8月後半のアスタリスク。
世界と場所が変わっても、暑い日が続くのは変わらない。
なので身体を動かすと言っても、方法は考えなければならなかった。
主治医と相談した結果、水泳をメインに傷と体力の回復を図る、ということになったので、毎日プールで泳ぐ。
その他は大した事はしていない。
美咲も飽きもせず付き合ってくれるが、そろそろ悪い気がしてきた。
せっかくの夏休み、自分はともかく、あいつにはイベント的な事があっても良いのではないか?
ついでに自分にもご褒美的な――
そこまで考えたところで、端末に着信、早速美咲か、と思いきや。
「天霧か。しばらくだったね」
「はい、先輩、今、少しお話、いいですか?」
ふむ、自分の持つ情報が気になるようだな。丁度良い。それと引き換えに、こいつらに付き合ってもらうか。
※ ※ ※
商業エリアでもメインステージ近くに位置する、アスタリスク シティホテル、オーザバル。
六花園会議が開かれるホテル・エルナト程ではないが、それなりの高級ホテルではある。
自分達は使えない、という事は無いが、費用は別にしても外泊申請が面倒なので宿泊は難しい。
では何故そのロビーにいるかと言うと。
「深見 令様。瀬名 美咲様。本日および明日、プレミアムツイン1室、デイユースでのご利用を承っております」
流石高級ホテル、自分達のような学生相手でも一分の隙無く対応するコンシェルジェを揃えている。
という訳で、宿泊でなく昼間の空室を利用するデイユースで予約してみたのだ。
「お部屋には担当がご案内します。その他、ご要望はございますか?」
「うん、13時に来客があるので、そのまま部屋に通して貰えます?」
「了解致しました。お名前を伺っておいてよろしいでしょうか」
「ああ、天霧綾斗、ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトです」
お、やはり相手の表情が変わる。まあ今となっては世界レベルの有名人だもんね。
案内された部屋に入り、室内の説明を受けて二人きりなると。
「ふぇ~。凄い部屋だね~」
「まあな。本来このグレードの部屋はデイユースされないんだが、このホテルは特別かな」
「あ、こっちにも部屋がある!何これ、バスルームが二つ?」
珍しくはしゃいでいる美咲を捕まえると、ベッドに押し倒す。
「ちょっと!もうなの?大体この後・・・」
「まだ時間はあるだろ。とりあえず楽しもう」
楽しみ過ぎた。
その結果ちょっと疲れてしまい、いつのまにか眠っていたようだ。
ドアホンの音で目を覚ます。
部屋のモニターを展開すると、ドアの前には主役二人がいる。
・・・待たせる訳にもいかんか。返事をしてロックを解除する。
「失礼します、先輩・・・って凄い部屋だなあ」
「ああ、だが高級ホテルのスイートならこんな物じゃないぞ。で、お二人はどこだ?」
「おう、こっちだ」
「ご招待には感謝するが・・・え!?」
「深見先輩、しばらくでぇええ!?」
「令、どうしたの・・・?って、きゃあああ!」
美咲の悲鳴っていうのも、結構珍しいな。
「ようお二人さん。わざわざすまんね。で、こっちも二人で楽しみ過ぎて時間を忘れてた。ちょっと待ってもらえるか?適当に寛いでいてくれ。ああ、キャビネットの飲物なんかは好きにしていいぞ」
「・・・! ・・・!」
「ほら、美咲。シャワー行くぞ」
※ ※ ※
このホテルを選んだのは、良い部屋もデイユースできる事以外にもう一つ理由があった。
今、その理由の場所に来ている。
「へえ。結構大きいプールですね」
「大きいだけじゃないぞ。もっと良く見てみろ。どんな感じだ?」
「感じって・・・ 結構静かですけど?」
「そこが他との違いだ。商業エリアにあるプールはどこも賑やか過ぎる。それどころか決闘もあったりするし」
沙々宮がやらかしていたな。そういえば。
「あはは。確かに。ここは落ち着いてますね」
「何しろ客層が違うからな。ここはホテル利用客しか入れない。それなりに裕福な社会人がメインだろう」
「そうですね。家族連れもいるみたいですが。ああ、夏休みでしたね」
「そうだな。それにこの雰囲気なら、俺達の連れも目立ち過ぎない、と思うけど」
と言っても実際どうかな?片方はお姫様だし。
まあ身の程知らずのナンパ野郎がいないのはいいね。
「それにしてもユリス達、遅いな」
「言ってやるな。こういう時、女ってそんなものさ。って来たな」
さて、お互いのパートナー登場だ。まあパートナーといっても自分と天霧では意味は違うか。
その二人が並んでプールサイドを歩いている。ただそれだけでも存在感、のような物を感じる。
今までこのプールエリアを見回していて、結構いいと思った女性も何人かいたが、二人には及ばない。
「しかしあいつらがこうして並ぶと、良い意味で迫力あるな~」
やはり、少なからず注目されているか。まあ片方は超有名人だもんな。
「そうですね。それにこうして見ると、何だか似てますね」
「ああ、どっちも少しきつめの美人顔だしな。スタイルも似てるし」
で、その美女と美少女だが。
美咲の方はシンプルな黒のビキニ姿。露出度は若干高めか?結構視線は集めるが、すぐに逸らされる。何しろあいつの顔はもとより、体の傷も幾つかまだ残っている。本人は全く気にしていない、というか誇るように堂々としている。
対してお姫様だが、赤を基調としたストライプ模様の大人しめなビキニ。パレオ付きなのはご愛敬だな。少々恥じらいが見えるのはその姿のせいか、天霧君の前だからか。そういう所は多少お子様、といったところか。
そういった面では、美咲が上だな。
特に胸のサイズでは完勝。お姫様の控えめな水着姿を見ながらそう評価する。
「令、あんた今不謹慎な事思ってない?」
「そうかもな。まあいいだろ」
「それで、今日は何故プールなのだ?」
お姫様、目を合わせずに聞いてくる。さっきの部屋の件の衝撃がまだ残っているのかな。
「それはな。俺のリハビリと思い出作りだからだ」
「は?」
「何にせよ、聞きたい事があるんだろうが、それは後回し。それでは・・・」
「?」
「総員、我に続け~!」
言うだけ言って、プールに飛び込んだ。
自分は水泳は得意ではない。
泳ぎ方は一通り知っているが、上手くは無いしすぐに疲れた。
しかしこれは前世の事だ。
今、自分の身体はジェネステラという、以前とは比較にならない程高性能な状態になっている。
よって泳ぎ方は下手でも、それなりの速度でかなりの距離を泳ぎ続ける事ができる。
クロールから平泳ぎに切り替え。
そのタイミングでちょっと後ろを見ると、美咲がついてきている。
今回のノリに付き合ってくれるのは有り難いね。
天霧君もいるな。お姫様の姿までは見えないが、まあいい。
よし、もうしばらく付き合ってもらおう。
流石に30分も泳ぐと、一息入れたくなる。
プールの真ん中で止まる。
しばらくすると、天霧君が大きなエアーマットを引いてやって来た。ああ、美咲が用意してたやつだね。
その上には美咲とお姫様が並んで乗っている。
何だか妙にほのぼのしているな。こいつらって戦って分かり合う、というタイプだったっけ?
「よう、お疲れ。お前ら何時の間にか仲良くなっているなあ」
「別に仲良くなった訳じゃないよ。ただ一緒にいる時はこの位はね」
「ああ、こういう場でいがみ合うのも面白くないしな」
「そんなところか。確かに俺達は友達付き合いしてるとは言えないがね。ではこの前の話の続きだが」
「え、ここでなのか?」
「お姫様、周りを見てみな。ここはプールのど真ん中で、盗聴器なんかも仕掛け様が無い。近くに人もいないな。監視カメラはあるが、ちょっと離れているし、水音があるので声は拾えない」
「そういう事か」
「まあ、気にし過ぎかもしれないが、無警戒よりは余程良いだろうね」
本当はもっと気楽に毎日過ごしたかったんだが。
この世界に来て、尚且つ主役と関わってしまった以上、こんな状況も仕方なしか。