異世界転生体験記 ~アスタリスクの場合~   作:jig

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再び、会長。

 

10月も後半のアスタリスク。

 

やっと本格的な秋になったね。

自分的にはもう少し後の方が好きな季節なんだが、今も充分快適だ。

生活も平穏、やっと学園生活を楽しめるようになってきた。うん?これってリア充ってやつか?

 

今日はルークスのモニターをちょっとお休みして、授業が終わるとそのまま美咲を連れて車で出かける。

アスタリスク市外に出れないのが残念だが、かと言って市内の道路全てを知った訳ではない。適当に知らない場所を走り回ると、陽が傾いてきた。

陽が沈むのも早くなってきたな。

 

今日は美咲の都合で夕方まで。

学園に戻ると、女子寮前まで送る。

さて。学園外の共有スペースに借りた駐車場まで戻るか。これだけが面倒なんだけど、仕方ない。

 

「こんばんは。深見さん。良い車ですね」

 

「会長・・・」

 

またしても、接近に気が付かなかった。

 

「お話があります。お時間、よろしいですか?」

 

 

 

※  ※  ※

 

 

ドライブ再開。外縁道路を再び飛ばす。

但し隣に乗るのは違う女。

まったく。嫌いなチャラ男かナンパ師みたいな事してるな。

 

「いいんですか。男の車にホイホイ乗るようなマネして」

 

「あらあら。深見さんこそ、瀬名さんに黙っていて良いんですか?」

見事に返されてしまった。

 

「そうは言っても、その辺で立ち話、という訳にもいかんでしょう。それに多分、あまり他には聞かれたくない類の話じゃないかな?」

 

「良く分かりましたね。流石です」

いや、何となくそう思っただけなんだが。

 

「先に言っておくと、グリプス出場の件はまだ決めてないよ」

と言っても、想いは卒業後就職、に傾いている。

 

「はい。それはゆっくり考えて下さい。今日聞きたいのはその話ではありません」

 

「では何だろう?」

 

「深見さん、貴方、誰ですか?」

 

ん?まさか。

 

「何を言っているのかな」

 

「貴方、一体何者ですか?」

 

ああ、そう来たか。

 

ギアを3速にシフトダウン。エンジンブレーキをかけながらフットブレーキで一気にスピードを下げる。

道路脇にある退避ゾーン(兼休憩所)に車を入れ、停止。

 

「質問の意味が解らない、とは言わないけど。何故、そう聞くのかな」

エンジンを切る。静寂。

 

「深見さん。貴方、変わりましたね。今年の4月からです」

あちゃー。詳細はともかく、気が付いたか。

 

「何故そう思うのかな?」

 

「こう言っては失礼ですが、貴方が星導館学園に入学してからの2年間は、何の実績も無い全く目立たない生徒でした。」

 

「そうだったかな?」

正直、その辺りの記憶は曖昧なんだが。

 

「それが今年の4月以降、自主的にトレーニングを始め、ルークスの調整、更に瀬名さんと組んでフェニクス出場。変わり過ぎではありませんか?」

 

「まあ傍から見ればそうなんだろうね。その変わり様に興味があると?」

 

「はい。でもそれだけではありません。綾斗とユリスに色々アドバイスされているそうですね。色んな事を知っているとか」

うーん。そこも気付かれたか。注意していたんだがなあ。

 

「まあ、俺の知っている事で、多少は役に立つならねえ。特に天霧は厄介な奴らに目をつけられているし、助けてやらんと」

あれ、こう言ったらまずかったかな。

 

「そうですね。私も貴方の知っている事に、とても興味があります」

そう言って微笑む会長。それだけ見れば見惚れる顔だが、声のトーンが違う。

しまった。余計な事を言っちまった。

 

「俺の知っている事などたかが知れている」

やばい。ひょっとしてこれは言わされたのか?

 

「そうでしょうか?」

 

陽が沈んだ。西の空はまだ明かりが残る。車内は弱いオレンジ色の光に満たされる。淡い光の中、美少女と二人きり。そこだけ見れば何ともロマンティックな雰囲気だが。

 

「怖いな。うん。会長怖い」

 

「あらあら。心外ですね。それで、何を知っているんですか?」

ちッ。誤魔化せないか。ならば反撃しちゃうよ。

 

「そうだな。例えば、会長が寮の自室に天霧を連れ込んで誘惑したとか?」

 

「え!?」

 

「バスローブ姿で迫って、胸を触らせるとか、マズイでしょ。お姫様が知ったら怒るぞ~」

 

「どうして・・・それを・・・」

 

エンジン始動。車を出す。

 

「いくら天霧が欲しいからって、最初から飛ばし過ぎだぞ」

 

剣呑なドライブは切り上げるとしようか。

ローギアでアクセルを踏み込み、加速する。ここからなら学園まですぐだな。

会長が何か言ってるけど、エンジン音で聞こえませーん。うん、このまま行こう。

 

 

 

再び学園女子寮前。

完全に陽は沈んだ。車内は照明の光だけ。

 

「それで、教えて頂けますか?」

 

「俺が何者かという事なら・・・一つだけ言うと、イレギュラー、とでも言っておこうか」

転生者、とは流石に言えないよな。

 

「イレギュラー、ですか・・・」

 

「ああ、念の為言っておくと、会長、貴女や、まして天霧達と敵対する意志も必要もないんだ。まあ疑ってくれてもいいが」

 

「いえ、信じます」

 

「そいつはありがたい。ならばもう一つ。会長も願いを叶える為にここにいる。そうだろ」

 

「・・・はい」

 

「その願いが何かは知らない。ただ、学園、ひいては銀河ともぶつかるような事なのだろう?」

 

「・・・驚きました。その事まで・・・」

流石の会長も本気で驚いているな。わかるよ。

 

「統合企業財体を敵に回しかねない、となると万に一つの可能性も無い、という事になるんだが、俺はもう少し目がある、と思っている」

 

「どうしてそう思われるのでしょう?」

 

「その為の布石は打ってきたんだろう?それに何より、統合企業財体って、そんなに優秀な組織か?」

 

「深見さん。貴方は一体・・・」

 

「ははは。まあ頑張れよ」

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

寮の自室。

 

グラスにビールを注ぐ。

今回は国産の黒ビールだが、探すのも手に入れるのも苦労した。

もっとも苦労に見合う味だな。

 

じっくり味わいながら、今日の事を考える。

 

会長にどこまで話すべきかな。

何にせよ年末まで、レギュラー陣にはイベントが無い。

そして自分の持つ情報はもう残り少ない。

今後どう関わっていくか、それも考えないとな。

 

やはり面倒なのはあの腹黒会長か。あれはあれで権力持っているので、マークされたら面倒、では済まされないな。いや、もう目を付けられているか。

完全に信頼されるには、何らかの協力、するしかないのかなあ。

 

あの子の願い。

とんでもなく困難らしいが、詳細が分からないと何とも言えない。

ただ、統合企業財体に付け入る隙が無いかというと、そうでも無いような気がする。

そもそも奴らが完璧に優秀なら、この世界はもっとマシな状態になっているはずだ。

 

まあ、どうするか良く考えて行動しないとな。今日のあれは不意打ちみたいだったから、余計な事まで言わされてしまった。

 

端末に着信。誰だ?

 

「よう。今いいか?」

 

「クラウスか。どうした」

 

「明日でも良かったんだが、ちょっと頼みがあってな」

 

「今度は何だ?」

 

「お前と、瀬名もだが、すぐじゃなくていい。大学部の研究室に付き合ってほしいんだよ」

 

「ルークスのモニターが終われば暇になるが、それからでどうだ」

 

「そうだな。来月になるか」

 

「ああ。で、今度は何をやる?」

 

「知り合いでちょっと面白い研究してる奴がいる。お前達に手伝って欲しくてね」

 

「わかった。内容はいずれ聞かせてくれ」

 

「ああ。じゃあ頼むよ」

 

ふむ。今度は何をやるんだろう。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

再度、進路指導室にて。

 

「就職先、探してるの?」

 

「ああ、結構気になる所、出てくるもんだね」

 

「やっぱり、就職する?」

 

「まだ決めてはいないが。進学するんだったらウチの大学部だ。それについては調べる事、無いだろ」

まあ他の大学に進学、という手もあるが、ちょっと無理があるな。

 

「そうね。あたしはどうしようかな」

 

「なんだか勢いで決めちまった事もあるが、進路自体は好きにしてくれ」

思わずプロポーズまでしてしまったし。

 

「あんたと一緒がいい」

 

「と言ってもな。大学部ならいいが、就職したら?同じ会社という訳にはいかないかも」

 

「その時は専業主婦?」

 

「それでいいのか?」

 

「まあ、やりたい事がある訳じゃないし。食わせてくれるんでしょう?」

 

「まあな」

 

人生決めるのは早い気もするが、美咲が良いならそれでいいか。

 

 

 

 

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