は結構だ。その他の特典も別になあ・・・その分報奨金に色をつけてくれ」
あまり妙な目立ち方はしたくないからな。それに今も寮の部屋は個室のような物だ。
「そうですか。ではそのように調整します。瀬名さんはいかがですか?」
「うーん・・・あたしも同じでいいかな」
「はい、そのように。ではお邪魔のようなので、早々に帰るとしますね。最後に、来期もお二人の活躍を期待しています。お大事に」
「ああ、わざわざすまんね」
彼女の後ろ姿をみて息を吐く。この子の相手はやはり緊張するな。
「ふーん。あんたああいうのが好みなの?」
ジト目で見られてしまった。
「好みという訳じゃない。とんでもない美人だとは思うが。でも付き合いたいとは思わんね」
やりたい、とは思わんでもない。
「何でそう思うの?」
内心を見透かされたかなあ?美咲さん、凄く冷たい声。
「アスタリスクで生徒会長やってるんだぞ。良くも悪くもとんでもない人間だよ。あれは」
あのオーガルクス、《パン=ドラ》だったか、あれを所有して平然としていられる精神は尋常ではない。
それに加えて何か妙な計画を進めているらしいし。できれば巻き込まれたくはないな。
「それもそっか」
「そうだよ」
美咲も関わらせたくはないな。
しかし、来期の活躍とはどういう意味なんだろう?