異世界転生体験記 ~アスタリスクの場合~   作:jig

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トライ&ラン

 

学園内、専用トレーニングルーム。

誰の専用かと言うと、例のお姫様である。

何故そんな所にいるかと言うと。

 

「計測準備、どうだ?」

 

「テレトメリー受信準備・・・OKだ。メモリー開始」

 

「よーし。ではお姫様、よろしいか」

 

「こっちはいつでもいいぞ」

 

ふむ、ギャラリーは天霧君とちびっ子二人。こちらは美咲、煌式武装研の部長、クラウスに助手扱いの後輩。

 

「部長、いいですか?」

 

「はい。では改めて。今回の対戦は公式序列戦ではなく、記録には残りません。計測したデータは原則として深見の物のみ解析、公表されます。その他のルールは通常の試合に準ずる事としましすが、状況によってこちらで中断を宣言する事もあります。あくまでルークスのテストである事を理解して下さい」

 

部長の宣告に頷く自分達。

 

「では、始めて下さい」

 

よし、行くか。

両腕のルークスを起動。左右の前腕がガントレットに覆われ、手甲が緑に輝く。

そのまま歩み寄る先には、お姫様が汎用の剣型ルークスを展開して構える。

さて、この子も剣の腕はかなり上達してる。どうなるか。

 

「はっ!」

 

まずはボクシングスタイルで、左右のストレートを連打。

それをお姫様は剣で受け、あるいは逸らして有効打無し。むしろリーチの関係でこちらがヤバイ。

ならばスタイルを変えよう。

左腕で防御に専念、右腕で断続的に打撃。左右の移動と瞬間的な踏み込み、後退を繰り返す。

 

スプリント&ドリフト。

 

本来の意味は違うが、この戦法につけた名前。

フェニクスでは練習が間に合わず使えなかったが、対剣士用に考えてはいた。

ガードの左腕はトリッキーな動きを意識して剣を捌き、右腕は軽くとも速い打撃を集中させる。

 

「くっ!やるな先輩」

 

お姫様の表情に焦りが浮かぶ。そりゃそうだ。手加減しているが、何回か有効打が入っている。もしこれに例のアームパンチを組み合わせていれば、有効打以上になっているだろう。うん、いいな、この手。

もしかしたら、天霧や刀藤相手でも使える戦法かもしれん。

 

「よし、こんな物か」

大きくバックステップして距離を取る。

 

「お姫様、次を頼む」

 

「・・・わかった」

いささか釈然としないようだが、それでも剣を掲げる。

 

「咲き誇れ!アレクサンドリート!」

 

剣に炎が巻き付く。汎用ルークスとはいえ、攻撃力は大幅に上がったはずだ。

 

「さて、ここからが本番だな」

 

両腕を撃ち合わせ、プラーナを全開。

面白くなりそうだ。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

何にしても、新しい試みを実施した後は、その評価、検証をしなければならない。

よって部室で対戦で得られたデータ解析中。

 

「ルークス自体の強度は上がっているし、プラーナの消費量は下がっている。悪くは無いんだが」

 

「ああ、それは使ってみてわかっていたよ」

 

「だがねぇ・・・」

 

「ああ、はっきり言って、ぱっとしないな」

 

メーカーがモニターを依頼してくる位だから、それなりの性能向上を期待していたのだが、今まで使ってみた結果では、基本性能で20%程度の向上といったところだ。

となると、重視すべきは他の点、になる。

 

「やはり拡張機能をトライするべきか」

 

「だな。追加機能の基本コードは作っといたから、アレンジと入力は頼む」

 

「ああ、やっておくよ」

 

「すまんが今日はここまで。美咲、行こうか?」

 

「うん」

 

「またドライブか?事故るなよ」

 

「気をつけてるよ」

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

学園正門前。

例の二人と待ち合わせだが、ああ、もう来ていたか。

 

「よう、お二人さん。こっちだ」

 

「あ、どうも深見先輩・・・?」

 

「この車・・・」

 

「まあ乗ってくれ。美咲、後ろに乗ってくれるか?」

 

天霧君を隣、お姫様は後部座席に。

行先は決めていないが、外縁道路でも回るとするか。ギアを入れて発進だ。

 

「なんだか随分古い車ですね」

天霧の感想。そりゃそうだね。

外見もだが、エンジン音、シフトチェンジの動作も珍しいんだろうな。

 

「ああ、俺の趣味だよ。乗り心地は悪いかもしれないが、悪しからず」

 

自分にとっては充分未来の車なんだが。それに販売当初はそれなりのレベルのスポーツセダンだったそうだ。まあ、エンジンとモーター駆動の差は仕方ないね。

 

「しかしいつの間に車なんて・・・」

 

「ついこの前ね」

 

外縁道路に入る。ギアを6速にいれてエンジン回転数を落とすと、車内はかなり静かになるな。

それでは情報提供といこうか。

 

「ところで天霧。先月、運営委員長と話があったんじゃないか?」

 

「本当に何でも知っているんですね。はい、例のフェニクスの件の捜査について」

 

「うん。お姫様は納得いかないんだろう?」

 

「ああ、レヴォルフの関与は明らかなのに、マフィアのせいにされていたな」

バックミラーに映る表情は険しい。そんな顔でも綺麗に見えるなんて、やはりヒロインだね。

 

「だろうねえ。ただ、前も言ったが、この件についてはもうすぐ警備隊からも連絡があるはずだ」

警備隊長自ら出張って来る、とは言わないでおこう。

 

「そうそう。委員長はその他に何か言ってなかったか?天霧に」

 

「え?ええ、そう言えば姉さんの件について、見つかる事を祈る、とか。何だか親切な感じでしたけど」

 

「ハッ。真顔で嘘を吐くのは政治家の特技だが、奴もそうらしいな」

 

「嘘、ですか?」

 

「ああ、奴はこの件についても、何か知っているはずだ」

 

「え!」

 

「まあこの件はいいんだが---」

 

「いや、よくないだろう!綾斗の姉の事だぞ」

といってもね。そろそろ隠しておけないと思ってるはずだ。

 

「心配しなくても後は時間の問題だよ」

 

「え!? 姉が見つかるんですか?」

 

「うん。多分、数か月以内」

そう、見つかる事は間違いない。それが再開と言えるかは微妙だが。

 

「・・・」

 

しばし、車内には低いエンジン音とロードノイズだけになる。オーディオのスイッチをいれるか。いや、まだいいな。

 

「何にせよ、委員長を信じ過ぎない事だね。あのおっさん、タイラントとつながってるぞ」

 

「何だと!」

お姫様、驚きは分かるけど車の中で暴れないでね。

 

「もちろん詳細はわからんが、奴がディルク・エーベルヴァインの計画に一枚噛んでいる事は確かだ。ただ妙なのはそのスタンスでね」

 

「スタンス?どういう事です?」

 

「どうもその計画に積極的では無い節がある。或いはその計画が本当にヤバイ物となった場合のブレーキ役になろうとしているのか?良い表現ができんが、そんな感じだ」

 

「先輩はどうしてそこまで・・・」

 

「ああ、俺の持っている情報量もそろそろ底が見えてきた。この面でアドバイスできる事はもう無いかもしれんな。他の事ならまだ言えるがね」

 

「他の事?一体何が?」

 

「男女の大人の交際について、だよ。まだ聞きたい事あるんだろう、お姫様」

 

「なっ!!」

 

「そうだ。どうせ時間あるんだろう?このままロートリヒトのホテルまで行くか。車で入れば誰にも見られないし」

 

「えっ!?」

 

「丁度いい。俺と美咲でお手本を見せるから―― 痛てて。頭叩くなよ、美咲」

 

「冗談が過ぎるよ!全く!」

 

「はっはっは。すまんすまん。だが俺も美咲もそっち方面のアドバイスはするつもりなんで、何かあったら聞きにきなよ。天霧、お前さんもだ」

 

「はい・・・。まあ、機会があったらで」

 

ふむ、苦笑であっても笑えればいいじゃないか。

しばらくは思い悩む事がないように、ね。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

ここしばらく、授業以外は結構忙しい。

新型ルークスのモニター。これはトライ、調整だけでなく評価と報告までするので手間がかかる。

そのかわり、報告書提出毎に一定の報酬が送られてくる。

車関係の維持費で苦しい中、結構助かっているが、まだ足りないな。まあ報酬の半分以上は煌式武装研の活動費に回しているので仕方ない。これはバイトしないとマズイか?このままじゃガソリンが買えなくなる。

 

バイトと言えば、仕事。

さて、卒業後の事を本気で考えないとな。

そう思って進路指導室に入る。別にまだ教師の指導を受ける訳ではないが、就職に関する資料をまとめて閲覧するならここが都合が良い。

ふむ、業種毎に揃っているな。ほう、求人票も出始めているのか。このあたりは変わらんね。

 

何となく、懐かしさすら感じる。

 

仕事探しも、こういう状況だと楽しい物だね。

 

 

 

 

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