「終わった~~!!」
何が?
そりゃ期末試験に決まってます。
テストという奴は、異世界であっても好きにはなれない。
いや、前と違って学生やっているので、勉強する時間は充分にあるんだが・・・
やはり自分を試される、という事に対する忌避感、みたいな物か。
フェニクスの試合もそうなんだが、何かが違う。
と、あれこれ考えながら教室を出る。
これからは時間あるし、美咲を捕まえてあんな事やこんな事、と思いを切り替えた所で端末に着信。メールか。
「おっ!」
思わず声が出る。
一つ目は車屋からで、納車の目処がついたので連絡が欲しいとの由。
ようやくか。よしよし。すぐ動く事にしよう。
「・・・」
二つ目のメールはというと---
「令、終わったよね。これからどうする?」
美咲さん、タイミング良いね。でも。
「悪い。今から生徒会室だ」
「またなの?あんた変に目をつけられてない?」
露骨に嫌そうな顔をする美咲さんですが。
「いや、お前も一緒だよ。メール見てないのか?」
はっとして端末を見る彼女。
「ほんとだ。あたしも呼び出されてる」
二人一緒の呼び出しなんて、悪い予感しかしないな。
※ ※ ※
「失礼します」
さて、生徒会室だ。
目の前の大きなデスクにはお馴染みであるウチの会長さん。相変わらずにこやかではあるが、この後の話題を考えると良い気分にはならない。
まあ、傍から見れば、自分達の行いは立派な不純異性交遊だな。
「ようこそおいで下さいました。深見さん、瀬名さん。今日は折り入ってお二人にお話しがあって来て貰いました」
「そう。話って何?」
うわ。美咲、少しは取り繕えよ。不機嫌丸出しだぞ。もっともそれを笑顔で流してくれるのがこの会長である。
「実は、お二人には次のフェスタ、グリプスに参加して頂きたいのです」
「は?」
「何?」
おーっとこれは予想外の話題がきましたねえ。そうきたか。ずいぶん先の話だが・・・
「意外ですか?でもお二人の実力なら、好成績が期待できますよ」
「好成績も何も、どうせウチの、会長のチームが優勝するだろう。天霧達がメンバーなんだし」
「どうしてそれを?」
会長の声のトーンが変わった。あれ、まずかったかな。
「フェニクス優勝とベスト4だ。最強チーム作りたかったらそれで決まりだろうなあ、と」
「・・・そうですね。ですがこの事は他言無用でお願いします」
「もちろん。で、その他のチームに俺達を加えると。どうしてなんだ?」
「はい。来年のフェスタの成績として、今年と同等以上を目標にしているからです」
成績目標は前期同等以上。言葉だけだと大した事が無いように聞こえるが。
「それってグリプスでも優勝+ベスト4でしょ。ハードル高くない?」
その通りだよね。美咲。
「確かに。ですが学園にはそれが必要なのです。前期までの低迷を考えると・・・」
優勝が必要なのは学園じゃなくて貴女でしょう。とはここでは言えんなあ。
「期待してくれて有り難いが、大事な事忘れてないか?俺達は来年、卒業だよ」
「ええ、ですからそのまま大学部に進学して頂ければ。深見さんの成績なら推薦は可能ですし・・・瀬名さんは、この点数だと一部の学費免除も狙えますね」
どうやら端末で終わったばかりの試験結果を見ているようだ。流石生徒会長。
「え、そうなの?美咲、お前勉強できたんだな」
「まあね。言って無かったっけ?」
すまん、全然気にしてなかったよ。
「そういう事ですから、お二人には是非進学して頂き、グリプス出場をお願いしたいのですが、どうですか?」
「うーん・・・まあ(2度目の)大学生活も経験してみたいが、それ以上にそろそろ自分で働いて稼ぎたいとも思うんだよなあ」
結構本音ではある。
「就職も考えていらしたんですね」
「家族も食わしていきたいしね」
「ご家族ですか?でも深見さんは確か・・・」
「ああ、そうじゃない。今言ったのは美咲と俺達の子供の事なんだが」
「・・・はい?」
「・・・は?」
お、微妙にハモったねえ。
「子供!? あんた何言ってんの?」
「何だ。産んでくれないの?」
「!! それは良いけど、その前にやる事があるでしょ!」
「ヤル事はやっているじゃないか」
「そうじゃない! 入籍・・・結婚が先でしょ!」
「そうだったな。じゃあ卒業したらするか」
「うん・・・って何なの!これがプロポーズのつもり!?」
「それでいいだろ。ウチの会長が証人だ。丁度いい」
「そうなんだけど・・・!! あんたって! あんたって!」
真っ赤になった美咲さんと、固まっているクローディアさん。中々面白い状況だ。
「てな訳で会長、進学とグリプスについては即答できない。しばらく時間をくれ。今日のところは考えておく、という事でよろしく」
「・・・あ、はい、わかりました。それでは」
再起動した会長さんにそれだけ言うと、部屋を後にする。
ちょっとやり過ぎたかな。
※ ※ ※
秋休み?
秋季休暇という奴が始まった。
1年を前期と後期に分けるなんで、アスタリスクの学校は一般企業みたいだな。
とりあえず短いがまた休みである。この時間を利用して・・・
「以上で手続きは完了です」
「では費用を振り込む・・・どうかな?」
「はい・・・入金確認しました。ありがとうございます」
うーむ。フェスタの報奨金に負傷補償金、綺麗さっぱり消えて無くなったな。まだ貯金は残ってはいるが。
「それではこちらが関連書類、これが車検証、そしてキーになります。お受け取り下さい」
「はい。じゃあ店長、世話になった。これからもよろしく頼んます」
「毎度あり・・・でも本当に大丈夫かな?」
「心配してくれるのはありがたいけど・・・まあこんな車だ。運転自体が特殊技能に近い事は知ってる」
「わかっていればいいが・・・くれぐれも気をつけてね」
まあ気持ちはわかるが、少し心配しすぎだよ、店長。
さて。正式に自分の所有するところになった車に歩みよる。
「北崎の・・・ レグルス、か」
由来は確か星の名前だったか。と言う事は所属していた統合企業財体、銀河の影響か?
「もうメーカーは無くなってるけど、ウチに持ってきてくれれば一通りのメンテはできるからね」
「そのつもりなんで、また寄らせてもらうよ」
キーについたスイッチを操作、ドアを開錠する。
ハンドル横のスロットにキーイン、ACCオン。
スターターボタンを押すと、エンジンは一発で始動した。
2.4L、直列5気筒のDOHCエンジンはなかなか良い音でアイドリングしている。
「うん、調子いいね。分かっていたけど」
「まあオイル、プラグ、クーラント等消耗品は大体交換済です。電装系も全部チェック済、旧式ですが自己診断プログラムもまだ生きてるし、調子いいよ」
「OK、じゃあそろそろ」
シートに身を沈めると、ベルトをチェック、ドアを閉めてクラッチを踏む。少し固めか。シフトレバーを動かすと、フィーリングは良くないが各ポジションにはちゃんと入る。よし。
レバーを下げてサイドブレーキ解除。
アクセルを軽く踏み、クラッチペダルをゆっくり上げる。回転数が下がった。ん、ここだな。
半クラッチでゆっくり動き出す。大丈夫だ。
店長に手を振って、アクセルをじわっと踏んでいく。
今はもう存在しないらしい、北崎重工自動車事業部が生産したスポーツセダンは、再び走りだした。
テストドライブはほどほどでOK。慣らし運転もいらない。自分の運転の勘が戻ってくれば、もう心配ない。
ああ、久しぶりの感覚。
やはり車はいいねえ。
さて、お次は・・・見えてきた。星導館学園の正門だ。美咲はあそこか。完全に明後日の方向を見ているな。まあ自分がこんな登場の仕方をするとは思っていないだろう。ん、あのあたりに止めるか。
「美咲!」
「令?あんたどこから・・・ 何?それ」
「何って、見ての通りの車だが?」
「・・・どうしたの?それ」
「買った」
「はあ・・・最近何かこそこそしているかと思ったら、そんな物まで」
「とりあえず乗ってくれ。どこか行きたい所はあるか?」
「あんたの隣なら、どこでも」
うん、なかなか気の利いた返しができるようになったね、美咲さん。
では、行こうか。