異世界転生体験記 ~アスタリスクの場合~   作:jig

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夏休み(その2)

 

それなりの高級ホテルの、ワンフロアを全部使ったウォーターエリア。

当然その大半はプールが占める。

その大きなプールの真ん中で、浮かびながらする会話としてはどうなの?と言う内容のお話をしている。

 

「まあもちろん、レヴォルフの会長がセル=ベレスタと天霧を危険視したことから始まるが、それ以外も理由はある。野郎、アルルカントの人形遣いとも手を結ぼうとしたんだな」

 

「それでは、フローラの件は!」

 

「そう、天霧の力を削ぐ事で恩を売ろうとしたのさ。酷い手だが、買う方も買う方だ」

 

「だから緊急凍結処理なんて事を・・・」

 

「そういう事。まあ結果はああなったが、あの陰謀家はまだ諦めてないらしい。新しく餌を用意して、接触は続けている。それに付き合うエルネスタ・キューネも大概だがな。パペットの開発の為には手段を選ばない姿勢はわからんでもないが、悪手過ぎる。まあカミラ・パレートには警告しておいたが、どうなるか」

 

「あ、あんたがこの前会ってた女って・・・!」

 

「うん。用があったのはクラウスだったが、良い機会だったんでね。それはともかく、連中は何か妙な計画を進めているらしいし、そのせいで天霧が狙われたりもしている」

 

「おのれタイラントめ!こうなったら直接・・・」

 

「まあ待ちな。そもそも証拠が無い。証拠を残すような奴じゃない」

おいおい。『直接』って、何をするつもりだったんだ。

 

「当然この件では警備隊も動いている。あと一月もしたら何か言ってくるだろう。慌てなさんなって」

まあ、二人が納得する結果は出ないんだが。

 

「しかし・・・」

 

「この話終わり。続きは後日だ。さて」

 

エアマットを押してプールサイドまで泳ぐと、美咲が上がる。

 

「ジュース買ってくるね」

 

「頼む。天霧、付き合ってやってくれ」

 

「あ、はい」

 

二人を見送ってマットに登る。

隣にはリースフェルトさん。結構近い距離だが、今位はいいだろう。

しばらくの沈黙の後。

 

「なあお姫様。何で天霧との事、俺達に聞いてきたんだ?」

 

「そ・・・それは、お二人は恋人同士、なのだろう?」

 

「まあ、そうだが、それが?」

 

「私の周りには、いないからな」

 

「ああ、そういう事か」

確かに。それに兄夫婦には聞けないだろうし。

 

「ただ俺と美咲も、今はともかく始まりはかなり特殊な状況だったんだがなあ」

体から始まった関係・・・

 

「特殊、と言うと?」

 

「いずれ話すよ」

 

美咲と天霧が戻って来る。

ふむ、美咲だけでなく、天霧も結構視線を集めるな。それも当然か。

 

 

 

再度、プールで泳ぎまくる。

天霧にも付き合って貰ったが、やはり勝てない。スピードだけでなく、泳げる距離でも及ばなかった。

やはり長年修行してきたような奴にはついていけないな。

 

そんな自分達に付き合いきれなくなったのか、美咲はお姫さまとのんびりしている。

主役二人とこんな風に過ごす時間があるというのも、中々妙な感覚だな。

まあ悪くない。

 

そうこうしている内に、時計は夕方といえる時間を示していた。

チェックアウトの時間を考えると、そろそろかな。美咲もやって来る。

 

「もう上がる?」

 

「そうだな。お姫様は?って何してんだ?」

 

「何だか懐かれたみたい」

 

子供用プールで、まだ幼い子数人と遊んでいる、のかな。そう言えば子供好きだったかな。

 

「天霧、悪いが時間だ。着替えたら部屋に戻って、すぐチェックアウトだな」

 

「わかりました。ユリスを連れてきます」

 

 

 

※  ※  ※

 

 

「今日はありがとうございました」

 

「そりゃこっちの台詞だよ。美咲も楽しんでたみたいだしね」

お姫様の水着姿とか、レアな物も見れたしな。

 

「ユリスも、もちろん俺も楽しかったです」

 

「良かった。ところでこれからもこんな感じでお姫様と付き合うのか?」

 

「そうですね。ユリスが望むなら・・・」

 

「それもいいな。ただ連れてく場所は考えろよ。何しろただでさえ有名なんだし。そろそろファーストフードとかはマズイんじゃないかな」

 

「ああ、そうでした」

 

「金はかかるだろうが、必要経費だよ。っと、じゃあ行くか」

 

ホテルのエントランスを出た所で二人と別れる。

次に会うのは休み明けかな。

 

 

「この後、どうする?」

 

「そうだな、夕食にはまだ早いし、商業エリアを適当に見て廻るか」

 

美咲と並んで歩きだす。

ここからだと少し距離があるな。今日のところはタクシーを使うとして、やはり自分の車が欲しいところだ。

この件もそろそろ動くか。

 

 

※  ※  ※

 

 

アスタリスク、行政エリア。

その中心からやや離れた多目的ビルの中に、目的の場所があった。

 

「アスタリスク交通管理局、ここか」

 

前世では運転免許証の類は警察の管轄だったはずだが、ここでは少し違うらしい。

もちろん警備隊 ―――シャーナガルムだったか――― は関与しているが 、免許証の類の発給、管理等はここで行われる。という事だったので、この暑い中やって来たのだ。

 

どうやらアスタリスクの中と外では交通ルールはほとんど変わらないようだ。

入院中の暇を使って必要な法規はしっかり暗記してある。問題は実技だが、前世のように教習所、という訳にはいかなかったので、ネットで資料に当たって試験方法の確認と注意事項のチェックを入念にしてきた。

で、その試験だが。

ある程度予想していたが、実技はやはり3Dシミュレーターだった。車の運転席を模して作られていて、社外の画像は元より振動、加減速の感覚まで与えてくる優れものだ。

 

それゆえに、自分には有利ではある。何しろ経験者なんだから。

 

よって2時間程かけて行われた筆記、実技試験が終わってすぐに発表になる判定で、あっさり合格を得られた。

進行、判定が自動化されているせいか速いものだ。

ただ、免許証の交付となるとお役所仕事が絡む為、3日程後になるそうで、合格証明だけ貰って帰る事になる。

 

とは言え休日の学生は時間があるのだ。

その足で地下鉄に乗って商業エリアに向かう。

1時間近く掛かったが、目的の店に到着。

 

ヴィンテージカー専門店、オートジャック。

アスタリスクでは旧車を専門で扱うショップはここしかない。

 

店内はさして広くはなかった。デモカーが1台、その他は商談用のテーブルがいくつか。

それだけ見ると普通のカーディーラーのようだが、実は地下にかなりのストックヤードがある事は宣伝で知っている。そちらを見てみたいんだが。

 

「いらっしゃいませ」

 

「よろしく。とりあえず下を見てみたいんだが」

 

「はい、どのような車をお探しですか?」

 

「ガソリンエンジン、マニュアルミッションのFR車が欲しいね」

 

「・・・それは、相当古い車になりますが」

 

「だろうねえ」

わかっているよ。そこまで来るともうクラシックカーだろ。

 

 

これも予想していたが、欲しいと思える車は見つからなかった。

後は専門店ならではのネットワークを使い、探してもらうしかない。あまり時間はかからないはずだ。

流石に注文者情報を入力した後は驚かれた。

高校生に見えなかったらしい。それのこの歳で旧車を持とうとする人間もいないそうだ。

まあ、そうだろうな。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

寮に戻ると美咲に捕まる。

あれこれ聞かれるのをはぐらかしながら、しばらくぶりに煌式武装研に行く。

暇つぶしに、という訳ではなく、珍しく部長から呼ばれた為だった。

部室には数人のメンバー。クラウスもいた。

 

「こんちは。戻ってたんですか?」

 

「もう休みも終わりだし。体調はOKみたいね」

 

「それなりに体動かしたんで。それで、今日は?」

 

そう聞くと、小さな箱を差し出してくる。

 

「プレゼント」

 

「は?」

どういう事だ?あれ、美咲さんからプレッシャーが・・・

 

「あたしじゃないよ。あるヨーロッパの企業から」

 

「あっ」

 

箱を見ると、見覚えのあるロゴがプリントされている。

という事は。

 

「そう、新しいルークス。あのEUROX社が送ってきたの。貴方とクラウスでモニターしなさい」

 

ふむ。面白そうなアイテムが追加になったね。

 

よし、やってみようじゃないか。

ただ問題もあるな。

 

さて、どうするか・・・

 

 

 

 

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