9月。新学期である。
星武祭に参加した後、入院生活となってあっさり終わった夏休みだが、あまり惜しくはない。
なにせ学生なのだ。時間は充分ある。
等と考えながら、生徒会室にやって来たのだが。
「レスティングルームか」
会長の所在表示がそうなっているので、取り敢えずインターフォンで訪問を告げる。
しばしのタイムラグの後、ドアが開く。
知ってはいたが、学校の生徒会フロアにこんな部屋とは、シュールにしか思えないな。
そして会長は、予想通りプールサイドのデッキチェアの上、ちょっと過激な水着姿で仕事中。
いや、いいんだけどね。
「ようこそ。深見さん。怪我は完全に治ったようですね」
「まあ、それは。お寛ぎ中失礼しますよ。報告と相談があって来た」
「はい、伺いますよ」
そう言って体を起こすクローディアさんだが、その程度の動きでも胸が揺れるのがわかる。
全くとんでもない身体してるな。
「実はEUROX社から新しいルークスが送られてきた。俺とクラウスを指名でモニターを依頼してきている」
「はい、煌式武装研究部の部長さんから聞いていますよ」
「それでだ。モニターは構わないが、その結果は当然向こうに報告しなければならない訳で。そうなると学外へ情報を送る事になるんだが、その件はどう考えればいいのかな?」
「問題ありませんよ。事前に審査はさせて頂きますが。それより報告書を書く方は大丈夫ですか?」
「ああ、フォーマットが送られてきているから、然程面倒ではない、と思う」
まあ、前世では技術報告書なんかも書かされたしな。
「では装備局を通して提出してもらう事になりますね」
「了解。それと、報酬が発生した場合は?モニターはともかく、調整や計測は学校設備を使って実施するんだが」
「それは構いません。学生の能力向上の一環として判断しますから。一応金額だけは報告をお願いする事になりますけど」
うーむ。やはりこの子は優秀だな。戦闘や他学園との暗闘だけでなく、こういった事務的な処理もあっさり判断を下して行く。見かけによらず、こういう所もしっかりしている。
「いかがですか?」
「ああ、問題無い。流石会長と言うべきかな。優れているのは見た目だけではないって事か」
「ありがとうございます。そういった面で褒められるのは久しぶりですよ」
「そうか。まあ大抵の人間はまず、会長の容姿を褒めるんだろうな」
特に男はな。そんな連中は何度もあしらってきたんだろうね。
「深見さんは褒めてくれないんですか?」
「すまんが俺にとっては美咲の方が上、だな」
これはある程度、本音ではある。
「あらあら。惚気ですか?瀬名さんが羨ましいです」
「俺達が付き合っているのはご存じだろう。その辺も大目に見てくれると有り難いんだが」
「はい。それなりに節度を保ったお付き合いなら」
ん?自分と美咲の『関係』までは知らないのか?
「うん、そうだね。在学中に子供は作らないつもりだけど」
「・・・あの、それは当然だと思いますけど」
この会長さんの、呆れと驚きが混じった表情を見れるとは、貴重な体験かもしれない。
※ ※ ※
会長の動揺につけこんで、もう一つ要望をねじ込む事に成功したので、面倒は片づいた。
その足で煌式武装研に向かう。
「よう。許可取ってきたぜー」
「ご苦労さん。それじゃ『公式』に始めますか」
すでに部室ではクラウスがディスプレイの前で、新型ルークスの設定調整を始めている。一応今日からモニター作業開始という事になるな。
「どうやらこいつはVAL-300シリーズの最新型となる予定みたいだね。ガントレット型のルークスは少ないんだが、お前さんの活躍で需要が出ると見込んだのかな」
「そんなに単純な話なのかねえ?」
「どうも一部に誤解があるらしいな。お前、試合でセル=ベレスタを止めてみせただろう。あれのインパクトがなあ・・・」
「いや。あれは違うだろう。まさか本当だと思ったのか?」
「どうやら最初のレポートにはその件の説明もいるな」
また厄介な。
仕方ない。後で考えるとして、この新型ルークスだが。
ふむ。機能は大幅に拡張されているのはわかる。調整、設定の自由度もさらに上がっている。
何と言いうか、正常進化というやつだな。マナダイトの追加が可能、という仕様もあるが、これは意味あるのかどうかわからない。
「とりあえず今の深見の状態に合わせて設定してみる。機能追加はその後だな。メテオアーツには対応させておくか?」
「そうしてくれ。それができたら使ってみる。つまりは試合形式がいいんだが、相手いるかな?」
「公式序列戦は?」
「データを学外に送る事を考えると、あまりよろしくないな」
「となるとまずは瀬名相手でトレーニング形式でやるか?」
「それもありだが、それだけじゃね。ちょっと考える」
ある程度レベルが近くて、非公式試合を受けてくれる奴がいればいいんだが。
ん?そう言えば・・・
ちょっと調べておくか。
※ ※ ※
今年の前半は状況把握とトレーニング、星武祭(フェニクス)で終わってしまったので、まともな学生生活を送れるのは今から、という事になる。
アスタリスクの学校をまともと言って良いのかは別にして、少しは高校生らしい事もしてみるかな。
そう思って多少勉強にも力を入れてみるが、苦手教科の成績はぱっとしない。
今月末は期末試験なので、そろそろまずくなってきた。
こうなったら最後の手段、前世でも使った手だが、問題と解法の徹底的な暗記しかない。
ただこれをやると相当な時間を消費する事になる。
そこにルークスのモニター作業を加えると。
「時間が無い」
「なんでよ!」
いや、今言った通りなんだが。という訳で美咲さん、しばらくデートはお預けです。
試験終わるまで待ってね。
「う~~」
「その替わりと言ってはなんだが、ルークスの件にはまだ付き合って貰うからな。対戦形式の試験も必要だし。あ、そう言えば・・・ちょっと一緒に来てくれ」
美咲と共に、食堂に向かう。この時間ならいるとは思うが・・・
休みが終わって気が付いたが、自分達はかなり注目されるようになっていた。
理由は当然フェニクスの件だろうが、それにしては集まる視線が過剰だ。
そう思って聞いてみると、どうも自分達は今回のフェニクスで星導館学園のナンバー3として見られているらしい。
なんだそりゃ、と更に聞くと、フェニクス4回戦に進んだペアは、天霧達と沙々宮達だけで、他は全部自分達と同じ3回戦止まり。で、その自分達の対戦相手は優勝ペア。結果3回戦組では最強、と見られる。そしてその上にはレギュラーのペア2組しかいない。
まあ、ポジティブに見られるなら悪くはない。
お、いたいた。沙々宮達も一緒か。
「ようお姫様!天霧とは上手くいっているようだな!」
「なっ?な何を言っているのだ!?深見先輩?」
「やっぱり・・・」
「あの二人・・・」
回りの生徒がざわめく。うむ、これを外堀から埋める、と言うんだな。
そして他の女子二人から激しいプレッシャーを感じる。自分がわかる位だから、天霧君には相当効いているはずだ。うん、いつまでも鈍いままではいられないぞ。
「で、何の用なのだ」
うわ、機嫌損ねてしまったか。
「いや、ちょっと俺と戦って欲しくて」
「は?」
今度は周りが別の意味でざわめく。
「ああ、そうじゃない。決闘とかじゃなくて、ルークスの性能テストだよ。時間も取らせない」
「それなら構わないが、何故私なのだ?」
「剣で接近戦をやるなら、お姫様のレベルは俺に近いと思ってね。今専用のルークスは修理中だろ。汎用の剣型ルークスを使って、全力で相手してくれ。頼む」
「先輩がそう言われるなら・・・」
「じゃあ試験明け頃に頼む。また連絡するから」
「ああ」
これでよし。では戻ってカスタマイズのプランを立てるか・・・
「ちょっと待って」
「ん?どした、沙々宮」
全然人見知りしないな、この子。
「綾斗とユリスの関係について、証言を求めたい」
「それはまた後日だ」
こりゃまずかったかな。さっさと消えるに限る。
そう思って踵を返すと。
「・・・」
「いつの間に」
刀藤綺凛がこちらを見上げていた。
刀を持ってないが、結構なプレッシャーが来る。
「助けて美咲」
「まったく。余計な事言うから・・・」
その通りだな。教訓としよう。